今邑彩のおすすめ文庫作品5選!軽く読めるのに怖い、ホラー・ミステリー

更新:2021.11.6

ゾクゾクしながら読み進んでしまう、そんな怖い話が大好きな方も、多いのではないでしょうか?今邑彩は、とびきり上質なホラー・ミステリーを数多く生み出した人気作家です。今回は、その中でも特に優れた5作品を、ご紹介します。

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ホラー&ミステリーの名手、今邑彩

今邑彩(いまむらあや)は、1955年生まれの小説家です。都留文科大学を卒業後、しばらく会社勤めをしたのち、1989年に「卍の殺人」で作家デビューをします。

その後も、彼女の作品が原作となり、人気番組「世にも奇妙な物語」でショートドラマとして再現されるなど、そこはかとないミステリー要素と、底の見えないホラー要素との融合を評価されてきました。

これからご紹介するのは、今邑彩の25年の小説家人生で発表した作品のうち、おすすめの5選です。凝った設定や背景をした作品が多いですが、読みやすい文章をしているため、今でも幅広い世代から支持されています。

真犯人は、絶対に分からない!今邑彩の代表作『ルームメイト』

大学進学のため、上京した春海が出会ったのは、同じく家探しをしていた大学生の麗子です。意気投合した二人は、お互いに干渉しない約束をして、ルームシェアを始めました。

順調に見えた共同生活は、ある日、麗子の失踪によって破綻します。

春海が、兄のように慕う大学の先輩、工藤に協力してもらいながら麗子の行方を追うと、麗子が名前も服装も変え、二重どころか何重もの生活を送っていた事実を知りました。さらに正体を探っていると、麗子は他殺死体となって、発見されてしまったのです。

彼女はなぜ、そして誰に殺されたのでしょうか。

著者
今邑 彩
出版日

失踪したルームメイトには、全く知らない顔が幾つもある、それだけでも非常に怖い状況です。さらには、別の殺人事件との関わりすら浮上してきます。

春海たちは調査するうち、ついに彼女が「多重人格者」だったのではないかと疑いだしたのでした。

麗子が送ってきた人生は、稀有なものでした。多重人格者としての苦悩、それが巧みに描かれていて、読み応え抜群です。

麗子を殺した犯人探しは、予想もつかない展開を見せます。登場人物たちには、それぞれ疑わしい点があり、犯人像はどんどん不確かになっていくのです。是非、「この人が犯人じゃないか?」と予想しながら、読み進んでみて下さい。

一連の事件の裏側には、決して分からない真相が待っています。謎を解いた時、思わず鳥肌が立ってしまうでしょう。

すぐ傍にある異界への入り口『よもつひらさか』

現世と幽界を隔てる坂、古事記に登場する「黄泉比良坂」をご存知でしょうか。表題作「よもつひらさか」は、言い伝えのある坂に纏わる恐ろしい出来事を描いた短編小説です。

何でも折半する癖のある妻が、最後に折半したものとは?「ハーフ・アンド・ハーフ」は、まさしく戦慄の物語です。「ささやく鏡」は、祖母から受け継いだ不思議な鏡の物語。その鏡は、果たして幸福をもたらすのでしょうか……。

思わず怖気立ってしまう、そんなホラーが12編収録されています。

著者
今邑 彩
出版日
2002-09-20

「この坂には昔から言い伝えがあるんですよ。一人でこの坂を歩いていると、死者に会うことがあるってね」(「よもつひらさか」から引用)

不気味な雰囲気を楽しめるのはもちろん、どの短編にも結末の読めない面白さがあります。ホラー好きも唸る良作ばかりです。

例えば、「見知らぬあなた」「茉莉花」には謎解き要素が多く、どれも思わぬ結末を迎えます。「夢の中へ」「遠い窓」は、どこか幻想的で物悲しい雰囲気があり、表題作「よもつひらさか」と「双頭の影」は、文句のつけようもなく、ファンの多い怪談です。

短編ならではの読みやすさに加え、ここまで多様な「怖さ」を味わえるのは、贅沢の一言。とにかく怖いものが読みたい!というあなたにおすすめです。今邑彩のホラーを、是非堪能して下さい。

忌まわしい過去に、兄弟の絆が試される。『いつもの朝に』

何をやっても冴えない中学生の優太と、勉強も運動も優秀な兄、桐人。二人は、周囲からも似ていないと言われる兄弟です。兄に劣等感のある優太ですが、明るい母親との三人暮らしは、それなりに幸せでした。

