栗本薫のおすすめ文庫作品5選!大人気「グイン・サーガ」シリーズの作者

更新:2017.6.22 作成:2017.6.22

「1冊の本でない」という理由でギネスブックには載り損ねたものの、世界最長と言われる『グイン・サーガ』を遺した栗本薫。多才な彼女にはSF、ミステリ、耽美、時代、伝奇と様々なジャンルの小説があるのです。中でもおすすめの5作をご紹介しましょう。

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栗本薫の、とにかく貪欲に生きた人生

栗本薫は2009年にガンのため56歳の若さで亡くなりました。自らの早い終わりを予感していたかのように太く短く生きた人生で、遺された作品は小説だけでなんと400作以上。「中島梓」名義では評論やエッセイ、更には脚本や舞台演出なども手がける多才な人だったのです。

1953年に東京葛飾区で生まれた栗本薫。母親が歌舞伎好きで幼い頃から舞台をみて育ち、ピアノだけでなく長唄なども習わせる裕福な家庭環境でした。彼女が後に舞台の脚本や演出をしたり、音楽活動も行うようになったのはこの環境によるものでしょう。

少女時代の栗本は何よりマンガが好きで、特に手塚治虫の『リボンの騎士』により中世的なもの、両性具有的なものへの憧れを持ちます。そして中学で森茉莉の作品に出会うことで、彼女の中のBL的感性がはっきりときざしたのでした。

早稲田大学在学中からすでに小説を書き始めていた栗本は、卒業後就職せずに評論、小説などを猛然と書き始めます。同時にバンドを組んだり、BL雑誌「JUNE」の創刊に関わったり、TVのクイズ番組にレギュラー出演したり、ミュージカルの脚本や演出をしたり、小説道場で後進を育てたりと、とにかく精力的に活動を続けました。

栗本はこれだけ他方方面にわたる活動をしながら、そのすべてにおいて全力で、一定以上の成果を残しています。37歳で初めてガンにおかされて以来、栗本は克明な病状の日記をつけており、3冊の闘病記も残しました。最後の記述は2009年5月16日。亡くなる10日前までペンを握っていたのです。

自分のやりたいことについてはとにかく最後まで貪欲だった栗本薫。その「とにかく書きたい!表現したい!自分を残したい!!」という欲望への率直さが彼女と彼女の作品の魅力となっているのでしょう。

壮大な一大叙事詩

新興国ゴーラに攻められたパロ王国は陥落し、王家の血を引く者はリンダとレムスの双子の姉弟のみになってしまいます。怪物が群れなすルードの森で新たな追っ手が迫ってきた時、2人を救ったのは、逞しい体に豹の頭を持つ怪人だったのです。

著者
栗本 薫
出版日
1979-09-29

生まれつきとしか思えないほどぴったりとした豹頭の仮面をかぶせられ、自らの名と「アウラ」という言葉しか覚えていない勇者グインを主人公とする物語で、栗本薫の代表作の1つです。グインが豹頭にされた理由、双子は生き延び、パロを再建できるのかなど、1巻を読んだだけでもう先が気になってしかたなくなります。

2巻以降はセムの娘スニ、傭兵イシュトヴァーンを加えた一行が旅を続けるのですが、その後は栗本薫ワールドが展開する様々な人物や国が描かれるため、グインが中心でない巻もあります。

精悍な勇者、美しい姫と王子、ちょっと悪ぶった戦士など、主要人物の造型が多分にマンガチックでありながら、この長編の質が保たれているのは登場人物たちの弱さや人間くささまできちんと描かれているからです。例えばレムスは後に自分の弱さゆえに国を二分し、自らも囚われる結果を招くことになってしまいます。単に美しい少年王子から賢く優しい王になるのではないところが、物語を歴史書のようにリアリティあるものにしているのです。

魅力的な人物と次々に登場する身の毛もよだつような怪物たち、架空の国々で繰り広げられる戦い……緻密に作りこまれた世界観に魅了される人が多く、累計発行部数は300万部を超えています。正伝だけで130巻に及び、外伝は20巻以上。栗本薫の他界によりどちらも未完ですが、その後複数の作家により書き継がれていることは、読者のみならず書く側のプロもこの物語に魅せられていることの表れでしょう。

宇宙規模のスケールの神々と人間の戦い

夜な夜な悪夢にうなされる人たち。そのうちの1人である涼は大学で、面識のないあやしいほど垢抜けた女性から画廊に誘われます。好奇心をそそられた涼はそこに行ってみることにしました。そして絵を見ている時に「あなたはもう目覚めたのよ」と意味不明の言葉を耳打ちされます。その画廊には同じく悪夢を見る夏姫も来ていてー。

著者
栗本 薫
出版日
1986-09-10

20巻に及び、『グイン・サーガ』と共に栗本薫の代表作の1つとなった作品です。しかし『グイン・サーガ』が架空のものとはいえ人間の国々の隆盛を中心に描いているのに対し、『魔界水滸伝』はクトゥルーという地球を侵略しようとする邪神たちと、地球に昔からいる神々との戦いを描きます。

もともとクトゥルー神話とはアメリカの作家ラヴクラフトが創始者といわれる架空の神話なのですが、栗本薫は日本の歴史、藤原氏の家系などを組み込みながら、いつの間にか自身の作り上げた栗本版クトゥルー神話の世界に読者を引き込んでしまいます。どこまでが史実でどこからがフィクションの世界なのか、継ぎ目がまったくわからないのはさすがといえるでしょう。

