本編のみならず外伝も含め次々とアニメ化、舞台化がなされ、2018年には福士蒼汰主演で映画化もされる『曇天に笑う』。個性豊かな登場人物たちのキャラクターを分析しながら、琵琶湖を舞台に繰り広げられる物語の魅力に「外伝」を含め、迫ります。 多少のネタバレがあるので気になる方は無料で読めるスマホアプリをご活用ください。
『曇天に笑う』の魅力は、何と言っても個性豊かなで多彩な登場人物です。明治維新の混乱期、しかも毎日曇天が続く琵琶湖湖畔で、どんなに辛くとも笑いを絶やさない主人公の雲天火(くもうてんか)とその兄弟たち。そして敵対するキャラクターのかっこいいこと!
そして、このイケメンたちが繰り広げるハラハラドキドキするストーリー展開の面白さも魅力です。バトルあり、胸キュンの恋あり……。おまけに、作者である唐々煙の丁寧な作画が美しく、何度読んでもあきません。
こんなに魅力的な『曇天に笑う』ですが、全6巻と連載が比較的短く、もう少し彼らが繰り広げるストーリーを読みたい!と不満に思った読者も多かったでしょう。後日談『曇天に笑う〈外伝〉』が連載されることになったのも納得です。
- 著者
- 唐々煙
- 出版日
- 2011-03-15
本作は2018年に福士蒼汰主演で映画化。三兄弟の長男の雲天火を演じました。雲空丸役には中山優馬、雲宙太郎役には若山耀人とイケメン俳優揃いで実写化されました。
主演の福士蒼汰は装飾品など細部にまで意見を出し、原作の世界観に近づけるようこだわった役づくりをしたそうです。
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時は1878年(明治11年)、華やかな明治の新しい時代の裏で、新政府に不満を持つ不穏な輩が多くいました。時とともに犯罪者は、ますます凶悪になっていきます。
そこで政府は滋賀県大津の琵琶湖の真ん中に脱獄不可能な重犯罪者専用の監獄・獄門処を作り、凶悪犯を収容することにしました。その監獄へ犯罪者を送り込む橋渡しをするのが、曇神社を護る雲家の三兄弟。
ここ琵琶湖では、300年に一度、全てを滅ぼすと言われる大蛇(オロチ)が敵対する人間の中の「大蛇の器」を依り代としてよみがえると、曇り空が続くと伝えられてきました。折しも、大津の空はその300年に一度の曇天が続いていました。
よみがえった大蛇、そして大蛇の力を利用して新政府に対抗しようとする勢力。平和な世界を取り戻すため、曇家三兄弟を始め、政府の隠密組織・犲(ヤマイヌ)、さらに天火を慕う人々が総力を挙げて大蛇と反乱軍に立ち向かいます。
- 著者
- 唐々煙
- 出版日
- 2014-05-14
雲家三兄弟の長男天火は、雲神社を代々守る14代目当主です。めっぽう強くて負け知らず。鉄扇を操り、どんなに強く凶悪な犯罪者も逃しません。警官たちが逃した罪人をあっという間に一人で何人も倒してしまう姿は弟たちの憧れの的です。
その一方で、弟の宙太郎を心配して女装して小学校に潜り込んだり、家出した空丸が心配で裸のままでいたりと、ちょっと抜けたところもあります。親代わりとして二人の弟たちを育て、いつも明るく笑っている天火は、警官や大津の町の人々にも慕われる存在です。
そんな天火ですが、政府の直属部隊・犲の隊員であった過去も持ちます。のちに隊長となる安倍蒼世と幼い頃から共に切磋琢磨し、天火は誰もが一目を置く存在でした。歴史の裏で国を護るために、犲の隊長としてメンバーを引っ張ってきた天火でしたが、ある日突然犲を去って大津に帰ってしまいます。
そして、自らが追っていたはずの大蛇は、なんと天火に憑依していたことがわかるのです。天下は大蛇の復活を阻止するため、無実の罪を背負い処刑されることを選びます。
「泣いて 叫んで 強がって 誇れ 己が生き様を 笑え!」(『曇天に笑う』3巻より)
処刑のことを知り、集まった弟たちと大津の人々の前で、最後まで笑っている天火の言葉が泣けてきます。いつも大事なことは全部一人で背負い、最後まで皆のためを思って笑って生きてきた利他的な男。天火の死とともに、大蛇もこの世から消えるかと思いきや、いつまでも大津の空は晴れません。天火の死は無駄になったのでしょうか、それとも……。
