意外と堅くない? 新書の世界

意外と堅くない? 新書の世界

更新:2021.11.30

第一印象ってやつは厄介だ。初めて会った時に好印象を残すのが基本的には良いだろうが、そうすると少しでも駄目な部分を見せてしまったときに、こんな人だとは思わなかったと幻滅されることもある。減点方式である。

2013年夏、西千葉駅前整骨院でバンド結成。Dinosaur Jr.とThe Strokesが恋人同士になったような、そこから紆余曲折を経てThe LibertinesとHappy Mondaysが飲み友になってしまったかのような、まるで、ビバリーヒルズ青春白書的な、なんでもありなニューオルタナティブサウンドを特徴とする。 シャンプーをしながら無意識で口ずさむぐらい、曲がポップ。そして、正統派ソングライターの橋本の歌詞はぐっとくるばかりか、歌詞内のさりげない小ネタにも知的センスを感じてしまう。 2014年上旬から数々のオーディションに入賞し、UK.PROJECT主催のオーディションにて、応募総数約1000組の中から見事最優秀アーティストに選出され、同年12月10日にUK.PROJECTから2曲入り8cmシングルをリリース。2015年3月18日にファーストミニアルバム『olutta』をリリースし、FX2015、VIVA LA ROCK2015、MUSIC CITY TENJIN2015への出演を果たす。同年12月18日にはシングル『TVHBD/メリールウ』をライブ会場と通販のみ限定500枚でリリースしたが、3ヶ月ですべて完売。2016年6月8日にファーストマキシシングル『友達にもどろう』をリリース。同年10月26日にファーストアルバム『ME to ME』をリリースする。 Helsinki Lambda Club HP http://www.helsinkilambdaclub.com
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先入観だけで価値を決めるのはいささか早すぎるという話

最初が悪印象の場合、加点方式になるので少しでも良い面を見せられれば評価が上がりやすい、と単純にいくかというとそんなことは稀で、先に悪印象が心の中に出来上がると接すること自体極力避けてしまうし、何をしても何となく気に食わないと思ってしまうのが人情でもある。

私は10代の頃、概ね第一印象が悪い子供だった。小学生の頃は、元気が有り余っていたことと少し周りよりませていたこともあってか妙なフラストレーションを持て余しており、腕力など皆無なのに妙に威張ってガキ大将的なポジションになっていた。

中学に上がる頃には思春期に突入し精神的な紆余曲折を経て、元気はありつつもいじられ側として卑屈な道化に徹底することとなった。

高校で進学校に入ると、過去の自分の新学期におけるスタートダッシュのかけ方を省みたことや文学にかぶれてきたこともあり、スクールカーストから離れたところで過ごしていたところ、卒業時のクラスアンケートみたいな冊子の中の「ミステリアスな人」ランキングで第二位に入選してしまった。

歳を経るごとにその割合は減ってきたと思うが、かつての第一印象を知人に聞くとたいてい「良くなかった」との声が返ってくる。

明るく振舞おうとすると調子に乗りすぎていけすかないイメージがつくし、落ち着こうとすると心を閉ざしすぎてとっつきにくいという具合に、自分を出すうえでのバランスがまったくとれていなかったのだ。

幸い大人になった今でも、極僅かではあるものの昔からの友人もいるが、かつての人間関係で後悔することは数多くある。自分の違う面を見て欲しかったという気持ちも、あの人本当はもっと面白い人間だったんじゃないかという回顧も。

こういった印象をめぐる体験は人間関係以外にも当てはまる。僅かな先入観や印象でなんとなく遠ざけていた本、映画、音楽等々。今回は、専門的だったりおっさんが読むものだったりという印象で敬遠している人が多いかもしれない“新書”というジャンルに少しだけ触れてみようと思う。

カラダの大きさや形には全て理由がある

まず初めに、生物はカラダの大きさによって流れる時間が違うということをご存じだろうか。とても抽象的な言い方になってしまったが、カラダの大きい動物ほど長生きし、小さい動物の方が寿命が短いことはおそらく周知の通りだろう。

ただその長い短いというのは人間が定めた時の刻み方、物理的時間においての概念であり、動物哺乳類の寿命を呼吸する時間で割ると、カラダのサイズによらず、ほぼ一生の間に約五億回なのだそうだ。

