好奇心を刺激する、SFとミステリの融合 新旧海外SFミステリ5選

更新:2016.6.15

新聞に書評を寄せるようになって、ジャンルを問わず何でも読むようになったが、実は最初は国内小説しか読まない人間だった。海外小説は文章が読みにくかったり、場面のイメージが難しかったりして、敷居が高く感じたからだ。 そんな苦手意識をなくしてくれたのは、SFとミステリ両方の要素を持つジャンル、SFミステリであった。想像膨らむSF世界への好奇心に、謎が解かれていくミステリ手法の快感。本稿では、私の読書の幅を広げてくれたSFミステリから、海外に限定して、並外れて面白い作品を新旧問わず5冊選んでみた。

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謎解き一級品のハードSF

『星を継ぐもの』はもはや読んでいないのは損だと言っていいハードSFの傑作である。SFミステリの存在に気付いたのはこの作品がきっかけだった。

「月面で発見された真紅の宇宙服をまとった死体。綿密な調査の結果、驚くべき事実が判明する。死体はどの月面基地の所属でもなければ、ましてやこの世界の住人でもなかった。彼は五万年前に死亡していたのだ!」

――もうこのあらすじ紹介だけでワクワクしてしまう。アクションやコメディ要素は皆無で、科学者たちが仮定を積んで「死体の謎」を一つ一つ解明していくだけのシンプルな構成だが、読み進めるほど知的興奮が高まっていく。このプロセスはほとんど本格ミステリと言ってよく、ラストで合理的な解答が示されたときのカタルシスは筆舌に尽くしがたい。アメリカのミステリ専門誌にレビューが掲載されたことからも、この作品が「謎解き小説」として一級品であることがうかがえる。
 

著者
ジェイムズ・P・ホーガン
出版日
1980-05-23

独創的な「倒叙形式」SF

こちらもSFミステリの代表作として知られる古典的作品。

『分解された男』の舞台は、テレパシー能力を発現した人々が登場し、犯罪の計画でさえ未然に察知されるようになった24世紀。大企業モナーク物産の社長ベン・ライクは、全太陽系の産業的支配を目論み、ライバル会社社長の殺害を企てる。心を読まれぬよう対策を施し、殺人をやり遂げたライクだったが、最高級のエスパーを持つ刑事リンカン・パウエルは犯人をいち早く見抜く……。

特筆すべきは、なんといっても『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』のような倒叙形式で物語が展開することだ。テレパシーを駆使するパウエルと、手練手管を尽くして対抗するライクの駆け引きがとにかくひじょうに面白い。テレパシーがあるんだからすぐ解決するだろ、と思うところだが、もちろんそこは手ぬかりなく、心をのぞいても、のぞいた内容は証拠として採用できず、動機・方法・機会の客観証拠を揃える必要があるのだ。

特徴的な文字デザイン(これは実際に読まないと説明が難しい!)あり、意外な結末あり、半世紀以上前の作品ながら、きわめて独創的な1冊だ。第一回ヒューゴー賞受賞。
 

著者
アルフレッド・ベスター
出版日

不安定で不可思議な短篇集

アメリカのミステリ作家ヘレン・マクロイの短篇九篇が収められた異色傑作選が『歌うダイアモンド』だ。どのように異色かというと、ミステリの垣根を越え、超常現象や怪奇現象、さらには人間の心理や精神に至るまで、幅広い射程からアプローチしているところだ。そう、まさしくSFミステリの醍醐味を味わうことができる短篇集なのだ。

ダイア型の奇妙な飛行物体を目撃した人々が次々と怪死する表題作、ドッペルゲンガーに苦しめられる女性教師の謎を追う『鏡もて見るごとく』、火星人と地球人のシニカルな邂逅を描く『ところかわれば』、清朝末期の北京で起きたロシア公使夫人失踪事件を追う『東洋趣味(シノワズリ)』……。どの短篇も、謎への答えを示したのちに、どきりとする楔を打ち込んでくるのが特徴だ。しかもそれは、恐怖であったり、悲愴であったり、希望であったりと、多彩でどこか不安定である。

読み終えた後も、ジャンルを超えた深甚たる詩情に、この世の在りように思いを馳せてしまう……そんな不思議な短篇集である。
 

著者
ヘレン・マクロイ
出版日
2015-02-27

血みどろのSFノワール

2015年の新刊で個人的ベスト1。

深刻な水不足により、水資源をめぐって各州が軍事的に対立したアメリカ南西部。水工作員(ウォーターナイフ)のアンヘルは、ラスベガスの水資源公社代表の密命を受け、荒廃した大都市フェニックスに潜入する。彼を待ち受けていたのは、水利権を示すマクガフィン求め策謀と暴力渦巻くこの世の地獄だった……。

『神の水』の著者はSF作家で、レーベルもハヤカワSF、設定も近未来なのだが、ストーリーは生々しいほどのノワールサスペンスである。なにせフェニックスは砂漠のど真ん中、水を大量に所持することは権力の証なのだ。街は水資源が枯渇した州からの難民であふれ、そこかしこに敗者の死体が転がっている。誰もが利己的に生き、水ではなく血ばかり流れていく。この破滅的な抗争に、ジャーナリストの女、テキサス難民の娘の視点も加わって、徐々に交錯していくというミステリ的な趣向が読む者を飽きさせない。

著者
パオロ・バチガルピ
出版日
2015-10-22

監視社会の恐怖描くディストピア小説

――昨今世間の耳目を集める無人航空機ドローン。メディアで有用性やら問題点やら盛んに報道されているが、では実際このドローンは今後どのような影響を及ぼしていくのか? そんな私のクエスチョンに答えてくれた本書はタイトルどおり、ドローンであふれ返る社会を描いたディストピアSFである。

アメリカが零落し、ブラジル、アラブ諸国、EUが覇権を争う未来。ブリュッセル郊外の農地で、顔面を吹き飛ばされた欧州議会議員が発見される。ユーロポール主任警部のヴェスターホイゼンは、ドローンと最新技術を活用して二日後には事件を解決。しかしそれは監視社会の恐怖の始まりにすぎなかった……。

多角的に情報収集する大小様々なドローンと、犯行現場を再現できるシミュレーション空間「ミラースペース」といった技術の数々にも驚くが、これらが政治的背景と上手に溶け込んで、キレのいい社会派サスペンスとなっている。ドイツ語圏の主要ミステリ賞・SF賞を獲ったのも納得の面白さだ。
 

著者
トム ヒレンブラント
出版日
2016-01-27
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