文芸

女流作家の名作おすすめ5選!明治〜昭和にかけて活躍した女性たち

更新:2017.6.14 作成:2017.6.14

尾崎翠、与謝野晶子、林芙美子、幸田文、そして円地文子。明治時代から昭和時代にかけて活躍した女流作家たちが伝える、当時の女性らしい視点と社会背景。現代の私たちに考える機会を与えてくれる作品を5冊ご紹介します。

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激動の時代を生きた女流作家たち

明治時代から昭和時代にかけて、日本の小説は様々な流派が生まれました。海外からの作品が入ってきたこと、文明開化とともにあらゆる生活環境が変わったこと。様々な要因が、小説にも変化をもたらしたのです。

そんな時代のさなか活躍した女流作家たちは、それぞれの目から捉えた変化を見事に作品に落とし込んでいきました。明治時代から昭和時代にかけて活躍した作家の作品の中から、その時代を色濃く感じることのできる5作をご紹介します。

あなたの”第七感”を刺激する『第七官界彷徨』

小野町子は詩人になりたいと願う女性です。ある日、兄2人と従弟1人が住んでいる家での炊事係を言い渡され、男3人と女1人の家族での生活が始まります。

町子は詩をノートに書き連ねているのですが、“第七感”に訴える詩をコンセプトにしています。ところで”第七感”とは何なのか、ということは実は当本人もわかっていません。

精神病棟に務める長男、コケの研究に没頭する次男、オペラを歌うコンプレックスに犯された従弟、そして”第七感”を刺激する詩を書こうと没頭する町子。

それぞれが送る何気ない日々は、何気ないけれどどこかおかしい、そんな日々なのです。
著者
尾崎 翠
出版日
2009-07-03
タイトル『第七官界彷徨 』の第七官が、主人公町子が描こうとしている”第七感”のことを指します。視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚という五感を越えた第六感は、映画『シックス・センス』でかつて取り上げられたので、ご存知の方も多いでしょう。見えないものを感じる直感のようなものですね。

しかし、町子は更にその先の、誰も言及していない”第七感”を描き出そうとしています。町子は本一冊読むにしても、その文字が書いている内容とは別の次元で物事を考える癖があります。そういった目には見えない何かを追い続けているのです。

作者の尾崎翠は執筆していた期間はわずかで、作品が評価されたのも晩年でした。独特の文体と表現力、テーマの選び方が秀逸で、現在は彼女の多くのファンがいます。そんな彼女の代表作とも言える、目に見えない感覚に彷徨う、不思議な世界を漂うような一冊です。

時代に負けない愛を感じる『みだれ髪』

「むねの清水あふれてつひに濁りけり君の罪の子我も罪の子」(『みだれ髪』より引用)

胸の中で湧く泉のような恋心も、実らぬ恋とわかりながら、溢れてやまぬ情熱に任せて体を重ねてしまったことで濁ってしまいました。あなたも私も、罪の子になってしまいましたね。

美しくも、恋しい相手に対する強すぎる想いが溢れる与謝野晶子の歌です。このような激しく、女性的な美しさを秘めたストレートな恋の歌を集めた初の歌集が『みだれ髪』です。この歌の他にも様々な恋愛の募る想いの詰まった本作は、発刊された当時スキャンダルとして取り上げられました。
著者
与謝野 晶子
出版日
1999-12-27
与謝野晶子は1901年に『みだれ髪』を発表しました。発表当時、妻子のある与謝野鉄幹に晶子は恋をし、いわゆる不倫関係で燃え上がります。今よりもずっと貞操観念の強かった当時、晶子の行動は淫らでふしだらなものとして批判されました。

多くのバッシングに晒されながらも、与謝野鉄幹は離婚し、晶子との新しい生活を始めました。それまでのプロセスで晶子から溢れ出た恋心を詰めた歌集が『みだれ髪』です。ただでさえ批判されているさなか、乱れる心中や体の関係をにおわせる作品を多く含んだ本作は、問題視されました。

一方、与謝野晶子の美しい心や、それを伝えるエネルギッシュな歌に対して絶大な評価をする者もあらわれ、やがて、当時の女性を象徴する歌人として日本中に知れ渡ります。愛情を貫くために強く生きた与謝野晶子を代表する一冊です。

働き、移動し、逞しく生きていく女性像『放浪記』

主人公のふみ子は、貧しくもそれを卑下しない明るい性格の女。母と二人で下宿するふみ子は、遠路はるばるやってきて金を要求する父の姿や、自分を捨てた初恋の相手など、男と金にかけては全く良い思い出のない人生を送っています。

