『斉木楠雄のΨ難』は、超能力者が登場する作品です。となるとバトル物を想像しますが、本作はギャグ漫画。個性的なキャラクターばかりが登場し、ゆるくも賑やかな日常を送っています。こちらでキャラクターの魅力を徹底紹介、ネタバレにご注意ください。
本作は超能力者が登場するギャグ作品。主人公である斉木楠雄(さいきくすお)は、自身が超能力者であることを、なるべく知られないように生活しています。周囲に紛れ、平凡に生きるよう心がけており、彼がやむを得なく超能力を使うのは、自身に危機が迫った時や、超能力者であることがバレそうになった時だけでした。
本作において、斉木の役割は何かと言えば、ツッコミです。作中には、「超能力者」という強い個性を持つ斉木の存在さえ凌駕する、個性的なキャラクターばかりが登場します。そんな強烈なキャラクターたちが繰り出す、世間の常識からはかけ離れた行動や発言を相手に、斉木の鋭いツッコミが冴え渡るのです。
- 著者
- 麻生 周一
- 出版日
- 2012-09-04
漫画のキャラクターのセリフは、主に吹き出しを使って表現されます。しかし、斉木が口を開くことはほぼありません。
コマの隅にある四角の「モノローグ」と呼ばれる枠でのみ発言しており、その内容はおおよそ、他のキャラクターに対するツッコミです。彼のツッコミは、クールな性格も相まって淡々としていますが、とても的確でテンポが良く、瞬発的なネタに笑いのツボが刺激される読者も少なくありません。
美少女、イケメン、優しい心の持ち主など、羨ましいステータスを備えた面々が主な登場人物として現れますが、それぞれの性格にクセがありすぎるせいで、ほぼ全員がギャグ要員です。嫌味なキャラクターですら、ギャグ漫画のキャラクターとして不快感無く受け入れられます。
物語のベースには、日常系ギャグ漫画のゆるさがありますが、斉木が超能力者であるため、扱えるネタや物語の幅がグンと広がっています。身近に感じられる学校生活のなかで、個性的なキャラクターたちのギャグが飛び交う、笑いどころ満載のシリーズです。
- 著者
- 麻生 周一
- 出版日
- 2015-08-04
斉木楠雄は、PK学園に通う高校生。2年巛組(3組という意味)に進級し、ごく普通の生活を送っていました。
斉木は人類を滅亡させるほど強力な超能力を持っていますが、その事実を家族以外には知られることがないよう秘密にしています。正体がバレないための超能力を駆使して、ごく静かに穏やかに日常を過ごそうとしていました。
しかし、せっかく平凡を装っている斉木を周囲が放っておいてくれません。ある日彼は、何事にも熱心に取り組む、熱血漢な学級委員長、灰呂杵志(はいろきねし)と関わりをもってしまいました。それからというもの、クラスメイトと距離を置くことができなくなり、惚れっぽくてロマンチストな夢原知予や、自信過剰な腹黒な完璧美少女の照橋心美(てるはしここみ)に好意を抱かれてしまいました。
個性的すぎるクラスメイトやPK学園に通う学生たちは、斉木の静かな生活を粉砕していきます。
斉木に弟子入り志願して断られた鳥束零太(とりつかれいた)や、斉木を「相棒」と呼ぶ金髪モヒカン男子の燃堂力(ねんどうりき)、高校デビューを模索した結果、重度の中二病となった海藤瞬(かいどうしゅん)といったキャラクターが、斉木を賑やかな学園生活に巻き込んでいきます。
斉木の家族も登場し、とにかく周囲は賑やか。およそ静かな生活を望めなさそうな中で、斉木のツッコミが冴えわたる日常生活ははじまりました。
今回は、主人公斉木楠雄と個性的すぎるキャラクターの魅力についてご紹介いたします。
本作の主人公、PL学園2年巛組所属の斉木楠雄は、8月16日生まれ、身長167㎝、体重52㎏です。本気になれば人類を3日で滅亡させることも可能、という強力な超能力保持者であり、そのため身長と体重は、自在に変えることができるのだとか。ピンクの髪と2本のアンテナのような緑の突起、制御装置が特徴です。常に緑色のレンズが入っている眼鏡をしている眼鏡男子でもあります。
