ライトで親しみやすいが内容は本格派、という作風で初心者にも読みやすい倉知淳作品。ほのぼのとして可愛らしくても、その謎とトリックはあなどれません。
倉知淳は1962年4月25日生まれの静岡県出身の小説家です。日本大学芸術学部演劇学科を卒業。1993年「佐々木淳」名義で応募した『競作 五十円玉二十枚位の謎』解答編の一般公募部門で若竹賞を受賞し、その翌年である1994年に『日曜の夜は出たくない』で「倉知淳」として小説家デビューを果たしました。
『星降り山荘の殺人』が第50回日本推理作家協会賞候補に、また『壷中の天国』が第1回本格ミステリ大賞(小説部門)を受賞。デビュー以来、比較的ライトで親しみやすいミステリ作品を多く発表しています。しかしそんな雰囲気とは違って、内容は本格ミステリ。奇想天外な謎とトリックで読者を驚かせています。
倉知淳は寡作なことでも有名で、あまり頻繁に作品を発表しないことから「冷蔵庫の中が空になるまで仕事をしない」と冗談交じりに称されることも。代表作の中でも人気の高い「猫丸先輩」シリーズは、非常に読みやすくミステリー初心者にもおすすめ。唐沢なをきのイラストも相まって、可愛らしい雰囲気を醸し出しています。
杉下和夫は社長からあるタレントのマネージャー見習いを命じられます。そのタレントとは「スターウォッチャー」と呼ばれる優男・星園詩郎でした。彼は女性に大人気ですが、杉下はそのキザな振る舞いが気に入りません。
ある日、杉下と星園は取引先から山荘に招かれます。そこにはUFO研究家や人気美人作家など濃いメンバーが揃っていました。彼らは山荘を売り出すための企画作りをするはずだったのですが、山荘の開発会社社長である岩岸が死体となって発見されたことで、山荘は殺人事件の舞台へと変わってしまうのです。
雪に閉ざされた山荘で、次々と発生する殺人事件。交通も電気も遮断され、電話も通じない陸の孤島で男性が殺されてしまいます。犯人は建物の中にいる人物ですが、それは一体誰なのか?「スターウォッチャー」星園詩郎の推理の行方は?
- 著者
- 倉知 淳
- 出版日
- 1999-08-10
図らずも殺人事件に巻き込まれてしまう杉下と星園。「雪山の山荘」というミステリとしては非常にベタな舞台設定ですが、その筆致で古さを感じさせません。
また、各章の初めには倉知淳からの助言のような注意書きが挿入され、あくまでフェアプレーを謳っています。トリックだけでなく、しっかりとしたストーリー性も楽しめる作品。まさにミステリー初心者の方のおすすめの一冊です。あなたは最後まで騙されず、真相に辿り着くことができますか?
小学5年生の「僕」こと藤原高時のクラスで、連続して物が消失する事件が発生。やがて「僕」も被害者となり、学校に行くとなぜかたて笛のパーツが亡くなっていました。5年3組にだけ起こる、4人の持ち物が1日おきに姿を消すという奇妙な事件。「僕」は江戸川乱歩が好きな龍之介と一緒に探偵活動に乗り出すことに。
これまでに消失した物は、写生会で描いた絵・飼育小屋のニワトリ・ネコのハリボテ、そして高時のたて笛のパーツ……これらに共通することとは?そしてある時、「探偵」を続ける2人の前に、ニワトリ惨殺事件の目撃証言が飛び込んできます。高時と龍之介は、推理で全てを明らかにすることができるのでしょうか。
- 著者
- 倉知 淳
- 出版日
- 2004-11-25
本作は児童文学のレーベルである、講談社の「ミステリーランド」の1冊として発行されました。
対象年齢層に合わせた作風で、キャラクターがそれぞれにほのぼのして可愛らしく、また非常に魅力的。「僕」こと藤原高時と乱歩好きの龍之介、そして吉野明里と成見沢めぐみの4人が少年探偵団のようにチームを組んで事件に挑みます。
子ども向けとはいえ、大人が読んでも十分楽しめる作品。倉知淳の他作品を読んだことがある人なら、思わずニヤリとしてしまう場面も盛り込まれています。ときに少し笑える何とも可愛らしい探偵小説です。
神出鬼没で破天荒な「猫丸先輩」は、30歳で職業不明。小柄で猫のように真ん丸な目、だぶだぶの黒い上着を着て、長い前髪で顔が半ば隠れています。好奇心旺盛で口も達者。「猫丸先輩」と呼ばれてはいますが、それが本名かどうかは定かではありません。
そんな猫丸先輩が、不可能状況下の事件の数々を見事に解決していく、大人気シリーズ第一作です。
7編の短編に解説編的な2編を加えた短編集です。船上・怪アパート・寄生虫館……いろいろな舞台で猫丸先輩が事件に首を突っ込み、謎を解き明かしていきます。
- 著者
- 倉知 淳
- 出版日
- 1998-01-01
周囲に高いところがないにも関わらず、何故か20m以上の高さから落ちた遺体の謎を解く「空中散歩者の最期」や、魔法を見せると少女に約束した「おじちゃん」の死を巡る物語「約束」などが収録されています。
ホラー調やハードボイルド、メルヘン風など各短編は作風もバラエティーに富んでおり、またそれぞれに手法が異なります。最後には驚く仕掛けも用意され、物語同士は意外な繋がりもあるとか?
