角田光代のおすすめ小説ランキング15!数々の受賞歴を持つ作家の魅力を知る

更新:2021.11.8

1990年のデビュー以来、数多くのヒット作を生み出している角田光代。多くの人に愛される、彼女の作品の魅力に迫ります。

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角田光代とは

1967年に横浜で生まれた角田光代は、地元の名門私立学校に通ったのち、早稲田大学へと進学します。幼いころから作家になることを夢見ていた彼女は、「彩河杏」として執筆活動をスタートしました。

大学を卒業した1年後に『幸福な遊戯』で海燕新人文学賞を受賞。ここから作家「角田光代」としてのキャリアが始まります。

デビュー以降は勢力的に執筆を続け、多くの作品が文学賞を受賞するなどの活躍を見せています。2005年には、『対岸の彼女』で直木賞を受賞。2014年には『紙の月』が宮沢りえ主演で映画化されるなど、その勢いは衰え知らずです。

人生の暗い部分が描かれることの多い彼女の作品ですが、その生々しさが心を揺さぶって多くの人を惹きつけます。ちょっぴり大人な雰囲気を漂わせている物語に、魅力が詰まっているのです。

15位:日常の暗い部分を描いた角田光代の短編集

平凡な街に暮らす人々の物語を集めた短編集です。登場人物たちは、みな秘密を抱えながらも普通の生活を送っています。そこには、孤独があり、空虚さがあり、むなしい人生の形が表現されています。

表題作の「トリップ」は、薬物中毒の主婦が主人公です。結婚して息子を出産した彼女ですが、薬物を摂取する生活をやめられずにいました。しかし、そのことを彼女は悪いことだとは思っていません。夫からはやめるように忠告を受けますが、今日も彼女は薬物に頼り、生きているのです。

「秋のひまわり」はいじめられっ子の12歳、典生が主人公。彼は学校で受けるいじめを隠し続けています。

父親がいない典生は、実家の花屋で働くマナベさんが母の再婚相手になればいじめもなくなると考えていました。しかし、ある日突然、マナベさんは店のお金を持って消えてしまうのです。

著者
角田 光代
出版日
2007-02-08

どの物語も読み終わった後にどこかもの悲しさが残ります。毎日代わり映えのない生活を送る人々が抱える闇を、淡々とした口調で述べているのが印象的です。人生の暗い部分が、浮き彫りになっています。

例えば、「トリップ」の主人公は、常に今日の食事のことばかりを考えていますが、いざ何かを食べてみても、おいしいと感じることはありません。「秋のひまわり」の典生も、いじめを受けている現状を隠すことしか考えておらず、解決策を見つけ出そうとはしません。そんな彼らの姿がひどく哀れに映り、気の毒になってきます。

変化のない日常に身を置くと、いつの間にか深い闇に落ちてしまうのかもしれません。そんな危うさを、主人公たちの送る人生から私たちに伝えてくれます。人間の暗い部分を見事に描いた、渾身の一冊です。

14位:角田光代の書くひと夏の奇妙な「ユウカイ」劇

夏休みの初日、小学5年生のハルはユウカイされてしまいました。ユウカイ犯は、2ヵ月前に家を出て行ったハルのお父さん。お金のないお父さんにユウカイされて、ハルは色んなところへ連れていかれます。海水浴やキャンプと、気の向くままに動くお父さんに、ハルは振り回されてばかりです。

お父さんとお母さんの謎の取引きが進んでいき、警察を巻き込んだりと途中でトラブルがあったりしながらも、2人は先へと進みます。そんな不思議な旅が続いていくうちに、ハルの心境にも変化が。果たして旅はどんな結末を迎えるのでしょうか。

著者
角田 光代
出版日
2003-06-01

だらしなくて情けないお父さんと、クールで少し大人びたハル。そんな2人のやり取りは、無邪気な家族の姿とは一線を画しています。お金にうるさいお父さんはハルにあれこれと注文をつけ、一方のハルも事あるごと情けないお父さんに文句を言うなど、やりたい放題です。

