漫画『銀の匙』で少年は命と未来を考える!14巻までの魅力をネタバレ紹介!

更新:2020.12.2 作成:2017.7.13

累計1000万部を越えるスマッシュヒットながら不定期連載が続いていた『銀の匙』。長らく待った14巻もようやく発売され、連載もいよいよ定期にもどって再始動かと思いきや、再び不定期連載に入ってしまいました。次巻発売まで長くかかるかもしれませんが、その間に、最新14巻までの内容を一旦まとめておきましょう。

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志なき者をも育む農業高校の漫画『銀の匙』の魅力をネタバレ紹介!

著者
荒川 弘
出版日
2011-07-15

とにかく実家を出て親の許から逃れたい――ただそれだけの理由で大蝦夷農業高等学校を受験し、見事合格して学校の寮に入った八軒勇吾。望む未来もなりたいものもありません。だというのに、同級生たちはなりたいもの、やりたいこと、学びたいことをはっきりと持って、着実に歩んでいます。

生徒は農家の子女ばかり。その中に非農家の子が一人。それだけでも気後れの材料ですが、勇吾はもともと勉強好きです。勉強の仕方も心得たもの、春休み中に教科書を読破、誰にも負けない……という予定で新学期を迎えたというのに、教科書を使わない授業、はじめて触れる動物、一筋縄ではいかない同級生や先生たちと、予想外のものに次々と出会う日々が続きます。

思えば人生とはそのようなものです。人生の縮図の中で、夢もなくただ現実から逃げてきただけの勇吾は何かを見出し、何かを掴むことができるのでしょうか。そもそも、生き延びることができるのでしょうか。勇吾の歩みと行く先を考察していきます。

『銀の匙』ネタバレ考察1:大蝦夷農業高等学校と「銀の匙」

『銀の匙』ネタバレ考察1:大蝦夷農業高等学校と「銀の匙」

出典:『銀の匙』11巻

主人公・八軒勇吾が通う大蝦夷農業高等学校、通称エゾノーは北海道帯広市にあります。農業科学科、酪農科学科、食品科学科、農業土木工学科、森林科学科の5つの学科があり、実習農地、実習農林を含めた敷地面積は高校では国内一で、一周すると20kmもあり、体育の授業ではマラソンコースにもなります。

家畜の飼育や農作物の育成、食品の加工等が校内で行われており、人が食べる肉、野菜、加工食品等はもちろん、家畜の飼料や作物の肥料などまで含めてすべて校内で自給自足が可能という、一つの国として独立してもいいほどの施設です。

広い敷地の中には校舎などの学校施設や実習用地のほかに、野球用のグラウンド、サッカー場、陸上用トラックが2面ずつあり、全校生徒に運動部への参加が義務づけられています。文化部は入部しようにもありません。この事実を知ったとき、勇吾は「筋肉学校め!」と内心に叫んでいます。

勇吾が入学した酪農科学科をはじめ、農業科学科、食品科学科の生徒は1年生の1年間は実習などのため学生寮に入寮しての生活が義務となっています。2年生以降は希望により寮を出ることも残ることも可能。大抵の生徒は寮を出て下宿生活をするようです。

高等学校ながら受精卵移植やクローンの研究ができる設備があり、希望すれば学生も実践的な研究に参加することができます。これを目的に入学する生徒もときにあるようです。校風は自由闊達、学びを志す者に門戸は大きく開かれていて、校訓は「勤労・協同・理不尽」。農業に携わる者が並べて心得ておかなければならないものが掲げられています。

学生寮は「教育寮」と名がついていて、1階が男子寮、2階が女子寮となっています。1階には男子生徒の居室のほかに食堂があり、その入口には作品タイトルにもなっている「銀の匙」が飾られています。「銀の匙」が表すところについては第11巻第95話「冬の巻㉜」で行われた教育寮退寮式で校長が語っています。

ヨーロッパでは「銀の匙」を持って生まれてきた子は一生食べることに困らないという言い伝えがあり、生まれてきた子に祝いとして「銀の匙」を贈る風習があります。さらに言うとヨーロッパでは日本で言う「お食い初め」のような儀式を匙を使って行いますが、そのときに生まれた家の身分や貧富によって匙の材質が変わり、高貴な、あるいは裕福な家の子は「銀の匙」を使うのだと言います。これもまた「生涯、食べることに困らないように」という願いを込めて行う儀式です。

生涯、食べることに困らない「銀の匙」。それは何よりの贈りものと言えるでしょう。校長は「銀の匙を贈る人の気持ちで教育に携わっています」と述べています。「『生きていく力』を贈れたら」と。

他方、つくる人のことを考えたことがあるか、と校長は問います。「銀の匙」をつくる銀職人はできる限り最高の技術を以て銀器をつくって納めると言います。また、誕生時の匙1本だけでなく、成人までの毎年銀器を1本ずつ子に贈る親もあります。裕福ではないが1年間節約して銀器を買うだけの金を捻出し、毎年コツコツと銀器を買い足していくと、子が成人する頃には銀の食器セットが一揃い子の手に残ります。子は成人すると同時に一財産を手に入れるという訳です。

