川上未映子のおすすめ著作10選!芥川賞作家の小説、詩集、エッセイ

更新:2017.7.22 作成:2017.7.22

ミュージシャンや女優としても活躍している、川上未映子。リズミカルな文体が魅力的な彼女の作品を、ご紹介していきます。

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川上未映子とは

川上未映子は、1976年に大阪で生まれ、大阪で育った女性作家です。昼間は本屋でアルバイト、夜はクラブのホステスとして働き、自らの学費と弟への仕送りを稼ぐ生活を送っていました。2002年に、歌手としてデビューした後、徐々に執筆活動も始め、2007年に『わたくし率イン歯ー、または世界』が芥川賞候補にノミネートされました。そして、翌年の2008年に『乳と卵』で芥川賞を受賞します。

以降、多数の小説や詩集、エッセイで賞を受賞しており、日本を代表する作家のひとりとして活躍しています。自我をテーマとした作品が多く、関西弁を用いた文体と相まって、リズミカルで不思議な世界観が魅力的です。

芥川賞候補にも選ばれた、川上未映子の小説家デビュー作

本作は、川上未映子の小説家としてのデビュー作となった中編小説です。歯科医院の助手のアルバイトとして働く「わたし」は、幼いころから歯を磨いたことがありませんが、恐ろしいくらいに健康的な歯を持っています。そんな彼女は、自分の本質である「私」が、歯に詰まっていると考えていました。

主人公の「わたし」には、中学時代に知り合った青木という恋人がいましたが、彼が忙しいため会えない日々が続いています。ところがある日、青木が治療のために歯医者にやってきたのです。久しぶりに彼を見た「わたし」は、同僚の忠告を無視して彼を追いかけていきます。

著者
川上 未映子
出版日
2010-07-15

青木を追いかけていった先には、彼の恋人らしき女性がいました。そして、彼らとのやり取りの中で、青木のことを思っていた「わたし」は、奥歯に存在している本質的な「私」であることに気づきます。自我の分離と直面し、混乱する主人公の姿は狂気を感じるほどに激しく、自己の消失を恐れる人間の弱さも垣間見えて、思わず身震いしてしまうような緊迫したシーンです。

物語の最後で、川端康成の『雪国』の冒頭文を持ち出し、世界について述べている部分も見事です。選び抜かれた言葉とリズムでの描写は、何度も読み返したくなる魅力と価値があります。川上ワールドのはじまりを、ぜひ体感してみてはいかがでしょうか?

思わず口ずさんでしまう、心地よい音の響き

本作は中原中也賞を受賞した作品です。ストーリー性はなく、物語を語る女の子が感じたことを、リズミカルな文体に乗せて書き表しています。自らの身体からイメージが膨らむことが多く、様々な部位が登場するのも特徴です。

特に、彼女の持つ「女子の先端」は敏感で、心の動きに合わせて熱くなったり、膨らんだりといった変化をみせます。そしてそこから広がっていく言葉たちは、思わず口に出したくなるような中毒性を持っており、ふとした瞬間に浮かんできては、次の瞬間にはどこかへと消えていく、そんなはかなさを持っているのです。

著者
川上 未映子
出版日
2007-12-01

読み進めていくと、物語を語る女の子の豊かな感情に驚かされます。彼女が語る、「相手の唇を見て話すときに、身体の中の何もかもが置いてけぼりにされるという感覚」は、読者の私たちにもあるのではないでしょうか?言葉にできなかった心のもやもやした部分を、次々と解放してくれます。

独特な世界観の中で生まれる鮮やかな言葉と、それを繋いでいく見事なリズム。語り手の女の子の身体からイメージが膨らんで、自分の肉体をこれ以上ないほどに、はっきりと感じることができる作品です。

日常のあれこれを詰め込んだ川上未映子のエッセイ

芥川賞を受賞した後の思いや、おすすめの本などの紹介と感想をまとめたエッセイです。テーマ設定に決まりはなく、 日常の些細なことに焦点を当てそれらを掘り下げていき、川上未映子が感じたことを、できるだけそのままの表現で書き記した形式になっています。

彼女の作品は関西弁満載で、次々に言葉を生み出していくのが特徴的ですが、本作は標準語が基本の落ち着いた文体となっています。

著者
川上 未映子
出版日
2012-05-10

彼女が小説で見せる独特のリズムの文章とは違い、読み進めやすい落ち着いたトーンで、静かに語られている本作。しかし、川上独自の色は決してかすんではいません。多くの作家の作品を取り上げて、ひとつひとつのエピソードを豊かに描きます。特に、太宰治について語った場面では、彼の作品に対する想いが見事に表現されていて必見です。