しかし、そこにぎすぎすした雰囲気は感じられません。親子だからこそ言い合える、本当の気持ちが見え隠れしているのです。

理想的な父親の姿とは何でしょうか。きちんとした仕事に就き、厳格な姿を見せるのが理想的だと一般的には思われているかもしれませんが、この物語のお父さんは真逆です。でも、子どもに注ぐ愛情に変わりはありません。

ずっと孤独だと感じていたハル。そんな彼女の心境も、お父さんと一緒に旅をするうちに少しずつ変化していきます。その心の内側を角田光代が鮮やかに描写しているのです。最低だけど最高な夏休みを、2人と一緒に旅してみましょう。

13位:秘密を抱える家族を角田光代が描く

「なにごともつつみかくさず」がモットーの京橋家。母・絵里子、父・貴史、長女・マナ、長男・コウの4人は、「ダンチ」と呼ばれる集合住宅で生活をしています。家事、仕事、学校とそれぞれの置かれた場所で何気ない毎日を過ごし、家に帰ると仲の良い普通の家族のような振る舞いです。

しかし実は、それぞれが家族に対して隠し事を持っています。元ヤンキーだと子供たちに語る絵里子は、いじめられっ子だった過去を持っていたり、貴史は息子の家庭教師の三奈と不倫をしていたりと、重大な秘密を持っていながらも、家に帰ると幸せな家族を装って、明るい家庭を演じているのです。

著者
角田 光代
出版日
2005-07-08

一見幸せそうな京橋家を、母、父、娘、息子、そして祖母と家庭教師のそれぞれの目線から見つめていきます。家族の構成員である4人は、隠し事がありながらもうまくやり過ごして何もないように見せているのですが、傍から見ている家庭教師の三奈はその様子を奇妙に思っているのです。

当たり前に思えていることも、その裏では必死に何かを守ろうとしている人間の懸命な姿があります。隠し事だらけの京橋家ですが、この家族は決して崩壊はしてはいません。幸せな家族を演じているのは、どこかこの家族に愛着を感じているからだといえるでしょう。家族のリアルな形が、私たちの心を揺さぶる作品です。

12位:なんでもない日常の尊さを伝える

6つの物語を収録した短編集です。「もし、あのとき○○していれば……」といった人生の選択に触れ、選ばなかったもう1つの人生に思いを巡らす主人公が登場します。

「平凡」の主人公は、パート主婦の紀美子です。ある日、ツイッターで中高の同級生の榎本春花からメッセージが届きます。春花は売れっ子料理研究家として活躍していて、そんな彼女との久々の再会を紀美子はとても楽しみにしていました。

紀美子の家の近くで再会を果たした2人でしたが、春花は急に隣町で起こった火事の話を始めます。そして、火事で亡くなった人が自分の恋人だった人かもしれないと語り、春花を連れて隣町の病院へと向かいます……。

著者
角田 光代
出版日
2014-05-30

パート主婦の紀美子と、売れっ子料理研究家の春花の生活は真逆だといえます。しかしそんな2人ですが、高校生の時には同じ男性に恋をしていました。結局、紀美子はその男性と結婚し、今の平凡な生活に至ります。対して、春花は華やかな舞台で活躍していくのです。

人生の分岐点は、きっとすべての人に訪れます。その選択次第で、幸せになれたり、不幸になったりしていくのでしょう。紀美子は、平凡な自分の人生と比較して、春花の華やかな人生を恨む気持ちをわずかですが持っていました。しかし、春花の発した言葉から、いまの平凡な人生に安らぎを感じるようになります。自分を肯定できる、前向きな描写が印象的です。

当たり前にある生活のありがたさは、普段はなかなか実感できないものです。この作品を読んで、自分の人生の中にある幸せを見つけてみてはいかがでしょうか。

11位:家族とは何か?生まれてきた意味を問う

家族とは何か、命とは何かを正面から捉える、角田光代の長編小説です。

毎年行われる夏のキャンプに参加していた7人の少年少女たち。彼らは異なった環境で育ち、それぞれ性格も皆違いますが、共通していたのは一人っ子であることと、出生に秘密を抱えていたこと。