趣味は創作物の鑑賞で、好物は甘いものです。特にコーヒーゼリーを理性をなくすほどに好んでおり、毎月お小遣いのやりくりには苦労しているそうです。嫌いなものは昆虫で、特にゴキブリが大嫌い。家にゴキブリが出没すると、超能力を駆使して遠方に逃亡することもありました。
生まれつき強い超能力を持っており、赤ん坊のころから7分間宙に浮いていた、などの逸話に欠きません。一度見たところなら(写真や映像でも)どこでも移動できる「瞬間移動」や、物を動かすことができる「サイコキネシス」といった物理的能力だけでなく、精神に働きかけるものまで、様々な能力を使うことができます。
- 著者
- 麻生 周一
- 出版日
- 2015-10-03
しかし、見た夢は100%現実になる「予知夢」や、手が触れたところの残留思念を読み取ることができる「サイコメトリー」のことを、「最も不要な最低最悪の能力」と言うなど、自身の持つ能力全てを肯定的に受け入れているわけではない、ということが窺えます。
ちなみにピンクの髪や頭部のアンテナなど、明らかに普通の人にはついていないものを「違和感が無いように見せている」のも、超能力によるマインドコントロールです。不自然なことを自然と思わせる力があり、斉木が日常生活を送る手助けをしています。
斉木は特殊な能力の影響か、少々斜に構えたところがあり、喜怒哀楽などの感情を、あまり表情に出すことがありません。「生まれながらにすべてを奪われた人間」と自称しており、全能だからこそ不自由で、誰かと分かり合うことが難しい、孤独な存在でもあります。
現に能力を隠す意味も含めて、周囲の人間に対して距離を置き、なるべく目立たないようにするなど、地味な努力も続けてきました。しかし、距離は置いても人間嫌いなわけではなく、正直な善人に対しては好意を持っています。逆に、腹黒い人間や外面だけが良い人に対しては、わりと辛辣です。しかし、好かない相手だからといって全てを否定をするわけではなく、本人の努力している点を認める、柔軟な思考を持ち合わせています。
斉木は、その特殊な生い立ちから、完全に分かり合える相手を持つことは難しい人物です。設定だけを見ると、孤独の滲む重い雰囲気の主人公だと思ってしまいそうですが、そこはギャグ漫画。斉木も自身の人生を悲観しすぎることもなく、慕ってくる者を必要以上に拒むことはありません。人と距離を置きたい、と思っていながらも、困っていれば超能力で助けてあげる、お人好しな面が微笑ましく感じられるキャラクターです。
- 著者
- 麻生 周一
- 出版日
- 2012-12-04
超能力を使ってまで、目立たたないように生活したかった斉木でしたが、なぜか多くの人と関わりを持つ事態となり、賑やかな日常生活を送ることとなります。そのなかに、超能力でどんな相手の思考でも読み取ることができる斉木が、唯一それができない人物がいました。それが燃堂力です。
燃堂は、斉木のクラスメイトです。身長191㎝、アゴは割れ、虎刈り上げに金髪のモヒカン、さらにはうっすら髭も生えており、およそ高校生には見えない外見の持っています。その強面な容姿からか、まったく女子にモテません。老け顔でもあるため、よく大人に間違われます。
不良っぽい外見をしていますが、実際はそんなことはありません。悪いことができないというよりも、悪いことを思いつかないという、根っからの善人です。不良に絡まれた斉木を助け、溺れていた女性を助け、子どもとはぐれた犬の飼い主を捜してやるなど、その行動は善意に溢れています。
言葉遣いはあまり良くなく、加えて強面なため、良かれと思った行動が裏目に出たり、不良扱いされたりしまうのは、かわいそうなところ。しかし、あまり周囲の事を気にしていない、大らかさも持っています。勉強は不得意なおバカキャラで、彼の素っ頓狂な発言に読者は笑いを誘われるでしょう。
