ありきたりじゃないビートルズの詩集5冊[Part.1]

ありきたりじゃないビートルズの詩集5冊[Part.1]

更新:2021.3.29

ジョン・レノンとポール・マッカートニーが書いたビートルズの曲は、たとえどちらか一人が手掛けたとしても、全て「レノン=マッカートニー」扱いにするという取り決めが二人の間であった。その並びのせいで、昔(主に60年代)はジョン=作詞、ポール=作曲と勘違いされることもあった。ジョンが死んだ時にポールの単独作「イエスタデイ」を流す放送局があったのは、そのためかもしれない。今回は、数ある日本のビートルズ詩集の中から、ポールにも味わい深い詞があり、ジョンにも心に残る曲があるということも伝わる5冊を選んでみた。

藤本 国彦プロフィール画像
ビートルズ愛好家・編集者
藤本 国彦
CDジャーナル編集部を経て2015年以降フリー(他称ビートルズやくざ)。『ビートルズ213曲全ガイド』『ビートルズ・ストーリー』シリーズ、『レコジャケ ジャンキー!』などを手掛ける。「速水丈」名義での編著も多数。ビートルズと相撲とカレー好き。2016年12月まで毎月1回、渋谷・アップリンクで星加ルミ子氏とトーク・イベント開催中。次回は7月22日(金)19:00開演(http://www.uplink.co.jp/event/2016/44742) 2015年11月にはショップサイト“fabgear”をオープン(https://jamaru.jp/fabgear/) 
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グッジョブなセイウチ

英語の歌詞は、どう解釈しても聴き手の自由。…というとちょっと語弊があるかもしれないけれど、解釈の面白さを最初に知ったのがこの本だった。ジョン・レノンの死後、関連書籍がたくさん発売されたが、本書を購入したのは81年4月26日(日)だった。今はもうやらないけれど、買った本の発売日を奥付に書く習慣(というかクセ)が80年代(90年代?)まではあった。著者が「はじめに」にビートルズの曲に「“何が書かれてあるか”を追った」と書かれているように、曲の主題に迫った「意訳」とエッセイ風の解説の数々が見事。それぞれの曲に添えられた川島徳香氏のイラストも素晴らしい。

ビートルズの詩の世界

1981年03月20日
高山宏之
実業之日本社
掲載されているのは、大きく分けてジョン18曲(「マザー」「イマジン」含む)・ポール20曲・ジョージ2曲の計40曲(巻末に原詞も掲載)。思わずいじり倒したくなる曲がほとんど選ばれている。中でも、副題(「おれはタマゴだ、セイウチだ」)と表紙のイラストにもあしらわれている「アイ・アム・ザ・ウォルラス」の「グー・グー・グ・ジューブ(こいつは、け、け、けっこうな商売ですワ)」は、まさにグッジョブ、である。

既出の対訳にツッコミ

これも刺激的な1冊。詩集というよりは歌詞の研究書で、英語の専門家でもある著者が、日本盤CDの歌詞対訳や既出の詩集の対訳を細かく比較検証し、英文法の説明も加えながらまとめた労作だ(原詞は一部掲載)。上下巻あり、この上巻には62年の「ラヴ・ミー・ドゥ」から67年の「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」までのオリジナル107曲が掲載されていて、下巻(2008年発売/書名は『ビートルズ作品読解ガイド』)には、それ以降の81曲が掲載されている。その後、未発表音源集『アンソロジー』収録のオリジナル曲を追加した増補版もそれぞれ2012年と2013年に発売された。さらに解散後のメンバーのソロ作品を年代順にまとめた『ビートルズ・ソロ作品読解ガイド』も出た(69年のジョンの「平和を我等に」から85年のポールの「スパイズ・ライク・アス」まで現在3冊発売済)。
著者
秋山 直樹
出版日
2007-08-10
英文法に則って、とはいっても、歌詞の解釈はひとつではないため、ところどころ、半ば強引に切り込んでくる著者の妄想的解釈の思い切りの良さが痛快。サウンドや楽器の分析は盛んだけれど、歌詞の分析は、英語の力と素養と当時の文化や国や時代背景が組み合わさってこそ説得力が生まれる。それを直に楽しめる面白味満載。

