有栖川有栖のおすすめ文庫小説14選!本格ミステリーを存分に楽しむ

更新:2020.12.15 作成:2017.7.18

舞台設定、探偵、トリック。全てから推理小説への愛が伝わってくる……有栖川有栖の小説はミステリーファンのハートをがっちりと掴みます。今回は丁寧で論理的な推理が楽しめるおすすめ作品を紹介します。

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純度が高い「新本格」の論理派作家、有栖川有栖

綾辻行人や歌野晶午といったミステリー界のスターが相次いでデビューした、1980年代後半から1990年代は「新本格」とくくられることがあります。そんな「新本格」スターの一人……乱歩賞の落選を経験しながらも「鮎川哲也と十三の謎」という企画でデビューし、高い人気を獲得し続けているのが有栖川有栖です。

あくまでも読者に対してフェアであることを重視し、純粋な推理こそがミステリー小説の正統であると言わんばかりの構成。作中では作者と同名のキャラが活躍し、終章には読者への挑戦が添えられるのです。これらはエラリー・クイーン等の古典推理に影響を受けた作風で、ある種の王道であるとも言えます。

しかし、その王道こそが読者に求められているものであり、有栖川有栖のすごいところです。あらゆるアイディアが出尽くしたと言われているミステリー界において、王道であり続けるのは大変な発想力と根気を必要とします。

また、人気作品に「学生アリス」シリーズ、「作家アリス」シリーズがあり、この2つのシリーズには作者と同名の「有栖川有栖」という人物が登場します。しかし、彼らは同様人物ではありません。「学生アリス」の登場人物である有栖川は、推理作家を志す学生で、「作家アリス」を書いている設定。また逆に「学生アリス」を書いているのが「作家アリス」で活躍する推理小説家の有栖川、という複雑な設定になっているのです。

今回は、推理への初心者から玄人まで楽しめるスタンダードまで、様々な作品をご紹介致します。

本格推理と呼ぶにふさわしい、有栖川有栖のデビュー作

探偵江神&助手アリスの活躍を描いた「学生アリス」シリーズの第1作。

夏合宿で矢吹山に来ていた英都大学推理小説研究会のメンバーは、雄林大学・神南学院短期大学と合流してキャンプを楽しんでいました。しかし、一緒に過ごしていたはずの女子学生が「先に下山する」という書き置きを残して消えてしまいます。

単独での下山は危険なので、アリス達は小百合を追うか悩みますが、運悪く火山の噴火に巻き込まれてしまいました。孤立した状況下でさらに殺人事件まで起こり、追い詰められていく大学生達。

主人公アリスが助手となり、部長の江神と事件に挑みます。

著者
有栖川 有栖
出版日

火山の噴火がもたらしたクローズドサークルの中で犯人を当てる。非常にシンプルで、何か特殊な知識やオカルト的な発想は必要ありません。山中で起こった事件ですから犯行に使える物も限られています。

そこで「読者への挑戦」という要素を楽しみたいところです。作者から与えられた情報を注意深く見ていけば必ず犯人に辿り着くので、頭脳に自信がある方はぜひ挑戦してみてください。

そして、この作品には青春小説という側面もあります。キャンプに集まった大学生の恋心や葛藤は、甘酸っぱい共感で読む者を作品の世界に誘います。推理好きにはもちろん、頭を使ってじっくり読むのが苦手な方も楽しめる一冊です。

有栖川有栖の巧さが味わえるたしかな傑作

「学生アリス」シリーズの第3作です。

英都大学推理小説研究会のメンバーであり旅行中だったマリアが、高知県の山奥の村から帰ってこない、とマリアの父から彼女の連れ戻しを頼まれたアリス達は村に向かいます。

目的地までたどり着いたアリス達でしたが、大雨がきっかけでグループが分断されてしまいました。木更村には江神とマリア、夏森村にはアリス、織田、望月。村同士を繋ぐ橋が使えない状況で、双方で殺人事件が起こります。

二つの村ではいったい何が起こっているのか……マリアとアリス、二人の視点で事件を追います。

著者
有栖川 有栖
出版日

「学生アリスシリーズ」の最高傑作に推す声も多い本作は、シリーズの既定路線を継承しつつも、やや実験的な仕上がりです。

まず「読者への挑戦状」が3回もあります。独立した二つの村で起こった複数の殺人事件を追うというストーリーなので、起きた殺人にはそれぞれトリックがあり、3回分の犯人当てが楽しめるようになっているのです。