そんなふみ子は、点々と働く場所を変えながら放浪していきますが、ある時出会った劇作家の男に詩を見初められます。彼の家に同居し詩を同人誌に掲載する日々を始めたふみ子ですが、やはり貧しいことには変わりなく、働きどころも定まりません。

その後も男や家を変えなければならないトラブルが次々と起こり、ふみ子は様々な拠点を放浪しながら、文章を書くことだけはやめません。少しずつ才能が認められキャリアアップしていきますが、とうとうそのキャリアアップが理由で、人生はまたも安穏の地を失うことになり……。
著者
林 芙美子
出版日
1979-10-02
『放浪記』は作者・林芙美子の自伝的小説です。彼女自身が貧困の家庭に生まれ、次々と拠点を変えて放浪する人生を歩んできました。

発表された当時の日本は、貧困層の苦しみは今とは違ったものでした。また、結婚して家庭に入ることが当然とされていた世相の中で、女性が働きながら放浪していく、という生き様も大変珍しいものでした。決して幸せとは言えない環境に置かれても、自分の意思で人生を決めていくふみ子の姿は、多くの貧困層に勇気を与えました。

林芙美子自身が強い女性で、自分の生い立ちや周囲の声に負けることなく、時代に応じた日本の当時を描き続けました。作品は数多く、頻繁に誌面に掲載されていたことも特徴のひとつです。彼女の生き様がにじみ出た、女性の生きる強さを感じられる一冊です。

女性の目が描く芸者置屋の日々『流れる』

そこは芸者置屋。集う女たちは表と裏の顔を使い分け、主人や板前、その家族が行き来します。人間関係の絡み合いや恋愛慕情、警察沙汰、季節の移り変わりなど、日々の出来事が冷静で客観的な観察眼を通して描かれていきます。

その目を持つ主人公は、中年の女性。芸者置屋の面倒な雑用を淡々とこなす女中です。何故かこの女性は芸者の歌の良し悪しがわかったり、達筆な文字を書けたりと、秀でた能力を持ちながらもそれを隠しています。大変能力の高い主人公ですが、「何者なのか」という問いが多くなってきた折に、その芸者置屋をそっと立ち去ります。
著者
幸田 文
出版日
1957-12-27
作者の幸田文は、作家幸田露伴の娘です。幼いころから文章を書くことが身近にあり、英才教育も受けました。父の死後、一時柳橋の芸者置屋に女中として働いていたことがあり、本作はその経験に基づいた自伝に近い小説となります。

新潮社文学賞を受賞した本作は、主人公の姿が周囲の反応や経過、またそれを観察する目によって浮かび上がる構成を崩しません。幸田文の客観的視点と、当時の芸者置屋のリアルな日常が感じられる一冊です。

幸福とは何かを問いかけてくる女性の物語『女坂』

主人公の倫(とも)は、若くして嫁いだ先の夫に女として見られなくなります。旦那は当時の政治における出世頭で、妾をいくらでも囲うことができたからです。倫は夫の愛のない行動を責めることなく、夫の欲望を叶える女たちを管理する側に回ります。

淡々と人を管理し、自分の欲望をぶつけることなく表情を殺す倫に、周囲の家族はやがて不気味さを覚えます。倫は自分を守るために磨いた鋭い洞察力と行動力があり、うごめいている秘密に気付き、後々のトラブルを未然に防いでいくのです。

倫は自分の幸福など感じることもなく、求めることもなく年老いていきます。そんな彼女が、本当の幸福の意味を見出す日は来るのか……。
著者
円地 文子
出版日
1961-04-18
円地文子は女流作家として高く評価された人です。女の生き様や女性の心情を描いた作品は数多く、谷崎潤一郎に大変評価されたことも有名です。

幼少期から病弱で、学校に行くこともままならない人生だったからこそ、人の内側を観察する癖と文章力を磨く時間があったのかと思われます。

愛情を受けることなく幸福を捨てた女性の一生を描いた本作は、円地文子の代表作です。家に縛られ、欲望を滅する女性の生き様は、現代の女性には新鮮かつ考え深いものとして受け入れられることでしょう。

現代の女性にはない苦しみ、喜び、思想を持っていた明治時代から昭和時代の女性たち。その作品を通じて、当時の男女差別や考えの違いを感じるのも良い時間かもしれません。また、文章表現の豊かさや、女性ならではの細やかな描写も楽しめることでしょう。ぜひ明治時代から昭和時代の女流作家の作品にもご注目ください。