高野文子のおすすめ漫画5選!代表作『黄色い本』など

更新:2021.11.7

独特な世界観を持つことで知られる漫画家・高野文子。ジャンルにとらわれないその作風に魅力を感じる方は多く、約30年以上も前のデビューからたくさんの人に愛されています。今回はそんな高野文子の漫画のうち、特にオススメの作品5冊の紹介です。

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どのジャンルにも属さない漫画家・高野文子

高野文子は、1982年に「絶対安全剃刀」で商業誌デビューを飾った後、様々な雑誌に漫画を発表しました。少年漫画や少女漫画といった枠にとらわれない独特な作風は、多くの人から注目を集めることになります。

「絶対安全剃刀」は日本漫画家協会賞優秀賞し、「黄色い本」は手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞しました。漫画作品の他、絵本や書籍の執筆なども多く行っており、2015年には児童文学作家や挿絵画家などに与えられる巌谷小波文芸賞も受賞しています。

チボー家と田舎の生活がリンクする『黄色い本』

雪国の田舎暮らしの高校生、田家実地子(たいみちこ)は、卒業を前にしたある日、学校の図書室で『チボー家の人々』を借ります。

フランスの作家であるロジェ・マルタン・デュ・ガールの長編小説『チボー家の人々』を読みながら、学校生活や、家族や、従姉妹の留美と暮らす日常を静かに見つめていく実地子。やがて、実地子の卒業の日が近付いてきます。

著者
高野 文子
出版日
2002-02-20

本作は、手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した作品です。フランスの名作『チボー家の人々』を読む実地子の目を通して、田舎の人々の生活が淡々と描かれています。表題作である「黄色い本」の他に、「CLOUDY WEDNESDAY」、「マヨネーズ」、「二の二の六」の、合計4編が収録された短編集です。

主人公の実地子は、周りから「実ッコ」や「実っつあん」などと呼ばれている平凡な女子高生。高校卒業を間近に控え、卒業後は就職をする予定でした。読書をしているせいか、ふとした拍子に難しい言葉を使い、周りからそれを指摘されることもあります。

そんな実地子の読む小説『チボー家の人々』は、カトリックの家庭で育った兄弟アントワーヌとジャック、その友人でプロテスタントの家柄であるダニエルを中心に描かれている小説です。実地子がその物語、特にチボー家の弟ジャックに惹かれ、次第にジャックの思想や生活に自分自身を重ね合わせていくようになりました。

そんな実地子の目を通して描かれる田舎の生活や、自分自身の将来や日常が淡々と描かれていく様子はとてもリアルで、読むたびに異なる読後感を味わうことができます。何度でも読み直したくなる名作です。

人生は一瞬の繰り返し『棒がいっぽん』

家電製品店を経営している44歳の奥村フミオ。ある日、食事処で見知らぬ女から突然「1968年6月6日木曜日の昼食は何を食べたのか」と話しかけられます。1968年といえば25年前のこと。フミオは19歳でしたが、もちろんそんな前の昼食に何を食べたのかなんて覚えていません。

しかし「遠久田」と名乗った女は、自分の師匠である先輩がある疑いをかけられており、その疑いを晴らすため、25年前のその日にフミオが何を食べたか思い出してもらわないといけないと迫ってきて……。

著者
高野文子
出版日
1995-07-20

本作は、1987年から1994年にかけて発表された「美しき町」、「病気になったトモコさん」、「バスで四時に」、「私の知ってるあの子のこと」、「東京コロボックル」、「奥村さんのお茄子」の、合計6編を収録した短編集です。

「奥村さんの茄子」では、主人公であるフミオが、25年も前の昼食のことを思い出して欲しいと見知らぬ女に言われ、しかもその女の正体が異星人で、奥村の昼食がアリバイ証明に必要だと言います。次から次に出てくる破天荒な設定が魅力的です。

設定に引き込まれ、読者はどんどんページをめくってしまうでしょう。そうして読み進めているうちに「ある何気ない1日の、何気ない昼食」という、フミオの人生の一瞬をハッキリと味わえるような1シーンにたどり着きます。ノスタルジックな作風から、奥深さを感じることができるはずです。

「美しき町」では、工場で働くノブオとお見合い結婚をしたサナエの夫婦を、昭和の日本を舞台に描き、「東京コロボックル」では、人間の家に密かに曲がりをしているコロボックル(小人)を描います。

