芥川賞作家として小説で人気を博している川上未映子ですが、エッセイや詩などの著作も多数。この記事では小説以外の川上未映子の著作を集めてその内容や魅力を紹介していきます。ミュージシャンや女優としても活躍しており、リズミカルな文体がみずみずしい作品が揃いました。
川上未映子は、1976年に大阪で生まれ、大阪で育った女性作家です。昼間は本屋でアルバイト、夜はクラブのホステスとして働き、自らの学費と弟への仕送りを稼ぐ生活を送っていました。2002年に、歌手としてデビューした後、徐々に執筆活動も始め、2007年に『わたくし率イン歯ー、または世界』が芥川賞候補にノミネートされました。そして、翌年の2008年に『乳と卵』で芥川賞を受賞します。
以降、多数の小説や詩集、エッセイで賞を受賞しており、日本を代表する作家のひとりとして活躍しています。自我をテーマとした作品が多く、関西弁を用いた文体と相まって、リズミカルで不思議な世界観が魅力的です。
小説よりももっと直接的に川上未映子本人のことを知ることができるのがエッセイや詩の特徴。そこでこの記事では、彼女のエッセイや詩集を出版順に紹介していきます。
川上未映子の小説について知りたい方は、こちらの記事がおすすめです。
川上未映子のおすすめ小説ランキングベスト8!【2021最新】
才色兼備。この言葉が似合う作家、川上未映子。容姿の美しさはもちろんですが、小説、詩、音楽と、その才能は多岐にわたります。「女性であること」と力強く向き合う美しさを持つ言葉で綴る文章が魅力。そんな川上未映子の著作のなかからおすすめの小説をランキング形式でご紹介していきます。
芥川賞受賞作家の徒然なるままに書かれた日記。日記であり、詩であり、記録でもあり、恥ずかしさも厭らしさも惜しげもなく曝け出しています。目を覆いたくなったり、赤面させられたり、笑わされ、泣かされ、それらの感情があまりにも素直に出てくるので、まるで、目の前に川上未映子がいて、同じ時を共有しているかのようです。
そんな錯覚に陥るのは、やはり、事実を事実として感じたまま考えたままに綴っているからに他なりません。もとより、私はなぜか関西弁というものに妙な親近感を抱いており、川上未映子の、ゴリゴリではない関西弁が耳、ではなく目に心地よいのかもしれません。
- 著者
- 川上 未映子
- 出版日
- 2009-11-13
印象的な文を抜粋しようと思うのですが、多すぎて選べない事態に困惑してしまいます。付箋の量を見ていただきたいくらいです、と思っていたら丁度、これを書いている日と同じ日付の日記にとても素敵な文を見つけました。
2005年の11月6日です。タイトルは「人は多分、とても感動するものだ」とされていて、感動という言葉についての考察が記されています。
「感動。感動とは何か。感動とは感動という言葉以外の何かでしょうか、感動するのが素晴らしいと感じるのはどうしてか。とかいいつつ、それは 『素晴らしい』 というのは苦し紛れの感想であって、感動自体は素晴らしくもなんとも実はどうでもなくただそこにぽくっと生まれてじんときて、そう、なんだかじんとくるというただそれだけのことで素晴らしくもなんともない感動というのも多分存在はするのだろうと思う、と思うと世界はなんと、そういえば世界はなんと、素晴らしくもなんともない感動で満ち満ちているのだろうか、という気持ちで動けなくなり呼吸を整える。」
(『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』より引用)
素晴らしくもなんともない感動。知ってる!それ知ってる!と目を見開き、声を張ってしまいそうなほど、身近にありながらも名前の無かった感動。素晴らしく感動した瞬間です。
疑問符があまり出てこないのに、どう思います?と問われているようで、数ページ進むごとに手を止め考えてしまいます。自分ならどう思うか、どう感じるか、どう考えるか。そして、この日記を読んだ他の方々が、いったいどんなことを考えたのかを考えると、さらなる気づきに出合えそうです。それは、やはり素晴らしい感動かもしれません。
芥川賞を受賞した後の思いや、おすすめの本などの紹介と感想をまとめたエッセイです。テーマ設定に決まりはなく、 日常の些細なことに焦点を当てそれらを掘り下げていき、川上未映子が感じたことを、できるだけそのままの表現で書き記した形式になっています。
彼女の作品は関西弁満載で、次々に言葉を生み出していくのが特徴的ですが、本作は標準語が基本の落ち着いた文体となっています。
- 著者
- 川上 未映子
- 出版日
- 2012-05-10
彼女が小説で見せる独特のリズムの文章とは違い、読み進めやすい落ち着いたトーンで、静かに語られている本作。しかし、川上独自の色は決してかすんではいません。多くの作家の作品を取り上げて、ひとつひとつのエピソードを豊かに描きます。特に、太宰治について語った場面では、彼の作品に対する想いが見事に表現されていて必見です。