そして、前2作に比べるとページ数が大幅にボリュームアップしています。長くなると最後まで読むのが苦しい作品も多いですが、二人の視点が交互に切り替えられていくという本作の構成はリズムが良くて非常に読みやすいです。

巧みな舞台設定と構成が楽しめる、有栖川有栖を代表する傑作です。

本格ミステリ大賞を受賞した大作ミステリー

「学生アリス」シリーズの第4作目の長編です。「学生アリス」シリーズと「作家アリス」シリーズは、パラレルな存在で、「作家アリス」シリーズの有栖川有栖が「学生アリス」シリーズを書き、「学生アリス」シリーズの有栖川有栖が「作家アリス」シリーズを書いているという設定になっています。

大学に姿を見せなくなった江神二郎を心配して、残された推理小説研究会のメンバーは、江神の行先に向かいます。そこは、急成長している宗教団体の聖地である神倉でした。城と呼ばれる総本部で江神の安否は確認できたものの、殺人事件が発生して……。

著者
有栖川 有栖
出版日
2011-01-26

外部と隔離された状態で真相究明を試みるも、事件が次々と起こっていきます。前作出版から時間が空いたためか、非常に分厚く読みごたえがあるので、じっくりと腰を据えて読みたい作品です。

密室連呼。密室マニアに向けた有栖川有栖の作品

「作家アリス」シリーズの第1作。

「密室の巨匠」と呼ばれる推理作家の真壁が招待してくれたクリスマスパーティーに参加したアリスと火村。これまで45の密室を発表してきた真壁は「執筆中の次の作品が最後だ」と話しました。

しかし、次の日に真壁は遺体で発見されます。暖炉に頭部を突っ込んだ状態で、犯行現場は密室。この密室は真壁自身が作った46番目の密室なのか……それとも犯人が作った密室なのか。

著者
有栖川 有栖
出版日
2009-08-12

密室にこだわったと聞いてしまうと、機械的なトリックばかりの作品を想像してしまいがちです。しかし、この作品は密室は大事な要素ではあるものの、それだけではありません。

大作家の真壁を取り巻くドロドロした人間関係。怪しい人物。人間ドラマとしてしっかりと興味を持たせる作りになっています。

本作は動機が見えづらく、推理が難しく感じるかもしれません。しかし、だからこそさりげなく張られた伏線を回収しながら、犯人に辿りつけた時の感動は素晴らしいものです。

推理の様式美を感じる、有栖川有栖の短編集

犯罪学者火村と推理作家アリスの活躍を描いた「作家アリス」シリーズの短編集。

連続通り魔事件の被害者達は「NIGHT PROWLER」と書かれた紙を口の中に入れられていました。調査を進めていくと「絶叫城」という人気ホラーゲームに登場する怪物「NIGHT PROWLER」のことだと分かります。犯人の目的はいったい何なのか……。火村とアリスが事件を追います。

表題作ほか「黒烏亭殺人事件」「壺中庵殺人事件」など、タイトルに「殺人事件」とついている作品が5篇が収められています。

著者
有栖川 有栖
出版日
2004-01-28

長編のイメージが強い有栖川有栖ですが、本作は短編集。しかも、本作は本格推理でありながらも雰囲気を重視した作品で、表題作以外が建物に関連しているだけでバラバラの作品です。

目撃証言、アリバイトリック、密室。各作品で扱われるのは極めて普遍的なテーマ。しかし、よく論理が構築されています。プロファイリングのように「こういう人物だろう」ではなく、しっかりとした理由で読者を納得させてくれます。

少しだけ、いつものアリスシリーズとは違った読み方ができる本格推理短編集です。

雰囲気が素晴らしい直球勝負の一冊

「作家アリス」シリーズの中でもタイトルに国名が入ったものを「国名」シリーズと言いますが、本作はその第2作。

スウェーデン人の美しい夫人がいる童話作家の屋敷、通称スウェーデン館を訪れたアリス。その日は偶然、4年前に事故で死んでしまった、夫婦の息子の命日でした。

しかし、そんな日に宿泊者の撲殺死体が発見されます。驚くアリス達でしたが、さらに衝撃的な事実が浮かび上がります。

降り積もった雪の上……被害者の足跡あるのに、犯人の足跡がありません。単純ゆえに大きな謎が、火村の前に立ちはだかります。

著者
有栖川 有栖
出版日
1998-05-15

「雪上の足跡なき殺人」というのは、かなり使い古された設定ではありますが、よく作りこまれているからか不思議と古臭さはありません。

スウェーデン館や童話作家夫婦の描写が少し切なく悲しげであるのも魅力の一つでしょう。子供の不憫な死、雪の情景などが悲しい雰囲気をまといながら読者に感情移入を促しているようです。

