『掟上今日子の備忘録』から始まる「忘却探偵」シリーズを全巻ネタバレ紹介!

更新:2017.8.10

眠ると記憶が失われてしまう白い髪の美女、掟上今日子。「忘却探偵」として名を馳せる彼女はあらゆる難事件をスピード解決に導きます。密室に暗号、叙述トリックと、王道なのに一癖も二癖もある本作。新垣結衣主演でテレビドラマ化、漫画化もされたその魅力に迫ります。

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忘却探偵は最速探偵。『掟上今日子の備忘録』

「た――探偵を呼ばせてください!」(『掟上今日子の備忘録』より引用)

行く先々で事件に巻き込まれ、なぜか凶悪犯罪と遭遇してしまう主人公の厄介(やくすけ)。彼は生まれてこのかた、事件に巻き込まれるたびに犯人と疑われ吊るし挙げられてしまう損な役回りにあります。

そんな彼がやっとのことで見つけた新しい就職先は研究所でした。しかしたった入所2ヶ月で、厄介は研究所の機密データ盗難の犯人だと疑われてしまうのです。

著者
西尾 維新
出版日
2014-10-15

就職すれば不祥事の疑いをかけられてクビになり、もっとひどい場合には社員の大半が消息不明となり、会社そのものがなくなってしまったことも。厄介の周りはまさに厄介事だらけです。

そんな彼が、なんとか普通の生活を送るために編み出した自衛策が「探偵と懇意にすること」でした。携帯電話の中にびっしりとつまった探偵の連絡先のうちから、彼は一件の探偵を選びます。それが掟上今日子、通称「忘却探偵」でした。

今日子は事件の記憶どころか自分の名前さえも、ほぼ一日、正確には睡眠に落ちることによって忘れてしまう体質です。そのため、どんな事件も即日で解決してしまいます。

会うたびに「初めまして」と言われてしまう厄介。しかし彼は今日子を信頼し、彼女もまたプロとして依頼に応えます。やがて今日子に好意を抱く厄介でしたが、彼の前には彼女の「忘却」が立ち塞がるのです。

本作は、冒頭で展開する機密データ盗難事件に加え、誘拐事件、ミステリー作家の遺稿探しと死因推理など、一冊の中に4篇の連作短編が収録された、読み応え抜群の推理小説となっています。

2億円の絵画の行方。『掟上今日子の推薦文』

美術館に通う白髪の女性。彼女は必ず、ある一枚の絵の前で立ち止まり、一時間ほど鑑賞してから帰ってゆきます。

長い間同じ絵を眺める彼女を気に掛け、椅子の貸し出しを提案しようとしたのが美術館の警備員、親切守(おやぎりまもる)でした。彼はその人を老女だと思ったのです。しかし相手が20代半ばであることに気づき、話をそらすため慌ててその絵が好きなのかと問います。

女性は肩にかかるほどの白い髪を揺らし、にっこりと笑って答えます。

「この作品には、今日という日の一時間を割いてもいいくらいの魅力があります」(『掟上今日子の推薦文』より引用)

これが、守の人生を大きく変える出会いとなることを、彼はまだ知りませんでした。

著者
西尾 維新
出版日
2015-04-23

「忘却探偵」シリーズの2作目の語り部は警備員の守です。彼は就職前から何かを守る仕事をしたいと考えていたこともあり、警備員の仕事に誇りを持っています。しかし、彼は理不尽な理由で美術館の警備員の仕事をクビになってしまうのでした。

失意にのまれる守。そんな彼に持ちこまれたのは、退職の元凶である人物・額縁匠の護衛業務です。

襲われる額縁匠に、意味深な発言をする画家の卵。絵画に関わる者が集うアトリエ荘で起きる事件を、今日子は解決に導くことが出来るのでしょうか。

タイトルにある「推薦文」とは、過去の今日子によってしたためられたものです。いったい誰のために、何を推薦するのか、最後まで目が離せません。

犯人たちから見た名探偵『掟上今日子の挑戦状』

アリバイ作りのためにカフェにやってきた鯨井(くじらい)。彼は文庫本を読んでいた総白髪の女性に目を留めました。この特徴的な外見なら後日探しやすいだろうし、きっと自分のアリバイを証明してくれるだろう……そう考えた鯨井は女性に声をかけます。