読むうちに猫丸先輩のキャラクターに夢中になる、癒し系ミステリー。少し聞いただけで事件の真相を言い当ててしまう彼は、まさに安楽椅子探偵です。本編を読み終わった後は、ボーナストラック(解説)も必読。倉知淳の器用さを見せつける作品です。
かつての国民的大スター・片桐大三郎。しかし突然聴力を失ったことで俳優を引退し、今は芸能プロダクション「片桐プロモーション」の社長に。さらに彼は警察の事件捜査に協力するのが趣味。耳が聞こえない大三郎ですが、プロダクションの新米社員・野々瀬乃枝(通称・のの子)が常に同行し、パソコンを使って大三郎の「耳代わり」をしていました。
大三郎とのの子のコンビが遭遇する事件を、季節に分けて4編収録。第1話「冬」では新宿駅のホームでニコチン溶液を注射されて殺された男の事件を追い、第2話「春」ではウクレレがなぜ撲殺の凶器に選ばれたかという謎に迫ります。そして第3話「夏」は誘拐事件とその驚愕の真相を、ラストの第4話は「幻のシナリオ」消失事件を描いた短編集です。
- 著者
- 倉知 淳
- 出版日
- 2015-09-24
本作はエラリー・クイーンの「ドルリー・レーン悲劇4部作」をモチーフとして描かれています。各章がなぜ四季になぞらえられているかも、読み進めていくとわかるようになっており、本家の設定を上手く活かしながら新しい謎を据え、ミステリーとして成立させています。本家のエラリー・クイーン作品を知っていればなお面白い、しかし知っていても騙されてしまう巧妙な謎が仕掛けられています。
スターオーラを撒き散らし、いたるところでサインや写真を求められながら探偵活動をする大三郎。彼を初めとした濃いキャラクターたちが繰り広げる捜査劇は、殺人・誘拐・盗難とボリューム満点です。ぜひコミカルな謎解きを楽しんでください。
稲岡市というのどかな町でほのぼのと暮らしているシングルマザーの知子。しかしその町で通り魔による連続殺人事件が発生します。女子高校生の遺体が発見され、事件現場には「全能にして全知の存在から電波を受信している私を妨害しないで頂きたい」と書かれた謎多き怪文書がばら撒かれていました。
通り魔によって殺害されたのは全部で4人。年齢も性別もバラバラで共通点はありません。被害者たちを繋ぐミッシング・リンクとは一体何か。知子は幼馴染の正太郎や記者の水嶋と共に事件の真相に迫っていきます。
第1回本格ミステリ大賞受賞の本格ミステリー作品です。
- 著者
- 倉知 淳
- 出版日
- 2003-05-24
知子はシングルマザーで、心に傷を負いながらも、アイドルに夢中な娘の実歩とお節介な父の嘉臣の3人で賑やかに暮らしていました。彼女の周囲の人たちも風変わりではありますが、とても楽しい人たち。今回の探偵役となる知子の同級生・正太郎は大学卒業後も定職に就かず、子どもたちに絵を教えています。
作りこまれた世界観と、ひとりひとり個性のあるキャラクター。読みやすい文章の中に伏線が見事に張られています。
また、殺人事件のシーンと並行して挿入される、何者かが被害者に似た特徴を持つフィギュアを作っている非常に不気味なパートがあり、それが作品をひとつの輪に。登場人物はみな何かに対する「オタク」ばかりですが、これがどうラストに繋がるのか最後までハラハラしながら読み進められます。
倉知淳作品は、油断も隙もない展開とライトで比較的読みやすい作風に加えて、魅力的なキャラクターも持ち味のひとつです。少し変わった探偵たちの活躍ぶりを堪能してみてください。