そして突然キャンプは行われなくなり、いつか遠い思い出となっていきます。

成長した7人はそれぞれの道を歩み、そして少年少女だった頃に行われたキャンプの意味、自身の出生の真実を知る事になります。

恵まれた環境に育ったけれど、同時に孤独感も抱えている弾。両親の離婚を経験し、学生時代の恋人を妊娠・中絶させてしまった賢人。そしてキャンプの思い出を「天国のようだった」と心の支えにしている、かつていじめにあっていた紗有美など、まったく違う7人が織りなす、家族とは、親子とは、そして命とは何かを問う、感動長編作品です。

著者
角田 光代
出版日
2014-02-14

それぞれの家族の姿があり、登場人物一人一人の心の内が書かれ、重くもあり苦しさも感じます。

親の立場で読むのも良し、子どもの立場で読むのも良しです。読んだ後、自分のルーツなどをちょっと探ってみたくなります。両親の出会いや、自分が生まれてきた時のことを知りたくなるでしょう。

自分は自分、そう思っても、遺伝やDNAなど動かしようのないものが存在するのも事実。生まれてくる環境は選べないのだなと思う反面、そこからどう変わるかも自分次第。

家族のあり方、生まれてきた意味を考えながら読みたい作品です。

 

10位:激動の戦後を生きる女性を描いた角田光代の長編小説

終戦から10年。主人公、左織は銀座である女性に声をかけられます。見覚えのないその女性の名は風美子といい、戦時中に左織と疎開先が同じだったということで声をかけてきたのです。それ以来、風美子は左織の人生に付きまとうようになります。

左織の結婚に口を出したり、彼女の家族の葬儀に出席したりと、密な接触を図ってきた風美子。ついには彼女の義弟と結婚して2人は家族となります。

そして、それと並行して、風美子は料理研究家としても名を馳せるようになったのでした。淡々とした人生を送る左織と、常識にとらわれずに人生を自らの手で切り開く風美子。左織は次第に風美子を疎ましく思うようになるのです。

著者
角田 光代
出版日
2017-06-28

価値観の違う2人の生き方が交錯しながら描かれている作品です。常に時代に流されるようにして生きてきた左織は、自らの人生に入り込んできた風美子から、次第に自分の居場所を侵されていきます。しかしそれと同時に、風美子がいないと何もできない現状にも気づかされるのです。

風美子に人生を奪われたと感じていた左織。しかし、そう感じているのは彼女だけで、風美子には左織との交流を深めたかった本当の理由がありました。彼女はそのことに気づかないまま、嫉妬や恐怖といった感情だけが膨らんでいきます。激しい思い込みから不穏な雰囲気が生まれていくのですが、彼女の心に少しずつ変化が生じていく場面は目が離せません。

時代に流されてきた左織が、自らの人生にどのような決断を下すのかに注目です。ハッピーエンドなのか、バットエンドなのか、人それぞれの捉え方ができる奥が深い作品となっています。

9位:追いつめられていく女

経営者の父の家に生まれ、勤めていた会社を寿退社、何不自由ない暮らしを送っていながらもどこかいつも不自由な垣本梨花。独身時代の仕事にも、結婚してからの生活にもその不自由さを感じ、人の力に頼っている意識をなくすために、銀行のパートタイムで働きます。得意先の孫の平林光太に好意を抱かれ、美容や人にお金を使うことに、自らの意思で動いた快感を覚えるようになり……。

著者
角田 光代
出版日
2014-09-13

最初は少しずつ、だんだんと歯止めが効かなくなるようにお金の魔力に魅せられていく梨花。 お金はただのツール以上の意味をもって、彼女を誘います。恋人とのコミュニケーションも、感情の発散も、そのツールを使わないと繋がれなくなってしまった彼女が堕ち、追いつめられていく姿に読者も息苦しさを感じます。

堕ちていく姿、そこから行き着いた先の様子をまざまざと見せつけられ、読み終わるとどうしようもない物語なのにどこか達成感のようなものすら感じさせられる傑作です。

8位:女たちの絡み合う感情

同年代の子をもつ5人の女性たちの視点で物語が進んでいきます。

田舎のヤンママの風情で飾らない繭子。地方出身、きまじめで少し冴えない印象の容子。美意識を持った行動派の美人の千花。一見普通の瞳。優雅な暮らしと平凡な不倫相手の間で揺れるかおり。