この銀器のセットは家の歴史であり子の歴史であり銀職人の歴史であり、歴史を受け継いで子は世の中へと旅立っていきます。エゾノーで教える農業のノウハウも同様に、知識や技術であると同時に歴史であり、受け継がれて用いられてはじめて価値があるものです。エゾノーで経験したことは先人が積み上げてきた歴史を受け取ったということだと、校長は言います。エゾノーで教える農業こそは生徒という子に贈られる「銀の匙」であるのです。

エゾノーで1年間学んだ生徒たちに校長は言います。

「夢がある人にも無い人にも平等に、銀の匙の心はあなたたちのためにあります。
自身の幸せのためにじゃんじゃん使ってください。」(『銀の匙』11巻から引用)

人が生きていくことの礎となる「食」とそれを支える農業、それは「生きていく力」でもあります。エゾノーで「生きていく力」を得て生徒たちは、八軒勇吾は、自身の未来に何を見るでしょうか。

『銀の匙』ネタバレ考察2:エゾノーに集う一癖ある面々!-生徒編

『銀の匙』ネタバレ考察2:エゾノーに集う一癖ある面々!-生徒編

出典:『銀の匙』1巻

北海道各地からエゾノーに集まってきた生徒たちは誰も個性が強くて一癖二癖ある者ばかりです。エゾノーを舞台に物語を紡いでいく生徒たちを一人ずつ確認していきましょう。

八軒勇吾

八軒勇吾

出典:『銀の匙』2巻

本作の主人公。札幌市の進学校から帯広市のエゾノーにはるばるやって来ました。農家の子女ばかりが推薦入試で集まっているエゾノーにあって、一般家庭から一般入試で入ってきた「変わり種」です。しかし、展望があってエゾノーに進学した訳ではなく、入学直ぐに御影アキから「わざわざ一般受験で入ったってことは夢があるんだよね? 何になりたいの?」と訊ねられても「別に…何も…」としか答えられませんでした。

しかし、一般家庭=非農家で育ったからこそ「農家の常識」が身についておらず、それに行き当たるごとに疑問を持ちます。それによって同級生たちとの間に討論がはじまったり特別授業のきっかけとなったり、またエゾノー産の材料を使ったピザをつくったりベーコンをつくったりという周囲を巻き込んだ活動に発展するという学年の中心人物となりました。これらの積み重ねがのちに学生起業という大きな決意に結びついていきます。

もともとは進学校での競争に負けて自信喪失、家族とも折り合いが悪く、逃げる手段としてエゾノーに入学した勇吾ですが、入学以降は自信がないなりに自分の考えを持ち、自主的な行動をするようになっていきます。また、農業の関わる分野は周囲が優秀すぎるために突出することができないものの、一般科目ではこれまでの勉強の成果もあって秀でており、もともと勉強好きということもあり、同級生たちに教えることもあります。

学力競争に勝つことに重きを置いてきましたが、エゾノーではじめて見聞きするものや体験するものに触れていく過程で気づきます。

「教科書に書いてある事や、数値にこだわらなくていい、答えはひとつじゃなくてもいいんだ、……って言ってくれてる気がする。」(『銀の匙』2巻から引用)

気づきはこれ一つだけではなく、これを基礎として次第にいくつもの気づきを得ていきます。特に家畜動物の生命に関しては学校での飼育と加工、実食などの経験と思考を繰り返して葛藤を続けます。

その経験により、二年生に進級する頃には自らの進路を進学ではなく起業に定めました。ブランドを持つことがない農業高校卒の人たちがそれぞれの特性を持ち寄って、ブランド以上の価値を生み出すことができる会社を、と企画し、何と父に出資者となるよう頭を下げます。父と顔を合わせたくないため学生寮があるエゾノーへの進学を望んだ勇吾が、父に直接会って交渉して、頭を下げたのです。

交渉はうまくいきませんでしたが、可能性がなくなった訳ではありません。父を納得させるべく起業した(株)GINSAJIの事業の質を高め、軌道に乗せるために勇吾は奔走します。

基本的に「いい人」で頼まれたら断れないし、誰かにものごとを押しつけることもできない性分で、馬好きのアキはこれを「馬みたい」と評しています。入学時からアキのことが気になっていて、彼女がいる馬術部に入部したり、彼女の受験指導をしたりで一緒の時間を長く過ごしたりもしたものの、長々と告白できない時間が続きました。

しかし、アキが志望校に合格し、その報告の電話をよこしたときに、アキとの3年間を振り返ることで勇吾は決意し、とうとう言うのです。

「御影…アキさん、一年の時からずっと好きでした! 俺と! つき合ってください!!」(『銀の匙』14巻から引用)

きっぱりとした告白です。けれども何故かこれは娘を大事にしすぎるほど大事にしている強面のアキの父の耳に直接入り、その上、アキからの返答はその場では得られませんでした。二人の交際はまったく駄目という訳ではありませんが、前途多難です。

御影アキ

御影アキ

出典:『銀の匙』12巻

勇吾の同級生で酪農一家出身の馬大好き少女。馬術部員であり、馬術大会でも好成績を残しています。実家には農耕馬や、やはり馬好きの祖父がいて、その影響もあってか幼い頃から馬が好きで乗馬クラブでの乗馬の経験もあります。馬好きが高じてばんえい競馬の厩務員として働きたいという希望を抱いているものの、実家を継ぐことを家族からは嘱望(しょくぼう)されて、随分長く葛藤していました。