ところが、優太はふとしたきっかけで、亡き父の形見であるテディベアの中から、手紙を発見します。優太に宛てられたそれは、「本当の父親」の過去を知るための手がかりでした。

手紙の真偽と、自分の出生を確かめるため、優太は手紙に書かれた相手を訪ねますが……。

著者
今邑 彩
出版日
2009-03-19

手紙を書いた「父親」は、昔罪を犯していました。兄の桐人に励まされて、優太は恐ろしい事実を何とか受け入れますが、不安が残ります。手紙に書かれた「優太」とは、本当に自分のことなのだろうか、という疑念が湧いたからです。

誰しも子どもの頃、兄弟や身近な人に嫉妬し、劣等感を抱いたことがあるのではないでしょうか?不器用でまっすぐな優太に、そんな経験を思い出しながら、共感してしまうかもしれません。

桐人の予想外の行動と、怯えながらも兄の跡を追う優太。ラストへと向かって、息も吐かせぬ、怒涛の展開があります。二人の緊迫したやりとりは、必読です。

罪を犯した人間の、その子どもは、罪を犯すのでしょうか。血の繋がりへの恐怖から、兄弟が救われるための道のりは、厳しいものでした。このラストは、決して、涙なしでは読めないはずです。

今邑彩の、一風変わった連作短編『つきまとわれて』

各作品に、一つ前の登場人物が関わってくるという、ちょっと変わった連作形式になっています。

三十代後半、結婚を切望しているはずの姉が、良い見合い話を断った原因は、脅迫状らしいのですが……。表題作「つきまとわれて」。

「おまえが犯人だ」では、妹を殺した犯人をあぶり出すため、主人公が仕組んだ罠により、驚きの展開を迎え、「お告げ」では、マンションの中に予言をする超能力者がいるという、噂の真偽を推理します。

他にも、関連する要素のなさそうな8編がどう繋がるのか、是非確かめていただきたいです。

著者
今邑 彩
出版日
2006-02-01

どの作品も、謎解きをメインにしたミステリーとなっています。中心になるのは、日常に潜むふとした「なぜ?」という疑問です。

8編全てにきちんと謎解きがありますが、どれもすっきりと読めることが大きな魅力。無論それだけではなく、切なくも悲しくもある、愛憎劇までも楽しめます。

「おまえが犯人だ」は、殺人犯を探すという正統派ミステリーですが、他にもいくつもの謎が扱われており、「逢ふを待つ間に」では、ゲームソフトで妻を娶った男の幸福と、なぜ、破綻してしまったのかという結末が、ちょっと切なく描かれています。

短編ながら、どんでん返しがあるなど、一捻りある作品ばかりです。登場人物の心情に思いを馳せてしまうような余韻が残る、ただのミステリーではおさまらない今邑彩らしい短編集となっています。

見えないものが見えてしまう恐怖『鬼』

ごくありふれた生活を送る人たちも、不意に非日常に落ちてしまうことが……。そんな不安に満ちた短編が、収められています。

死んだはずの友達みっちゃんが、かくれんぼの続きをしている、「鬼」。

「シクラメンの家」では、一見円満だった家庭が、疑心暗鬼に歪み始める様子が描かれます。そして、窓辺に飾られるシクラメンに秘められた合図とは?

全10編からなる短編集です。

著者
今邑 彩
出版日
2011-02-18

一編が短めで読みやすく、謎解きの要素もあるので、手軽なミステリーとして楽しめます。

ですが、それ以上に魅力的なのは、何気なく覗く登場人物の内面に、どきりとさせられるところです。

心の中に隠したエゴイスティックな欲望、親しい人の知られざる一面への不安。読み終えて謎が解けた時、改めてゾッとしてしまうでしょう。どの短編でも、そんな恐怖を味わえます。自分の身の周りを振り返れば、似たような不安に思い当たるかもしれません。

読み終えて、どこか現実的で不安の残る短編ばかりです。待ち構えているのは、単なるハッピーエンドではありません。爽快感とはまた違う、一風変わったスリルを味わってみるのは、いかがでしょうか。

ホラーとミステリー、そのどちらの要素も兼ね備えた名作を、5つ紹介しました。どの作品も読みやすいので、気軽に挑戦できます。思いがけず、今邑彩の世界に夢中になってしまうかもしれません。

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