同時期にそれぞれ別の場所で生きていた彼女たちが「子供の受験」をきっかけに交わります。最初の表層的な彼女たちのイメージは、受験の評価・プレッシャー、子育ての不安・閉塞感に少しずつ崩れていき……。

著者
角田 光代
出版日
2011-11-10

女同士の複雑な牽制や、歯車がずれて上滑りしていくような関係は女性なら誰しも感じたことがあるはず。年を重ねると仕事、恋愛、結婚、家族と条件が増え、人に打ち明けることはどんどん難しくなっていき、闇は出口をなくして増大していきます。

そんな鬱蒼とした森の中、自由に泳げない魚のような彼女たち。始まりは穏やかに、そしてどんどんと引き込まれていく森の中に迷い込んでみましょう。

7位:比べる女

「私って、いったいいつまで私のまんまなんだろう」

結婚して2年、子供が生まれて3年の主婦小夜子は公園でぼんやりとそんなことを考えています。15000円のブラウスを見て、漠然と上手くいかない生活の解決策を働くことに見出します。そして採用された会社の女社長、葵と出会います。

著者
角田 光代
出版日
2007-10-10

「たとえば人気者のヨウコちゃんだったら、優等生のニッタさんだったら」

小夜子は子供の頃からずっとそんなことを繰り返し考えています。小夜子までいかないとしても、ほとんどの女性は人と人を比べているのではないでしょうか。

例えば同じグループにいるふたり、彼女たちはどちらが太っているか、スタイルがよいか。例えばたまたま目の前カップル、彼女が付き合っている男は稼いでいるのか、センスはよいのか。そしてもちろん、自分と他の女性。どうして彼女はうまくいっているのに、自分は……。

いいような、悪いような、ぐるぐるとした迷宮のように女性の思考は巡っていきます。そんな不安定な思考を登場人物たちと一緒に旅してみましょう。この作品は比較的ライトに読めるので女心を学びたい男性にもオススメです。

6位:角田光代が綴る本にまつわる9つの物語

自分で売って手放した本と旅先で幾度となく再開を果たす「旅する本」、少女が病気のおばあちゃんからお願いされてある本を探す 「さがしもの」など、本にまつわる物語をまとめた短編集です。

「旅する本」の主人公は、お金に困ってある翻訳本を売ってしまうのですが、旅先で訪れたネパールの古本屋でそれを発見します。中身を読んでまた売りますが、今度はアイルランドで見つけてしまいます。手放してはいけないように思える本なのですが、主人公は考えた末にある行動をとります。

「さがしもの」の主人公の少女は、死の淵に立ったおばあちゃんのお願いで、ある本を探すことになりました。しかし、いっこうに本は見つからず、おばあちゃんも亡くなってしまいます。その後も、本を探していた少女ですが、成長するうちにいつしか本を探さなくなり、少女も大人になっていました。

著者
角田 光代
出版日
2008-10-28

本はいつの時代も私たちの生活に欠かせないものです。楽しい思い出、辛い思い出、形は様々ですが、それはいつも傍らにあって、人と人とを繋ぎます。誰かに思いを伝えたいときに、本を渡す人もいるのではないでしょうか。

「旅する本」の主人公は、度重なる偶然を不思議に思います。しかし、これは自分の人生へのメッセージなのだと考え、読みはじめるのです。「さがしもの」の少女も、本探しをきっかけとして、出版業界へと歩みを進めていきます。何らかの形で本は人生に関わりを持っていることを、彼らは教えてくれるのです。

人々が紡いでいく本にまつわる物語。テイストの異なる9つの作品が収められています。人生に疲れてちょっと一服したいときに、手に取ってみてはいかがでしょうか。

5位:恋愛のリアル 究極の「振られ」小説

この連作恋愛小説の各物語の登場人物は、くま柄の服に身を包んだ芸術家を気取る男・英之、憧れのバンドマンに思いが通じたゆりえ、画家との結婚を目論む舞台女優の希麻子など、個性的でありながら、実はリアルな世界にも「いるいる!」と思わせてくれそうな面々です。

