英国人が教えてくれたニッポン

更新:2021.12.13

旅のお誘い。そろそろ、本格的な梅雨の時期ですね。そんな梅雨の時期ではございますが、是非ご一緒に旅をしたいと思い、お誘いさせて頂きました。旅の支度は一切ございません。準備するのは3冊の本だけ。 国内旅行? 海外旅行? いえ、時代旅行でございます。現代平成から出発しまして、目指すは江戸時代の名残を色濃く残す明治時代の始まり。首都の名前が江戸から東京へ変わった真っ只中。どんな旅になることでしょう。 それでは、江戸時代の名残を色濃く残す明治でお会いできるのを楽しみにしております。

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今回の主人公は、イザベラ・ルーシー・バード氏。

実在したイギリス人女流冒険家で旅自体がスタンダードでは無かった時代にアメリカ、朝鮮、ロッキー山脈など沢山の土地を旅した冒険家。多くの土地を訪れたイザベラ・バード氏が日本の土地を自らの足で日本を歩いた旅行記を通して、江戸の日本人の暖かさを教えてくれた。

最初に選んだのは『ふしぎの国のバード』1巻。
漫画雑誌『ハルタ』にて連載されていた『ふしぎの国のバード』が満を持して単行本にて発売された。活字だけの物語は文字と文体から自分で世界を想像できる楽しみがある。一方で漫画は自分が出来る想像を超えた世界観を絵と言葉で見れる楽しみがある。この漫画はまさに想像を超えて、世界観を世界として見せてくれる。

ふしぎの国のバード

著者
佐々 大河
出版日
2015-05-15

物語の始まりはバード氏が祖国のイギリスを離れ横浜に来航するところから始まる。横浜→江戸→粕壁宿(春日部)→日光を旅するバードさんに起こる出来事が軽快に、そして時にズッシリと、1巻分とは思えない読み応えで描かれている。

バードさんの実の妹、ヘンリエッタ。毎日彼女に手紙を書くことで物語が進んで行く。描き方の目線は勿論バード氏目線なので、日本人同士の会話は異国の言葉として読めないようになっているのも、また面白い。当時は日光から北の蝦夷(現在の北海道)までの全行程を踏破したヨーロッパ人はいなかったそうだ。その難題に挑むバードさんの姿は見ていてワクワクしっぱなしだ。

初めてイザベラ・バードという女性のことを知りました。そして1巻を読み終わった時には完全にバードさんのファンになっていたのです。何でそんなに惹きつけられるのだろう。本作を描く漫画家、佐々大河氏の漫画への、イザベラ・バード氏への愛情が存分に込められているからだと分かるまでに時間はかかりませんでした。

本編の中で一番印象的なのは、“江戸という呼び名と共に消えていった文明。考え方、生活、文化の滅びは誰にも止められないが、記録に残す事はできる。困難な事だが、誰かがやらねばならない”という作品中の言葉。

そんな想いを、漫画を通して実際に描き記している著者の心意気を感じました。138年前の6月10日。バードさんが江戸から出発したのもこの梅雨時期だということも、何か縁があるな、と感じさせてくれました。バードさんを見ていると、成し遂げられた事のない目標に向かって突き進む勇気をもらえるような気がします。一歩、二歩前に進みたい方に是非。

日本奥地紀行

著者
イザベラ バード
出版日

イザベラ・バード氏についてもっと知りたい方へ。

バード氏本人が書いた『Unbeaten Tracks in Japan』(「日本の未踏の地」)。『日本奥地紀行』はそれの全訳で、高梨健吉さんが翻訳されている。横浜に来航したところから、蝦夷、北海道までの旅行記が記されていて、まだ未開人として認知されていた、アイヌの人々の暮らしも鮮明に書かれており、本書冒頭に描かれている“はしがき”からは彼女の人柄の良さが滲み出ている。

バードさんの妹、ヘンリエッタ氏が旅の拠り所だったことは言うまでもなく、ヘンリエッタ氏、バードさんの友人に宛てたお手紙をベースに本が構成されているのもこの本の特徴の一つではないでしょうか。また実際にバードさんが描いた挿絵もあり、その挿絵が非常に細かく、荷車を引く車夫のフクラハギの隆起や、神社の鳥居、茶屋の女など、細かな描写がより現実にあったこととして感じさせてくれる。

バードさんが旅した1400マイル。キロに換算すると2253キロもの陸上での旅を本にすることの労力は計り知れない。1400マイルもの道中で起こったニッポンでの出来事をバードさんが見たまま誠実に書き記されたこの本は、圧巻の読み応えの一冊。

蝦夷までの道のりを『日本奥地紀行』で読み、『ふしぎの国のバード』の新刊を待ちわびるのも楽しみ方の一つだ。また、イザベラ・バード氏の日本奥地紀行は新訳も出版されており、長い間日本人に愛されている。これからも愛され続ける旅行記となっているのは言うまでもない。

新訳 日本奥地紀行

著者
イザベラ バード
出版日
2013-10-12

前回のこの後記では、記録よりも、記憶してることの美学について書いたのですが、今回3冊の本と出会って感じたことは、記録として残しておくことの重要性でした。

バードさんの記録がなかったら、彼女のことを知ることも、『ふしぎの国のバード』を読むこともできなかった。これだけの情報を記憶だけを頼りに口伝えで伝えていくのはかなり困難だなと思いました。さらに漫画を記録として見るなら、思考が絵に変わり、絵を共有できることの喜び。記録以上の価値があるのだと思いました。 
最後に、「ふしぎの国のバード」の著者、佐々大河氏は高校の同級生で、高校時代とても濃い時間を共にした親友。そんな彼の書いた漫画をこのような形で紹介できることに喜びを感じています。

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