深夜特急
旅の本といえば、必ず誰もがこの本を勧めるだろうというほどの名作である。深夜特急シリーズは、インドのデリーからイギリスのロンドンまで乗り合いバスで行くというテーマを掲げ、旅を始める作者・沢木耕太郎さんによる旅行記である。第1巻は香港・マカオ編とあり、まずデリーにたどり着くまでの、つまりテーマでいうところの「より道」がまるまる一冊になっている。
マカオでは、ギャンブルもしたことのなかった作者が「大小」というギャンブルに魅せられ、ずるずるとその世界にはまっていく。このままではロンドンどころかデリーにも辿りつけなくなってしまいそうだとハラハラするが、間違いなくこの場所じゃないとできない経験をしていることもわかる。一瞬一瞬が日本にいては見ることのできない世界ばかりなのだ。
ユーラシアをバスで旅したい。そう思った作者に言葉で明確に説明できる理由があったわけではないようだが、「可能なかぎり陸地をつたい、この地球の大きさを知覚するための手がかりのようなものを得たいと思ったのだ」とある。自分自身でもそう表現しているが、なんとも酔狂な発想である。そんな作者の本は、文章がとても綺麗で引き込まれやすく、それもこの本が長く多くの人に愛されている理由の一つだろう。
すぐに影響を受けて「旅に出たい」と思ってしまいそうな人には、むしろおすすめしたくない本である。
どくとるマンボウ航海記
私が一番好きな作家の一人である、北杜夫さんによるエッセイ。特にこの本に思い入れがある理由は、学生時代にこの本の読書感想文を書くことを決め、そして苦しめられたからである。当時文章を書くということがとても苦手であった私は、姉に助けを求め「感想文ってどうやって書けばいいの?」「感想を書けばいいやん」という不毛なやりとりをしたことをこの本は想起させる。
そんな個人的な思い入れをのぞいても、内容はユーモア溢れる、読んでいて楽しくなる航海記で、作者が船医として5カ月間世界を回遊した経験が綴られている。読めばわかるが、発想がとにかく破天荒で、この時代にこの本の登場は大きな衝撃を与えたことは間違いない。ベストセラーにもなっている。
私が初めてこの本を読んだ時、北さんはすでに70歳を超えていたわけであるが、この旅は1958年、北さんが約30歳の頃の経験のようだ。今回、今の自分の年齢と大きく変わらないことを意識して読むと、また違った感覚で読むことができた。そして、旅から帰ってくる時の描写が自分が半年間ロンドンで暮らして帰ってくる時のものと重なり、また新しい発見をした気持ちになった。いつ読んでも、時代を超えて楽しませてくれる本だ。
心がほどける小さな旅
益田ミリさんによるエッセイ。北は北海道、南は鹿児島まで、日本各地の様々な名所での経験が記されている。ここまで海外の旅の本ばかりすすめてきた反動もあり、国内というだけで一気に身近な話をしている気持ちになる。国内であり、さらにほんわかとした旅の様子は、自分も行ってみたい、行けそうだ、と思いながら読むことができるだろう。イラストレーターでもある作者のイラストが章の最後についており、本の最後には4コマもあるので、映像が浮かびやすい。気軽に読むことができるのも魅力だ。
自分がこの本の中でも一番行ってみたいと思ったのは、岐阜県の郡上八幡で行われる徹夜踊りである。約30日間連続で盆踊りが行われ、特にお盆の間の4日間は一晩中寝ないで踊り続けるそうだ。夏、忘れられない思い出作りに是非行ってみたいと思った。
海外もいいが、日本にもこうしてたくさん素敵な場所がある。次の旅行はどこへ行こうかと考えている方、また一人でふらっと羽を伸ばしたいという方におすすめの本だ。