小杉健治のおすすめ文庫小説6選!法廷ミステリーを手掛ける作家

更新:2021.12.22

推理小説や時代小説の巧者として人気を博している作家、小杉健治。中でも得意としている法定ミステリーの読み応えは抜群です。ここでは、裁判とともに描かれる、重厚な人間ドラマが胸を打つ、小杉健治のおすすめ小説をご紹介していきましょう。

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法定ミステリーの名手、小杉健治

1947年、東京都に生まれた小杉健治は、専門学校を卒業した後、プログラマーとしてコンピューター・ソフトウェア会社に就職します。1983年、勤めながらに執筆した『原島弁護士の処置』で、オール讀物推理小説新人賞を受賞。小説家としてのデビューを飾りました。

その後も数々の作品を発表した小杉健治は、1987年、『絆』で日本推理作家協会賞を受賞すると、1990年には、『土俵を走る殺意』で吉川英治文学新人賞を受賞。一躍人気作家へと躍り出ます。2017年現在、日本推理作家協会の会員であり、推理作家協会賞の選考委員も務めました。

親子の絆に涙する感動作

ある冤罪事件を通して、父親の深い愛情と息子との絆を描いた『父と子の旅路』は、秘められた真相に驚かされ、感動必至の人間ドラマに涙する1冊です。

末期癌で余命わずかとなった母のため、娘の礼菜は、別れたままとなっている異父兄を探し出そうと動き出しました。ところが、兄の行方を調べるうち、礼菜は兄の父親であり母の元結婚相手の柳瀬光三が、26年前に起きた一家惨殺事件の犯人として、死刑囚となり服役していることを知ります。

柳瀬が息子についての情報を黙秘していること、そしてどうやら冤罪らしいことがわかった礼菜は、兄の行方を探すべく、事件の再審請求を弁護士に依頼。礼菜が選んだ弁護士とは、一家惨殺事件の唯一の生き残りである、浅利祐介だったのです。

著者
小杉 健治
出版日
2005-06-01

第1章では母と娘の物語が中心に描かれ、第2章に入ると凄惨な一家殺人事件の全容が徐々に明らかになっていきます。柳瀬はなぜ無実の罪を被ったのか。真犯人はいったい誰なのか。序盤から物語の世界に引き込まれてしまい、夢中になって読み進めることができる作品です。

驚きの真相もさることながら、子供の幸せを一心に願う、父親の深い愛情と強い意志に心が震え、終盤は涙が止まらなくなってしまいます。柳瀬の周りにいる警察や刑務官、弁護士たちも皆心優しく、温かい気持ちで本を閉じることができるでしょう。たくさんの愛が詰まった素敵な物語になっています。

裁判員裁判について考えさせられる1冊

認知症の老女が殺害された事件の、裁判員裁判の行方を描いた『家族』では、裁判員制度や、日本の介護システムについての問題点が提示されています。

1人留守番中だった、79歳の女性が絞殺される事件が発生しました。被害者の牧田文子は認知症を患っており、マスコミは息子の孝一郎が犯人ではないかとこぞって報道します。しかし容疑者として逮捕されたのは、河川敷に住むホームレスの三田尻作雄。彼のテントからは凶器となった紐が発見され、本人も犯行を素直に自供したのです。

この事件の裁判に6人の裁判員が選出されました。その中の1人谷口みな子は、自身も認知症の母を長年介護してきたことから、事件に興味を持ち参加を決意します。こうして始まった裁判員裁判。被告人が犯行を認めていることから、当初焦点となるのは、量刑のみと考えられていました。ところが裁判は思わぬ方向へと進んで行き……。

著者
小杉 健治
出版日
2013-06-13

2009年に導入された裁判員制度ですが、実際にどんなものかわからない、という方も多いことでしょう。本作では、裁判の流れが丁寧に描かれ、その問題点にもスポットが当てられています。

裁判員裁判について詳しく知ると同時に、自分だったらどうするのか、ということを深く考えさせられるでしょう。作中の弁護士の苦悩に、裁判の難しさをよりリアルに感じ取ることができます。

認知症と介護の問題についても浮き彫りにしているこの作品。決して他人事ではないこの問題に、家族のあり方を考えずにはいられません。法定ミステリーとしての読み応えも十分で、テンポ良く進む勢いのあるストーリー展開から、目が離せなくなる1冊です。

感動の人間ドラマを堪能できる小杉健治の代表作

日本推理作家協会賞を受賞した『絆』は、夫殺しの罪で裁判にかけられる女性の無罪を主張する、弁護士の戦いを描いた作品です。

会社社長をしていた弓丘勇一が殺害され、その妻奈緒子が逮捕・起訴されました。彼女が裁判にかけられる姿を、傍聴席から見つめる1人の記者がいます。その記者は、奈緒子の弟の友達だった男で、優しく美しい奈緒子に、幼い頃から憧れてきたのでした。

奈緒子は起訴事実を全て認めており、事件についての報道がされることもなくなっています。ところが、当初奈緒子の弁護を担当していた弁護士が突然辞任し、曰く付きの弁護士、原島保が弁護人となったことで、裁判の行方がにわかに注目されはじめていました。そして記者たちの予感は的中します。

原島は、奈緒子が罪を認める中、なんと被告人の無罪を主張してきたのでした。

著者
小杉 健治
出版日

物語は全て法廷内で展開されていきます。被告人と弁護人、そして検事と証人の会話からだけで真実が明らかになっていく過程には、魅力的な緊張感が漂い、終始飽きることがありません。

