深い死生観で人気を集める作者には、「生きること」を力強く描いた作品が多くあります。SFからファンタジー、スポーツ漫画と幅広いジャンルの作品を手がけていますが、今回はそんな作品のうち、おすすめの4作品を選んでみました。
学生時代は美大に在籍して画家を志望していましたが、大学院時代にその夢を諦め、漫画を描き始めたそうです。
在学中に執筆し、デビュー作となった『カラスと少女とヤクザ』でコンテストに入賞した後に、1997年より代表作となる『EDEN』をスタートさせます。
「生きること」を赤裸々に描きだしたSF作品『EDEN』は、10年を超える長期的な連載となりました。
その他にも、『メルトダウン』や『オールラウンダー廻』など、生と死を見つめる話題作を次々と発表し、人気作家として活躍しています。
代表作である『EDEN』は、正体不明のウイルスにより人類が世界人口の15%を失うという、危機的状況の世界を舞台に描き出されるSF漫画です。
荒廃していく世界のなかで、懸命に生きる人類を壮大なスケールで描く本作は、主人公・エリヤの父母であるエノアとハナとの物語からスタートし、エリヤの物語へと世代を超えて紡がれていきます。
- 著者
- 遠藤 浩輝
- 出版日
- 1998-04-21
エノアとハナの物語から20年後の世界では、「プロパテール」と名乗る組織が国連に変わって国家を統治しています。しかし、さまざまな問題が頻発しており、「反プロパテール組織」も存在するなど、治安の安定しない状態がつづいていました。
そんななか、ロボットの「ケルビム」と旅をしていたエリヤが、ひょんなことから子どもの死体を見つけ、その肋骨にくっついていたディスクを手にしたのをきっかけに、物語は急展開を迎えていくのです。
プロパテールと対立する組織と、同じく対立する父親・エノアがいるエリヤは協力関係を結び、全面対決へと進んでいきます。
プロパテールの正体とは?ウイルスの秘密とは?ディスクの中身とは?と、多くの謎に包まれた物語が進行していくにつれ、しだいに「空白の20年間」が明らかになっていきます。
理不尽な世界で必死にもがく人間たちの、泥臭く切ないストーリーが紡ぎだされたおすすめの一冊です。
人類が吸血族に支配されている世界を舞台にした『ソフトメタルヴァンパイア』は、人類と吸血族、さらにその混血児たちの争いや交流を描き出すSF漫画です。
幼い頃から、金属を自在に操る能力を持っていた主人公・斎美井香が、16歳になると課せられる「納血の義務」による採血を受けるところから、物語は動き出します。
- 著者
- 遠藤 浩輝
- 出版日
- 2016-11-30
美井香は、吸血族の存在を脅かす「銀」を操る能力を持っている、唯一の人間でした。そのため吸血族から暗殺の対象とされてしまい、命を狙われる羽目に!序盤からワクワクする展開がくり広げられます。
また、登校中に「僕の子供を沢山生んでくれるかい?」と口走り、スカートの中に手を突っ込む謎の変態少年・アランとの出会いが、美井香の運命を左右することになっていくのです。
アランは、何と美井香と同じ学校の転校生としてやってくるのですが、その直後、吸血族による無人機の攻撃によって教室が血の海に……! アランによって襲撃から難を逃れた美井香は、図らずも戦いに巻き込まれていくことになります。
人類と吸血族との戦いの行方は、果たしてどのように終結するのか? 怒濤の展開から目が離せません。
本作は、総合格闘技「修斗」に打ち込む高校生の姿を描いた、本格格闘技漫画です。
何となく「修斗」を始めた主人公の高柳廻が、半ば強制的に出場させられたアマチュアの大会で、小学校時代の友人であり、長く離れて暮らしていた幼馴染みの喬と出会うところからストーリーが展開していきます。
オールラウンダー廻
2009年04月23日
幼馴染みとの出会いを懐かしく感じる廻とは違い、ひたすら強くなることを求めて過ごしてきた喬は、昔と違ってストイックで厳しく、さらに「昔から嫌いだった」と廻を敵視するようになっていました。
そんな旧友2人が対戦することになったことがきっかけで、廻の心情にも変化が現れます。
強さを求める喬に触発され、打ち込めるものを見つけられなかった廻が、修斗を通じてライバルや仲間たちと一緒に精神的にも肉体的にも成長していく姿が見どころです。
それほどメジャーではない総合格闘技を身近に感じさせる内容はもちろん、リアリティある試合展開や、努力と情熱を注ぐ廻や喬の姿に胸を打たれます。
「もっと強くなりたい」と願う、男たちのアツい試合模様に手に汗握る展開は必見ですよ。
作者のルーツともいえる、デビュー作を含め3作品が収録されています。遠藤浩輝初の短編集となる本作です。
「カラスと少女とヤクザ」、「きっとかわいい女の子だから」、「神様なんて信じていない僕らのために」の3作はどれも青臭く「生」を色濃く実感させる作品ばかり収録されています。
- 著者
- 遠藤 浩輝
- 出版日
- 1998-04-21
3つの作品全てに共通する「生」や「性」、そして「死」など遠藤の死生観がよくわかる内容になっていますが、特にラストの1作「神様なんて信じていない僕らのために」の、大人と子どもの狭間で揺れ動く若者たちの心理描写は秀逸です。
とある大学の演劇サークルを舞台に、公演の様子と関係者の会話を交互に綴ったストーリー展開で、淡々と進んでいく物語の根底に漂う退廃的なカタルシスを感じることができます。
子どもでもなく、大人にもなりきれない時代を題材にして、「生きづらい生を生きる」ということを描き出しているからこそ、心を抉るのでしょう。
さらに、収録されているすべての作品にいえることですが、過激な性描写やグロいシーンが頻繁に描写されているところも、「生きることの苦しみ」を感じさせるエッセンスとなっています。
青臭く自我を抉り出す登場人物ばかりが描かれた、赤裸々な物語集、おすすめです。
生と死を通じて、「人間」そのものを描き出す遠藤浩輝の作品は、まだまだたくさんあります。今回ご紹介した漫画に興味を持ったら、ぜひ1度手に取って読んでみてください。遠藤浩輝が描き出す、いつまでも心に残り続ける珠玉の物語に出会うことができますよ。