エンディングを迎えると、悲しさは残るものの解決自体はスッキリしています。感情的な情景と火村の論理的推理。どちらも楽しめる贅沢な一冊です。

バラエティに富んだ、飽きがこない短編集

「作家アリス」シリーズの短編集。

ある日、アリスが旅行に行ったのは鉄道廃線跡でしたが、途中で体調が悪くなります。急遽民宿に泊まることになりましたが、その民宿が不気味で、なんとも暗い雰囲気なのです。

風邪薬で意識が朦朧とするアリス。そして深夜に聞きこえてきたのは、奇妙な音でした。床下で地面を掘っている……そんな音が聞こえてきます。

表題作ほか、「ホテル・ラフレシア」「異形の客」などの3篇が収められています。

著者
有栖川 有栖
出版日
2003-10-01

全て旅行先で起こった事件であるという統一感が心地よい短編集。しかし、舞台は廃業間近の旅館から、リゾートホテルまで幅広いです。

特に表題作「暗い宿」の民宿は夜中に読みづらいような場所設定となっています。典型的ミステリーの「館」から離れて、ジャパニーズホラーの心霊的な雰囲気を出しているというのは、珍しい作品です。

他にも「201号室の災厄」では途中から火村視点で書かれているなど、短編らしい思い切った作品が多いです。

ミステリーといえば、度々登場するのが「謎の女」

「作家アリス」シリーズの中編集。

魅力的な妃沙子は「妃」と呼ばれ、若い男に囲まれて暮らしていますが、彼女には不幸がつきまといます。ある男性は車で海に転落、もう一人は射殺。

そして、彼女が所有する猿の手のミイラに願い事を言うと、3つ叶える代わりに何かしらの代償を払うことになるといいます。

彼女は何を願い、何を代償として支払うことになるのか?そして、彼女はただの不幸な女か、自ら不幸を呼びこむ魔性の女なのか……。

著者
有栖川 有栖
出版日
2012-04-12

順番に書かれた2つの中編「猿の手」と「残酷な揺り籠」の間に「幕間」というつなぎ部分を加筆したのが本作です。

「願いを叶えるミイラの手」なんてものが出てきてしまうと、少しオカルトを感じてしまいますが、中身はしっかりとした推理小説。願うのも人間であれば、叶えるのも人間です。

そして忘れてはいけないのが、願いの代償を払うのも人間だということ。3つの願いと3つの代償……綺麗にまとまった結末は見事です。

 

有栖川有栖の職人技が冴える短編集

「作家アリス」シリーズの中編集。

劇団ワープシアターの清水伶奈はストーカーに悩んでいました。そこで、劇団仲間がストーカーを欺くためのゲームを仕掛けます。彼女を助け出すことには成功しましたが、なぜかストーカーが兎小屋で死体となって発見されてしまいます。いったい誰が、何のためにストーカーを殺したのか?

表題作ほか「不在の証明」「地下室の処刑」「比類のない神々しいような瞬間」の3篇が収められています。

著者
有栖川 有栖
出版日
2007-01-11

表紙や表題こそポップですが、時刻表トリックや双子、エラリー・クイーンの『Xの悲劇』の作中からとったタイトル「比類のない神々しいような瞬間」など、ミステリーファンが思わずにやりとしてしまうような嬉しい内容になっています。

設定自体は単純、文字数の少ない中編ゆえに伏線も見つけやすい部分も多いでしょう。しかし、ちゃんと読まないとしっかり騙されます。本格推理を手軽に読みたい人におすすめの一冊です。

なんとも不思議な作風が魅力、有栖川有栖の本格推理

主人公の刑事、神崎達也は登場早々に射殺されます。そして気がついたら幽霊に。自分を殺した上司も密室で何者かに殺されています。いったい何が起きたのか。

神崎は幽霊刑事として捜査を開始しますが、幽霊の存在は他者から感知できないのです。捜査に有利に働くことがあったとしても、誰かに告発することができません。

しかし、後輩の早川刑事だけは自分を見て会話ができることに気づき、二人は協力して捜査を開始します。

著者
有栖川 有栖
出版日
2003-07-15

幽霊が捜査をする……非常に不思議な感覚の、風変わりな作品です。一般に本格推理というのはファンタジーとは遠い存在であることも多いですが、丁寧に練られた設定がうまく機能していて違和感はありません。

全てを見通す神の視点で事件解決、といったものは推理小説ではありませんが、本作の幽霊というのは専門であり属性です。数学者探偵や民俗学者探偵と同じ、一つの特技と言っていいでしょう。