受賞の言葉をまとめた章には、彼女の創作の根底にあるものが表れているといえるでしょう。言葉の疑問を追い求め、感覚との矛盾と向き合い、それを音に乗せて描いていく。そんな彼女が描く日常は、鮮やかな色に染まっているのです。

いじめ問題と向き合った川上未映子の代表作のひとつ

主人公は14歳の「僕」。斜視が原因で周りからは「ロンパリ」と呼ばれ、いじめを受けていました。ある日、容姿が良くないためにいじめを受けていた女の子・コジマから、「私たちは仲間です」と書かれた手紙が届きます。この手紙をきっかけに、2人は交流を深めていくことになりました。

コジマとともにいじめに耐える毎日を送ってきた「僕」でしたが、いじめによる怪我の治療で行った病院で、手術をすれば斜視が治せることを知ります。いじめの原因を治せることを知った一方で、コジマと結んだ友好関係が崩れることを恐れた「僕」は、今後について悩み始めて……。

著者
川上 未映子
出版日
2012-05-15

芸術選奨文部科学大臣新人賞、紫式部文学賞を受賞した、非常に評価の高い作品です。いじめ問題に正面から向き合っており、実に残酷で生々しい惨状が伝わってきて、思わず目を背けたくなる場面もあるかもしれません。

そのような過酷ないじめを受けながらも「僕」とコジマは親睦を深めていくのですが、エスカレートするいじめを受容する態度を取るコジマの姿が印象的です。彼女の持つ思想はどこか宗教を感じさせるものがあり、他の人とは違った場所から物事を見ています。彼女の存在によって、人間の強さや弱さとはなにかを、問題提起しているのです。 

悩みぬいた末に、「僕」はある決断を下します。しかし、それが正しい決断であるかどうかは、誰にも分かりません。いじめを通して語られる、善と悪。人間の本質について考えさせられる名作です。

日常の中にあるおかしさを描く

週刊新潮での連載「オモロマンティック・ボム!」をまとめたものです。あとがきでも述べられていますが、川上は当初、この連載の話を持ち出されたとき、断るつもりでいました。しかし、編集者にうまく丸め込まれて連載がスタートすることになります。

「週刊誌で連載」ということを自分の能力以上のことだと感じていた彼女でしたが、いざ始まると、日々のでき事を切り取って面白く描いていきます。時事問題にも触れながら、連載らしく季節感を大切にしているのが印象的です。

著者
川上 未映子
出版日

様々なエピソードが登場するのですが、その中にはおかしな場面が多々あります。事故を起こしたのに代金を請求するタクシー運転手に遭遇したり、死んだハムスターを冷蔵庫に入れる友達がいたり……。そんなちょっと変わった場面に遭遇したときの、川上のツッコミが秀逸です。

連載形式のため文章にムラも出かねませんが、彼女はあえてムラを作っているような書き方をしていることに気づくでしょう。緩急をつけ、マイペースに書く健気な姿勢が伝わってくる、心温まる作品です。

川上未映子初の長編恋愛小説

主人公は、校閲の仕事をする34歳の独身女性、入江冬子です。交友関係は狭く、今までにお付き合いしてきた男性も1人だけ。特にこれといった趣味もなく、家に帰っても部屋にこもり、原稿の直しをひたすらする生活を送ってきました。

そんな彼女でしたが、ある日、チラシで見かけた新宿のカルチャーセンターに出向きます。しかし、飲んできた日本酒の影響で体調を崩し、その場で嘔吐してしまいました。そこで彼女を助けたのが、高校で物理を教える50代の男、三束です。このでき事をきっかけに、2人はたびたび会うようになり、冬子の感情にも変化が出てきます。

著者
川上 未映子
出版日
2014-10-15

川上未映子初の長編恋愛小説です。さえない30代の女性を主人公とする物語は、淡々としたトーンで進み、三束との出会いをきっかけに少しずつ揺らいでいく気持ちが細やかに表現されています。

この作品のキーワードは「光」です。冬子の歩んできた人生は薄暗い闇で覆われており、この先の希望もなく、毎日が同じことの繰り返しだと思っていました。しかしちょっとした出会いから、そんな彼女の人生にもかすかな光が差し込みます。ほんの少しの光でも、生きていくための糧となるのです。

緻密に描かれる、人間が抱える孤独と温かさ。その狭間で揺れる冬子は、三束との関係をどのような形で続けていくのでしょうか?切なさで胸が苦しくなる、ひとりの夜にじっくりと読みたい一冊です。

不定形、不文律、型にはまらない魅力

本作は、読売新聞ウェブサイト「ヨリモ」での連載をまとめ、単行本化する際にいくつかの書き下ろしも加えられたエッセイです。少し変わっていて、テーマは「食」なのですが、それがメインとして据えられていないことが多いのです。