怪しいルポライターの安西雄介、婚約者に振られおかしくなってフリフリ、ヒラヒラの服で町を闊歩する藤原華子、陰険な北斗多一郎など、巻を追うごとに濃いキャラクターが増えていきます。更に気持ちの悪い怪物がどんどん登場し、人類は容赦なくやられていき、主要登場人物かと思われたキャラクターも次々と死に、舞台は恐ろしいスピードで変わっていきます。

巻を重ねれば重ねただけ加速する、まさにノンストップエンターテイメント小説です。

憎しみあう一族が囚われ、真に愛したもの

長唄の名門安東流の弟子が川に突き落とされ、遺体となって発見されました。建て増しされ複雑な安東の館に入った刑事たちは、建物と同じく複雑な人間関係と薄気味悪い雰囲気をいぶかしみながら捜査を続けます。しかし、呪われた安東家の事件は、弟子の死だけでは終わらなかったのでした。

著者
栗本 薫
出版日
2012-05-15

探偵伊集院大介が初めて登場する作品です。幼い頃から長唄を習い、津軽三味線も名取であり、着物を愛し日常的に着ていたという栗本薫の育ちや趣味が投影されています。また、人形のように美しく病弱な少年と、健やかで爽やかな少年との愛も、栗本がしばしば描いたものでした。

年老いた家元は妻に出奔され、妾と同居。婿養子の醜い当主も方々に女を作り、子供を産ませている。絶世の美女である家元の一人娘には若い愛人がおり、姉弟のうち息子だけを溺愛。姉娘は母親の愛人に言い寄り、屋敷内には当主の妾とその息子も同居している。屋敷内のそれぞれがそれぞれを憎み、犯人ではないかと言い合う異様な家庭環境です。

家に縛られ、芸に縛られ、才能に縛られ、それをよしとせざるを得ない環境は一般人には馴染みのないものですが、栗本薫の手にかかると納得できてしまうから不思議です。

物語終盤、驚くべき犯人が明かされますが、話はそこでは終わりません。更にそれを覆す真実が明らかになるのです。由緒があり、美貌にも恵まれた安東一族。その呪われた運命の基を知る時、老いた家元の奏でる哀切な三味線の音が聞こえることでしょう。

光と影のような2人の行く末

33歳にしてジゴロの透は、大物政治家の妻と娘と同時に付き合い金をもらうという荒んだ生活を送っています。そんな彼もかつては人気のロックグループ、レックスのツインボーカルの1人でした。しかしもう1人のボーカル、良のすさまじいまでのスター性の前に光を失ってしまったのです。自暴自棄だった透をただただ受け入れてくれた巽の事故死から7年。巽の墓で良と再会したことで、止まっていた透の時間が動き出します。

著者
栗本 薫
出版日

栗本が作家デビューする前に書いていた『真夜中の天使』や、その後出版された『翼あるもの』に登場した良と透のその後の物語です。

どこまでも高く飛んでいける「翼あるもの」良に対し、憎しみと殺意まで抱いていた透ですが、堕ちるところまで堕ちたあとで清廉ともいえる境地に至っています。しかし良の方はその才能とカリスマ性ゆえに「おりる」ことができず心身とも磨り減っていました。

そんな折に再会した2人。7年という歳月は、透自身を巽が死んだ年齢にし、傷ついた良を無私の愛で包みこむまでにしなやかに強くしていました。2人は共に生きることを選びます。良は透によって人形のようなスターではなく、血の通った1人の人間になることができたのです。しかし、そこに至るまでには良に尽くしてきた風間や透を支えた島津の存在があるのでした。

そのつもりがないのに人を惹きつけ、最後には傷つけてしまう良がせつないです。そして荒れた生活をしているのにワルにはなりきれず、良の孤独に気付いてしまう、どうしようもなく優しい透に救われます。2人の物語は『ムーン・リヴァー』で完結しますので、気になる方はそちらも合わせてどうぞ。

甦る一族の呪い

旧華族である大導寺家の一人息子静音は、蔵の虫干しの際に『探偵記録』という和綴じのノートを見つけます。しかし著者の大導寺響太郎という名は家系図になく、親に聞いても知らないというのです。静音は兄のように慕う藤枝直顕のところへそのノートを持って行きます。しかしその日から、静音の周りでノートに書かれたことと同じような事件が起こり始めるのでした。

著者
栗本 薫
出版日

『六道ケ辻』もシリーズもので、大導寺一族とその周囲の一乗寺家、藤枝家の人々を描いています。『大導寺一族の滅亡』はその最初の作品です。1作目にして「滅亡」とはどういうことか?と思われる方もいるかもしれません。このシリーズは血や家の中に渦巻く愛憎を大正から昭和にかけての時代の香りと共に描く大河小説なのです。1作ごとに年代や登場人物が違い、通して読むことで大導寺家の歴史が紐解かれるという趣向になっています。

ここでも古くからの名家やBL的要素が登場し、栗本薫の趣味や嗜好が漂う印象ではあるのですが、この作品は純粋にミステリー小説としても面白いのです。静音が語る現代と過去の響太郎の記録とが交互に配置され、だんだんと結い合わされてきれいに最終章に至るのは、さながら織物を織り上げていく様に似て鮮やかというほかありません。

響太郎の記録は古文書を模して書かれており、これも物語の雰囲気を盛り上げています。読み終えた時、練り上げられた一族の歴史、大胆で鮮やかなラストに満足の溜息が漏れることでしょう。

5作品だけをとってもあまりにも濃厚で抱えきれないほどの栗本ワールド、いかがだったでしょうか。モンスターやBL、独自の大正浪漫など非常に個性的な世界を持ちながら、文体を使い分け読ませてしまう栗本薫の世界に、是非一度身を任せてみてください。