明快なストーリーと心温まる内容で、長きにわたって多くの子どもたちに愛されている岸田衿子の作品。詩人という顔も持っていた彼女ならではの文章は、声に出して読みたくなる美しさがあります。子どもに読み聞かせたい、おすすめの5作品を紹介します。
1929年東京生まれの岸田衿子は、父が劇作家の岸田国士、妹が女優の岸田今日子という芸能一家で育ちました。東京藝術大学油絵科を卒業した彼女は画家を志しますが、肺の病によってその夢が絶たれたという過去を持っています。
20代から子ども向けの絵本作品の制作活動を始め、テレビアニメ「アルプスの少女ハイジ」の主題歌の作詞も手掛けています。2011年4月にその生涯を閉じるまで、コンスタントに子どもたちに愛される作品を生み出し続けた童話界の巨匠です。
野原に集まった仲良しの動物たちが遊んでいると、お昼ごはんの時間になります。皆が待ちに待ったお昼ご飯の時間。お弁当を広げる前にワクワクする動物たちの気持ちが、読者に伝わってくるのです。
ブタのお弁当にはバタつきポテト、ウサギのお弁当には大好物のニンジン。リスのお弁当はクルミやひまわりの種が入っていて、クマのお弁当にはハチミツパンやブドウパンが入っていました。どのお弁当もとっても美味しそう。
動物たちと一緒に遊んでいた男の子も、自分のお弁当箱を開けてニッコリと笑います。皆お母さんが用意してくれたそれぞれの大好物を広げて、ラストシーンでは皆で一緒に食べました。
- 著者
- 岸田 衿子
- 出版日
- 1994-03-20
この絵本を読むと、お弁当を用意してくれるお母さんの顔が思い浮かぶかもしれません。動物によって食べるものの種類が違うので、子どもに「どのお弁当がいい?」と問いかけてみても楽しいですね。
お弁当を開けて中身を見た時の動物たちの表情がとても素敵で、読んでいる方までワクワクします。仲良しの友達とお弁当を食べるのがこんなに楽しい事なのか、と子どもに教えてあげられるのもこの絵本の魅力でしょう。お弁当を作るお母さんにとっては、子どもがお弁当のふたを開ける瞬間の期待にあふれた顔を想像することができる、そんな絵本です。
ライオンの王様だったジオジオが年を取り、変わっていく姿を描いたこの作品。表紙の絵では、ジオジオの冠のなかに小鳥のひなたちが可愛らしく口を開けています。
年を取ったジオジオは若かったころのように狩りをすることもなく、顔の周りには白髪が増え、目も見えづらくなってきました。今までのように元気が出ないジオジオがしょんぼりしていると、灰色の小さな鳥が現れます。
鳥は、7つの卵をすべて失ってしまったと嘆いていました。6つの卵は食べられてしまい、1つは川に落として流されてしまったのです。そこでジオジオは灰色の鳥のためにある提案をします。
- 著者
- 岸田 衿子
- 出版日
- 1978-04-01
のんびりとしたペースで進むお話で、ジオジオの心情が、読み手にじんわりと伝わってきます。若く強かった頃には考えもしなかったあらゆる思いを、ジオジオは鳥の役に立つ事で昇華させようとしたのではないでしょうか。
ジオジオと灰色の鳥が向い合うシーンのイラストは、額に入れて飾りたくなるような温かい魅力があります。互いに心のどこかが傷ついた者たちが向き合い、手を取り合って生きていく姿は、子どもの優しい心を育んでくれるのではないでしょうか。
舞台は日曜日の動物園。主人公のカバ君は、訪れる人間たちを観察したりして、のんびり過ごします。水の中で子どものカバと友達のカメと泳いだり、人間たちの近くに行ってじろじろと眺めたり。
飼育員の男の子がキャベツやトウモロコシを持って現れると、カバ君は大きな口を開けてキャベツを丸ごと一個口に入れてモグモグと食べてしまいました。お腹がいっぱいになったカバ君が子どものカバと一緒に寝そべる姿はとてもキュートです。
- 著者
- ["岸田 衿子", "中谷 千代子"]
- 出版日
詩的な文章と、文章にマッチしたカバ君の絵。のんびりしたようなカバ君の表情とは裏腹に、目を見張るほど鮮やかな色合いがダイナミックで、臨場感にあふれています。
動物園が日曜日に騒々しくなる事をカバ君が知っているのも面白いですし、興味深げに人間の足元を観察しているのも人間とは違う視点で面白いものです。
この絵本を読んだら動物園に行きたくなることでしょう。実際に動物園でカバを見つけたら、この絵本を思い出し、それまでの印象とは全く違う気持ちで楽しめるかもしれません。
この物語では、食いしん坊の白ブタ君が何かを食べるたびに不思議なことが起こります。赤くてツヤツヤのリンゴを食べた白ブタ君。体に赤い灯がともったような色が浮かび上がりました。いい匂いのレモンを食べると、赤い色のとなりに、黄色い色の灯がともったように色が浮かびます。
リンゴとレモンだけではお腹一杯にならなかった白ブタ君。メロンとブドウを食べたら白かった体がとてもカラフルでキレイになりました。白ブタ君はもっとキレイになろうとして、とんでもない物を食べてしまい……。
- 著者
- ["岸田 衿子", "長野 博一"]
- 出版日
リンゴを食べるとお腹が赤くなり、メロンを食べるとお腹が緑色になる。大人からしてみればありえない出来事ですが、純粋な子どもの目線で見れば当然のようにも思える展開です。
美味しそうな果物のイラストは見ているだけでお腹が鳴ってしまいそうなほどリアリティがあり、白ブタ君の白い肌はつい手を伸ばして触ってみたくなるような質感で描かれています。
白ブタ君以外の友達のブタたちも可愛らしい表情で、細部まで丁寧に描かれたこの作品は、わかりやすい展開としっかりしたオチがあるので、読み聞かせ会などでも重宝することでしょう。
幼児向け絵本を数多く生み出している岸田衿子の作風から一風変わった印象を受けるのがこの作品です。スズキコージの描く、どこかおどろおどろしい世界観と、奇妙な雰囲気の今までにない数え歌が、耳に残ります。
動物をテーマにした数え歌や、火の玉が増えていく数え歌、そしてへんな人を数える数え歌など。6つのテーマごとに作られた数え歌は耳に残るリズム感と面白おかしい言い回しで、つい口ずさみたくなるのではないでしょうか。
「ひとつひのたまひろったら ふろばでふやけてひのたまふたつ」(『かぞえうたのほん』からの引用)
火の玉数え歌を読んでいくと、もしかしたら登場人物が次々に火の玉に姿を変えているのかとぞっとさせられるかもしれません。
- 著者
- 岸田 衿子
- 出版日
- 1990-07-10
数え歌そのものが詩的で面白い内容で、その面白さに鈴木コージが描く奇妙なイラストがマッチしています。いろんな種類の数え歌を通じて、言葉遊びの楽しさを子どもに教えてあげることも出来るでしょう。
変な人を数える変な人数え歌には、納豆を洗って食べるなな君やはまぐりを殻ごと食べるはち君など、読み手の笑いを誘う奇怪な人々が次々と現れます。数字を数える事に興味を持ちはじめる年齢の子どもにぜひ読み聞かせてあげたい一冊です。
以上5冊を紹介させていただきました。心温まる作品や、くすっと笑えるような作品など、様々なジャンルの作品がありましたね。イラストを気に入って購入するのもいいし、物語の内容に惹かれて購入するのもいいと思います。お気に入りの一冊を見つけて、絵本の世界に浸る幸せな時間が訪れると良いですね。