初めまして。結城洋平です。記憶について少し。楽しかったこと、あの時の良い匂い、美味しかった料理。すべて覚えていられたら、どんなに幸せだろうか、なんて思います。逆に、酔っ払った際の失態の数々。早く忘れてしまいたいです。そんな自分の記憶力に不甲斐なさを感じたのは、つい先日のことです。 自分の知識欲、何かインプットしたい衝動に駆られるエネルギーの源は大抵、何かのコンプレックスから始まります。
先日、時代劇のオーディションを受けに行きました。時代劇の言葉は日本語ですが独特な言い回しの数々。例えば、「そこの下郎! もう一度申してみよ!」というお侍さんの台詞があります。現代語に略すと「おいテメェ! もう一回言ってみろ!」。独特な単語と言い回しだからという言い訳を差し引いても、この一文を覚えられないようでは不甲斐なさすぎます。
完璧に覚えたつもりが、頭が真っ白。自分の記憶力の無さにがっくりきた自分はオーディションの帰り道、記憶力向上の本を手に取りました。安易です。今考えてみるとかなり安易です。覚えられなかった➡︎記憶力をつけたい➡︎記憶力向上の本を買う。しかし、この安易な行動から人間の記憶、人間の驚異的な記憶力の凄味を知りました。
- 著者
- ジョシュア・フォア
- 出版日
- 2011-07-29
これぞ活字ドキュメンタリーサクセスストーリー。文字通り一人の青年が1年で全米の記憶力チャンピオンになるまでの道のりを描いた物語なのだが、ただの物語ではない。本を読んでこんなにワクワクすることはまず無い。スポーツ競技や武道、アクションなど身体を動かす分野のサクセスストーリーは多い。自分もそんなストーリーは大好きだ。恐らく目に見えている現象として、イメージとして、攻防や勝ち負けがはっきりし、「成功」を感じやすいからだ。
しかし、記憶についてのサクセスストーリーは身体を動かすのではなく脳みそを動かすのだから、勝ち負けの結果以外は本人しか分かりえない。しかし、この本はそんな本人しか分かりえない脳みその世界、目に見えない細胞と細胞をつなぐミクロの世界を手に取るように見せてくれる。
記憶の始まり、古代ギリシャの段落では人間の凄さを思い知らされる、と同時にスマホやPC、ひいては文字を使う現代の人へ、僕へ、「人間ってもっと凄いんだぜ」と教えてくれているようだった。「Moonwalking with Einstein」(アインシュタインとムーンウォーキングする)という原題もワクワクする一因だ。
記憶力を向上させるために一番大事なことは、毎日一生懸命覚える。古代ギリシャの人も、ジャーナリストのジョシュフォア氏も、毎日一生懸命覚えていた。自分も一生懸命覚えようーーそんな風に思わせてくれる本が『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』でした。
- 著者
- ドミニク・オブライエン
- 出版日
- 2012-07-02
- 著者
- ["ゴードン ベル", "ジム ゲメル"]
- 出版日
ワクワクすることが好きだ。もの凄くワクワクする本だった。記憶力の向上を目的として本を購入した当時の自分は、その方法が載っている、いわゆるHow To本を求めていた。これらの本はそんな小手先のことではなく、もっと根本的なことを教えてくれた。
現代では携帯電話、パソコン、インターネットといった記録する術、記憶させる術はたくさんである。しかしそのどれもは、記録をしているだけで、記憶はしていない。人がすることは、その情報がどこにあるかを記憶しているだけ。それゆえに、「情報」を覚えていなかったり、理解していない。
幼い頃、「これからの時代は、情報“そのもの”を知っているよりも、その情報がどこにあるかを知ってる人が強い時代になる」と言われたことがある。ずっと心に残っていた。そうなのかな?と。今の時代、どこに情報があるか知っている人の方が強い。しかし一方で、どんな情報なのか深く知っている人の方が魅力的だ。