つまり、人間が自分たちのサイズに応じて定めた時間の流れにおいては寿命が長いもしくは短いという考え方が当てはまるが、鼓動の数を基準に考えるとそれぞれの大きさの動物にはそれぞれの時間が流れており、生きた体感としては同じくらいなのではないかということらしい。

このように生物の大きさや時間の話、なぜその大きさになったのか、なぜその形に進化を遂げたのかというような話が沢山書かれている。

私は理数系がまったく駄目でセンター試験の数ⅡBも32点という真っ赤な点数でなんとか文系の学部に滑り込んだ身なので、数式やグラフなどで説明する学術的な部分になると反射的に何度も本書を閉じたのだが、数式などとばして読んでも言いたいことはすでに言葉でわかりやすく説明してあるし、ユーモアを交えて語られているため完全な文系人間にも楽しんで読むことができるはず。

違う時間、違う生き方があるということを認識するのは、他者理解にとって極めて重要なことだと思う。

著者
本川 達雄
出版日

可愛い顔して恐ろしいやつ

学生時代、始業式や終業式などの節目節目に校長先生からの“ありがたい”お話があったかと思うが、数々のエピソードの中で覚えているものが一つでもあるだろうか。私はない。

冒頭の第一印象の話とも少し繋がるが、夏の暑い時期または冬の寒い時期に体育館に無理やり押し込まれて長い間一言も話さずに立ったり座ったりを強いられるという状況下で、誰が積極的にこの状況を生み出している張本人の話を心待ちにして聞くことがあろうか。

早く終わることを願うばかりだろうそして得てしてこういった挨拶はダンテの神曲が始まったかと思うほど長い。

どんなに意義深い話をしていたとしても、よっぽど面白いか人望に厚くない限り、面白い話として受け取ってもらうことはかなわず、ネガティブな夏の風物詩として心を一瞬かすめて消えていく。

プロパガンダとは、特定の思想・主義・行動などへ誘導する意図を持った政治的な行為、宣伝である。そんな堅苦しくも胡散臭いものを強要されても、むしろ反撥したくなるのが人の心。

戦時中のプロパガンダ作戦にはそれらを堅苦しいまま軍歌にしたりポスターにしたりしたものも多々あるが、それらはやはり国民の士気を高めるのにはあまり役立たなかったものが多い。

校長先生の“ありがたい”話と同じである。上からものを言われてもなかなか聞き入れられない。そんな中でプロパガンダ政策に目をつけられたのが、娯楽の世界だ。お笑いや歌謡、漫画に映画と様々なエンタメ作品の中にあらゆる思想や価値観がさりげなく盛り込まれた。

国民はそれを楽しく消費している間に気付けばプロパガンダに染まっているという塩梅である。本書では日本及びプロパガンダ国家ソ連や北朝鮮など世界のあらゆるプロパガンダに用いられた娯楽を紹介し、近年の宗教における新しいプロパガンダの利用法やそれらからの身の守り方などについても言及している。

何でも疑ってかかっては人生味気なく感じるが、知らず知らずに洗脳されてしまわないためにも、常に思考するという習慣は大事だと思う。

著者
辻田真佐憲
出版日
2015-09-10

阿川佐和子の可愛さを堪能せよ

新書というと学術的なものも多いけど、「〇〇する力」みたいな自己啓発っぽいシリーズのものも多い。大学受験の際ユングの心理学に若干心を委ねていた不安定な一面を持つ私なので、自己啓発ものが正直嫌いではない、というかトライしてしまうこともかつてあった。

本書もタイトルからは聞き上手になるためのノウハウが書かれているのだろうと推測するだろうが、まえがきからその予想はたやすく裏切られる。

確かに話を聞くうえでのコツのようなものは三つの章に整理して書かれてはいるが、基本的には阿川佐和子氏の経験してきた失敗や印象に残ったエピソードなどを通じて、話を聞くというのはどういうことなのかが綴られている。

もともと阿川氏のことはテレビなどで拝見していて、知的だけどお茶目で素敵な方だなと静かに思慕の念を抱いていたのだが、本書を読むとその文章の語り口が、氏が直接自分に話しかけてくるような感じで、心地よいし可愛らしいなとドキドキするし、すらすらと読み終えてしまう。

仮に聞く力が身につかなかったとしても、阿川氏が素敵な人だとよくわかるし、新書を一冊読めたという自信にもつながると思うので、新書デビューにもおすすめ。
著者
阿川 佐和子
出版日

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    バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。

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