人当たりがよく、素直でよく笑う気さくな性格ですが、3年生になる頃までは自分を抑えている部分があったようで、1年生時には馬術部の豊西副部長がアキについてこのように言っています。

「あの子、技術もあるし素直なんだけど、なんつーのかな…素直なわりに他人に対してあと一歩を踏み込ませない感じ……あるでしょ?」(『銀の匙』4巻から引用)

しかし、この自分を抑えてしまうくせも「実家の後を継ぐ」という呪縛が解けてのちは解消され、また自発的に活動するようにもなり、それを評価されて3年生時には馬術部の部長を任されるようになりました。

勇吾とは実は相思相愛ながらお互いに積極性に欠ける上に、アキはかなり恋愛ごとに鈍く、バレンタインデーをすっかり忘れて「2月だからチョコレートが食べたい」と言われても、エゾノー産の材料で商品ベースに乗るものをつくろうとしてしまうという的外れな行動もよくあります。このため、互いの気持ちが通じるまでには随分長い時間がかかってしまいました。

それでも、大学の入試面接で「動物好きなんじゃなくて、人間嫌いなんじゃないの?」と問われて、とんちんかんながら「好きな人はいます!」ときっぱり言ってしまうほどの想いはあるのです。そして、この発言をしたことで、エゾノーで過ごした3年を経ることで、また、そこで出会った人たちとの経験を通して、次のように気付いたと述べます。

「つたなくても自分の言葉で、行動で示せば、本音をぶつけても受け止めてくれる人がいる、怖がることはないって…」 
「それを気付かせてくれた友人に出会えたことが、私が大蝦夷農業高校で得た何ものにも代えがたい宝物です。」 
「その人のおかげで、今、私はここにいます!」 (『銀の匙』14巻から引用) 

「その人」とは勇吾のことにほかなりません。「好きな人」以上の価値ある人としてアキの胸の内には勇吾が存在するようです。自分のことにはことさら頑固な父の反対や勇吾の急な受験、余計なときにばかり勤勉な大川などの難関が次々に立ちはだかりますが、アキはきっと勇吾との関係を簡単に無にしてしまうことはないでしょう。

駒場一郎

駒場一郎

出典:『銀の匙』12巻

野球部所属で目つきが鋭い、勇吾の同級生です。体格がよく、早朝実習、授業実習、体育の授業、夕方実習、さらに部活動をこなした上、寮で卓球に興じるという動きっぱなしの1日を過ごしてもまだ余るという体力の持ち主でもあります。アキからは「筋肉サイボーグ」と呼ばれました。

野球部ではピッチャーを担い、1年生時から試合に出場しています。実家にはブルペンがあり、幼い頃から自宅でも練習していた模様。甲子園に出場してプロ入りし、経営が苦しい実家の酪農業を助けたいと考えていました。懸命に野球に努めましたがついには実家は離農することになり、家計を助けるため1年生の冬にエゾノーを中途退学してしまいました。

しかし、それきり勇吾たちとの縁が切れてしまった訳ではなく、特にアキは実家が隣同士(両家の距離は8km)で幼馴染みでもありますから、その後も関係は続いています。中退後しばらくは実家にいてアルバイトに精を出していましたが、やがて「自分の牧場を持つ」という夢を見出し、その資金のため上京して自前の体力が活かせる引越業者で働いています。

稲田多摩子

稲田多摩子

出典:『銀の匙』9巻

勇吾と同級の、独特の「タマゴ体型」の女子。そのため本名とかけて「タマゴ」と同級生に呼ばれることもあります。実家は共同経営型の大規模な牧場「ギガファーム」。経営陣が4軒集まって800頭の牛を扱っていると言います。得意教科は農業経営と情報処理と数学で、理知的にものごとを捉え処理する能力に長けています。企画書を書いたり経理を扱ったりで勇吾の助けになることもしばしばです。

「合理的に!! スピーディーに!! スマートに!! 高い収益を出すことにえも言われぬ充実を感じます!!」(『銀の匙』1巻から引用)

このように発言するほどのお金好きで、実家の牧場に就職を希望していますが、それは経営に口を出したいからだと現経営陣の両親を前に公言するほどです。大量生産、大量消費の時代にはニーズに合わせて添加物も上手に使っていくべきという考え方は、無添加を是とする兄の真一郎とは意見を異にするところですが、兄妹仲が悪い訳ではないようです。

背も高くはなく、まるまるとした体型故に同級生の男子たちからは女性として意識されていないようですが、ときどき夏バテや必要あってのダイエットなどで実に短期間ですっきりと痩せることがあり、そのときは別人と見紛うほどです。しかし、痩せていなくても顔のパーツや肌や髪の質はうつくしく、勇吾たちは「トリミングしたら美人だ」と驚いていました。一度は痩せたままでいたらどうかと同級生の常磐に言われましたが、「栄養不足で肌が荒れるし、貧血で倒れるからいやだ」と答えています。

相川進之介

相川進之介

出典:『銀の匙』9巻

穏やかな容貌と話し方の、獣医を志望する少年。勇吾と同級生です。幼い頃から獣医を志してバイオテクノロジーについて早くから学んでおり、研究にも早期に関わりたいという理由から高等な研究設備が整っているエゾノーを選んで進学しました。

