叙述トリックとは。おもわず驚くおすすめ文庫小説11選!

更新:2021.12.21

読者の先入観を利用し、巧みな仕掛けによってミスリードへと導いていく叙述トリック。種明かしされた際には、世界観がひっくり返るような驚きを味わえます。華麗なテクニックが光るおすすめの小説をご紹介していきましょう。

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叙述トリックとは

 

叙述トリックとは、ある事柄や一部の描写をあえて伏せることによって、読者に事実を誤認させるテクニックのことです。

私たちは小説を読む時に、文章から与えられる情報によって、足りない部分をそれぞれ想像しています。その際にある程度思い込みや先入観がはたらくことを利用して、明示していない部分(時間や場所、人物など)を、読者が想像によって「勘違い」するようにしているのです。

意図的にミスリードを誘う叙述トリックは、主にミステリー小説に用いられ、近年ベストセラーになった作品の多くにこのテクニックが用いられています。

 

叙述トリックによりすべてが信じられなくなる小説『冤罪者』

 

「叙述トリックといえば折原」といわれるほど代表的な作家・折原一。彼の作品にはこのテクニックを用いたものが多く、それと分かっていても騙されてしまう手法は見事なものです。

本作は、実際に起きた事件をモチーフに描かれた「~者」シリーズのひとつで、連続婦女暴行事件の冤罪で捕まった男の姿を描いています。折原の作品のなかでもバイオレンスな描写が多い、社会派ミステリーです。

 

著者
折原 一
出版日

 

主人公は、ノンフィクション作家の五十嵐。通りかかったアパートから火が出ているのを発見します。そこには、両手両足を縛られ、無残にも焼け焦げた女性の死体がありました。

それから立て続けに事件は起こり、7人目の被害者となったのは残酷にも五十嵐の婚約者である水沢舞だったのです。

現場の証拠からすぐに犯人は捕まり、無期懲役の判決が下って事件は終わったかに見えました。しかしある日、犯人の河原から五十嵐に手紙が届きます。それは自身の無罪を訴えるものでした。

最初は取り合わないでいましたが、調査をすすめていくと、河原の無罪を証明するに至りました。そしてこれは、新たな事件の幕開けを意味していたのです。

本当の犯人は誰なのか、事件の結末はどうなるのか、二転三転する展開に目が離せません。

 

予想外の結末が待ち受ける、大ヒット叙述トリック小説『仮面山荘殺人事件』

 

叙述トリックを駆使した華麗などんでん返しが魅力的な、東野圭吾による長編推理小説。読みやすくスリリングなストーリー展開で読者を魅了する大ヒットミステリーです。

ビデオ制作会社を経営する主人公の樫間高之は、婚約者の森崎朋美との結婚式を目前に控えていました。ところがそんなある日、朋美の運転する自動車がガードレールを突き破り崖から転落。朋美はそのまま死亡してしまいます。それから3ヶ月後、高之は朋美の父であり森崎製薬の社長を務める伸彦から、森崎家の所有する別荘への招待を受けたのです。

別荘には森崎一家と高之の他、伸彦の秘書の下条玲子や朋美と親友だった阿川桂子など、男女8人が集められていました。穏やかな時間を過ごしていた8人でしたが、「朋美は殺されたのではないか」と1人が言い出したことで、一同に微妙な空気が流れます。そんな時、突如別荘内に逃亡中の強盗犯が侵入。8人は人質として捉えられてしまいます。

 

著者
東野 圭吾
出版日
1995-03-07

 

緊迫感漂う雰囲気の中、最初の犠牲者が出ることになり、物語の展開からどんどん目が離せなくなってしまいます。強盗犯とのやりとりにはハラハラさせられ、徐々に別荘内にいる誰もが怪しいのではないかと思わされてしまいます。作品内に仕掛けられた全てのトリックが明かされた時、思わず膝を打ち、その鮮やかさに脱帽してしまうことでしょう。

文章はとにかく読みやすく、叙述トリックものは初めて読むという方でも、安心して読めるのではないでしょうか。トリックの鮮やかさに感激する一方、登場人物たちそれぞれの思いにも切なさを感じる作品です。ミステリー好きにはお馴染みとなっている作品ですから、まだ読んだことのない方はぜひ挑戦してみてくださいね。

 

赤川次郎の最高傑作と評される、魅力的な小説『マリオネットの罠』

 