不良に見えて実はとても善人であるという他にも、喧嘩は弱いけれど運動神経は抜群で、野球部からは即戦力として勧誘されるなど、燃堂はギャップの多いキャラクターです。父を幼い頃に亡くしており、母子家庭で母と2人暮らしという境遇ですが、自身はそれを悲観していません。能天気に生きている燃堂を見ると、斉木でなくてもちょっと肩の力が抜ける、見た目に反して癒し系な魅力を持ったキャラクターです。
- 著者
- 麻生 周一
- 出版日
- 2013-01-04
特別な何かに憧れる年頃というのは確かにあり、例えば若い頃は、身近な漫画やアニメの世界に影響を受けることが、少なくありません。何の病気でもないのに片目を押さえて呻きだしたり、謎のカタカナ語を使用したりしたら、「ある病気」罹っている可能性があります。
「中二病」、主に中学2年生がとりがちな言動を揶揄した言葉で、そのジャンルは細分化されています。その中に、幼少期から培われた想像力を駆使し、独自な世界を作り出してその住人になりきることもあり、海藤瞬はまさにそんな症状を見せる、中二病患者なのでした。
海藤は、斉木のクラスメイトです。しかし、クラスメイトとしての自身は闇の組織を欺くための仮の姿、本来は世界を守る使命を帯びた戦士だと言います。右腕にまかれた包帯がその証拠で、包帯で隠された右腕には「闇のフォース」を宿しているそうです。人格は13人、その中には残虐な性質の人格も存在しています。
ボサボサの髪に黒縁眼鏡、とにかく地味だった海藤が高校進学にあたり、過去の自分を変えようと高校デビューを模索した結果、生み出されたのが上記のような設定です。完全なる中二病ですが、実際はおどおどしたところがある、心優しくも臆病な性格をしたキャラクターでした。
彼が中二病だということは周知されていますが、今更元に戻せない海藤。そんな彼が懐いている相手が斉木です。「斉木も高校デビューに失敗した」と思い込んでいる海藤は、斉木に仲間意識がある様子。斉木を通過して、燃堂とも仲良くしているらしく、斉木を巻き込んで遊びに行く計画を立てるなど、良好な関係を築いています。
髪を整えた海藤はイケメンで、とても仲間想いです。教育ママである母親に「友達は選べ」と言われてしまった時も、「みんな大切な友達だ」ときっぱり言い切りました。中二病設定は痛々しいところはあるものの、友情に厚いところが魅力となっています。
斉木楠雄のΨ難 5 (ジャンプコミックス)
学園ものと言えば必ず「美少女」が登場します。本作にも多くの美少女が登場しますが、その中でも「PK学園のマドンナ」と呼ばれているのが、照橋心美です。
学園中の男子だけでなく、大富豪や石油王からも求愛を受ける、絶世の美少女。人当たりが良く、優しいため多くの人から慕われていました。が、それらはすべて演技でのこと。本来の心美は己の美貌に絶対的な自信を持った、傲慢な性格の女の子でした。自身が完璧な美少女であることも、愛される存在であることも自覚しています。
照橋には、同級生を見下している部分があり、中でも男子生徒を意のままに操ることに、快感を覚えています。しかし、誰からも興味を持たれる美少女の心美が、唯一興味を持たれなかった相手が、斉木です。
斉木はテレパシー能力で心美の本性を知っており、目立つ心美と一緒にいては、自分も目立ってしまうと、意図的に距離を置こうとしていました。そんな斉木を気に入らず、なんとか気を引こうとしているうちに、心美は斉木に本当の恋をしてしまったのです。
斉木に対する愛情表現がことごとく通じていない様子を見ると、心美を応援したくなります。完璧な美少女であるためプライドは高く、他者を見下しているというマイナスイメージがつきがちですが、美少女であることを維持し続ける努力や情熱は並大抵のものではありません。完璧な美少女への執念に感服してしまいます。