被告人に不利な状況で進んでいく裁判を、いったいどのようにひっくり返すのか。被告人は果たして本当に無実なのか。二転三転するストーリーの先が気になり、途中で読むことを止めるのが難しい作品です。終盤には、隠された真相に思わず涙する、感動の人間ドラマが待っています。

難解な用語が登場することもなく読みやすいので、法廷ものを読んだことのない方でも、問題なく物語に集中することができるでしょう。

切ないラストに胸が震える、小杉健治の傑作

小杉健治が描く『父からの手紙』は、まったく関係のないように思える2つの物語が徐々に絡まり合い、かけがえのない家族愛を紡ぎだす感動のヒット作です。

阿久津麻美子の父親は、10年前に母と離婚し家を出て行きました。それ以来、毎年誕生日になると、麻美子の元に父からの手紙が届くようになります。

母、麻美子、弟の3人で暮らす阿久津家に、ある日衝撃が走りました。麻美子は結婚を控えていたのですが、婚約者の高樹龍一が他殺体となって発見され、容疑者として逮捕されたのは、弟の伸吾だったのです。

同じ頃、殺人の罪で服役していた秋山圭一が、9年間の刑期を終え出所しました。事件前、兄は焼身自殺を図っており、自分は確か、兄嫁であるみどりを守ろうと悪徳刑事の犬塚を殺害したはず。ところがその辺りの記憶がどうも曖昧なのです。圭一は真相を知るため、行方の分からなくなっているみどりを探し始めます。

著者
小杉 健治
出版日
2006-03-14

麻美子と圭一の物語が、交互に入れ替わりながらストーリーは進んでいきます。様々な謎が次々と浮上し、息もつかせぬ展開から目が離せなくなることでしょう。2つの家族の物語が初めて交差する場面では、思わずテンションが上がってしまい、没頭して読み耽ってしまいます。

数々の伏線を回収しながらすべての謎は解明され、結末にはあっと驚く真相が用意されています。子を想う親の、どこまでも深い愛情が強く伝わってくると同時に、切なさが込み上げてきてしまう1冊。お子さんをお持ちの方は、特に胸に響くのではないでしょうか。父親の手紙に託した願いが、涙なしには読めない傑作です。

逮捕された時点で、マスコミにより有罪判決を受けている

小杉健治の『二重裁判』は、裁判法廷ものミステリーであり、事件発生時のマスコミ報道姿勢に一石を投じる作品です。

社長殺しの容疑で逮捕された古沢克彦は、一貫して無実を叫び続けたのですが、あるとき拘置所で自殺してしまいます。妹秀美は兄が逮捕されたときから兄の無実を信じ、弁護士を選任するなど支えてきましたが、逮捕直後からの新聞決めつけ報道に、追い詰められていくのです。兄の死により、判決が確定しない公判中の被告人の死は、有罪ではなく無実、という裁判制度上の規定により再審請求もできないということが判明します。

秀美は自分の手で兄の真実を明らかにするために、兄の人間関係を洗うのです。そしてある奇策を講じます。それは疑わしい人物に関する事件に自分自身が関わり、その裁判を通して兄の裁判もまたやり直させようとするものでした。

著者
小杉 健治
出版日
1991-04-01

「裁判で有罪の判決が出るまでは無罪、ということになっているが、実際には警察に逮捕された時点で、マスコミにより有罪判決を受けている。裁判にて無罪が確定しない限り、"有罪"なのである。」

本作品ではこの部分の社会矛盾を訴えるために全体が構成されています。事件詳細に加えて、法廷での検察官、弁護士のやりとりが真に迫り、読者を「法廷」へどんどんと引き込んでいくのです。

また、本作品は複雑な事件を表現するための伏線や背景が細かく設定されており、見事な構成です。そこには小杉健治の物語に対するこだわりを感じることができます。

真実を明らかにすることで、亡くなった者の名誉を回復したいという気持ちと、彼らが大切に守ろうとしたものも白日の下にさらしてしまうという葛藤。一方で事実とはなにか、それを取り扱う検察、弁護士、マスコミの使命とはなんなのか?そういった裁判を中心とした人間模様が鮮やかに展開されます。

リアルに描かれた裁判に引き込まれる、小杉健治渾身の法廷ミステリー

被告人が黙秘を続ける法廷で、真実を追う裁判の行方を描いた法廷ミステリー『黙秘―裁判員裁判』は、裁判員制度について深く考えることができる作品です。

5年前、内堀優一郎の娘がストーカーによって轢き殺されました。犯人の中下要は捕まり、刑務所に服役していましたが、刑期を終えて出所してきます。ところが、出所した中下が何者かによって殺害され、優一郎に疑いがかけられ逮捕されてしまうのです。

斯くして6人の裁判員が選出され、裁判が始まるも、優一郎は法廷で黙秘を貫きます。決定的証拠はないものの、圧倒的不利な状況の中、弁護士の鶴見は被告人は無罪ではないかと考えます。

著者
小杉 健治
出版日
2010-01-20

物語は、裁判員に選ばれた1人の青年の視点から展開される裁判と、被告人の過去の回想が交互に描かれていきます。娘を殺された被告人の「寛恕の念」には敬服させられるばかり。いったい誰のために黙秘を続けているのかと、その理由が気になって仕方なくなってしまいます。

「人を裁く資格が自分にあるのだろうか」と自問自答する青年には大いに共感することができ、裁判員という立場の責任の重さを痛感させられます。丁寧に描かれた作品なので、裁判の様子を思い描きながら読むことができるでしょう。自分が選ばれた時のことを、想像しながら読むのも良いかもしれません。

小杉健治のおすすめ法廷ミステリーをご紹介しました。登場人物たちの様々な想いが胸を打つ傑作ばかりですから、興味のある方はぜひ読んでみてくださいね。

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