1981年に執筆された、赤川次郎の長編処女作品。予想を大きく裏切る衝撃の展開が話題を呼び、今なお多くの読者から高い評価を受けている作品です。

フランス留学から帰ってきた修一は、大金持ちの峯岸姉妹が暮らす館で、住み込みの家庭教師をすることになりました。館には峯岸姉妹と自分、そして2人のお手伝いさんがいるだけだと聞いています。ですが滞在するうち、修一は姉妹の言動やお手伝いさんの動きに違和感を覚えるようになり、この館には誰かがもう1人いるのではないか?と思うようになりました。

そんなある日、修一は館に地下室があるのを見つけ、そこに閉じ込められている美しい女性を発見したのです。かわいそうに思い、女性を逃がしてやった修一でしたが、それからというもの、街では恐ろしい連続殺人が起こるようになり……。

 

著者
赤川 次郎
出版日

 

読みやすくライトな作品で知られる赤川次郎ですが、本作ではそんなイメージを払拭するかのような、重厚な世界観が描き出されています。登場人物たちは皆一癖も二癖もあり、読みやすさはそのままに、状況が目まぐるしく変化する盛りだくさんの内容です。最後まで、飽きずに一気に読み進めることができるでしょう。

怪しい館や連続殺人鬼、そして麻薬密売組織までが登場し、様々なプロットが混じり合う読み応えたっぷりの叙述トリックミステリーになっています。ラストの結末にはあっと驚かされ、そのエンターテインメント性に富んだ展開に、鳥肌の立つ感動を覚える名作です。

 

日本ミステリー界に影響を与えた叙述トリック小説『十角館の殺人』

 

「館」シリーズ第1作となる、綾辻行人のデビュー作です。本格ミステリーの先駆けとなった作品で、1987年に本書が刊行されたのをきっかけに、日本のミステリー小説の人気が一気に高まりました。

「角島」という孤島には、奇妙な形をした「十角館」と呼ばれる建物が建っています。半年前この島では、十角館の建築者である中村青司の自宅が全焼。焼け跡から、中村青司を含めた4人の他殺体が発見されるという、凄惨な事件が発生していました。そこに興味を示したのが、ある大学のミステリー研究会に所属する7人のメンバーです。

彼らはお互いを「エラリイ」「ポウ」「アガサ」といった、有名ミステリー作家にちなんだニックネームで呼び合い、謎の多い事件が発生したこの島へ、興味津々やってきたのでした。一方本土では、元ミステリー研究会の会員だった河南孝明の元に、中村青司を差出人とした、謎の告発文が届きます。

 

著者
綾辻 行人
出版日
2007-10-16

 

島では7人のメンバーがひとりずつ殺されていき、本土では死んだ筈の人物からの、告発文の謎について調べられていきます。一章ごとに孤島と本土を行ったり来たりしながら進んでいく展開に、どんどんのめり込み時間を忘れて没頭してしまいます。犯人がわからない中、仲間が次々と殺害されていき、島から出ることもできない恐怖にハラハラドキドキすることでしょう。

そして終盤、読者の目に驚愕の一行が飛び込んできます。その一行によって全てが繋がる、華麗すぎる種明かしに興奮せずにはいられません。叙述トリックを使ったミステリーの醍醐味を、これ以上ないほど濃厚に味わうことができます。普段ミステリーは読まないという方にも、自信を持っておすすめできる1冊です。

 

秀逸な叙述トリックに舌をまく傑作ミステリー『龍神の雨』

 

多彩なトリックを巧妙に仕掛け、読者を翻弄する実力派ミステリー作家、道尾秀介によって執筆された本作。ある事情を抱えた、2組の兄妹(兄弟)の姿を描いたこの作品は、大藪春彦賞を受賞しました。

父が出ていき、母までも事故で亡くしてしまった蓮と楓は、継父と3人で暮らしています。暴力を振るい、妹にある悪戯をしたらしい継父のことを、蓮は殺したいと思っていました。

一方、母を海の事故で亡くし、父を病気で亡くした辰也と圭介は、継母と暮らしており、辰也は母を殺したのが継母ではないかと疑っています。そして圭介は、母が死んだのは自分のせいではないかと苦しんでいました。

この2組の兄妹(兄弟)が、雨をきっかけに運命を交差させることとなり、人生を大きく変えていくことになるのです。

 

著者
道尾 秀介
出版日
2012-01-28

 