しかし、小学生の頃に「ひどい牛の手術」を見たためにそれがトラウマになり、多少に関わらず生体からの出血を見ると気分が悪くなったり気を失ったりしてしまうという難点を抱えています。これを克服しようとスプラッター映画を観るなどの努力の結果、「つくりもの」と分かる出血については平気になり、刃物で人間が切りつけられる場面などを見ても「あそこあんな風に切ってもこんな血の出方しないよね」と冷静な意見が言えるようになりました。

生体からの出血が苦手ではあるものの、屠畜場の映像が収まったDVDを授業で見ることになったときも屠畜施設の見学が行われたときも、いずれも希望者のみの参加であるにもかかわらず相川は逃げませんでしたし、その経験をもってこのように言っています。

「もちろん根本には生き物を助けたいってのがあるけど…それ以上に人を助けたいって思った。」(『銀の匙』10巻から引用)

動物だけでなく、それに関わる人をも救いたいと家畜獣医を目指し、アキと同じ大蝦夷畜産大学を志望することになります。推薦枠での合格を目指して、二年時からは学生寮を退寮して下宿住まいをし、予備校に通おうと計画をしていました。

ホルスタイン部の部員で牛との縁も強く、勇吾が起業を試みたのちには廃牛を利用しての蹄耕法を提案しています。蹄耕法によって廃牛を養って「おいしい牛」として育て、肉牛として出荷するのです。この廃牛のおいしさは3年生次の学園祭に出した「廃牛肉100%ミニハンバーグ」の屋台で証明されます。

一方、アキと同じ大蝦夷畜産大学の推薦入試を受けましたが、これには合格できませんでした。しかし、まだ一般入試を受けるという望みがあります。学科は違いますが、急に受験が決まった勇吾と一緒に、まずはセンター試験を受けることになります。獣医になるという望みを持った相川は一般入試では無事合格できるでしょうか。

吉野まゆみ

吉野まゆみ

出典:『銀の匙12』巻

髪をおさげに結った、チーズ大好き少女です。勇吾と同級生で酪農家の娘。実家の牛乳を使ったチーズ工房を営むのが夢で、チーズに関する知識に長けています。中島先生がチーズをつくっていることを知り、先生の弱みを握って秘蔵のチーズを拝借するなど、チーズが関わることでは強引な面も見せます。

3年生に進級した頃にチーズについて学ぼうとフランスに短期留学したものの、チーズについては学べず憮然として帰国しました。しかしただでは帰らず、現地では三食とおやつに毎日チーズを食べ、そのおかげで自身が目指す味を掴みました。同じ頃にチーズ研究会の会長となり、チーズのためならと会費をどんどん使ってしまうので顧問の中島先生はここでも頭を悩ませています。

西川一

西川一

出典:『銀の匙』10巻

二次元オタクの恋愛ゲーム常習者。学生寮での勇吾の同室者です。農業科学科で学び、実家は畑作農家。アスパラガスやじゃがいもなどについて知識を披露したこともあります。恋愛ゲームのキャラクター「ニコたん」を愛し、機械が得意だからと勇吾から馬そりの手入れを依頼されたときには美少女キャラクターをペイントした「痛そり」に仕上げて勇吾からは「絵、上手いな…」と感心を得ています。

別府太郎

別府太郎

出典:『銀の匙』9巻

食品科学科で学ぶ生徒で、勇吾の同室者。食べることが好きで「良い食いもん作りたいから食品科に入った!」と言っています。走るのは苦手ですが、勇吾が娯楽室の掃除当番を失念していたときには代わりに掃除をしておくなど、人のために動くことは厭いません。

ピザづくりには初回から参加しており、食品科ならではのソースづくりなどで協力しています。勇吾が起業してはじめての収益事業であるピザ販売の際の試作にも協力し、校長室に学業の一環としてと申し出に行くなど、地味ながら大切な部分での働きを見せています。

常磐恵次

常磐恵次

出典:『銀の匙』9巻

鶏農家の息子で、勇吾の同級生。推薦で入学したものの一般教科の成績はボロボロで、勇吾の指導を受けます。殊に数学は試験で一桁の点数しか取ったことがないらしく、勇吾の指導のおかげで10点が取れたとよろこぶ一幕も。

第9巻からはじまる豚肉ファンドの発案者でありながら「お金の遣い方が残念な人」であるため出資する金がなく、犬の副ぶちょーが首につけている「おやつ代」の貯金箱から借りる羽目になり、多摩子が作成した借用書に何の疑いもなくサインしてしまったために「10日で1割」という法外な利息を支払わなければならなくなってしまいました。

稲田真一郎

稲田真一郎

出典:『銀の匙』2巻

多摩子の2歳年長の兄。勇吾たちが1年生のときの3年生です。食品科学科で無添加食品の研究をしていました。逃げた実習用の鶏を捕まえるのを勇吾たちに手伝って貰い、彼らの目の前であっさりと鶏の首を落として驚かせました。

のちに勇吾たちが捕まえた鶏をスモークチキンにして礼として渡したことから「スモークチキン先輩」と呼ばれます。そのスモークチキンを食べて無添加だと看破した勇吾を気に入り、その後も折りに触れ勇吾の手助けをします。

