芦沢央は、長い下積みの後にデビューしたミステリー作家です。人の闇を感じるような作品たちは、人間の感情をとてもうまく描いています。それでは、この先も期待される作家の作品を5作紹介していきます。
芦沢央(あしざわ よう)は1984年生まれ、東京都出身の女性作家です。
高校生の時に多くの本を読んだことから、作家の道を志したという彼女。大学を卒業した後は出版社に勤め、仕事をしながらも作品を執筆し、文学賞に応募し続けました。その期間はなんと約10年ほどということです。
推理小説を主に執筆し、長年の文学賞応募を経て、『罪の告白』にてデビューしました。作品は野性時代フロンティア文学賞を受賞し、注目を浴びたものです。その後次々とヒット作品を産み出し、数々の賞を取得しました。
作品には短編が多く、作風としては、思わず背筋がゾッとするようなミステリーから、人の心の闇を語る小説などを女性の独特な目線で描いているのです。
『バック・ステージ』は四つの小さな物語から構成されている作品です。離婚したてのシングルマザー、昔の同級生と再会した大学生、舞台出演のチャンスを掴んだ新人俳優、認知症を発症した大物女優とそのマネージャー……。
このまったく関係のなさそうな四つの物語に繋がりを持たせるのが、とある会社の新人社員の松尾と、先輩にあたる康子の二人です。
新入社員の松尾は、ある日先輩・康子が会社で不審な行動をしている場面に出くわします。康子は、パワハラ上司が会社で不正を行っているとにらみ、その証拠を探していました。成り行きで、松尾も康子とともに不正の証拠を掴もうと奔走する羽目になります。
- 著者
- 芦沢 央
- 出版日
- 2017-08-31
二人の掛け合いが、テンポが良くて心地よく、楽しく読み進めることができるでしょう。
構成されている四つの物語も、一本一本が魅力的で読み応えがあります。そしてそれぞれの奇妙な繋がりが、最後にパズルのピースのようにピタリとはまり、それは爽快感を感じさせるほどです。
表舞台だけではなく、その裏側にも物語があると感じさせる作品で、この「バック・ステージ」というタイトルも、作品にぴったりとはまります。
人間のバック・ステージ、人間の本質を描いたこの作品は、涙を誘ったり、スカっとしたり、ほっこりしたり。そして最後の、爽快感と充実感あふれるラストをぜひ味わってください。
2012年に発売された、芦沢のデビュー作となる作品です。
大学で心理学の講師をしていた安藤聡は、彼の一人娘の加奈がベランダから転落死したという連絡を受けました。警察によると、事故と自殺両方の可能性があると考えられるということで、安藤は自分を責めます。
そんな中、加奈のクラスメイトの1人である咲が、安藤に声をかけてきました。
咲は、安藤に加奈の遺書や日記はないかと確認し、探すよう提案してきます。親身になってくれているかと思いきや、なんと咲は、加奈が死んでしまったことに関わりがあり……。
- 著者
- 芦沢 央
- 出版日
- 2015-04-25
妻に早くに先立たれ、父子で一生懸命生きてきた安藤にとって、加奈の死は受け止めきれないものでしょう。なぜ早くに気付くことが出来なかったのか、理解できていなかったのか、と思い悩みます。しかし、加奈の残したものによって、これは咲たちの仕業なのではないか、という疑問が湧いてきたのです。
途中で咲の思惑に気付き、心理戦を始める安藤ですが、咲も安藤の誘導にはのらず、見事に戦っていきます。
この作品のいちばんのテーマは、スクールカーストにあるのでしょう。スクールカーストとは、学内で人気の度合いによって、まるで身分階級のような上下関係が出来上がってしまうこと。これは生徒間の軋轢を生む原因となっている場合も多々あります。大人になるとそんなものは馬鹿らしく、小さいことに思えますが、高校生の頃は重要視されていたのではないでしょうか。
カーストが高い人と低い人との差は大きく、いじめの対象ともなりうるのです。巻き込まれる女子高生たちは、自分のカーストのプライドのため自分を守っていきます。
そしてこれらの部分を描くことで、思春期の女の子たちの微妙な気持ちや、他の子たちに対する感情が見事に描かれています。