直訳こそすべて

『ビートルズ英語読解ガイド』とは真逆の1冊がこれ。こちらも「2冊完結」だが、画期的なのは、アルファベット順に掲載されていること。上巻(1)には「アスク・ミー・ホワイ(Ask Me Why)」から「夢の人(I've Just Seen A Face)」までの80曲、下巻(2)には「君はいずこへ(I'm Looking Through You)」から「悲しみはぶっとばせ(You've Got To Hide Your Love Away)」までの76曲が掲載されている(数曲未掲載で、原詞はなし)。

ビートルズ詩集

1973年05月30日
片岡義男訳
角川書店刊
70年代には、日本人によるビートルズの詩集がいくつか発売されたが、他の本とは明らかに一線を画すのは、ほぼ直訳でまとめた歌詞の「解釈」だ。「ベイビー」を「赤ちゃん」と訳した直訳ロッカー・王様ほどの過激さ(?)はないけれど、前後の文脈にはお構いなく、一文ごとに日本語に置き換えて並べた無味乾燥な味わいは、読めば読むほどじわじわ沁みてくる。訳すことを放棄し、聴き手に解釈を委ねた思い切りの良さと、そのわりにはほとんどの曲に(勝手な)邦題を加えた妙味。その混ざり具合がすごい。

オシャレでかわいい

正方形のサイズにハードカヴァーの体裁。イラストや写真をちりばめた、ビートルズの日本の詩集で最もおしゃれだと個人的に思う本書。奥付を見ると「アート・ディレクト&レイアウト=宇野亜喜良」とあり、納得至極。 72年には続編『ビートルズ詩集2:世界のはてまでも』も刊行され、そちらにはジョンのソロ曲が多数収められている(続編には原詞は一部あり)。

ビートルズ詩集:愛こそすべて

1971年06月20日
羽切美代子訳
新書館
ビートルズの歌詞が一通りの解釈ではないと先に触れたけど、本書の書名の元にもなっている「愛こそはすべて」もしかり。冒頭の一節は、「やろうと思えばなんでもできる」なのか、それとも「できないことはやろうと思っても無理」なのか――。ジョン・レノンが書いたこの普遍的なラヴ・ソングについて、ポール・マッカートニーでさえ「意味がよくわからない」と言っているのだから、それこそ聴き手が自由に解釈すればいいのだろう。66年にオノ・ヨーコに出会ったときに“Yes”も文字に救われたというジョンが、その翌年に書いた曲なので、個人的には肯定の意味で受け取ってはいるけれど。ちなみに本書の訳は「できないことはない」である。

自由に遊ぶ

「まさか」と思うかもしれないけれど、ビートルズのオリジナルの歌詞がレコードに初めて掲載されたのは、67年の『サージェント・ペパーズ~』が初めてのことだった。それ以前の日本盤はすべて聴き取り――歌詞の「耳コピ」だったので、当然、明らかなミスがあちこちに見られる。たとえば「アイ・アム・ザ・ウォルラス」のようなナンセンスな歌詞を「普通」の英語に置き換えるのが、いかにたいへんなことだったか。いま改めてその日本盤シングルの歌詞を見ると、その苦労の跡がうかがえて微笑ましくもなってしまうけれども。あるいは「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」の最後の一節“I will be there”が“To be there”になっていたがために、その歌詞で歌っている日本のミュージシャンもたくさんいたりしたのも、今ではあまり考えにくい話だ。その一方で、70年代には「イエロー・サブマリン音頭」のような自由で大胆な解釈の曲も生まれたが、その曲を手掛けた川原伸司さんにお聞きしたところ、現在はビートルズの曲を日本語訳では歌えないし、勝手に曲名を変更することもできないという。

ビートルズ詩集

1973年04月20日
岩谷宏訳
新興楽譜出版社
本書はそんな70年代の緩い時代に数多く刊行された日本人によるビートルズ詩集のなかでも、自由な解釈(置き換え)を取り入れた、つまり訳詞を読んでいるだけでも面白い1冊だ。ジョン、ポール、ジョージのソロ曲も含め(ジョンが圧倒的に多い)全54曲が原詞とともに掲載されている。

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