読むと読みたくなって、読んだらまた読んでしまう。たまらん!書評集たち

更新:2016.7.12 作成:2016.7.12

僕の好きなあの作家はどんな本を読んでいるんだろう。はたまた、僕の好きなあの本はどういう風に書評されているのか。気になる。読みたい。読みまくりたい!気持ちをこめて書かれた書評集は未だ見ぬ名作との出合いの場であり、本の新たな魅力を再発見するための架け橋。読書欲を刺激してやまない「たまらん!」書評集を4冊ご紹介します。

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ほとばしりすぎ書評エッセイ

1冊目に紹介するのは直木賞作家・三浦しをんによる書評エッセイ『本屋さんで待ちあわせ』です。この書評集の魅力はなんといっても「ほとばしっている」ことです。「まえがき」をちょっと覗いてみると、

「本書は一応『書評集』だ。ちゃんとした評論ではもちろんなく、『好きだー!』『おもしろいっ』という咆哮になっちゃってるので、お気軽にお読みいただければ幸いです。」

冒頭から感情がほとばしっている本書。なので実際の書評も情熱的。穂村弘の『短歌の友人』(河出書房新社)を「圧倒された一冊。(中略)著者の迸る短歌愛がとにかくすごい」と評し、橋本治の「双調平家物語」(中央公論新社)は「読みやめることのできぬ面白さ。『平家物語』の単なる『現代語訳』ではない傑作」と絶賛。さらにゲッツ板谷の『BESTっス!』(小学館)では「とにかく本書を読んで、素っ頓狂な老若男女から立ちのぼる生活の摩擦臭に、ただむせび笑えばいい!」と激賞。

著者
三浦 しをん
出版日
2012-10-06

本好きの本好きによる本好きのための情熱的な書評集なのです。
 

「先生」の書評集

次に紹介する『第2図書係補佐』は昨年の芥川賞受賞で話題となった「先生」こと又吉直樹の書評集です。お笑い界きっての読書家と知られている又吉直樹ですが、その書評スタンスは至って謙虚。

「僕の役割は本の解説や批評ではありません。僕にそんな能力はありません。」という前提のもとで「僕の好きな本を読んでいただき喜びを共有できたらこれほど楽しいことはないと思い、書かせていただくことにしました」とのこと。うう、なんていじらしい又吉先生......。僕の好感度はうなぎ登りの急上昇。もはや、抱かれてもいいくらいです。

……と、僕の勝手な願望はいったん置いといて、肝心の本の中身を紹介しましょう。書評の方法は少し変わっていて、本の内容やあらすじついてはあまり触れずに進んでいきます。又吉直樹は1冊の本から感じた手触りやぬくもりを日常の風景や思い出に溶かしこみながら伝えていきます。

たとえば古井由吉の『杳子』(新潮社)の書評。幻想的で硬質な緊張感が漂うこの小説を又吉直樹は、かつて恋人だった女性との思い出を軸にひそやかな筆致で辿っていきます。「神社の前にある木から青い実が一つ落ちた」という出来事がきっかけとなって出会った又吉直樹とかつての恋人。「青い実」という固有名詞を避けた表現から漂う少しの曖昧さと異次元感。現実がふっと遠くなる印象の文体からは、『杳子』について語らずとも『杳子』に流れている幻想的な雰囲気を通奏低音として読み手に伝えていきます。
 

著者
又吉 直樹
出版日
2011-11-23

書評そのものが一つの読み物として作品になっている、そんな素敵な一冊です。

組み合わせの妙が光る変わり種の書評集

次はちょっと変わった書評集です。著者は歌人であり作家の枡野浩一。ここで紹介する『結婚失格』は著者が実際に経験した「離婚」という出来事をもとにした実録小説となっています。「実録」であるがゆえ『結婚失格』の主人公・速水のモデルは枡野浩一本人。枡野浩一は主人公・速水の姿を借りて、離婚における心境の変化を描くとともに、その時に実際に読んだ本の感想を織り混ぜながら小説を進行させていきます。つまり「小説×書評」という形式を取った、一風変わったスタイルの書評集になっています。

この『結婚失格』。メインになっているテーマは主人公・速水の別居と離婚です。速水は元の妻への未練、そして子供と会えない寂しさを常に感じており、その気持ちを出合った本に重ね合わせて伝えていきます。たとえば銀色夏生のシリーズエッセイ『つれづれノート』(株式会社KADOKAWA)を速水が思い出す場面。銀色夏生の詩が速水の心を捉えます。

「あなたは正しい
 けれど
 正しさには限界がある
 正しさの中にいるあなたからは
 とどかないものがある」

速水は自分の「正しさ」が元の妻にとっていかに無意味で無力かを銀色夏生の詩を通して思い知らされます。速水の心境と本が交錯しながら進む『結婚失格』。小説としても書評としても楽しめる1冊になっています。

著者
枡野 浩一
出版日
2010-07-15

複数の本から1つのテーマを掘り下げる骨太な書評集

最後に紹介するのは骨太で辛口な書評集『読者は踊る』です。この本の最大の魅力は、「1冊ずつ書評する」のではなく「テーマに沿って複数冊を書評する」というスタイルを採用しているところです。

著者の斉藤美奈子は文芸評論家。つまり書評のプロ中のプロです。著者は複数の本を読み込み、それらの共通点や相違点を考察。そして、それぞれの本の関係性や立ち位置を比較・検討したうえで分析していきます。

たとえば源氏物語関連本のうさん臭さを考察した「源氏物語(のアンチョコ)で春のうららを雅びにすごす」では関連書5冊を4系統に分類し分析。さらに別のテーマ「哲学ブームの底にあるのは知的大衆のスケベ根性だ」では哲学書8冊を2系統に分類し分析。さらにさらに「汝、驚くなかれ。いまどきの聖書の日本語訳」というテーマでは関連書を13冊も取り上げ、2系統4種に分類し分析。その量的な説得力と的を射た辛口批評。軟弱な書評では到底たちうちできない読み応えがあります。

 

著者
斎藤 美奈子
出版日

誉めそやすだけの書評じゃもの足りない、一冊読んだくらいで何を偉そうに、というお気持ちの方にうってつけの書評集です。
 

今回は様々な方法論で語られる書評集を4冊取り上げてみました。どの本も新たな一冊との出合いを約束してくれる本になっています。是非手に取って読まれることをオススメします。