- 著者
- 唐々煙
- 出版日
- 2011-03-15
雲家の次男、空丸は16歳。剣の腕は兄の及ばないものの、料理など家事一切をこなすしっかり者で真面目な性格です。その真面目さゆえに、いつも兄の役に立ちたいと思っていますが、兄の天火を超えられない自分の不甲斐なさを思いつめてしまうことも。
先祖代々伝わる雲家の宝刀をもらい受け、兄から認められた気がしたものの、やることなすこと空回りでもどかしい思いで毎日をすごしています。
物心ついた時から天火に育てられていた空丸には、両親の記憶がありません。ある時、兄のように強くなりたいと思った空丸は、犲の隊長・安倍蒼世に弟子入りしたい一心で、獄門処へ無理な潜入捜査に向かいます。そして、その折に両親の死にまつわる忌まわしい出来事を思い出してしまうのです。
- 著者
- 唐々煙
- 出版日
- 2012-03-15
さらに、それに追い打ちをかけるように、突然やってきた兄の処刑。兄亡き後、蒼世の厳しい稽古に耐え、必死に雲家を守ってきた空丸ですが、心に空いた隙間は埋められません。
「オロチは負の感情に棲むと云う」「精神を病んだところに入り込み憑く」「記憶を失い 自我を失い 人を喰らい」「器は大蛇に乗っ取られていく」(『曇天に笑う』4巻より)
空丸はたびたび記憶を失うようになります。果たして、彼の心の隙間に入り込んだのは……。
出典:『曇天に笑う』1巻
雲家の三男坊・宙太郎は、何よりも長男の天火が大好き。剣の腕はまだまだですが、足の速さは折り紙付きです。いつも語尾に「ス!」を付けて話します。
天兄が絶対と思っていて、天火の言うことならば無理難題だってこなします。例えば、空丸と喧嘩して泣きべそをかいていると、「空丸と仲直りしたかったら ウ○コ持って行け」と天火に言われると、何の疑いも持たずウ◯コを持っていってしまうほど。
二人の兄の愛を一心に受け、すくすくと育ってきた宙太郎は素直で人を疑うことを知りません。
凶悪な罪人の嘉神直人の言葉を信じて、引きずり回されたり、知らぬ間に脱獄の手引きをしてしまったりしますが、それでも凶悪犯を思いやり、自分の食事も満足に食べていないのに「さっ食べるっス!お腹すいたっス!」と採ってきた魚を嘉神直人に差し出す純粋な少年なのです。
それから、宙太郎のそばには、いつもゲロ吉という名の狸がいるのも忘れてはいけません。このゲロ吉は、大蛇退治の時に変身して大活躍する重要な生き物なのですから!
金城白子は、10年前に血塗れの姿を天火が見つけて以来、雲家で居候をしています。長い年月を雲家三兄弟と一緒にすごし、天火の親友であり兄弟も同然の関係です。
天火には、弟たちを任されるほど信頼され、獄門処に無理に潜入した空丸を天火の願いで助けに行くなど、ここぞという時に活躍するクールで頼れる存在。しかも、滅法強くて、その姿の格好いいこと!
- 著者
- 唐々煙
- 出版日
- 2011-10-15
しかしながら、見事な白髪と紫眼から、金城白子が非情な忍集団・風魔一族の末裔であることは一目瞭然です。雲家三兄弟の絶大な信頼を得ている金城白子ですが、その出生ゆえに天火たちに警戒するように忠告する人も多いのです。例えば、牡丹は、天火の命を受けて獄門処へ空丸を助けに行く金城白子に対してこう言います。
「少し意外です。風魔は心から誰にもつかない同族意識だけの忍だと思っていました」(『曇天に笑う』3巻より)
金城白子の本当の正体は、風魔一族の10代目当主・風魔小太郎だったのです。長として風魔一族から一族復興の指揮を執ることを望まれる金城白子。曇家三兄弟と生活を共にするうちに、雲家と共に歩むことを選んだのでしょうか、それとも風魔一族の考えを捨てきれずにいるのでしょうか。
獄門所に捕らえられた白い髪を持った風魔一族の男と金城白子の関係も気になるところ。はたして、曇天三兄弟の両親を殺したという風魔の独房の男とは誰なのでしょうか?
