北海道陸別町にて ―― 西田藍がセレクトした「旅先に持って行きたい本」

北海道陸別町にて ―― 西田藍がセレクトした「旅先に持って行きたい本」

更新:2021.12.13

いよいよ夏も本番。夏といえば、夏休み! 私は世間一般のいわゆる「夏休み」というものとは、縁遠い生活を送っています。それでも「夏休み」と聞けば胸は高鳴り、なんとなくわくわく。

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今回のテーマは、休暇に、旅先に、持って行きたい本。ちょうど先日、北海道陸別町に行ってきました。陸別町のPR映像制作のため、3泊4日のロケ撮影。その旅のためにセレクトした本を紹介します。これらの本は、PR映像の読書シーンにもちらっと映っていますので、合わせてチェックしてみてくださいね。8月中旬に公開予定です。

ユービック

著者
フィリップ・K・ディック
出版日
霧深い、朝。はじめての、朝。ロッジから見えるのは、白樺の森と、雲の奥から少しだけ覗く、やさしい太陽の光。ここは、どこだっただろう。

ページの向こうに広がっていたのは、現実が崩壊した世界でした。私の好きな、フィリップ・K・ディックのSF小説です。1990年代、時間退行は進んでいました。すべてが古くなる世界。生きてもいない、死んでもいない、半生者たち。「死は確かなり、時間は確かなり(モルス・セルタ・エト・ホラ・セルタ)」って言葉は、もう通用がしない、未来世界。特効薬の名こそ、「ユービック」。ここは、どこだっただろう。

宇宙の始まり、そして終わり

著者
["小松 英一郎", "川端 裕人"]
出版日
2015-12-09
陸別町の「銀河の森天文台」に向かう前に、ひとりカフェ。美味しいベリーティラミスと、ソイカフェオレをいただきます。夜空にまたたく光は、どこからやってきたのか。少しでも、そのはじまりを知りたい。

宇宙論研究の最先端の現場にいる天文学者の言葉を、人気作家がわかりやすく紡いだ……という本です。ビックバンが起きて、宇宙がはじまって、今も宇宙は膨張し続けているらしいということくらいは、知っていました。でも、宇宙論は、もっともっと、進んでいたのです。

宇宙は、どのような物質でできているのか、年齢は何歳くらいなのか、この先、どうなっていくのか。どのように調べて、どのように成果が出たのか。一つひとつ、順番に、解説されていきます。専門的で難しい言葉の意味が、少しずつ理解できていって、その言葉の理解が、また新たな概念の理解に繋がって。

宇宙背景放射から、いまいちばん有力視されている「インフレーション理論」、そして、なんなのかさっぱりわからない、フィクションの言葉だと思っていた「暗黒エネルギー」について。ほんのちょっぴり、理解ができた気がします。いいえ、たぶん、気のせいだし、読んだ数日後には、さっぱり忘れているかもしれない。でも、夜空の向こうを見るときめきは、絶対、今までと違うものになったはずだと、私は思うのです。

深泥丘奇談

著者
綾辻 行人
出版日
2014-06-20
リクンベツの酋長カネランが戦いの拠点としたという、ユクエピラチャシ跡。その遺跡近くの林に座り込み、開いたのは、幻想的なホラー小説でした。

ミステリ作家の「私」は、目眩を感じて、近所の深泥丘病院に駆け込みます。その日から、日常に怪異が浸食し始めます。奇怪な出来事は、「私」以外にとっては、どうやら日常。もちろん、「私」にとっては、怪異。ほんの少しの違和感。記憶のズレ。知っているはずなのにしらない場所。知らないはずなのにしっている場所。深泥丘の怪異は、もしかしたら、それを怪異と受け取る、「私」の存在なのかもしれない。なんて。そんな、もうひとつの京都を描いた、連作短編集です。

さて、撮影のセッティング中。読書チャンスです。こういうちょっとした空き時間に、さっと集中して読めるのも、連作短編集のいいところだな、と思いながら、ふと顔を上げると……。

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