語られているのは、あくまで川上未映子の日常で、そのなかに食が登場したり、登場しなかったりします。このような状況にはもちろん本人も気づいており、「食についてのエッセイなのに……」といった嘆きもたびたび見られますが、変わらずに淡々と言葉を重ねていくのです。

著者
川上 未映子
出版日
2014-02-22

スパゲティがやたらと登場してくるような何でもない生活の中に、人間が抱えている切なさ、はかなさがしっかりと描かれています。

本作における食は、あくまで脇役です。それ自体が大きな意味を持つというよりは、物語を豊かにする、ひとつの要素に過ぎません。様々な葛藤や迷いの先にたどり着いた、繊細で丁寧な言葉たち。ちょっと触れたら壊れてしまいそうな、そんな美しさで満ちた一冊です。

これぞ川上未映子の真骨頂!新感覚の「詩集」 

高見順賞を受賞した作品です。9つの詩が収められていますが、どれも短編小説ほどの長さがあります。最初はその不思議な展開に戸惑いを覚えるかもしれませんが、徐々に世界観に引き込まれて、自然と音を楽しめるようになるでしょう。

題名にもなっている「水瓶」では、16歳の少女が登場し、渋谷へと出かける場面から始まります。少女の鎖骨のあいだには水瓶が埋まっていて、内面と共に描かれるのですが、彼女は水瓶を置き去りにするまで家に帰れません。少女の身体にある水瓶とは、いったい何なのでしょうか?

著者
川上 未映子
出版日
2012-09-25

川上未映子の真骨頂を感じることができる作品といえるでしょう。小説のようで、小説にあらず。かといって、今まで見てきた詩とは違う、不思議な物語です。中盤には、16歳の少女が抱えていたものが怒涛のように描かれていますが、その描写を経て物語が加速していきます。

結局、水瓶とは何なのか?その答えがよく分からないまま、物語は終わりを迎えます。しかし、大切なのは水瓶を理解することではありません。少女の身体を介して溢れ出る言葉を、全身で感じてみましょう。

川上未映子の女性目線から描いたエッセイ

美人作家としても世間から注目を集める川上。そんな彼女が女性としての目線から見た日常を赤裸々に記したのがこの作品です。堅苦しいテーマはなく、恋愛や化粧、脱毛や整形といった親しみやすい物事を取りあげて、自らの思いや考えを語っていきます。

砕けた話し言葉で書かれており、読みやすい文体であることも特徴です。

著者
川上 未映子
出版日
2013-08-08

本作の魅力は、華やかすぎない女性像が描かれていることです。お高く止まったセレブではなく、庶民派の女の子の視点で描かれており、美人作家の呼び声高い川上にも親近感を感じられるでしょう。

嬉しさや楽しさだけではなく、女性ならではのしんどさや、やるせなさも随所に見られます。しかし、そこで深刻な気持ちになるのではなく、ユーモアを添えて、前を向いて生きていこうとする彼女の姿勢が感じられるのです。

美しい装丁に惹かれてページを開くと、広がる「女子トーク」。30代になり、結婚をして出産も視野に入れた大人の女性の感性を、存分に感じることができます。

川上未映子×村上春樹

作家になる以前から大の村上春樹ファンだった川上が、作家として、そしてひとりのファンとして、村上にインタビューをしていく対談本です。彼女が長年抱えていた疑問や思いが、遠慮なくストレートにぶつけられ、村上もそれらの質問に丁寧に答えていきます。

村上の過去の作品の裏側に迫っていくのも見どころのひとつです。各作品で描かれている「悪」の違いや、登場人物の持つ特性の変化など、物語のより深いところに迫っていきます。2人の小説に対する考え方や取り組み方も、話をするなかで明らかになっていき、それぞれの形が見えてくるのです。

著者
["川上 未映子", "村上 春樹"]
出版日
2017-04-27

読めばすぐに、川上がかなりの「ハルキスト」であることを察することができるでしょう。積年の思いが溢れ出て、実に生き生きとした対談となっています。相当な準備をしてこの対談に臨んだことも伺えます。

しかし、いざ質問をしてみると、難解に見えていたことについても村上の答えは実にシンプル。ひとつの言葉を深読みしすぎている場面も多くみられるのです。 

川上の作家としての立場からもさることながら、ファン代表としてたくさんのことを聞きたいという気持ちがびしびし伝わってきます。念願だった対談で自分の本気をぶつける姿につられ、思わず次のページへと手が動き、止まらなくなってしまうかもしれません。永久保存版、珠玉の一冊です。

独特な感性から放たれる言葉で描かれて、音に溢れる作品たち。川上ワールドに、あなたも迷い込んでみてはいかがでしょうか?