受賞の言葉をまとめた章には、彼女の創作の根底にあるものが表れているといえるでしょう。言葉の疑問を追い求め、感覚との矛盾と向き合い、それを音に乗せて描いていく。そんな彼女が描く日常は、鮮やかな色に染まっているのです。
週刊新潮での連載「オモロマンティック・ボム!」をまとめたものです。あとがきでも述べられていますが、川上は当初、この連載の話を持ち出されたとき、断るつもりでいました。しかし、編集者にうまく丸め込まれて連載がスタートすることになります。
「週刊誌で連載」ということを自分の能力以上のことだと感じていた彼女でしたが、いざ始まると、日々のでき事を切り取って面白く描いていきます。時事問題にも触れながら、連載らしく季節感を大切にしているのが印象的です。
- 著者
- 川上 未映子
- 出版日
様々なエピソードが登場するのですが、その中にはおかしな場面が多々あります。事故を起こしたのに代金を請求するタクシー運転手に遭遇したり、死んだハムスターを冷蔵庫に入れる友達がいたり……。そんなちょっと変わった場面に遭遇したときの、川上のツッコミが秀逸です。
連載形式のため文章にムラも出かねませんが、彼女はあえてムラを作っているような書き方をしていることに気づくでしょう。緩急をつけ、マイペースに書く健気な姿勢が伝わってくる、心温まる作品です。
本作は、読売新聞ウェブサイト「ヨリモ」での連載をまとめ、単行本化する際にいくつかの書き下ろしも加えられたエッセイです。少し変わっていて、テーマは「食」なのですが、それがメインとして据えられていないことが多いのです。
語られているのは、あくまで川上未映子の日常で、そのなかに食が登場したり、登場しなかったりします。このような状況にはもちろん本人も気づいており、「食についてのエッセイなのに……」といった嘆きもたびたび見られますが、変わらずに淡々と言葉を重ねていくのです。
- 著者
- 川上 未映子
- 出版日
- 2014-02-22
スパゲティがやたらと登場してくるような何でもない生活の中に、人間が抱えている切なさ、はかなさがしっかりと描かれています。
本作における食は、あくまで脇役です。それ自体が大きな意味を持つというよりは、物語を豊かにする、ひとつの要素に過ぎません。様々な葛藤や迷いの先にたどり着いた、繊細で丁寧な言葉たち。ちょっと触れたら壊れてしまいそうな、そんな美しさで満ちた一冊です。
美人作家としても世間から注目を集める川上。そんな彼女が女性としての目線から見た日常を赤裸々に記したのがこの作品です。堅苦しいテーマはなく、恋愛や化粧、脱毛や整形といった親しみやすい物事を取りあげて、自らの思いや考えを語っていきます。
砕けた話し言葉で書かれており、読みやすい文体であることも特徴です。
- 著者
- 川上 未映子
- 出版日
- 2013-08-08
本作の魅力は、華やかすぎない女性像が描かれていることです。お高く止まったセレブではなく、庶民派の女の子の視点で描かれており、美人作家の呼び声高い川上にも親近感を感じられるでしょう。
嬉しさや楽しさだけではなく、女性ならではのしんどさや、やるせなさも随所に見られます。しかし、そこで深刻な気持ちになるのではなく、ユーモアを添えて、前を向いて生きていこうとする彼女の姿勢が感じられるのです。
美しい装丁に惹かれてページを開くと、広がる「女子トーク」。30代になり、結婚をして出産も視野に入れた大人の女性の感性を、存分に感じることができます。
本作は35歳の川上未映子が、初めての出産から、生まれた赤ちゃんが1歳を迎えるまでを書き記した、愛の塊のようなエッセイです。出産を経験した方はもちろん、これから出産を控えた方、考えている方、また、出産の予定のない方、さらには、出産を経験できない男性の方々にも読んでほしい一冊となっています。
出産編と産後編に分かれていて、その壮絶ともいえる体験を惜しみなく書き記しています。妊娠への心構え、つわりのつらさ、現実的なお金のこと、体の変化、溢れる愛情、本当にありありと書かれているのです。
もちろんそこには、川上未映子の考えや心の変化なども切々と書かれていて、それが心に響きます。初めての出産に挑む母としての悩み、仕事を抱える女としての悩み、それらは同じ女性だからこそ通じるもの、分かり合える部分があるのかもしれません。ですが、その純粋なオブラートに包まれていない真っすぐな言葉が、すべての女性に、ある意味で共通の悩みだとすれば、これは男性にとってバイブルにもなりえる、女性の教科書なのかもしれません。
- 著者
- 川上 未映子
- 出版日
- 2014-07-09
少し本文から抜粋していきたいと思います。これは妊娠25週だということをご主人が認識していなかった時の川上未映子の言葉です。
「こっちは毎日毎日異常事態であれもこれもまじで心配しておろおろして頭おかしくなる寸前やのに男っていったいなんやねんな!」
(『きみは赤ちゃん』より引用)
続いて、帝王切開による出産後、その痛みの中朦朧としている最中の一文です。
「傷の痛みというのは人によるんだ、ということもはじめて知った。そして、つぎの瞬間に、地震やなにか大変なことが起きてもいまの自分は息子を助けに走ることもできない、なにかあっても守ることができないのだということを思うと、その恐怖に涙がでた。」