すると彼女は、初対面の男からの質問にも関わらず、名前や素性をすらすらと答えたのです。そんな彼女に、鯨井は驚きと共にこう感じます。

「ただ、これは警戒心がないと言うよりも、余裕があると言ったほうが正確なようにも感じた――たとえ何が起こっても自分の裁量で片づけられるというような余裕。」(『掟上今日子の挑戦状』より引用)

忘却探偵をアリバイ証言役に選んでしまった鯨井は、どんな結末を迎えるのでしょうか……。

著者
["西尾 維新", "VOFAN"]
出版日
2015-08-19

本作は「アリバイ証言」「密室講義」「暗号表」の3篇を収録した、それぞれの事件の犯人を主人公として展開される短編集です。「アリバイ証言」は、作者西尾維新が得意とする叙述トリックが光る作品です。また「暗号表」では複雑な謎で読者を唸らせます。

「忘却探偵」シリーズ3作目ともあって、今作では今日子の魅力がより詳しく描かれます。なかでも、守銭奴のごとく「無償では謎解きをしない」と言い張るところや、彼女が謎解きのためにあえて眠り、記憶をリセットする場面からは、今日子の新たな一面や、探偵としての生きざまが伺えるでしょう。

巻末のおまけは警察が作成した「忘却探偵に関する報告書抜粋集」。今日子に振り回される警察の苦労がよくわかる、ギャグ要素にあふれる報告書となっています。

被害者は加害者かもしれない。『掟上今日子の遺言書』

雑居ビルの屋上から転落した女子中学生。その身体をうっかり受け止めてしまったのは、なぜか事件に巻き込まれてしまう不運な青年、厄介でした。

一週間生死の境をさまよった末、病院のベッドで目覚めた彼は例によって容疑者に疑われてしまいます。

「空から女の子が降ってくるっていうのは、漫画の世界じゃあ、結構な憧れのイベントなんだけどな」(『掟上今日子の遺言書』より引用)

1作目で読者を魅了した厄介と今日子のコンビが、少女の飛び降りの謎に挑みます。

著者
["西尾 維新", "VOFAN"]
出版日
2015-10-06

今作は長編作品で、影響を受けやすい多感な年ごろの少女の思考に注目しています。「漫画の影響を受けて死ぬことにした」という内容の遺書を残して飛び降りた女子中学生。しかしその遺書には、漫画のタイトルが書かれていません。厄介たちはその漫画が何かを探し、少女の真意へと迫っていきます。

「特別でありたい」という気持ちや、読書歴を明らかにされるという、心を丸裸にされるような恥ずかしい展開。繊細な少女の感性を追ってゆく物語から目が離せません。

読者を過去に引き戻す描写は哲学的で、偏重的です。少女の複雑で繊細な思考を、読者はきっと理解したくなります。

今日子が中学生の罠にはまりセーラー服を着ることになるシーンや、ひょんなことから猫耳をつけるシーンなど、キュートな場面もお見逃しなく。

それは書くものではなく消すもの。『掟上今日子の退職願』

「事件を解決に導きたいからなのか、それともあの、眼鏡をかけた白髪の探偵に、久し振りに会いたいからなのか、わからなかった――」(『掟上今日子の退職願』より引用)

佐和沢警部は全警察機関公認ともいえる探偵、掟上今日子に電話をかけていました。忘却探偵は、事件に関して記録どころか記憶にも残さない性質により、警察から重宝されていたのです。