池田千鳥

池田千鳥

出典:『銀の匙』4巻

食品科学科の生徒で黒髪ストレートのおとなしそうな少女ですが、肉食系(文字通りの意味で)女子です。勇吾がベーコンをつくったときにはもじもじしながら「ベーコン売ってください!!」と、豚肉ファンドをはじめたときにもやはりもじもじしながら出資を申し出ていました。ピザ試食会ではベーコンがなくなると「おにく…」と涙したほどの肉食です。

大川進英

大川進英

出典:『銀の匙』12巻

勇吾の2年先輩で馬術部部長。馬術部を引退して卒業後は就職活動がうまくいかず、「誰か今すぐ社長になって俺を雇え」などと他力を恃むようなことばかり言っていました。

犬の副ぶちょーのために小屋を設計図なしで拵えたり、中島先生に依頼されてラクレットオーブンをつくったり、器用さと仕事の速さはあるものの、どうにも他力を恃み自発的には働かない傾向があります。しかし勇吾はこれを「仕事さえ与えておけばまとも」と見て、起業した会社の社長に抜擢します。

ばんえい競馬場でのピザ販売は(株)GINSAJIの初めての自社ブランド商品の展開です。そのやや赤字の売上総額をばんえい競馬に突っ込んでしまい、倍率1.1倍と僅かながらも勝ったものの、その行いに勇吾をはじめとする関係者一同から総スカンを食らうというダメ人間振りを発揮するも、普段は地道にアルバイトをして日銭を稼いでいるという堅実さもあります。

また、ほかの者たちがそれぞれに悩みを抱えている中、自分だけは悩みがないという悩みを持ちつつ、悩みがないためにありあまる暇を利用して移動可能な簡易石窯を開発、これがのちの(株)GINSAJIの大きな収入源「大川式移動石窯」となるという貢献もしていて、役に立つのか立たないのか判断しがたいながら社長の椅子は守り通しています。

豊西美香

豊西美香

出典:『銀の匙』4巻

勇吾の2年先輩で馬術部の副部長を務めていました。勇吾やアキの人柄をよく見ており、勇吾を「断れない男」、アキを「素直なわりに他人に対してあと一歩を踏み込ませない」などと的確に評して次期部長・副部長の人事を行いました。

また、勇吾とアキの間柄にも充分気づいており、バレンタインデーの時期にはバレンタインのチョコレートを勇吾が望んでいることに気づかないアキを「ひどい女だ」と言い、わざわざ馬用の鞭でカレンダーを指してアキに気づかせるということをしています。

『銀の匙』ネタバレ考察3:エゾノーに集う一癖ある面々!-教員&その他編

『銀の匙』ネタバレ考察3:エゾノーに集う一癖ある面々!-教員&その他編

出典:『銀の匙』10巻

一癖二癖ある生徒たちを統率し教えていくには教師陣も凡庸では務まりません。生徒たちを上まわる個性派揃いの教師陣+αを見ていきます。

校長

校長

出典:『銀の匙』10巻

とても小柄な神出鬼没の先生。いつもにこやかな表情と頭頂部に1本だけ伸びている髪がチャームポイントです。乗馬用の馬を所有していて馬術部に預けており、食品加工室の地下に密かに中島先生がチーズの熟成室を持っていることを知っています。

勇吾がピザづくりに関わることになったきっかけの石窯をつくった本人であると思われ、また学問研究のためと称して自ら「窯を増やさないといけませんね!」と言い出してピザ用の窯を増設したり、勇吾と1対1で対話して抱える悩みに対する考え方を示唆してみせたり、運命の導き手となっています。

中島美雪

中島美雪

出典:『銀の匙』5巻

馬術部の顧問で食品化学の担当教諭。馬大好き競馬大好きチーズ大好きで、釈迦如来のような容貌で後光を帯びて「ほほほほほ」と笑っていることが多い人です。容貌通りに穏やかで思慮と慈悲に満ちたもの言いをしますが、競馬とチーズに関することになると修羅の如きはげしさを見せます。

チーズ好きが高じて、学内のチーズ加工室を使ってチーズをつくり、地下室を熟成室として密かにチーズを貯蔵しています。学内でも一部の人しか知らないというそれを生徒の吉野に見つけられてしまい、「内密にしますんで一番良いチーズください」などと迫られたり、秘蔵したチーズをことあるごとに持って行かれてしまいます。

その後エゾノー祭で催された人間ばん馬の景品としてチーズを供出され、貯蔵庫が空になってしまったことにショックを受けて、暫く欠勤する事態に陥りました。

桜木義久

桜木義久

出典:『銀の匙』1巻

勇吾がいる1年D組の担任教諭。校則違反等には厳しい態度で臨み、夏休み明けに服装違反をした常磐に対して「停学などなまぬるい!!」と厳罰を与えました。その一方で生徒の自主性は尊重し、たとえば第2巻で行われたピザづくりなどは黙して見守るということをしていました。

エゾノー祭で倒れた勇吾の見舞いに行ったときに勇吾の父から管理不行届を断罪されたときには頭を下げて詫び、勇吾に対しても「学祭出してやれなくてごめんな」と謝罪しています。勇吾の父からは批難されましたが、責任をきちんとわきまえている人なのです。