(『きみは赤ちゃん』より引用)
子育てにおける夫婦のあり方についてはこう書かれています。
「百歩ゆずって、家事は夫が外で稼いでくる賃金と相殺してもいい。けれど育児は対等に行うべきでしょう。『育児をやってくれている』『手伝ってくれている』。そういう言葉を、女性たちがなぜ思わず使ってしまうような、そんな環境になっているんだろう」
(『きみは赤ちゃん』より引用)
共感でき、考えさせられる、切実な文章が胸を突きます。
涙がこぼれるエピソードも思わず笑ってしまうエピソードも、その全てが、生まれてきた赤ちゃんへの愛情そのものなのです。子を想うからこそ、現実を見つめ、悩み、怒り、話し合い、歩んでゆく。壮絶な出産も、マタニティーブルーも、産後クライシスも、全部が愛なのです。
おおよそ1年とちょっとの期間が、この一冊に詰め込まれています。これでもかと、さらけ出した本作は育児バイブルではないかもしれません。ですが、私たちに、出産とは、女とは、男とは、と考えさせてくれるのです。
本作は中原中也賞を受賞した作品です。ストーリー性はなく、物語を語る女の子が感じたことを、リズミカルな文体に乗せて書き表しています。自らの身体からイメージが膨らむことが多く、様々な部位が登場するのも特徴です。
特に、彼女の持つ「女子の先端」は敏感で、心の動きに合わせて熱くなったり、膨らんだりといった変化をみせます。そしてそこから広がっていく言葉たちは、思わず口に出したくなるような中毒性を持っており、ふとした瞬間に浮かんできては、次の瞬間にはどこかへと消えていく、そんなはかなさを持っているのです。
- 著者
- 川上 未映子
- 出版日
- 2007-12-01
読み進めていくと、物語を語る女の子の豊かな感情に驚かされます。彼女が語る、「相手の唇を見て話すときに、身体の中の何もかもが置いてけぼりにされるという感覚」は、読者の私たちにもあるのではないでしょうか?言葉にできなかった心のもやもやした部分を、次々と解放してくれます。
独特な世界観の中で生まれる鮮やかな言葉と、それを繋いでいく見事なリズム。語り手の女の子の身体からイメージが膨らんで、自分の肉体をこれ以上ないほどに、はっきりと感じることができる作品です。
高見順賞を受賞した作品です。9つの詩が収められていますが、どれも短編小説ほどの長さがあります。最初はその不思議な展開に戸惑いを覚えるかもしれませんが、徐々に世界観に引き込まれて、自然と音を楽しめるようになるでしょう。
題名にもなっている「水瓶」では、16歳の少女が登場し、渋谷へと出かける場面から始まります。少女の鎖骨のあいだには水瓶が埋まっていて、内面とともに描かれるのですが、彼女は水瓶を置き去りにするまで家に帰れません。少女の身体にある水瓶とは、いったい何なのでしょうか?
- 著者
- 川上 未映子
- 出版日
- 2012-09-25
川上未映子の真骨頂を感じることができる作品といえるでしょう。小説のようで、小説にあらず。かといって、今まで見てきた詩とは違う、不思議な物語です。中盤には、16歳の少女が抱えていたものが怒涛のように描かれていますが、その描写を経て物語が加速していきます。
結局、水瓶とは何なのか?その答えがよく分からないまま、物語は終わりを迎えます。しかし、大切なのは水瓶を理解することではありません。少女の身体を介して溢れ出る言葉を、全身で感じてみましょう。
作家になる以前から大の村上春樹ファンだった川上が、作家として、そしてひとりのファンとして、村上にインタビューをしていく対談本です。彼女が長年抱えていた疑問や思いが、遠慮なくストレートにぶつけられ、村上もそれらの質問に丁寧に答えていきます。
村上の過去の作品の裏側に迫っていくのも見どころのひとつです。各作品で描かれている「悪」の違いや、登場人物の持つ特性の変化など、物語のより深いところに迫っていきます。2人の小説に対する考え方や取り組み方も、話をするなかで明らかになっていき、それぞれの形が見えてくるのです。
- 著者
- ["川上 未映子", "村上 春樹"]
- 出版日
- 2017-04-27
読めばすぐに、川上がかなりの「ハルキスト」であることを察することができるでしょう。積年の思いが溢れ出て、実に生き生きとした対談となっています。相当な準備をしてこの対談に臨んだことも伺えます。
しかし、いざ質問をしてみると、難解に見えていたことについても村上の答えは実にシンプル。ひとつの言葉を深読みしすぎている場面も多くみられるのです。
川上の作家としての立場からもさることながら、ファン代表としてたくさんのことを聞きたいという気持ちがびしびし伝わってきます。念願だった対談で自分の本気をぶつける姿につられ、思わず次のページへと手が動き、止まらなくなってしまうかもしれません。永久保存版、珠玉の一冊です。
独特な感性から放たれる言葉で描かれて、音に溢れる作品たち。川上ワールドに、あなたも迷い込んでみてはいかがでしょうか?