依頼内容はバラバラ殺人事件の解決。警部たちと今日子の謎解きがはじまります。

著者
["西尾 維新", "VOFAN"]
出版日
2015-12-17

本作は「バラバラ死体」「飛び降り死体」「絞殺死体」「水死体」の4篇を収録した短編集。それぞれ語り部が異なり、全員が今日子と同年代の女性警部なのが特徴です。

女性キャラクターの目線のため、今日子の外見ではなく、性格や表情の作り方、言葉の選び方などが観察されます。それにより、彼女のお金にがめつい部分や、自分の人生に責任をもっている芯の強い姿がありありと描かれるのです。

さらに今作の魅力は、今日子のアグレッシブな捜査にあります。眠る前までしか記憶がもたないことから全力で捜査を進める彼女は、汚い池の中へ飛び込み沈んだかと思えば、野球場のフェンスから飛び降りるなど、スタントマンさながらの行動を見せます。

そんな今日子が「探偵をやめたくなることはないのか」と質問されたときの答えは、まさに忘却探偵ならではです。探偵業に誇りを持って生きる彼女が、探偵をやめたらどうするのか。その答えは「水死体」の物語のなかにあります。ぜひ実際にご確認ください。

「好き」を残すこと。『掟上今日子の婚姻届』

講演会に呼ばれた「忘却探偵」の今日子。当然彼女は過去に解決した難事件のことなどさっぱり覚えていませんが、むしろそれを売りとして講演に挑みます。

「彼ら彼女らは、そして僕は、聞きに来たというよりは、見に来たのである――『掟上今日子』という、風変わりな探偵を」(『掟上今日子の婚姻届』より引用)

壇上の今日子に投げかけられた恋の質問に、厄介の受ける予想外のプロポーズ。今日子は呪われた結婚を阻止することが出来るのでしょうか?

著者
["西尾 維新", "VOFAN"]
出版日
2016-05-17

相変わらず厄介事に巻き込まれる厄介が、突然の求婚を受ける今作。付き合う男性すべてが破滅してしまうという「呪われた女性」に見初められ、脅されて窮地に陥る厄介を、なんだかんだありつつも助けようとする今日子。

今回の事件と捜査の特徴は、今日子が二日がかりで事件を解決するところにあります。一日目、厄介は今日子への甘えから失言をしてしまい、彼女を怒らせてしまいます。険悪な雰囲気になる二人でしたが、今日子の忘却の特性を厄介自身が利用することになるのです。

一夜越し、失言のことなど忘れてしまった今日子に、厄介は「初めまして」と依頼をします。初々しいデートのような時間を繰り広げた厄介は、彼女の機嫌を損なうことなく推理をしてもらうことに成功するのでした。忘却探偵をよく知る厄介ならではの忘却探偵の使い方は、互いをよく知っているからこそできる、一種の信頼関係に感じられます。

警備員の守も久々に登場する今作。少しずつ明らかになる今日子の過去も必見です。

売掛金は不存在と同義。『掟上今日子の家計簿』

吹雪の山荘。他者が立ち入ることが出来ない代わりに、誰ひとり出ることもできないその場所で事件は起こります。そんな推理小説のような現場に、もちろん彼女の姿はありました。

「初めまして。置手紙探偵事務所所長の掟上今日子です」(『掟上今日子の家計簿』より引用)

雪の中、白髪と白い服装で現れた「忘却探偵」は警部に笑みを向けました。何度目かになる「初めまして」のあと、今日子と警部は事件解決へと向かいます。

著者
["西尾 維新", "VOFAN"]
出版日
2016-08-23

「誰がために」「叙述トリック」「心理実験」「筆跡鑑定」の4篇が収録された短編集。今回の語り部はそれぞれ異なる警部たちであり、それぞれが止むに止まれぬ理由で忘却探偵に助けを求めます。ともすれば迷宮入りとなりかねない事件もスピード解決していく今日子の手腕はどれも鮮やかです。

女性警部の目線で語られた『掟上今日子の退職願』とは対象に、今回語り部となる警部たちは男性(一部性別不明な人も)です。今日子の内面でなく外見や物腰、表情が観察され、どこか崇拝しているような表現で描写されます。