八千代徹也

八千代徹也

出典:『銀の匙』3巻

畜産の担当教諭。スキンヘッドに眼鏡が特徴。「北海道の牛は大きくて教科書に掲載されている諸々の数値は当てにならない」として教科書を使用せずに自身が用意した資料を用いて授業を行い、優秀な成績を取るべく入学前に分厚い畜産の教科書を読破して臨んだ勇吾を愕然とさせました。また、勇吾が世話をした豚を肉として買い取ったことを知ると、屠畜場の映像を見るという自主授業に切り替えました。

富士一子

富士一子

出典:『銀の匙』9巻

豚舎を管轄する女性教諭。後ろで一つに編んだ髪にキャップにサングラスを着用、首からは認識票を提げて下半身には迷彩柄のカーゴパンツに半長靴という如何にもミリタリーめいた恰好を常にしています。銃の扱いに長け、縁日の射的では実に正確な射撃の腕を見せました。

豚について「不潔でバカなどと蔑みの代名詞として引用されるが、それは間違いだ」(『銀の匙』1巻から引用)、「ダルダルのブクブクとバカにするな。豚の体脂肪率は15%前後だ」(『銀の匙』3巻から引用)などと世間の間違った認識を正し、先入観でものごとを判断してはいけないと指導します。また、簡潔なもの言いで、豚に名をつけて育てる勇吾の甘い目測をきっぱりと断ちました。

ビールが好きで勇吾たちがベーコンやピザをつくるたびに何処からかビールを取り出して飲みはじめます。その自由な気風と勇吾たちが取り組む「どん底からの国立大学受験」や「学生起業」に影響されて、かねてより夢だったという猟師になることを目的に、勇吾が2年生を終える頃に退職しました。

白樺樹

白樺樹

出典:『銀の匙』10巻

鶏舎を管理する教諭。勇吾たち1年生の早朝実習を担当していました。髪型が鶏のとさかに似ていて、同僚の教諭から「ニワトリ先生」と呼ばれています。「俺たちのヒエラルキーは家畜よりしたなんスね…」と呟いた勇吾に「下どころではない!! おまえらは家畜のドレイだ!!」と言い切る非情さを持ち合わせます。

しかし他方で、生徒が腹を空かせているときに炊きたて飯を引っ提げて現れたり、勇吾たちのばん場づくりに加勢するなど、親切な面もあります。エゾノー祭の馬術部の催しのためにばん場をつくる手伝いをしたときの「大人だって楽しい事は大好きなんだぜ!」という言葉は馬術部のための奔走して疲弊していた勇吾の気持ちを随分和ませたようでした。

南正隆

南正隆

出典:『銀の匙』13巻

牛舎を管理する教諭。顔の下半分を覆う豊かな髭の持ち主で、がっしりした体格。外見に似合った豪放な部分があり、エゾノー祭で行うばん馬のための土地を借りたいと勇吾とアキが頼んだときは「何haほしいの?」と大きな単位で問い返していました。また、牛舎を管理しているので牛の出産にはたびたび立ち会っていて、1年生の大晦日には一緒にいた勇吾も手伝わされていました。

轟剛

轟剛

出典:『銀の匙』7巻

体育担当教諭。大柄で屈強な体格で、ボディビルダーのように均整が取れた筋肉のつき方とカールした立派な口髭が特徴です。某作品の某少佐にそっくりですが、そこには何も言わないのがお約束なのかもしれません。エゾノー祭の人間ばん馬ではほぼ一人で巨体のブラックキング号に勝つという偉業を遂げ、膂力の強さを見せました。

八軒慎吾

八軒慎吾

出典:『銀の匙』4巻

勇吾の兄。東大に現役合格したものの直ぐに自主退学してしまい、ラーメン屋に弟子入りしました。師匠に「何年かかっても究極の食材を集めて来い」と命じられ、初期型のカブで全国を巡る途上で、御影牧場でアルバイトをしている最中の勇吾と再会しました。実際にラーメンをつくってもみせましたが、味は絶望的。味覚は発達しているようですが、料理の腕は壊滅的です。

勇吾とは対照的にものごとを楽観的に捉え、要領よくこなしていくタイプ。当てなく究極の食材探求の旅をして、途中でロシア人女性アレクサンドラと結婚するなど突拍子もない行動もあります。結婚後は札幌に居を構え、インターネットを利用した家庭教師をはじめました。のちに勇吾からの依頼で南九条あやめを生徒としましたが、成果がみのらず「人生初の挫折」と口にしています。

八軒数正

八軒数正

出典:『銀の匙』11巻

八軒慎吾・勇吾兄弟の父親。一般的なサラリーマンのようですが、そうとは思えない眼力の持ち主です。目つき鋭く常に不機嫌そうな顔つきで表情を崩さないためか、初対面の人にはヤクザ扱いされ、動物は怯えてしまいます。口数が少なく、家族との会話もあまりないようです。

「学生の本分は学業である」と唱え、学業に邁進することをよしとすることが基本にあるため、期待通りに東大に合格、入学したものの勝手に退学してしまった慎吾や、進学校から農業高校へと進学した勇吾を「碌でもない」と吐き捨てます。しかし冷徹ではあるものの、口にするのは正論ばかりです。正論ではあるのですが、相手を逃げ場もないほどに追い詰めて論じ潰してしまうことが多く、勇吾は何も言い返せなくなることがほとんどでした。

