テレビドラマにもなって大ヒットした『木枯し紋次郎』をはじめ、本格ミステリや歴史小説など幅広いジャンルの作品を手がけた笹沢左保。長きにわたる作家生活で生み出された多彩な作品のうち、おすすめの5作品をご紹介します。
生涯を通し、数多くの著書を発表した笹沢左保は、幾度かの懸賞応募を経て、1960年『招かれざる客』でデビューしました。
実写ドラマ化され大ヒットとなった『木枯し紋次郎』をはじめ、『真田十勇士』や『宮本武蔵』などの歴史小説、『他殺岬』などの「岬」シリーズ、『悪魔の部屋』をはじめとする「悪魔」シリーズなど、現代ミステリー作品など数々のヒット作を生み出しています。
斬新な設定の本格推理小説、サスペンス作品を手がけ本格派を牽引するほか、社会派小説や歴史小説、果てはエッセイなど、40年余りの作家生活で、約380冊という多くの作品を残しました。
晩年は佐賀に移り住み、病に伏しながらも後進の育成に尽力し、さらに精力的に執筆活動を続けましたが、2002年に東京の病院で逝去しました。
笹沢左保の代表作といえば、「あっしには関わりのねえことで」という名セリフが一世を風靡した本書です。
上州の貧しい農民の子どもとして生まれ、10歳で家を出て以来、一人で旅を続ける主人公・紋次郎が、人間同士のしがらみを避け、孤独に生きながらも、時流に巻き込まれていく姿と、人々の生きざまを描き出しています。
- 著者
- 笹沢 左保
- 出版日
- 2012-01-12
汚れたカッパと三度笠を身につけ、長脇差と口にくわえた長楊枝がトレードマークの紋次郎の格好よさといえば、はみ出し者でありながら妙に礼儀作法にうるさいところや、なんだかんだと人に手を貸してしまう人間くさい一面を持っているところに尽きるでしょう。
目的のない流浪の渡世人である紋次郎は、人と関わり合いにならないために定住せずに旅をつづけています。無頼を装いながらも人の心を持ち続け、「関わりねえこと」と言いながらも義理や成り行きで命のやりとりをすることもある。そんな矛盾生んでしまうような人情を常に持っていることこそが、彼を孤高のヒーローたらしめているのです。
紋次郎の格好よさだけでなく、人間の心の闇の部分にもきっちりと光を当てて描き出しているところに、本作の魅力が詰まっています。
長きにわたる「紋次郎」シリーズの入門編として、ぜひ手にとってほしい一冊です。
本書は上下巻を通じて、戦国時代に秀吉のもとで活躍した軍師・竹中半兵衛を主人公に、その生涯を活き活きと描き出す時代小説です。
日頃から思索にふけることが多く、感情的にならない、そんな「何を考えているか分からない」半兵衛が、父の跡を継いで菩提山城の城主になった頃から物語はスタートします。
- 著者
- 笹沢 左保
- 出版日
背が高く、どこか上品な雰囲気を纏った美男である半兵衛には「天下統一を実現させる」という大望がありました。
半兵衛の生涯を語るにおいて特筆するべきは、もともとの主君であった斉藤竜興が治める、難攻不落と言われた稲葉山城を落としたという有名なエピソードについてです。
織田信長が城を所望しても拒否して、竜興にすぐ返してしまい、自分自身は隠遁生活をはじめてしまうことから分かる「天下統一」という目的以外には無頓着であることや、「愚昧な主君にお灸をすえるため」というのが一連の落城の理由だった、というおちゃめさも魅力で、その人柄に惚れてしまう理由となっているのでしょう。
立身出世には興味がなく、権力にも欲がない、ただその頭脳のみを主君のために使う半兵衛の人柄のよさ、格好よさが全編を通じてあふれています。
頭脳明晰な彼の活躍や、人間性の素晴らしさも存分に描かれた作品なので、ぜひ一度手に取ってみてください。
本作は、1611年の江戸時代を舞台に繰り広げられる仲間集めの物語です。
九度山に蟄居する真田幸村が、来るべき戦にそなえ、一騎当千の10人の豪傑を探すために、家臣の猿飛佐助に「十勇士」探しを命じるところから物語は展開していきます。
真田十勇士
仲間探しの旅にでた佐助が様々な出来事に首をつっこみつつ、次第に「十勇士」を揃えてゆく道のりには、まるで王道のRPGを見ているようなワクワク感があります。
お調子者に見えて、冷静で腕の立つ佐助が、道中で出会う霧隠才蔵や三好兄弟、由利鎌之助など、後に十勇士となる個性豊かな人物との心を通わせる場面は見どころの一つです。
佐助は無事に「10人の豪傑」を揃えることができるのでしょうか? 佐助の仲間探しの旅の行く末を見逃さないでください。
幕末期を語るに外せない「新選組」の中でも、特に人気の高い副長助勤・沖田総司を主人公に、人斬りとして生きる孤独な一生を描いた物語です。
組のために「天誅」と称して人を斬ることに虚無感を感じている沖田、というこれまで描かれなかった沖田象を楽しむことができる作品となっています。
- 著者
- 笹沢 左保
- 出版日
表面的には笑顔を絶やさず、柔和な仮面を貼りつけ、忘れられない過去と向き合いながら人を斬り続ける剣術の天才・沖田総司は、人を斬ることに心理的負担を感じています。
江戸に住んでいた頃、ひょんなことから果し合いの約束をした長州藩士・宮川亀太郎の、その許嫁・千鶴を過失ゆえに斬ってしまったという出来事が、沖田の心をむしばみ続けているのです。
それでも、信頼する近藤勇の下、新選組として活動することを決意しますが、近藤に人斬りのための駒として扱われたり、猜疑心の強い土方に脱退を疑われたり、隊内で行われる粛清や、だまし討ちのような新選組の活動に対して心に深い苦悩を抱え、さらに自身は労咳に伏してしまいます……。
明るく心のやさしい人物というだけでない、沖田総司の二面性を描き出す本作は、新選組をモチーフにした作品の中では異色と言えるでしょう。
笹沢左保のデビュー作であり代表作の1つである『招かれざる客』は、1つの事件を、問題編となる「事件」、推理編の「特別上申書」という2部で構成した本格ミステリ小説です。
労働組合を裏切った男が何者かに殺され、また彼の内縁の妻が殺されてしまうところから、ストーリーは動き出します。
- 著者
- 笹沢 左保
- 出版日
商産省の労働組合の秘密闘争計画が、何者かの裏切りで省側に筒抜けになっていたことが発端で、殺人事件が起こります。組合内の裏切り者とその内縁の妻が殺され、その容疑者が事故で死んでしまったことで、容疑者死亡の状態で事件は解決したはずでした。
しかし、捜査一課の警部補・倉田は事件に釈然としないものを感じ、たった1人で捜査を続けます。
やはり見どころは、倉田が犯人の完璧なアリバイや密室で消えた凶器、動機やトリックなどを少しずつ明らかにしていく過程でしょう。謎が謎を呼ぶ様々な要素が散りばめられ、倉田とともに真相を追い求めて次々をページを捲ってしまいます。やがて事件の謎が解けた時、驚くべき事実が発覚するのです!
1960年に刊行された本作ですが、時を経ても色あせることなく鮮やかに展開していく珠玉のミステリーとなっています。
ミステリだけでなく、時代小説にもその非凡な才能をいかんなく発揮して数々の作品を生み出した笹沢左保の作品を5つピックアップしてみました。リーダビリティに優れていながら重層的に構成された物語は読み応え十分です。気になるタイトルがあれば、1度読んでみてください。きっと損はしないはずです。