物語には常に雨が降り、暗く鬱々とした雰囲気が漂っています。やり場のない怒りや悲しみを抱える少年少女の姿がとにかくやるせなく、お互いを思いやるがゆえに道を踏み外していく様子に、胸を締め付けられるような切なさを感じてしまいます。登場人物たちの思い込みや勘違い、嘘によって、物語はどんどん複雑になっていき、その展開から目が離せなくなることでしょう。

作品内には様々な伏線や仕掛けが施され、その秀逸な叙述トリックには誰もが騙されてしまうのではないでしょうか。抜群の完成度を誇る傑作ミステリーですから、ぜひ多くの人に読んでいただければと思います。

 

綺麗に騙されるのが気持ち良い叙述トリック小説『ハサミ男』

 

殊能将之のデビュー作品。読者の先入観を巧みに利用した叙述トリックによって、驚愕の真実が明らかになる人気ミステリーです。メフィスト賞を受賞しました。

美しい女子高生を絞殺し、遺体の喉にハサミを突き立てるという猟奇的な連続殺人事件が発生しました。マスコミはその惨忍さを大きく取り上げ、犯人を「ハサミ男」と名付けます。その頃、次のターゲットを探し求めるハサミ男は、聡明な女子高生、樽宮由紀子に目をつけ、彼女の身辺を念入りに調べ上げていました。

ところが、ハサミ男が殺害を実行しようとしたその夜、何者かに殺害された由紀子の遺体を発見してしまい、しかも喉には銀色のハサミが突き立てられていたのです。模倣犯はいったい誰なのか。真犯人を探し出すべく、ハサミ男は調査へと乗り出します。

 

著者
殊能 将之
出版日
2002-08-09

 

主人公のハサミ男と、事件を追う警察官たちの視点が、交互に入れ替わりながら物語は展開されます。事件の探偵役が連続殺人犯という斬新な設定もさることながら、練りに練られた緻密な構成には驚かされるばかり。文体はとても読みやすく、少しのユーモアを織り交ぜながら、テンポよくストーリーが進んでいきます。

終盤の展開は圧巻の一言。全てのトリックが明かされたとき、あまりの衝撃に不思議な爽快感させ感じてしまう作品です。読了後、改めて読み返してみると、全く違う世界が広がっていることでしょう。綺麗に騙される快感を、ぜひ体験してみてくださいね。

 

耽美ミステリーの良作『閉ざされて』

 

自分の醜い顔が嫌う18歳の藤吉汀は、函館の西はずれに海を臨んで建つ邸宅、雪華荘でひっそりと暮らしていました。

上の姉・早苗と下の姉・緑には、雑巾をつないだドレスを着せられて追い回されるシンデレラごっこで、よくいじめられたものでした。家を出て東京に行ってしまった兄の洽に進められて、手記を書き始めます。

 

著者
篠田 真由美
出版日
2012-09-25

 

病に倒れ体が不自由な父、財産目当ての継母やその子供である早苗と緑。その中に置かれた自分の苦悩を訴える汀。閉塞的な旧館の歪んだ人間と、歪んだ人間関係が悲劇を生んでいきます。

最後の最後に明かされる事実などもあり、その退廃的な耽美さが楽しめるミステリー作品です。

 

美しい文体の華麗な叙述トリック『夜よ鼠たちのために』

 

連城三紀彦は『恋文』で直木賞を受賞した名古屋市出身の作家。叙情溢れる美しい文体が特徴で、大胆な仕掛けのトリッキーな作品も多数残しています。

本作はそんな連城の傑作短編集。どれも複雑なトリックは用いておらず、あるひとつのすっきりとした叙述トリックによって物語が構成されているので、読みやすいのが特徴です。

表題作の「夜よ鼠たちのために」を含む全9篇が収録されています。

 

著者
連城 三紀彦
出版日
2014-09-04

 

はじめに語られる「二つの顔」では、ひとりの男が描かれます。ある時、彼のもとに1本の電話が入りました。都内のホテルで妻が殺された……。

それを聞いた男は動転します。聞いたこともないホテルで妻が殺されるはずはないのです。

「契子なら、まだついさっきまで、この絨緞の上に横たわっていたのである。私が殺した。この手で、この寝室で私が殺したのだ。」(『夜よ鼠たちのために』より引用) 

物語は二転三転し、意外な結末を迎えます。他の物語もアイディアが秀逸で、最後まで騙されることは間違いなし。連城は短編を得意にしていたといわれる作家なので、彼の索引を堪能するのにもおすすめの作品です。

