多くの絵本や児童書を出版する、歴史深い金の星社。今回はそんな金の星社から、親子そろって楽しめる絵本を集めました。温かみのある絵柄やわくわくするストーリー。長く愛される作品から新しく考えさせられるような作品まで、今一度触れあってはみませんか?
手にしたシチューの温かみが伝わってくる、ふんわりとした彩色と満面の笑顔。そこには確かに幸せがあるのだ、と、そう思わせてくれる絵柄です。
しかし「いつもいっしょ」でいるには、しなければならないことや、考えなくてはいけないことも、多くあるのです。
- 著者
- こんの ひとみ
- 出版日
- 2008-02-01
くまとうさぎの2人暮らし。愛らしい笑顔からとても仲が良い事はすぐに分かります。
凍えるうさぎを迎え入れてから、くまは、誰かのいる生活を心から楽しんでいました。これまで1人でやっていたことを、誰かと一緒に行える。それだけで、心に満ちるものがあるのでしょう。
しかしそれらも、日常として慣れはじめてしまったら、はじめは感じられていた幸福もわかりにくくなってしまう、ものです。一緒に暮らす楽しさを、相手も果たして感じてくれているのか……、こうした不安は、誰しも抱いたことがあると思います。
一緒に暮らす事に幸せを感じているのなら、同じように暮らし続ける為にしなければならないこと、考えなければならないことがあります。心を許せる誰かと、穏やかに暮らし続ける為に、相手への思いやりを欠かしてはいけないということを、優しい絵と文章で、そんな大切な事を教えてくれる絵本なのです。
本作は、愛らしい語り口で綴られる、詩情に溢れた絵本です。翻訳でありながらリズム感があり、きっと口に出して読んでみたくなることでしょう。
霧の中の静けさを思わせる仄暗さの中で、青を基調とした美しい絵が広がります。まるで読者自身が雨の世界を、ちょうちょうを探しながら散歩しているような気持ちにさせてくれます。
- 著者
- メイ・ゲアリック
- 出版日
一冊を通して、雨の中ちょうちょうを探すような視点で、他の生き物の暮らし方が語られます。歩いている途中、ふとよそ見をした先の視界を切り取ったかのようなシンプルな描写で、あっさりとしながら、確かなイメージを残してくれることでしょう。
雨の中、人は濡れないために傘を刺しますが、他の動物達はどのように雨をしのぐのでしょうか。大変そうだったり、平気そうにしていたり。その動物らしい、雨の中の過ごし方があります。いつもと違うそうした姿を覗いてみるのも、面白いかもしれません。
ストーリーを語る訳ではないのに、この絵本には確かに読者を惹き付ける世界があります。雨と聞けば外に出られないし、空も暗くなってしまうし、あまり明るく感じられるものではありませんが、そんな雨の中にも魅力ある世界が広がっている。傘を持って、または窓越しに雨音を聞きながら、身近な異世界に思いを馳せる楽しみを教えてくれています。
表紙を見るだけで、この絵本にどんな切なさが描かれているか、察する事が出来るでしょう。気持ちよさそうに眠る赤ちゃん、幸せそうなお母さんの顔。そして、そんな2人をじぃっと見つめる、お座りしたままの猫の姿。
- 著者
- 竹下 文子
- 出版日
猫は我慢をしています。お母さんに赤ちゃんが生まれたから、その膝でだっこされない寂しさを、じっと我慢しているのです。何でも赤ちゃんが最優先で、後で、なんて言われてしまっても、それでもいいと考えながら。
赤ちゃんが生まれた、それはとても幸せな出来事です。赤ちゃんはまだお母さんしか頼るものが無いから、この絵本の猫もそれが分かっているから、お母さんの腕に包まれて幸せそうなあかちゃんの姿を、じっと見つめています。
寂しく無いわけじゃないのです。我慢をしているだけなのです。そんな猫の気持ちが、独白という形で切々と綴られています。こうした寂しさを感じるのはペットだけじゃありません。この絵本には「本当は、私も甘えたい」という、ある頃から隠してしまいがちな気持ちが、ぎゅっと詰め込まれています。
泣いた子を慰める時、泣かないで、と呼びかけていませんか?泣く、という感情表現を、止めてしまってはいませんか?どうして涙を流しているのか、その一つ一つに真摯に向き合えば、分かる事もあるかもしれません。
- 著者
- 中川 ひろたか
- 出版日
大胆なタッチで描かれるのは、色々な泣くシチュエーション。痛ければ泣く、怖くて泣く、嬉しくて泣く。涙を流す時、抱いている気持ちは様々なのです。
大人か子供かという差別は無く、泣く事を悪い事のように描く事も無く、今そこにある涙の理由をずっと考えています。
この絵本で描かれている男の子は想像力が豊かなようで、色々な物に注目してどんどんと考えを深めています。鳴き声を聞いた動物や、テレビの向こうの風景。泣いているか、そこにはどんな気持ちが表れているのか、心と向き合う事で少年は、広い視野を得られたのかもしれません。
心はままならない事も多く、子供の内は特に不安定で苦労をしている事でしょう。それでも良いんだ、と教えてあげられれば何よりです。ですが、この絵本のように「なんで?」と考えられれば、その疑問はきっと、子供に大きな成長をもたらしてくれる事でしょう。
寂しい気持ち、切ない気持ち、わくわくする気持ち。絵本に描かれる感情は様々です。読者となるであろう子供がこれから出会うであろう、そんな色々な気持ちを、先に絵本で出会っておくのも悪い事では無いでしょう。