巣鴨にある遺影専門の写真館、雨利終活写真館に訪れる人々は、様々な人生を抱えてやってきます。写真館を訪ねる人たちの生き様を描き、人生において本当に大切なものは何なのか、を問う作品です。
人が人生の最後に守るものは何なのでしょうか。そして、後に残したいものは何なのでしょう。
- 著者
- 芦沢 央
- 出版日
- 2016-11-29
ヒューマンドラマが描かれている作品でもありますが、芦沢の代表手法であるミステリーの要素も組み込まれています。
写真館に、「最後の写真」を撮りに来る人たちの事情は様々でした。その様子を、短編の形式で表しているのがこの作品です。
たとえば第1話、「一つ目の遺言状」は、最近亡くなられたおばあさんを中心としたお話。おばあさんは財産分与の遺書を残しましたが、長女にだけ何も分け与えることがなかったのです。自分は愛されていなかったのか?と悩む長女は、あることに気が付きました。
遺影写真を撮ることをきっかけに、大切な人の気持ちを知ることが出来たり、分かり合えるようになったりと、最後は人によって様々です。しかし、人は人生の最後になって分かる大切なことがあるのだと感じる作品となっています。
こちらの写真館で撮るものは、人間の最後の姿であります。その姿こそ、人の人生を表す一枚となるのではないかと感じられる作品です。
宮下愛子は、3歳の頃、母とショッピングモールに行きました。しかし、母が目を離した隙に、愛子は何者かに連れ去られてしまったのです。その時の事故により、愛子は失明してしまいました。
12年後、愛子はまたもや誘拐事件に巻き込まれてしまい……。それも、2度目の事件に関わっていたのは、1度目の事件の加害者でした。
- 著者
- 芦沢 央
- 出版日
- 2015-12-26
誘拐の謎に迫るこの作品は、最初読み始めるだけでもググッと引き込まれること間違いないでしょう。最後、どうなるの?という気持ちがこみ上げてくるのです。
なぜ、2度目の誘拐が起きてしまったのか、と自分たちを責める両親と、愛子の帰りたい気持ちが強く伝わってきます。
また、愛子を誘拐した人物にも理由があったのです。その事実に迫るにつれ、登場人物たちが持つ痛いほどの愛を感じました。
愛子は監禁され、ひどい仕打ちを受けます。盲目で監禁させられる恐怖が伝わってくるようで胸が痛むことでしょう。しかし、愛子を誘拐した犯人は、自分の愛する人のために行っていたのかもしれません。歪んだ愛情は他人をも傷つけるのでしょうか。
ミステリー小説と見せかけてホラー小説の部類なのかもしれないと感じるこの作品、芦沢の「ブラックミステリー」の代表作です。
最後の結末に思わずヒヤッとしてしまうこと間違いなしでしょう。
全ての短編において奇妙な世界観が描かれており、最後の最後にアッと驚く仕掛けが施されています。
表題作の「許されようとは思いません」の他、「目撃者はいなかった」や「ありがとう、ばあば」などの5作品が収録されていて、どれをとっても不思議な魅力のある物語と感じるでしょう。
- 著者
- 芦沢 央
- 出版日
- 2016-06-22
表題作の「許されようとは思いません」という作品は、題名からして興味をそそります。何を許されなくていいのだろうか、そんな感覚に陥るこの題名は、芦沢のミステリー作品にピッタリでしょう。
「許されようとは思いません」に登場する主人公は、祖母がかつて住んでいた村を訪れます。祖母は村から追い出されており、その理由は曾祖父を殺したから、というものでした。
なぜ祖母は曾祖父を殺したのか、と主人公は考え、事件の真相に迫りながら疑問を解決していくお話です。
物語全体を取り巻く異様な雰囲気と、まるで異世界のように描く村の様子が相まって、非常にミステリアスな空間が出来上がっています。真相に近づくにつれ明らかになる祖母の行動と、「許されようとは思いません」の題名の意味に、思わず背筋がひやっとするかもしれません。
他の作品も含め、本作は「このミステリーがすごい!」を受賞しました。思わず鳥肌が立つようなミステリーが収録された作品です。ぜひご覧ください。
いかがだったでしょうか。芦沢央は、女性の独特な視線から、人間の闇を描くような作品を描いています。どれを読んでも鳥肌が立つような文体と内容に、怖さをつくセンスを感じることでしょう。興味を持ったものからぜひお手にとって下さい。