努力を重ねる照橋の姿は「美少女は一朝一夕では誕生しない」ということを教えてくれます。可愛い外見にと高い志を持つ彼女に、読者は感心させられるでしょう。
- 著者
- 麻生 周一
- 出版日
- 2013-05-02
斉木と正反対の超熱い人物、それが灰呂です。クラスの中心的人物で、人に厳しく、自分にはもっと厳しく成長を促します。
そのまっすぐさは、重いものを運ぶ女子をあと少しだけ歩かせて、自分の限界を超えさせようとしたり、そのあとにその荷物を受け取り、うさぎ跳びで運ぼうとしたりするほどです。熱すぎ。
しかしその熱さは、いやいやながらも灰呂に協力した斉木を青春もいいものだな、的な流れに感化するほど。
時代錯誤な根性論をふりかざす男ですが、まっすぐすぎるだけになかなか憎めない人物です。憧れなのか、彼の会話にはよくテニス選手の松岡さんが登場します。どの松岡さんかは分かりませんが、きっとその人物も熱い人なのでしょう。
- 著者
- 麻生 周一
- 出版日
- 2013-12-04
澄んだ目をしたクズ。それが鳥束です。
彼は寺の息子でありながら、心根がどうしようもなく腐っています。彼は霊能力を持っていながら、霊を視ることと話すことしかできません。
しかしどうにかしてこの力を金に変えたい!そう思った時にある霊から噂を聞き、斉木に超能力を教えてもらおうと彼の家までやってきたのでした。
鳥束の信念はかなり強固。最初に斉木と出会った時も、まっすぐな目で「超能力をマスターして女の子の裸を見たり 予知で宝くじ当てたり やりたい放題生きたいっス!!」と語ります。
しかし鳥束もなかなか苦労人。霊が見えるというのはいいことばかりではなく、どこにでもうようよいる人に落ち着かないし、守護霊は「アレ」な人だわでかなり大変なのです。
彼の残念すぎる守護霊の正体は作品でご覧ください。
- 著者
- 麻生 周一
- 出版日
斉木にはバレていますが、展開のテコ入れのために鳥束のあとの転校生として登場したのが窪谷須です。彼は実は親の代からの筋金入りの不良だということを隠そうとしているのですが、心が読める斉木にはもちろんバレてしまいます。
しかも窪谷須は隠したい気持ちがあるものの、身に染み付いた習慣が抜けきりません。目があっただけで血管がはち切れそうなほど睨み返したり、肩がぶつかっただけで、その相手を背後から消化器で殴ろうとしたりと、やんちゃすぎます。
しかしヤンキーにありがちな、実はいいやつ。しかも一般人に溶け込もうとして頑張る言動がいちいち残念。しかも男子校出身なので恋に奥手。
怖いながらも落差の大きいギャップだらけの、嫌いになれない登場人物です。
- 著者
- 麻生 周一
- 出版日
斉木は超能力者でクールな変化球タイプですが、実は彼の両親は平凡。しかしそういう設定で紹介されたものの、なかなかこのふたりもずれています。
簡単にふたりの特徴をご紹介しますと、ラブラブ。とにかくラブラブ。もう説明はこれだけでいいのではないかというくらいにいつもイチャイチャしています。ふたりの目にはパートナーしか映っていないので斉木の言動にも動じません。
しかも斉木が脳内に直接話しかけてきた時も、初めて(空中を)歩いた時も、不思議だなぁ、すごいなぁ、程度で済ませてしまうのです。なかなか肝が座っています。
そんなふたりですが、一度喧嘩をするとなかなかしぶとい。普通の家庭では見られないようなエキサイティングな様子が見られます。
斉木も面白いが、この親にしてこの子あり。詳しい内容は作品でご覧ください。
個性的なキャラクターには事欠かない本作、斉木が超能力者である、という事実が薄れるくらい、読者に強い印象を与えてくれます。そんな個性あふれるキャラクターばかりが織りなす日常漫画が、面白くないわけがありません。風変わりでインパクトは特大な、学園生活をお楽しみください。