しかしながら、勇吾たちを嫌っている訳ではなく、彼等の言動をよく捉えてはいるらしく、第11巻第94話「冬の巻㉛」で下宿を契約した際に勇吾が「あと2年本気でやるから見ててほしい」と言ったのを聞いた後に「本気には本気で返す」と決意を見せています。正当な働きには正当な評価を下す姿勢なのでしょう。勇吾は果たして起業によって、これまで正論をもって潰されてきた父に正当な評価をされ得るのでしょうか。

南九条あやめ

南九条あやめ

出典:『銀の匙』6巻

アキの同い年の幼馴染み。縦巻きロールの髪に艶ぼくろの美少女という少女漫画から抜け出してきたような容貌ですが、性格はかなり勝気です。プライドが高く、アキを一方的にライバル視し、ついでのように勇吾までライバル認定しています。しかし「八軒」という姓氏をなかなか覚えません。

アキに「ギャフン」と言わせるために馬術をはじめ、ドロイヤル号という白馬にまたがって馬術大会に毎回のように登場しますが、まったくの初心者でアキと直接対決することがありません。ルールもきちんと把握しておらず、ルールを読めといわれても「ルールに縛られた人生に興味などないわ!」などと言い放つ始末です。しかし、馬術大会ではなぜか毎回、観客のウケはよく、喝采を浴びて満足げではあります。

2年生時にアキが大蝦夷畜産大学を目指していることを知り、対抗して自らも受験することを宣言しましたが、エゾノーの推薦入試に落ちるほどの残念な成績の持ち主ゆえに、インターネットを介して慎吾を家庭教師としました。しかし、慎吾に「人生初の挫折」を経験させてしまったという強者です。

『銀の匙』ネタバレ考察4:エゾノー入学以降の勇吾の歩み-経験と成長

『銀の匙』ネタバレ考察4:エゾノー入学以降の勇吾の歩み-経験と成長

出典:『銀の匙』1巻

八軒勇吾は何の希望も目標も持たぬまま、エゾノーに進学しました。夢も、展望もなく、農業に関心がある訳でもありません。中高一貫の進学校である中学校在学時の進路指導の際には、「内部進学しないのか」という担任教諭の問いに対してこのように答えていました。

「他の学校に行きたいです。どこか遠い所。」
「将来の夢とか、無いですから。」
「家から出られて遠い所ならどこでもいいです。」(『銀の匙』1巻から引用)

気力もなく、自棄的。そんな勇吾に「おまえ、心が疲れてるんだな」と言って担任が紹介したのがエゾノーでした。

学校での学力競争に敗北し、気力を失ってはいたものの、勉強したものは身についていてエゾノーの一般入試にも難なく合格しました。しかし入寮したはいいが周りはみな農家の子ばかりです。家業を継ぎたいとか家業を発展させたいとか、なりたいものが決まっていてそのための勉強をしたいとか、そういった夢を持った生徒ばかりに囲まれて、夢がないことで気後れしてしまうものの、勇吾は成績で学年一番になるというささやかな野望を持って、入学前から教科書を読み込むという努力もしていました。

しかし、「教科書の数値は北海道では当てにならない」と教科書を使わないで授業を進める教師が現れるなど、勇吾の思惑通りにことは進みません。「農業」それ自体も勇吾にとってはそうです。何もかもが未体験、農家の子たちが持っている「農業の常識」も持っていません。しかしそれだけに、周囲の者が気づかないことに気づき、考えないことを考えることもあります。

実習で飼育する豚に「豚丼」と名をつけてみたり、殺して肉に加工してしまうことに葛藤したり、そういったことは農家の常識にはなく、情が移るから名をつけることはせず、殺して食べることは当たり前のことです。けれども勇吾は躊躇し、葛藤し、向き合います。そして「豚丼」を肉として自分で買い取ることにしました。その決断は屠畜現場の映像を見るという特別授業にも繋がりました。

「豚丼」1頭は51kgの肉になり、うち50kgを勇吾が自分の手でベーコンに加工しました。それによって「殺して食べる」ということにあったモヤモヤは随分すっきりしたと言いますが、ここに至るまでには別の経験もありました。

必修である部活動は馬術部を選択しました。入学早々に出会った少女、御影アキの存在がその理由ですが、理由はどうあれ馬術部では馬と向き合うということが必要になります。そうして馬にまたがることではじめて得られる感覚を体験、それを通して家畜との繋がりを学びました。

校内清掃中に石窯を見つけたことをきっかけに、多くの教員生徒を巻き込んでエゾノー産の野菜や加工食品をかき集めてたくさんのピザを焼き、おいしいものを食べることで人は笑顔になることを知りました。

夏休みにはアキの実家である御影牧場でアルバイトをして、牧場の実際を知り、鹿の解体を経験し、牛の出産に立ち会いました。どれもはじめての経験で、勇吾の思想に大きく影響しています。

そうした経験を積み重ねて、流されながらも自ら行動するうちに、勇吾はエゾノーの中心人物となっていきます。

ピザのときもそうでしたが、勇吾は一文の得にもならない仕事をどんどん引き受けてしまう傾向があります。それでなくとも実習や部活で忙しいエゾノー生の生活です。幾つもの役割を負っては多忙も極まります。馬術部ではじめて障害を跳び、馬のすごさ、すばらしさを実感した勇吾はエゾノー祭では「馬のかっこいいところを見せる」催しをしようと、ばん場をつくったり馬そりを借りたりと走りまわり、そのために周囲の者に動いてもらった対価として差し出した労働もしなくてはならず、そこに当番実習や馬術大会が重なり、ついには過労で倒れてしまいます。

