梅雨も明け、夏本番となってきました。うだるような暑さが続くと、ちょっぴり刺激的でひんやりするもの・ことを求めたくなるのが人間の性(さが)というものです。今回は、寝苦しい夜にぴったりの「怖い話以上肝試し未満」な本を3冊ご紹介します。ホラー作品というくくりではないものの、読者をひんやりとさせるという意味では「涼を感じる」ことができるかと思います。ぜひお好みの「涼作(良作)」を見つけてみてください!
子供の頃、「あそこに行ってはいけないよ」と禁止された場所があった人は少なからずいるかと思います。ダメと言われれば言われるほど、好奇心をくすぐるものです。そんな誘惑に駆られてしまった少年のお話「夜市」、「風の古道」の2作が収められているのが『夜市』です。
- 著者
- 恒川 光太郎
- 出版日
- 2008-05-24
秋の夕暮れ時、いずみは高校の同級生の裕司と夜市という怪しげな市に行くことになります。かつて裕司はこの夜市に参加したことがあり、そのさいにとあるものをここで買い、とあるものと交換していたこと、実は今回の夜市への参加はそのときの精算をするためだということをいずみに打ち明けます。果たして二人はこの夜市から出ることはできるのでしょうか。
「風の古道」では、古来、人里と隣接して存在しながらも普通の人間には見えず、カミやモノノケといった類が往還する古道に迷い込んだ少年たちのお話が描かれています。
どちらの作品も、ホラーというよりもファンタジーに近く、ダイレクトに恐いというよりも、じわじわと恐さがやってくる感覚に陥ります。また、「異界」との接触という点で2作は共通しており、忘れていた幼少期の「得体のしれないなにか」への畏怖というものを思いおこさせる作品とも言えます。
今までの記憶のなかで印象に残っている光景はありますか? それは夢のなかの光景でしょうか、それとも現実の光景でしょうか。たまにどちらともが混ざり合った光景となることもしばしまあります。そんな夢うつつな状態から醒める瞬間の感覚を味わえるのが『幻想小品集』です。
- 著者
- 嶽本 野ばら
- 出版日
7つの短編が収められた『幻想小品集』のなかでもおすすめなのが、「Sleeping Pill」と「Somnolency」です。どちらも睡眠に関わる作品なのですが、そのオチは秀逸。物語の登場人物たちが目を閉じていくタイミングで我々読者の目が醒めていく。そんな感覚の交差が体験できると言っても過言ではないと思います。
他の作品も同様に、次第にわかっていく真相にゾクゾクさせられること間違いなしです。
小中学生の頃、思い返すと少し恐ろしくなるような残酷なことをさらりとやっていた記憶がある、という人は、どれくらいいるのでしょうか。幼さゆえの無邪気さや高慢さは、時にひどく崇高なものに思えたりするものです。そんな「恐るべき子供たち」を描いた作品が『午後の曳航』です。
- 著者
- 三島 由紀夫
- 出版日
- 1968-07-15
横浜山手を舞台に、ブティックを経営する未亡人・房子と息子・登、そして房子に恋する外国航路専門の船員・竜二とが織り成す人間模様とそれぞれの葛藤、そして少年たちの残酷性を描いた作品です。前編「夏」、後編「冬」に分かれ、前者を「海」、後者を「陸」と置き換えることも可能な作りになっています。
船と海が好きな登は、実際にそこで働く竜二を「勇者」として尊敬していたのですが、自分の母親との関係によってその理想が崩壊していきます。それが耐え切れなくなった登は、理想の再構築として友人たちと恐ろしい計画を立てることになります。房子の視点、竜二の視点が主となるパートではメロドラマ的な要素が散見されますが、登の視点になると一気にサスペンス的な物語へと切り替わります。この絶妙なバランスが読者を飽きさせず、そして良い意味でサスペンド(宙吊り)されるラストにゾクッとさせられます。
いかがでしたか? 今回は夏に赴く場所(森林や川、そして海)が舞台となる作品を選んでみました。いずれもなんとなくノスタルジーを感じるような作品、かつ、不思議と一気に読み進めたくなる作品なので、ぜひ暑い日のお供にどうぞ。