義とは正義、忠義、信義……。どんな形であれ、義を貫く生き様には強く心打たれます。心に決めたことをやり通すのは難しく、それゆえに感動を呼び起こすのです。今回は、そんな信念に生きる戦国武将を描いたおすすめ漫画5作品をご紹介しましょう。
勉強が苦手な高校1年生のサブロー。彼はある日、塀から落下したことで戦国時代にタイムスリップしてしまいます。そこでサブローが出会ったのは、彼と瓜二つの顔をした病弱な若者でした。
若者の名は信長、あの織田信長でした。サブローは本物の信長から、信長の身代わりとして生きることを頼まれます。
どさくさ紛れで身代わりをすることになったサブロー。歴史に疎い彼は、なんとか信長の身代わりを務めようとしますが、本人とは似ても似つかない奇行になってしまいます。
しかし、偶然にもそれは歴史通りの振る舞いでした。「尾張の大うつけ」はこうして誕生したのです……。
- 著者
- 石井 あゆみ
- 出版日
- 2009-11-12
本作は2009年から「ゲッサン」で連載中の石井あゆみの作品。2014年にテレビアニメ、実写テレビドラマ化され、さらに2016年には原作に先んじてドラマ版の完結編が映画として制作されました。
天下の覇王織田信長が、実は現代からタイムスリップしてきた未来人だった……というのは、とても挑戦的な設定に思えます。しかし、信長と言えば歴史に名高い傾奇者です。
従来の慣習に縛られない価値観、斬新な戦略、先見性の高さ。信長のそういった側面に、一応の説明がつきます。
戦国の世で奇行に映るのは、現代人の所作だから。習わしに縛られないのは、その習慣がないから。戦略、先見の明は未来の知識があるから。そう考えてみれば、突飛な設定に意外にも説得力が出てきます。
本作の設定はもちろん作り話ですが、物語は大枠で歴史通りに進行。百戦錬磨の武将を前にして、当初こそサブローは偶然や誤解で立ち回って、運良く生き延びます。
幾多の争いや死を経験し、やがてその意思と行動力は、史実にある信長そのものと同一化していきます。
登場する実在の武将の中には、サブローと同じく現代からタイムスリップしてきた者達も。その意外な配役、現代の素性には唸らされます。
現代の高校生がいかにして「第六天魔王」と呼ばれる織田信長の覇道を歩むことになるのか。その壮大な道行きはまさしく大河ロマンです。
彼らはなぜタイムスリップしてきたのでしょうか。そして歴史はこの先、どうなっていくのでしょうか。ぜひ読んでいただきたい作品です。
時は戦国、ところは稲葉山城。桶狭間の戦いから7年、破竹の勢いの織田信長軍に攻め立てられ、ついには落城します。稲葉山城城主、斉藤龍興(たつおき)の家臣に仙石権兵衛秀久はいました。
信長はがむしゃらに戦う権兵衛を敵ながら高く評価し、木下藤吉郎秀吉の配下に加え入れるのでした。
戦国時代において最も失敗を犯し、しかしその失地を見事に回復した数奇な運命の戦国武将、仙石権兵衛秀久。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の3人の天下人の時代、仙石の激動の人生がここから始まります。
- 著者
- 宮下 英樹
- 出版日
- 2004-11-05
本作は2004年から「週刊ヤングマガジン」でシリーズが連載されている、宮下英樹の作品です。
仙石は情に篤い熱血漢として描かれ、主人公として非常にわかりやすく、好感が持てます。残された史料によれば、モデルとなった実際の仙石秀久も、粗野で果断な、非常に優れた武将だったそうです。
本作の特徴は、日本史を歴史通りに描きながら、同時に独自考証や新説を貪欲に反映しているところにあります。
それはアクション面においても顕著で、対人戦、対軍戦、対城戦が従来の時代劇とは異なるリアリティで描写されているのです。日本刀でチャンバラするだけが武将ではありません。
仙石と言えば、やはり「戸次川の戦い」が外せません。歴史に残る豊臣軍の大敗北。そのきっかけを作ったのが、誰あろう仙石秀久その人です。
彼が無茶な作戦を立案した結果ですが、歴史書から読み取れるその作戦からは、本作に登場するように血気に逸る仙石像がありありと見て取れます。
本編では最新シリーズがいよいよその「戸次川の戦い」に向けて進行中です。仙石最大の失態がどのように描かれるのか、激動の展開から目が離せません。