表題作「くまちゃん」は、くま柄の服を着た芸術家気取りの英之に恋をしたOLの物語。自分は普通の人間じゃない、普通に見られたくないともがく男と、その男に恋してしまった女の物語です。

「勝負恋愛」は憧れていたミュージシャンについに思いが通じ、付き合うことになったゆりえの物語。まるで奇跡のような恋、幸せの絶頂にいたゆりえですが、彼にはなにかと口を挟んでくる、小姑のような女性の存在が。この奇跡の恋を守るべく、しがみつくゆりえの姿に、かつての恋を思い出してしまう読者も多いのではないでしょうか。

著者
角田 光代
出版日
2011-10-28

都会に住む、未来がまだ決まっていない若者たちのそれぞれの恋愛。連作ですが、それぞれの登場人物が重なっており、登場人物のその後を読みながら、新しい物語を楽しめるのは嬉しいです。

昔の恋を思い出しながら、また今現在の自分の恋に想いを馳せながら読みたい角田光代の連作恋愛小説です。

4位:身近に潜む闇を描いた角田光代のサスペンス

主人公は、33歳の専業主婦、里沙子です。2歳年上の夫、陽一郎と、3歳になる娘と何気ない日常を送っていましたが、ある日刑事裁判の補充裁判員に選ばれます。担当する事件は、同年代の母親が生後8ヵ月の乳幼児を虐待死させたというものでした。

さして事件に関心を持っていなかった里沙子。しかし、公判で被告の母親の証言を聞くにつれて、被告と自らの姿を重ねるようになります。被告が抱えていた心の闇は、彼女が無意識のうちに目を背けてきた家庭の闇なのでした。

日常に潜む「違和感」を感じ始めた里沙子。次第に心境が変化し、家庭の中にも不和が生まれはじめます。陽一郎の言葉に嫌気がさし、義母の言動もうっとうしく感じるようになった里沙子。そして、思い悩んだすえに彼女がとった行動とは……。

著者
角田光代
出版日
2016-01-07

母親の育児問題を描いた本作。家族の中での母親の立場は時に厳しく、逃げ場のない状況が生み出されてしまうこともあります。里沙子も、そんな過酷な状況に置かれていたのですが、自分でもそれに気づかずに毎日過ごしてきました。

しかし、裁判員として公判を見届けるという経験によって、自らを省みることになるのです。

何気ない日常が音を立てて崩れていく様子が、細かい描写で書き表されています。里沙子と陽一郎の些細な認識のズレが、次第に大きくなっていく様子は実に生々しく、残酷な現実を目の前に突きつけられて、胸が苦しくなるのです。

しかし、決して「読まなければよかった」という後悔の念は生まれません。個々が抱える心の闇は、時に無意識へと追いやられて忘れてしまいがちですが、本作はそんな人間の弱さと向き合うことの大切さを教えてくれます。自らの生き方に問いかける、社会派の一冊です。

3位:プレゼントにまつわる12の物語

生まれて初めてもらうプレゼントについて語った「名前」から、病院のベットで過去を振り返る女性を描いた「涙」まで、女性が一生にもらうプレゼントを題材とした短編集です。形あるものも無いものも、大切なプレゼントの数々から思い出がよみがえります。
 

「名前」では、平凡な「春子」という名を持つ女性が主人公。自分の名前が平凡であることをずっと気にかけていた彼女は、平凡な名の夫「ノリオ」との間に赤ん坊を授かります。生まれてくるわが子の名前を考えて悩む2人。そして、陣痛に襲われ病院へと向かうタクシーの中で、春子は自らの名前の本当の意味を知るのです。

「涙」の主人公は、自分の名前すら時々忘れてしまうような年老いた女性、さゆりです。介護施設のベットの上で迫る死を悟った彼女は、ふと昔のことを走馬灯のように思い出します。そして、死ぬ前に残しておいたものを誰にあげるのかを、ノートに書き起こしはじめるのです。しだいに、多くの人が彼女の元に集まってきて……。

