世の中がどうなっているのかを把握して、少しでも楽に、楽しく生きられるようにしたいー。 そのようなことを考えながら日々を過ごしていると、不思議と目につくようになるのが「インフォグラフィックス」。皆さんが日々テレビや会議で目にしているプレゼン資料などに掲載されている表やグラフのように、グラフィカルに表現された情報が「インフォグラフィックス」です。 今回は、そのようなインフォグラフィックスにまつわる書籍をまとめてみました。
- 著者
- マニュエル・リマ(Manuel Lima)
- 出版日
- 2015-03-10
「世界でもっとも創造的で影響力のある50人」に選出された著者による、一千年にもおよぶインフォグラフィックスの歴史をまとめた1冊(本書では「インフォメーション・ビジュアライゼーション」と記されています)。
本書は、それ自体ひとつの「情報の可視化」である「目次」が、他の本とは異なります。歴史上の様々な事物をまとめた本なので、たとえば年表を描いてその左側から古い順に歴史を書き出し、ページが進むにつれて時間が経過していく、というような目次の作り方もありますが、本書の目次はそうはなっていません。
では、どのようなスタイルが採用されているのでしょうか?
本書の目次では、「象徴樹」「多方向樹」「多層同心円マップ」「階層懸垂マップ」のように、どのような形状で情報が組織化され、可視化されているのかという類型ごとに分類されています。
たとえば「象徴樹」の代表例としては、ユダヤ教の神秘的教義カバラーにおける「生命の樹」や、由緒ある一族が宝物として持とうとする「家系図」が挙げられます。また本書では、象徴的に「樹」の形態をとって紹介される様々な事例も紹介しています。具体的には、動物の種の系統樹、あるいはWebデザイナー中村勇吾氏によるプロジェクト「エコトノハ」などです。
「階層懸垂マップ」の代表例は、会話の中での声域の変化を可視化した「ADoReVA」というクラスタリング・アルゴリズムによるものです。社会言語学では、声域や音高と速度の変化は話し手のアイデンティティや社会情動性
を探る上で重要な手がかりとなるため、このような方法が採用されています。
フレームワークについて考えるにあたって、本書のような歴史上の様々な例を概観させてくれる1冊は、示唆に富むアイデアの源泉になることでしょう。
- 著者
- マニュエル・リマ Manuel Lima
- 出版日
- 2012-02-24
上掲の『系統樹大全』と同じ著者による1冊。『系統樹大全』が人類史におけるインフォグラフィックスの数々を類型化してまとめたものだとしたら、本書はその人類史の最先端、いわば「現在」のインフォグラフィックスをまとめて紹介しているものです。
本書には、都市計画、ブロゴスフィア、SNSの考え方、情報とネットワークに関する複雑性についての思想など、インフォグラフィックスの現在と未来についての様々な切り口が紹介され、いずれも眼を見張るような美しい図版が添えられています。
- 著者
- 出版日
- 2011-04-25
上掲書『ビジュアル・コンプレキシティ』と一見そっくりな表紙の本書は、『ビジュアル・コンプレキシティ』に監修としてかかわった久保田晃弘氏が監訳している1冊。
『ビジュアル・コンプレキシティ』や『系統樹大全』が、情報の可視化の事例を集めてまとめた書物だとすると、本書は『ビジュアル・コンプレキシティ』で紹介されている事例を可能にしたコンピュータを主とする技術革新が、デザインの分野にどのような成果をもたらしたのかを紹介しています。
インフォグラフィックスが情報の可視化であることを踏まえると、情報を効率よく可視化するためにはデザインが必要であり、良いデザインとは伝えたい情報をより効率よく表現したものなのではないでしょうか。デザインは、全面的にインフォグラフィックスに関わっていることが理解できます。
- 著者
- 三中 信宏
- 出版日
- 2012-11-09
『系統樹大全』の翻訳者による1冊。
『系統樹大全』が抽象的な類型を採用して分類していたのに対し、本書では生物学的な系統を視覚化した「生命樹」、人間の血統を主に視覚化した「家系樹」、そして万物を系統化した「万物樹」の3つに大別して論じています。
生物学、人間ときて、最終的に万物の系統化が紹介されていることから、本書は書名の前半である「系統樹」(ツリー)を紹介しながら、全体的に「曼荼羅」という地図(マップ)を描き出すことを目指しているようにも見えます。
ツリーとマップとは必ずしも対立するものではなく、相互に補完しあいながら世界を描写しようとしているのでしょう。
- 著者
- 出版日
「系統樹」と言われるともっぱら地上の幹と枝葉の部分が注目されがちですが、本書はむしろ「根」のほうを扱った1冊。
インフォグラフィックスからいったん離れ、実際に植物を育てる農業の分野で根」がどのように扱われているのかを知ることで、系統樹の理解、あるいはフレームワークを考えるときの具体性が、異なってくるのではないでしょうか。
本書の編者は「木の根」研究の世界では重要人物。、世界的な「木の根の博士」として知られる苅住曻氏が、の50年に渡る圧倒的な業績『樹木根系図説』のが刊行にあたりされた際、その推薦文を任されたこともあるこの世界での重要人物のひとり。
本書では、
「根は植物体を支え、生育に必要な養水分を吸収するだけでなく、根を取り巻く環境条件を感知して適応的に反応したり、さらに、環境に対して働き掛けをしている。根がこれらの役割を果たす過程で、様々な物質の情報が根を通して土壌中から植物中へ、また、植物体内から土壌中に動いており、その意味で根は、土壌と植物体とを結ぶ動的なインターフェースということができる」(本書p.3より)と書かれています。
ややこじつけかも知れませんが、私たちがインフォグラフィックスを描き、世の中をインフォグラフィックスで知り、その情報をもとにまた世の中を変化させるフィードバックを行っていると考えると、植物の根と、インフォグラフィックスはともにインターフェースとして機能しているといえるのではないでしょうか。
「世の中のことを視覚的に把握する」ためのインフォグラフィックスについての本をまとめていたら、いつの間にか植物と環境の相互フィードバックについての本に手を伸ばしていました。これは、情報と物質という、流通しているものの違いはあるものの、そこにはフィードバックのインターフェースとして機能しているものという共通点があるからかもしれません。