雲天火があたたかな太陽のイメージなら、もう一人の重要人物・安倍蒼世は厳しく冷たい月をイメージさせるイケメンと言えば良いでしょうか。陰陽師の安倍家の末裔の安倍蒼世は、大蛇討伐のために集められた政府直属の部隊・犲の隊長です。
「大蛇の器」候補として高い確率の者たちを集めて選抜された犲を率いる安倍蒼世は、何事にも厳格。例え仲間であろうと「切り捨てる覚悟も出来ています」と上司の右大臣岩倉具視に言い、剣を教えて欲しいという空丸には、「私は損得勘定で動く人間だ」といい放つ冷徹な男です。
しかし、不器用ながらも頼られれば放っておけない男気も持っています。空丸に剣の稽古を付けてやったり、やせ我慢をしていた空丸に、想いの全てを吐き出せるように思いっきり泣ける場所を作ってやったり……。
- 著者
- 唐々煙
- 出版日
- 2012-10-15
蒼世は生まれた時から親とは離れて育ち、その姿を不憫に思った天火と共に天火の父・雲大湖に引き取られ、犲のメンバーになった過去を持ちます。
蒼世は天火と、同じく犲の隊員の佐々木妃子と3人一緒に大蛇討伐隊・犲の一員として成長します。大蛇を消すための道具として死んでいくつもりで生きてきた蒼世でしたが、「歴史の裏で日本を護る」という天火の言葉に影響され次第に夢を持っていました。
隊長だった天火と共に、犲の右腕として夢を追いかけていたはずなのに、突然犲を裏切って去った天火に傷つき、新しい隊長として犲を必死に守り抜いてきた過去が、蒼世を自分にも他人にも厳しく、人に優しくできない性格へと変えたのかもしれません。
大蛇討伐のために部下たちに的確に指示を出す蒼世の姿は見応えもたっぷり。終盤になるに従い、見逃せなくなってくる登場人物です。
牡丹は人の姿をしていますが、人ではありません。大蛇を封じるために、安倍家の陰陽師総出で呼び寄せた特殊な式神で陰陽術も使えます。300年前の大蛇復活の時には大蛇を封じることができたのですが、明治の復活では大蛇を封印するまでの力は持っていません。
けれども、大蛇の事を一番よく知っているのが牡丹です。彼女は、天火の時代には、宙太郎が通う小学校の先生の姿で再び現れ、同じく大蛇討伐を目指す天火たちに接触する機会を待っていたのでした。
他人には懐かないゲロ吉も牡丹先生のそばにはよくいます。牡丹は空丸が譲り受けた雲家の宝刀の秘密を調べあげ、自身も大蛇退治へ突き進んでいくのです。
信念に満ちた嘘のない真っ直ぐな目を持つ女性・牡丹。彼女には、心に決めた人がいます。式神と人間のかなわぬ恋とわかっていながらも、300年の時を超え、無意識に牡丹を捜す比良裏(ひらり)を待っている乙女でもあるのです。
滋賀県警の警官の比良裏は、生まれつきの隻腕で若いながら西南戦争の警視隊に選ばれたほど力のある男ですが、生まれつき奇妙な夢を見ます。
知らない筈なのに愛しい 触れたいのに存在しない 誰だか分からない者への恋情は奇妙で哀れな夢 (『曇天に笑う』4巻より引用)
比良裏は300年前の大蛇の呪いを宿して生まれたため、無意識のうちにかつての恋人・牡丹を捜してしまうのです。
危険にあった牡丹を助け、「絶対離さねぇから」と言う比良裏。大蛇と戦う牡丹を守っていると、300年前の記憶が戻ってきます。
そう、比良裏は300年前の大蛇退治で活躍した安倍比良裏の生まれ変わりだったのです。陰陽師の安倍家に拾われ大蛇の餌として死ぬために育てられてきた安倍比良裏は、幼いころに見かけた牡丹に恋をし、その恋を支えに、死ぬために生きねばならない自分を支えてきたのでした。
300年たっても変わらない比良裏の愛の一言がたまりません。緊迫したストーリー展開の合間の清涼剤。比良裏の言葉に胸キュンしてください!