著者
["たいこ, 松尾", "光代, 角田"]
出版日

一生のうちに、人間は多くのものを受け取ります。それは形として残るものも残らないものもありますが、必ず大切な思い出として私たちの心に残っているものです。

しかしそうして受け取ったものたちを、なくしたり忘れたりしてしまうのが人間です。でも、逆に取り戻したり思い出すことができるのも人間が持つ強みだといえます。

「名前」の春子は、自分が命を宿したときに、名前という贈り物の意味を知ります。「涙」のさゆりも、死が近づいたときに、自分がもらったものを思い出すのです。本当に大切なものは、人生の分岐点で必ず私たちを彩ってくれます。

それぞれの物語の間に挿入されている、松尾たいこの美しい絵にも注目です。作品の情緒を見事に切り取っており、物語に花を添えています。

 

2位:藤代家の歴史と時代をたどる

戦時中、家族と故郷を捨てて満州へと渡った藤代泰造と妻のヤエ。戦後、日本へと逃げ帰った2人は中華料理屋の翡翠飯店を開き、生活をはじめます。その後、時代の流れとともに店は繁盛し、孫にも恵まれた2人でしたが、戦争から「逃げた」という思いが消えることはありませんでした。

その後泰造が亡くなり、自分のルーツに興味を持った孫の良嗣は、中国へと旅に出ます。祖父母のことを知っていくうちに藤代家の歴史が少しずつ明らかになっていき、徐々に家族の形が見えてきます。

著者
角田 光代
出版日

伊藤整文学賞を受賞した、壮大なスケールで描かれた作品です。藤代家3世代のでき事が、それぞれの世代の人物の目線から描かれており、戦時中からバブル時代、そして平成へと続いていきます。1つの家族の歴史が、翡翠飯店を中心にして繋がっていくのです。

本作のテーマの1つに、「逃げる」というキーワードがあります。戦争から逃げてきた祖父母にはじまり、藤代家の人々は時代に流されるようにして生きていくのですが、そのような姿は決して恥ずかしいものではありません。逃げることも重要な選択肢の1つであることを、ヤエの生き様が語ります。

順風満帆ではなかった藤代家と翡翠飯店の歩み。しかし、不器用でも時代を歩んできた彼らの姿からは、家族の温かさが伝わってきます。自分のルーツは何だろうと知りたくなるような、心を揺さぶる一冊です。

1位:映画化もされた角田光代の代表作

主人公、野々宮希和子は、愛人であった秋山丈博の家に侵入し、衝動的に赤ん坊だった恵理菜を誘拐してしまいます。自分の手で彼女を育てようとした希和子はそのまま逃亡。様々な人たちの手を借りて生活を続け、最終的に小豆島へと辿り着き、最後には逮捕されてしまいます。

希和子が逮捕され、本当の両親のもとへと引き戻された恵理菜でしたが、周りとうまく関係を築けないまま成長しました。

やがて彼女は希和子同様に愛人を持ち、ついには妊娠までしてしまいます。そしてその事実と向き合えないまま、幼いころ逃亡先の施設でともに暮らしていたフリーライターの千草に出会うのでした。

自分が何者なのか分からない恵理菜は、千草とともに自分探しの旅を始めます。

著者
角田 光代
出版日

井上真央主演で映画化され大きな反響を呼んだ、角田光代の代表作です。

愛情が勝って誘拐してしまった赤ん坊を育てた希和子と、実の両親からの愛情が不足したまま成長した恵理菜の姿が、本人たちの苦悩を交えて描かれています。2人の悩みながら生活する様子が、本当の愛とは何かを読者に問いかけてくるのです。

千草とともに旅を始めた恵理菜は、これからの自分の人生へ、ある決断をくだして物語は終わりへと向かいます。果たして彼女は、自分の人生を見つけることができるのでしょうか。

ラストシーンは、自らの過去との決別を暗示させるような美しい描写です。思わず涙を誘われる切ない感情が伝わってきます。未来へと残していきたい、色あせることのない名作です。

いかがでしたか?底知れなさがある女性の闇、角田光代はその奥深さを過不足ない言葉で表します。毎日素知らぬ顔で現実を生きる彼女たち。その闇が深ければ深いほど女性の笑顔は美しい。怖いけれどその闇を覗くのはどんな冒険よりスリリングで綺麗です。

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