その結果、エゾノー祭に出ることができませんでしたが、馬術部に設置された感想ノートで馬そりや人間ばん馬に参加した一般の人たちの感想を読み、「ありがとう」の一言に涙する一幕もありました。

その後、駒場牧場の離農に接したり、アキの夢を後押しして受験のために勉強を教えることになったりと多忙な冬に、母と再会した勇吾は言うのです。

「どんな事でも受け止められるから。」
「前の俺とは違うから。」(『銀の匙』9巻から引用)

エゾノー入学から1年と経たないうちに、勇吾は無気力で疲れた少年ではなくなりました。多くの経験をして、多少の強さも手に入れました。その自覚が表れているのです。そしてこの直後、豚肉ファンドがはじまります。

『銀の匙』ネタバレ考察5:エゾノー入学以降の勇吾の歩み-転機と起業

『銀の匙』ネタバレ考察5:エゾノー入学以降の勇吾の歩み-転機と起業

出典:『銀の匙』13巻

以前、「豚丼」を買い取ったときにつくったベーコンが好評だったため、もう一度食べたいという者が多かったのです。その者たちが「金を出すから」「手伝うから」と企画が立ち上がり、リーダーを勇吾としてプロジェクトが始動しました。みんなが少しずつ出資する、これが豚肉ファンドです。この企画は飼育、解体、加工、販売、そして実食までがワンセットとして動き、以前は映像として見た屠畜の現場を、今度は実際に臨場して見学するという経験をしました。

販売では値つけに悩み、実際に売れはしたけれども、これは「エゾノー」のブランドのおかげなのでは、と考えます。そこから「ブランド」というものについて考え、「ブランドがない者ばかりが集まって、得意とすることを分担し合ってみなで収入を上げていく」という思考に行き着きます。この考えをもとに会社を起業することを起案し、そのために2年生次からは寮を出て、下宿住まいをはじめました。

馬術部の先輩で就職先が見つからない大川を社長に据え、乳牛として価値を認められなくなった牛を蹄耕法に利用することで肉牛として価値を付加して販売する、放牧で豚を飼育して良質の肉として販売するなどの事業を行うべく、手配を進めていきます。その一方で勇吾は父に出資を願い出て、多摩子に手伝って貰いながら出資者たる父に提出するべく企画書を書いたりもしています。

学業を行い、馬術部では全国大会に出場するなど忙しくしながらも、(株)GINSAJIと名付いた勇吾の企業は少しずつですが着実に歩み、3年生時のエゾノー祭直前に、懸案だったばんえい競馬場で自社ブランドのピザを販売する日が決まります。その日は11月30日、くしくもこれまで勉強を教えてきたアキの大蝦夷畜産大学推薦入試の日です。

夢も目標もなく、ただ逃げ出してきただけだった勇吾が自発的に活動するようになり、農業を通して多くのことを学び、起業するまでになりました。エゾノー在学中に起こした企業のはじめての商品が、まだ在学中に世に出ることになります。

競馬場でのピザ販売は盛況ながら僅かに赤字を出しものの、ベーコンの売上もあり黒字に。大川がSNSを利用した宣伝を打ったおかげで移動式石窯の周知も上々。(株)GINSAJIは快調にすべり出します。

ピザ販売と同日だった入試に挑んだアキも無事合格。その報告にとって返して勇吾からの告白と、できごとの流れが急に速くなってぽんぽんと進んでいくうちに、勇吾の大蝦夷畜産大学受験も突如としてぽんと決まってしまいます。(株)GINSAJIで肉加工を行うためには食品衛生管理者の資格を持つものが必要であり、資格を取るには大学受験が必要と大川が言い出したのです。

さらには、勇吾はインターネットを介して家庭教師をしている兄に雇われてセンター試験を受けるというアルバイトをすることになっていて、受験の準備はできています。あとは、勇吾自身がエゾノーの試験ではなく一般の受験での自分のレベルを把握して合格ラインまで持っていくだけです。

とは言え、推薦入試が終わってから一般入試がはじまるまでの短期間に、それができるのでしょうか。また、一度は大学には行かないと言ったものを、受験するのだと両親に説明しなければなりません。両親、特に父は勇吾にとって大きな壁です。

勇吾の進路、(株)GINSAJIの将来。エゾノー卒業を間近にしてもなお越えなければならないハードルは次々と現れます。けれども、高いハードルが現れただけで気を落とす勇吾では、もうありません。

「……やるしか……ないよな。」(『銀の匙』14巻から引用)

決意する勇吾は空を仰ぎます。空の向こうに見えてくるものは、はたして勇吾が望むものなのでしょうか。


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生まれた街から遠くに移り住んで、エゾノーの敷地の広さに呆然としていた少年は農業を学び生命の誕生やそれ等が人の糧になるさまを目の辺りにし、葛藤しながら自分なりの解答を見出してきました。多少の自信も持てるようになり、自らの企業の始動に取り組む勇吾の明日はどちらに向かっているのでしょうか。次巻が待たれます。