半分が白髪、半分が黒髪の錦は金城白子と同じく風魔一族の末裔です。風魔として生きる事に耐えかね逃げだしたのでした。しかし、普通の人間として生きることも出来ず、風魔一族が絶えたという噂を聞いてからは、風魔一族の復興を願い、一族を捜して獄門処へ看守として忍び込み独房の主のことを探ったり、金城白子の下に現れたりと自分の生き方を捜します。
しかし、金城白子に冷たくあしらわれ、風魔として生きる目的を失ってしまったのです。自暴自棄になり傷つく錦。そんな時に空丸にやさしくされ、錦は曇家の居候として新たな生き方を進み始めます。
「その当たり前の事が私にとっては涙が出る程嬉しい」(『曇天に笑う』5巻より引用)
空丸の暖かい笑顔と、見返りを求めずに一つ一つ色々なことを丁寧に教えてくれる態度に、雲家の影として天火亡き後の雲家を支えていく決意をする錦。風魔一族を裏切っても、空丸を護るため牡丹とともに戦い続けます。
<外伝>では、さらに誠心誠意、空丸につくす姿が健気で可愛らしいのです。空丸と錦、お似合いの二人の関係が気になります。
<外伝>の舞台は、翌年の明治12年、目が覚めるほど快晴の滋賀県大津の空の下です。
大蛇はいなくなり、大蛇討伐を目的とする犲も解散します。それぞれが新たな道を歩み始めるはずだったのですが、また新たな大蛇の気配を感じる空丸たち。
それは、陸軍指揮下で大蛇細胞を使った人体実験が密かに行われていたのでした。人を人と思わない行為に激怒する曇天三兄弟たち。けれども、頼みの犲メンバーは陸軍の側についた様子。大蛇細胞の人体実験に異を唱えるということは、国を敵にまわすことにもなります。
消滅したはずの風魔一族も復興を目指して動き出しています。みんなの記憶から自分の存在を消して比良裏のもとを去った牡丹もどうなったのでしょう。
一層強くなった、空丸や宙太郎の活躍が気になる外伝です。
ここからは劇場版アニメ作品が三部作で公開されることが決定している『曇天に笑う 外伝』の魅力をご紹介!それぞれのキャラのその後について迫ってみます!
- 著者
- 唐々煙
- 出版日
- 2014-05-14
外伝でメインとなってくるのが大蛇細胞の悪意ある実験です。大蛇(オロチ)がいなくなってもなおその強大な力を利用とする者たちに、三兄弟は最後の戦いに挑みます。
大蛇が倒されてから禁止されていたはずのこの企みには、実は彼らを育てた犲、そして蒼世が関わっていました。
- 著者
- 唐々煙
- 出版日
- 2015-05-30
「外伝」で三兄弟たちはところどころで白子を思い出し、そして乗り越えようとする様子を見せるのですが、それがまた胸が痛い。前に進むべきだけれど、彼の死を受け入れて通り過ぎることがまた寂しい。複雑な思いが去来します。
そんな傷を抱えている時に、心の支えだった蒼世の裏切りを知る3人。見ていて切ない気持ちにさせられるものですが、この流れがあるからこそ、彼らの成長が感じられもするのです。
特に空丸は超えられない目標であった天火から受け継ぐ当主の座、そして恩人である蒼世を超えることなど、さまざまな出来事を経て、一回り大きくなります。激しい戦いの末に自分の進むべき道を見つけ、歩んでいくのです。
空丸も含め、それぞれの過去が明かされ、みながそれを乗り越えて未来へと進んでいくさまを見事に描き切った『曇天に笑う 外伝』。ただの後日譚ではなく、これだけでかなり物語として読み応えあるものなので、ぜひおすすめです!
今回「外伝」で悲しいスタートとなったのが比良裏と牡丹。
牡丹が自分に関わる記憶を消してみんなの前から姿を消すのですが、牡丹の記憶だけは残ったままだったのです。
共に生きよう、共に死のうと約束し、牡丹が人間になる道を探そうとし始めた矢先だけに、比良裏は戸惑います。そして自分の記憶だけ残していった彼女にも。
- 著者
- 唐々煙
- 出版日
- 2017-03-14
比良裏は式神について資料を読み漁り、彼女を探します。そんな比良裏のもとに、大陰陽師の子孫である芦屋がやってきました。
「彼女の行き先をお捜しですか?」(『曇天に笑う 外伝』中より引用)
ここから物語が進むかと思いきや、実は「外伝」ではふたりの物語は完結しません。下巻の序盤あたりからあまりメインストーリーに関わらなくなってくるふたりですが、『泡沫に笑う』というサイドストーリーとしてまた別にふたりの物語が描かれるようです。
無印1巻に収録された「泡沫に笑う」というエピソードが人気があることもあり、楽しみな方も多いのではないでしょうか。ふたりの思いの深さを知っている読者からすると行く末が気になりますよね。
外伝を読むとさらに『泡沫に笑う』まで読まずにはいられなくなってしまうというこの流れ。唐々煙のストーリーテリングのうまさにまたしても唸らされてしまいますね。
『曇天に笑う』の300年前を物語の舞台とした『煉獄に笑う』も発売され、まだまだ広がりを持つことが期待できる作品です。アニメや映画で知った方も、ぜひコミックを読んで原作ならではの登場人物の格好良さを楽しんでみてはいかがでしょう。