ごくごくありふれた日常だったりちょっと不思議な物語だったりとしながらも、いずれも、懐かしいような雰囲気の溢れる物語です。人生の一瞬を大切にしたくなる、味わい深い物語をぜひ読んでみてください。

高野文子の代表作『絶対安全剃刀』

世の中は面白いことなんか何もなく、退屈なことばかりだと思って自殺を考える少年の前に、そんな少年をからかいながらもときどき諭そうとする眼鏡をかけた少年がいます。

死に装束を着こんだ自殺願望者の少年が、眼鏡の少年と共に迎えた結末とは……。

著者
高野 文子
出版日

高野文子が初めて出版した単行本であり、1977年から1981年にかけて各雑誌に発表された短編漫画17編が収録されています。それぞれのストーリーに繋がりがあるわけではありませんが、高野文子の世界を堪能できる1冊です。

一読ではとっさに掴みきれない作品の意味を感じようとして、何度でも読み返したくなってしまう、そんな魅力があります。はじめて自分なりの解釈に至った時に、様々な気持ちが浮かんでくるのも面白いところです。

ほのぼのとした優しい雰囲気かと思いきや、時々、ドキッとさせられるようなものがあります。独特の感覚がクセになり、ずっと手元へ置いておきたくなる1冊です。

一つ屋根の下に暮らす4人の科学者『ドミトリーともきんす』

寮母の「とも子」と娘の「きん子」の二人が営むのが学生寮「ドミトリーともきんす」。そこに住んでいるのは、湯川秀樹、朝長振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎という4人の学生でした。彼らの名前はいずれも有名な科学者たちのものですが、ここに住んでいる4人はまだ学生で、科学者の卵です。

後に科学者として名を馳せた彼らは、科学にはあまり縁のない一般の人向けの随筆を執筆しています。そんな随筆を、それぞれの科学者の目を通して紹介する読書案内漫画の決定版です。

著者
高野 文子
出版日
2014-09-24

湯川秀樹、朝長振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎の4人がプロローグと11編の短編を通し、自身の著作の内容を踏襲するように物語は進んでいきます。

科学者が自らの著作を紹介するような1冊ですが、決して科学の専門誌というわけではなく、科学に詳しくない人でも面白く読むことができるでしょう。本の紹介だけではなく、4人の科学者ととも子さんときん子の交流も、本作の面白いところです。

読書案内漫画といっても、高野文子の世界は健在。不思議な雰囲気を、ぜひ味わってみてください。

高野文子が描く、豊かな暮らし『るきさん』

バブル真っ盛りな時代の中、たぶん三十路で独身のるきさんは、在宅で保健医療の書類を処理する仕事をしています。

事務処理能力に長けるるきさんは、1ヵ月分の仕事を僅か1週間で片付け、残りの3週間は趣味の読書や切手の収集をするなど、自由気ままに過ごしていました。

そんなるきさんの家に入り浸るのは、彼女の親友でOLのえつこさんは、会社の若い後輩に片想い中。バブルの時代が持つ価値観とは少し違うけど、自分の価値観を大切にマイペースに生きる2人の日常系漫画です。

著者
高野 文子
出版日
2015-06-25

1988年から1992年にかけ、女性向け情報雑誌『Hanako』に連載、後に単行本化された作品です。

主人公のるきさんは、仕事をさせたら1ヵ月分を1週間で片付けられるほど優秀ですが、だからといって仕事にそれ以上を求めず、仕事を終えた後の残り時間は趣味に浸かったり気ままに生活したりしています。

るきさんの暮らす時代はバブル真っ盛りで、多くの人が華やかに暮らしていた頃です。そんななか、マイペースを貫き平凡に生活するるきさんの姿は、違う時代に生きる読者でも共感や憧れを抱くことができるでしょう。

るきさんとしょっちゅう一緒にいるのは、えつこさんです。2人は仲良しですが、べったりとした間柄ではなくどこかさっぱりとしていて、それも読者に気持ちの良い読後感を与えてくれているのかもしれません。

世の中の価値観に染まらず自分の価値観を貫き、贅沢ではない豊かな生活を送るるきさんに、ぜひ一度会ってみてください。

いかがでしたか? もともと高野文子の名前をご存じだった方も、初めて聞いた方も、この機会にぜひ高野文子の世界へ飛びこんでみてください。

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