長く織田信長の家臣を勤める古田左介。彼は人並みに武勲を立てる出世欲と同時に、数寄(茶の湯)に目がなく、収集癖のある物欲の武将でもありました。地位そのものよりも、その地位で得られる褒美の方に夢中になる変人です。
彼は武将としての武勲、趣味人としての数寄の間で、心が揺れ続けます。織田の世、豊臣の世、徳川の世、移りゆく時代にその意思をどこまで貫けるのでしょうか。
- 著者
- 山田 芳裕
- 出版日
- 2005-12-22
本作は2005年から「モーニング」で連載中の山田芳裕の作品。2011年にはテレビアニメ化もされました。
数寄とは、茶の湯(茶道)やそこで用いる茶道具を愛好する趣味、といえます。戦争となれば切った張ったをする武士ですが、相応の地位の者にはそういった道楽が嗜みとして求められました。
京の都の貴族とは違い、武士とは所詮は成り上がり者です。風雅な道楽を嗜みとするのは、そういった事情、コンプレックスから来るものなのかも知れません。
実際にはそうだったとしても、本作に登場する古田左介は少々数寄が高じすぎた人物。特に優れた名物(由来のある茶器)に目がありません。命がけの合戦の最中であっても、武勲はおろか、自らの命より優先してしまうほどの変人です。
その時々で名物に対するリアクションの百面相は、よくぞここまで変顔が出来るものかと逆に関心してしまいます。ほとんど顔芸の域です。「へにゃあ」などの彼独自の奇妙な擬態語を駆使して、名物の良さを表現するのもお約束。
武人として肝が据わったかと思えば、小さな壺1つで一喜一憂。出世欲と物欲が同居した欲深い、面白い人物です。
左介は織田信長の下で徐々に頭角を現していきますが、その時は長くありません。歴史の裏で思惑が蠢き、覇権を握る天下人が移り変わります。
新奇を尊ぶ者や、己が価値を貫く者、清貧を良しとする者など、変わりゆく世の中で、左介の数寄はどこへ向かっていくのでしょうか。
1600年の関ヶ原、烏頭坂。東軍との合戦に敗れ、致命傷を負った島津豊久は、気付くとドアばかりが連なる奇妙な廊下に立っていました。
豊久は謎の男「紫」によって、人間以外に亜人種も存在する異世界へと送り込まれます。
豊久の送られたエルフの領地の廃城には、奇しくも同じく日本から送り込まれた者達がいました。天下統一目前に命を落とした織田信長と、源平合戦の伝説的弓手である那須与一。彼ら異世界人は「漂流者(ドリフターズ)」と呼ばれます。
世界廃滅を標榜する「廃棄物(エンズ)」の魔の手から世界を救うために、「十月機関(オクト)」と名乗る結社に、協力を要請される漂流者達。
信長の発案によって、彼らは世界救済の第一歩として、人間の支配するオルテ帝国の国奪りを開始しました……。
- 著者
- 平野 耕太
- 出版日
- 2010-07-07
本作は『HELLSING』で鳴らした平野耕太の最新作。2009年から「ヤングキングアワーズ」で連載されています。古今東西の英雄的人物が一堂に会する異世界ファンタジー漫画です。
主役格は豊久、信長、与一の3人ですが、主役級の有名人が敵にも味方にも大量に登場します。歴史上の人物、出来事の美味しいところだけいいとこ取りした、ごった煮のような豪華な設定。
数多に出てくる偉人の中でも、豊久のおかしさは群を抜いています。豊久は、というより、島津の思想が、と言うべきかも知れません。
自身の生死に興味がなく、ただひたすら功名だけを求める生き様。信頼する仲間に命を預け、一命をなげうつことも厭いません。究極的に自己中心的なのに、大局的には大勢のためになっているという、不思議な魅力。
一方、信長も見逃せません。第六天魔王と呼ばれる一般的なイメージとはかけ離れた愉快な人物ですが、その本性は天下一品の策略家。国家の危機を救うために、国家を奪取するという大胆不敵な手法は、彼でなくては編み出せませんでした。
敵味方として登場するのは日本人だけではありません。漂流者(ドリフターズ)側は、現代においても未だに戦術指南書の重要人物として語られるハンニバル・バルカ、スキピオ・アフリカヌスなど。
廃棄物(エンズ)側には、神の導きで救国を志しながら裏切られた非業の聖女ジャンヌ・ダルクや、ロマノフ朝最後の皇女アナスタシア、その側近的存在の怪僧ラスプーチンなどが登場します。
そして廃棄物をまとめ、怪物を糾合する謎の人物「黒王」。その正体を巡っては様々な推察がされていますが、果たして彼は一体何者なのでしょうか。茨の冠を被ったあの聖人なのか、それとも……?