 

春に読みたい叙述トリックミステリー『葉桜の季節に君を想うということ』

 

2004年に「このミステリーがすごい!」、「本格ミステリベスト10」で第1位となり、「日本推理作家協会賞」、「本格ミステリ大賞」を受賞するなど、高い評価を得ている作品です。

叙述トリックが使われている小説のなかでも「変わり種」といえるかもしれません。表向きは恋愛小説でありながら、読み終える頃に騙されていたことに気づき、もう1度読み返さずにはいられなくなってしまう手法が用いられています。

トリックの面白さから話題を集め、ロングセラーとなりました。

 

著者
歌野 晶午
出版日

 

主人公の成瀬将虎は、自称「なんでもやってやろう屋」。以前は探偵事務所に勤めていたこともありましたが、すぐに辞めてしまいました。

高校時代の後輩である清に「元探偵」と見栄を張ったことが原因で、清が想いを寄せている女性に関する相談を受けることになります。それは、悪徳業者の詐欺被害の調査でした。

そして同じ頃、将虎は地下鉄で飛び込み自殺をしようとした麻宮さくらを助け、このことをきっかけに親しくなり、彼女に惹かれていくのです。

詐欺事件と、物語のキーマンになる麻宮さくらとの関係を軸に、物語は展開していきます。全編にわたって仕掛けられた壮大なトリックとは、どのようなものなのでしょうか。ぜひ葉桜の季節に読んでみてください。

 

叙述トリックを用いて描かれる連続美女殺人事件『ロートレック荘事件』

 

1990年に発表された筒井康隆の名著『ロートレック荘事件』。ちなみに筒井といえば『時をかける少女』などのSF作品で有名ですが、本作のように叙述トリックを用いた実験的な作品も数多く残しています。

舞台となっているのは、木内文麿という実業家が所有している、山奥の瀟洒な別荘です。木内の趣味で、アンリ・ド・トゥールズ=ロートレックの絵が多数コレクションされ、いたるところに飾られていることから、「ロートレック荘」と呼ばれています。

季節は夏の終わり。このロートレック荘に2つの家族が集まり、バカンスを過ごすところから物語は始まります。

しかし優雅なバカンスは、銃声によってあっという間に終わりを迎えてしまいました。どうやら被害者は窓の外から拳銃で撃たれたよう。警察が到着し、捜査がおこなわれるなか、それをあざ笑うかのように第2の事件が起きて……。

 

著者
筒井 康隆
出版日
1995-01-30

 

本作は巧妙な叙述によって読者のミスリードを誘う語りになっています。所々にヒントが散りばめられていますが、見破るのは至難の業です。どことなく違和感を感じながら読み進め、トリックが明らかになった時に思わず膝を打つことになるでしょう。

文章自体に何回な部分はなく、ボリュームも文庫で200ページ弱。お手軽に叙述トリックを味わってみてください。

 

叙述トリックの名作小説『神様ゲーム』

 

主人公の小学4年生の黒沢芳雄は、同級生のミチルに片思いをしています。ある日ミチルの飼い猫が何者かに殺されてしまいました。

近頃このあたりでは同じような事件が多発しており、芳雄と同級生たちは犯人探しをすることに。そんな時、同級生の鈴木太郎から思いもかけないことを聞かされるのです。

「ぼくは神様なんだよ。」(『神様ゲーム』より引用) 

 

著者
麻耶 雄嵩
出版日
2015-07-15

 

鈴木は自身のことを全知全能の神だといい、猫殺しの犯人もわかるそう。さらに望みとあらば、罰も与えられるというのです。

芳雄は、犯人が捕まらなければ、天罰を下してくれるようお願いしたのでした。

本作は、児童向け推理小説のシリーズ「講談社ミステリーランド」で発表されました。しかしこの後に続く衝撃的な展開と、子ども向けにしては後味の悪すぎるラストに驚きを隠し切れません。

自称「神様」の予言どおりに起こる事件、下されていく制裁を目の当たりにした芳雄は、どのような行動をとっていくのでしょうか。

 

卓越した叙述トリックが楽しめる、おすすめの小説をご紹介しましたがいかがでしたでしょうか。ミステリーを読み慣れていない方でも、十分楽しめる作品ばかりですから、興味のある方はぜひ読んでみてください。

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