ジャンプ黄金期を支えた漫画家・巻来功士が当時のリアルな舞台裏を描いた『連載終了!』。懐かしく、勉強にもなる漫画家漫画です。今回は本作の大人に沁みる魅力をご紹介します。
- 著者
- 巻来功士
- 出版日
- 2016-02-07
当時のジャンプっ子には懐かしく、漫画家を志すものにとっては勉強になる巻来功士作『連載終了!』。生き馬の目を抜くような激動の時代がリアルに感じられる作品です。
作者の巻来功士は『機械戦士ギルファー』、『メタルK』、『ゴッドサイダー』などのエログロホラーで知られる漫画家。1980年代から1990年代頃までの、「週刊少年ジャンプ(以降ジャンプ)」の黄金期とされる時代の舞台裏で活躍した人物です。
当時のジャンプでは『北斗の拳』や『ドラゴンボール』、『ジョジョの奇妙な冒険』、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』などの名作たちがリアルタイムで連載されていました。当然競争が激しく、表紙や巻頭、序盤に作品を載せることすら難しかった時代の中で、巻来功士は戦っていたのです。
現実的な不条理さやその中であがく巻来功士の姿には胸が熱くなるものがあります。当時の少年たちの夢を描きあげてきた大人たちの青春を覗いてみましょう。
「週刊少年ジャンプ」といえば王道少年漫画の代名詞。愛、友情など、少年たちが夢を持つようなテーマを描いた作品が多い漫画雑誌です。
紆余曲折あったものの、読み切りが1982年から1988年の間刊行されていた「フレッシュジャンプ」のアンケートで第2位を獲得した巻来功士。しかしその作品を連載することはできず、その後の原作コミカライズ作品も10回で連載が終了してしまいます。
その後もネームが編集会議を通らず、通ったものもアンケートで中の上程度となかなかヒット作を生み出すことができません。そこで勝負をかけなければダメだと思った巻来が挑戦したのが「少年誌の常識」である希望や栄光とは逆をいく作品でした。
それが当時の少年たちのトラウマ漫画として名高い『メタルK』。仄暗い世界観にグロいシーンが詰め込まれた、当時としてはかなり過激な作品です。
しかし編集部内でこの漫画を嫌う人間がいるらしく、アンケートで下位だったとはいえいきなり2回目から巻末連載になってしまいます。連載当初から打ち切り色が濃厚だったこの作品も10回で打ち切りになってしまいました。
ジャンプで連載する漫画家の前に立ちはだかる友情、努力、勝利などの「希望というテーマ」。表現者であるとはいえ、企業から仕事を請け負う立場であるという漫画家の現実が感じられます。
現在ではそんな「逆をいく」作品が多くなっているとはいえ、自分のやりたい仕事とやるべき仕事が違うというのは誰しも共感するところのあるフラストレーションではないでしょうか。
次々と変わる担当編集者に「ひとりでも大丈夫」と同じセリフを言われ、孤独感に陥る巻来。その後まったく相性が良くない編集者と組むことになり、作品も単行本2、3巻程度の連載で終了し続けます。
その間に青年誌の読み切りを依頼された彼は少年誌よりも大人向けの作品が描きたいと思うようになりました。
そんな中ジャンプの新年会に参加した巻来は日本企業独特のマイナス思考に溢れた経営精神にやられ、そのあと一緒にパーティーを抜け出した新人たちのジャンプ一筋の思考回路にもやられてしまいます。そしてある決断をするのです。
ジャンプ黄金期を支えた漫画家のひとりである巻来功士が苦悩の執筆生活の末に選んだ答えとは何なのか。その答えは作品でご覧ください。
ひとりの漫画家、そして男の生き様が描かれたもので、漫画家を目指す者にはもちろん、当時の少年で現在バリバリと働く男たちに響く、大人の物語です。
そんな巻来功士作『連載終了!』を締めくくるのが編集者・堀江信彦との対談です。彼は1995年に史上最高部数653万部(2017年6月現在)を叩き出した「週刊少年ジャンプ」5代目編集長で、『北斗の拳』、『キャッツ♥アイ』、『よろしくメカドッグ』などのヒット作を生み出してきた人物。
ふたりが巻末対談で語るのは、不運に見舞われつづけた巻来功士の特長や、作品づくりで重要になってくるもの、当時のジャンプの舞台裏のリアルな雑談まで多岐に渡ります。
特に作品作りで重要になってくるものの中に100コマの法則というものがあり、それがかなり重要だと話す堀江氏。『ワンピース』などのヒット作品は1話あたり約100コマほどで構成されているという法則で、読者が求めている情報量について具体的な数字を用いて説明しています。
この対談だけでも読み応えがあるというほどの濃い内容で、多少なりともフィクションを作り上げる現場に携わったり、漫画や映画などが好きだったりする方にはぜひ読んでいただきたい作品です。
ジャンプ黄金期のリアルを知ることができるノンフィクション漫画『連載終了!』。ジャンプ誌上でヒーローたちが華やかに戦っている中、舞台裏で漫画家たちも死闘を繰り広げていたのだと実感できる作品です。
読めば読むほど沁みてくる漫画家のリアルな苦悩に引き込まれること間違いなし。巻末の対談でより現場が体感できる大人のための「ジャンプ漫画」です。