幽霊であることがどう作用するのか……できることとできないこと、それをうまく利用した作者のセンスが際立ちます。

パラレルワールドを舞台にした青春ミステリー

「空閑純」シリーズの第1作目です。なお、タイトルは”やみのらっぱ”と読みます。舞台は日本が南北に分断され、北海道が独立国家になっているという平成21年のパラレルワールドです。

私的探偵行為を禁止するという法律が成立した世界で、名探偵としてかつて名を馳せた両親を持つ少女空閑純は、母の故郷に父と移住し、行方不明の母の帰りを待っていました。そこで身元不明の他殺死体がされたことで、事件に巻き込まれていきます。

著者
有栖川 有栖
出版日
2014-07-15

2013年に発売された作品で、当初ヤングアダルト向けに書かれたということもあり、それまでの有栖川有栖作品と比べると、少女の青春小説とも読むことができ、ミステリーを今まで読んだことのない方も、読みやすい作品です。他の作品にはあまり登場しない少女が、どのように探偵として成長していくのかをお楽しみください。

イメージチェンジを図った、有栖川有栖作品の新装版

「作家アリス」シリーズの短編集。

本作は新作ではありません。以前に別の作品に収録された短編のうち、タイトル通り「密室」に関連した作品を集めたもので、いわゆるアンソロジーです。新装版として表紙がアニメ風、中には挿絵も入っています。

「人喰いの滝」「蝶々がはばたく」「壺中庵殺人事件」などの6篇が収められています。

著者
有栖川 有栖
出版日
2013-10-31

本格推理の初心者向けというよりは、ライトノベルを読む層のための有栖川有栖入門編といった位置づけでしょうか。アニメ風の表紙や挿絵は若者には馴染み深いものです。

収められた作品も非常にバラエティに富んでいて、いろんな密室を味わえるでしょう。例えば「シャイロックの密室」では「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」のような犯人視点になっており、ミステリーでありつつもサスペンスのテイストも感じられます。

読書の初心者や子供にも勧められる作品集です。

本格ミステリーを集めた短編集

「国名」シリーズの第1作目で、短編6作品が収められています。「国名」シリーズとは、「作家アリス」シリーズの中でも、タイトルに国名が付いているものを指し、「国名」シリーズとしては第1作目、「作家アリス」シリーズとしは第3作目となります。ここでは第5話で、タイトルにもなっている「ロシア紅茶の謎」をご紹介します。

著者
有栖川 有栖
出版日
2012-12-28

登場人物のメインは、火村英生と”私”こと有栖川有栖です。新進の作詞家が自宅で行われていたパーティの最中に、ロシア紅茶を飲んだ後に中毒死します。当時の来客は5人。皆同じロシア紅茶を飲んでおり、毒物を混入できるチャンスがどこにもなく、配られたカップも無作為でした。一体誰がどのように毒物を混入したのでしょうか。

犯人が毒物を混入した方法には、誰もが驚くでしょう。そして、失敗すれば自らも命を落とすことになるにも関わらず、そんな方法を取らずにはいられなかった犯人の気持ちを思うと、少し同情の念すら覚えるのではないでしょうか。

本作品は、麻々原絵里依作画で漫画にもなっていますので、そちらも併せてお楽しみください。

楽しいSFミステリー

この作品はシリーズものではなく、12編からなる短編集です。ここでは、第9話の「タイタンの殺人」をご紹介いたします。

著者
有栖川 有栖
出版日
2017-06-06

この話は、なんとSFミステリーとなっています。地球連邦の第五植民地であるタイタン星。その星都タイタン・シティーには、三百万人の地球人と千人ほどの異星人が住んでいます。そのタイタン随一の名門ホテルで、地球人が殺害されるのです。犯人はエイリアン3人のうち誰なのか?タコのようなエイリアンか。鳥のようなエイリアンか。それともウサギのような耳を持つエイリアンか。

読んでいて、つい笑ってしまわずにはいられません。ですがなんと、そんなおもしろく、かつ、楽しい作品にも関わらず、”読者への挑戦”があるから、驚きです。楽しめて、推理もできる作品は、他にあまりないのではないでしょうか。

そのほかの短編も、他の有栖川有栖作品と比較すると少し異色ですので、まだ手に取っていない方には、おすすめしたい作品です。

ミステリーは難しいイメージがありますが、有栖川作品は起承転結がはっきりとしていて非常に分かりやすいです。本格推理を全く読んだことがない方でも読みやすい作品です。