「忘却探偵」シリーズの中でも、本作の謎の答えはわかりにくくなっています。その筆頭が「叙述トリック」。ここでは犯人が明確には書かれず、ミスリードも多いため、注意をはらって読み込む必要があります。

また、それに続く「心理実験」は、「叙述トリック」の直後に配置されていることを念頭に置く必要があります。叙述トリックについて知識のある読者であればこの謎についてこられるだろう、といった西尾維新の挑戦を感じられる一作です。

私を一晩眠らせないお仕事。『掟上今日子の旅行記』

フランスへ旅行中の厄介は、パリで白い髪をした美人を見かけます。まさか忘却探偵がこんなところにいるはずがないと疑う彼に、彼女は穏やかに名乗りました。

「初めまして。探偵の掟上今日子です」(『掟上今日子の旅行記』より引用)

フランス語で「初めまして」を言い直す今日子に、忘却の対象に外国語は含まれないのだろうかと謎を残しつつ、「忘却探偵」シリーズ初の海外編が幕を開けます。

著者
["西尾 維新", "VOFAN"]
出版日
2016-11-17

眠れば記憶が失われてしまう今日子にとって、長時間のフライトや宿泊を伴う依頼はタブーだと思われてきました。しかし今回「怪盗淑女」からの予告状によって、彼女はフランスまで呼び出されることになったのです。

厄介を信頼しているからこそ今日子が出した「ある頼みごと」が、本作の魅力の一つとなっています。それは、眠ってしまえば依頼内容どころか、自分の存在さえもわからなくなってしまう今日子ならではの頼みごとでした。その大人の色気を感じさせる頼みごとは、男性なら一度は言われてみたい台詞だと言えるでしょう。

さらに物語の山場は、怪盗からエッフェル塔を守るために呼ばれた今日子が、眠っている間に腕の「わたしは探偵」という備忘録を「わたしは怪盗」に書き換えられてしまうところにあります。自分は怪盗だと信じて行動しはじめてしまう今日子を、厄介は止めることができるのでしょうか?

犯人は私。容疑者探偵の笑う『掟上今日子の裏表紙』

ひとたび取調室に入れば、やっていない罪まで被疑者に自白させてしまう「冤罪製造機」の日怠井(ひだるい)警部。取調室から遠ざけられていた彼は、ある日突然、取調べになかなか応じない被疑者が案内される「第四取り調べ室」での業務命令を受けます。

なぜ自分が選ばれたのか……、疑問を抱きながら取り調べ室の扉を開いた彼を迎えたのは、ロープで縛りつけられるような形で座っている白髪の女性でした。

「初めまして。容疑者の掟上今日子です」(『掟上今日子の裏表紙』より引用)

にっこりと微笑んだ忘却探偵。さてこの事件、誰が解決するのでしょうか。

著者
["西尾 維新", "VOFAN"]
出版日
2017-05-23

今回の舞台はとある屋敷、しかも密室です。今日子は遺体の隣で血まみれの凶器を握りしめて眠っているのを発見され、犯人に疑われるのも仕方のない状況。おまけに彼女の方から「犯人は私ですね」と自白してしまいます。

明らかに異常な状況で、責任感の強い日怠井警部は一人の男を呼ぶことを決めます。その人物こそ、忘却探偵の専門家とも言える不運男、厄介でした。厄介と警部たちはそれぞれの視点で事件の真相へと迫っていきます。

今作では、逮捕されているにも関わらず悠々自適に過ごし、警察の人々を翻弄する今日子の小悪魔な姿が描かれます。そんな彼女が、なぜ屋敷に呼ばれていたのか、依頼人の意図は何なのかなど、先が気になって読む手が止まらなくなること請け合いです。

厄介の今日子への想いを描きつつも、現代において増加している、ニートやパラサイトといった社会問題を取り上げた、人の心の内奥を描き出すサスペンス調のミステリー小説となっています。
 

 


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一日で記憶がリセットされる「忘却探偵」。それゆえにこのシリーズはどの話から読んでも楽しめるようになっています。まずは気に入ったタイトルから読んでみてはいかがでしょうか。