世界を救う漂流者vs世界を滅ぼす廃棄物。本格化する彼らの戦いの行方は?そして、彼らを異世界に招き入れた謎の存在の思惑とは?ぜひ読んでみてくださいね!
『ドリフターズ』の作品に関しては<漫画『ドリフターズ』最新刊5巻までの見所をネタバレ紹介!>で詳しく紹介しています。
宮本村の新免武蔵(しんめんたけぞう)は実父から命を狙われ、村人からも鬼子として忌み嫌われていました。立身出世を夢見て、友人と共に西軍雑兵として関ヶ原の合戦に参加します。
結果は敗軍の兵。故郷に戻った武蔵は、旅の僧侶の沢庵宗彭(たくあんそうほう)に道を説かれたことで、名を宮本武蔵(みやもとむさし)と改めて剣に生きるようになりました。
そして越前の浜辺に住む鐘巻自斎(かねまきじさい)の下には、一振りの長剣と赤子が流れ着きます。後に佐々木小次郎を名乗ることになるその赤子は、生まれつき耳が聞こえない、ろう者でした。
他者と言葉の交流の出来ない小次郎は、かつての剣豪鐘巻の教えを受けて、剣を頼りに生きるようになります。
数多の武芸者の人生が錯綜し、泰平の世に剣の道を拓いていく物語です。
- 著者
- 井上 雄彦
- 出版日
- 1999-03-23
本作は1998年から「週刊モーニング」に連載されている吉川英治原作、井上雄彦作画の作品です。
「バガボンド」とは英語で放浪者を意味する言葉。武蔵、小次郎をはじめとして、登場する武芸者の多くは流浪の身。身の上事情は様々ですが、諸国漫遊でないことは確かです。彼らの目的は強くなることで、そのために強者を捜し求める旅、と言ってもいいでしょう。
時代は戦国乱世に終わりを告げ、戦乱のない江戸時代に差しかかる頃。武勲を立てて立身出世の叶わない世の中です。
平和の世の中に相容れない人々は、「まつろわぬもの」として流れるしかない、という事情もあるかも知れません。そんな時代で自分の居所を探し、あがき、もがき続ける苦しみは大きいことでしょう。
宮本武蔵、佐々木小次郎の両名は日本で最も有名な剣士です。これより有名な剣豪はそうはいません。しかし、あまりにも有名な「巌流島の戦い」以外のことは、彼らについてほとんど知られていません。
武蔵が不遇な少年時代を過ごしたことや、新免無二斎(むにさい)という武芸者の子供だということも、本作で初めて知る人は多いのではないでしょうか。
本作は吉川英治の小説『宮本武蔵』を底本にしていますが、大筋は同じものの、細部の設定や展開が一部異なります。例えば小次郎の身の上は本作独自の設定です。
極限までリアルに、あくまでストイックに、漫画的表現を抑えて写実的に描かれる戦い。筋肉の動き、肌の粟立ちまで描写されるアートのような作風には、ただただ圧倒されるばかりです。剣の道に生きる男の生き様、人生をとくとご覧ください。
いかがでしたか?いずれもフィクションですが、元になった人物は確かにこの日本に生きていました。歴史の礎となった戦国武将達。これをきっかけとして、そんな武将達に思いを馳せるのも良いでしょう。