高橋ツトムのおすすめ漫画5選!ドラマ、映画にもなった『スカイハイ』の作者

更新:2021.11.28

元暴走族という異色の漫画家・高橋ツトム。その世界観と硬派な作風は根強い人気を誇ります。今回は高橋ツトムのおすすめ作品を、5つピックアップしてご紹介します。

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高橋ツトムとは

学生時代はパンクバンドを組み音楽活動をするかたわら、「ZERO」という暴走族に所属していた高橋ツトムは、高校を1年で中退してしまいます。

その後はしばらくの期間仕事をしていたものの、当時付き合っていた女性にフラれたことをきっかけにバンド活動を再開。しかしメンバーと上手くいかかずバンド活動に嫌気がさした彼は、小学生の頃に漫画のキャラクターの模写を褒められた過去から、漫画を描こうと思い立ちます。

『沈黙の艦隊』や『ジパング』などで知られるかわぐちかいじの『アクター』という作品に感銘を受け、初めて描いた作品を講談社に持ち込むのですが、その作品は編集者から酷評されてしまいました。

酷評を受けた原稿を講談社に置いていってしまった高橋ツトム。しかし後にその作品が「アフタヌーン四季賞」で準入選を果たし、担当となった編集の誘いもあって憧れのかわぐちかいじのアシスタントとなることになります。

その後、1989年には『地雷原』の読み切りが雑誌に掲載され漫画家デビュー。後に8年間連載を続ける事となるこの作品は、彼の代表作となりました。また2001年から連載を開始した『スカイハイ』はドラマ化や実写映画化を果たす大ヒット作となります。

それ以外にも様々な人気作を誇る著者の作品の魅力は、そのハードボイルドな世界観。男臭さがありながらも非常に洗練されたその作風は、ハードボイルドな漫画が苦手な方でも読みやすい作品に仕上がっています。

『あしたのジョー』好き必見!:『BLACK-BOX』

アマチュアボクサーである石田凌駕は、プロデビュー前から雑誌の取材を受けていました。まだボクサーとして無名の彼が取材を受ける理由、それは彼の家庭環境にありました。

父が殺人犯として服役中、兄も殺人犯として逮捕されていて、兄が殺人を犯した犯行現場には凌駕もいたのです。そのことから、凌駕にも殺人犯という疑惑がつきまとい、リング上でもし相手を殺してしまったものなら、家族3人が殺人犯という人殺し一家になってしまいます。

そんなセンセーショナルな理由から注目されている凌駕ですが、その圧倒的なセンスでボクシング界に旋風を巻き起こしていきます。

著者
高橋 ツトム
出版日
2016-01-22

「『あしたのジョー』が地球上で一番スゴい漫画だと思っている」とインタビューで述べている高橋ツトム。

それが理由なのか、主人公の凌駕が所属しているジムの名前が「黒木ジム」(『あしたのジョー』のジョーが所属するジムは「白木ジム」)であるなど、各所に『あしたのジョー』のオマージュがちりばめられています。

ちなみに、ジム名は意図してオマージュしたのではなく「タイトルが『BLACK-BOX』なんだから、ジム名に黒は入れよう。というノリで付けたら、たまたまオマージュのようになっていた」とインタビューで語っています。

無意識化に影響を及ぼしてしまう程の、高橋ツトムの『あしたのジョー』愛が伝わってくる漫画です。
 

著者の『地雷原』と世界観を同一にしている作品ですので、そちらのファンの方も要チェックですよ。

 

人の成長と家族愛、社会の闇を描いた高橋ツトムらしい作品:『残響』

漠然と何もせずに生きていた主人公の智は水曜日だけ、隣の部屋に住む元ヤクザの老人瀬川に呼び出され、話し相手になっていました。

夏のある日、いつものように瀬川から壁をドンと叩いて呼び出される智。しばらくはいつものように2人で笑いながら話をしていたのですが、瀬川から「何か欲しいものはないのか」と問われます。この日は智の誕生日だったのです。

しかし「何も欲しいものはない」と答える智。そんな智に瀬川は押入れを開けるように指示します。そこには骸骨と、封筒に入った500万円、更にその奥には拳銃が隠されていました。その500万を渡すから拳銃で自分を殺してほしいと懇願してくる瀬川。

一度は決めることができずに部屋を出ていった智。季節は流れ秋、久しぶりに訪れた瀬川の部屋で、彼の決意を聞いた智はついに瀬川を撃ちました。ここから智の血に濡れた人生が始まっていくのです。

著者
高橋 ツトム
出版日
2015-09-30

隣人から「自分を殺して欲しい」とお願いされる、という類を見ない始まり方の作品です。描かれるのは、引きこもり状態だった智の成長譚。

瀬川を殺す直前に頼まれていた香典を渡すために訪れたヤクザの事務所で、智はヤクザの逆鱗に触れ監禁されることになってしまいます。

そこで彼は「命をかけたじぃさんと約束したから」「こんなところで諦めたら本当のクズになるような気がするんだ」と、危機的状況下であるにも関わらずに言い切ります。

死んだ仲間とした約束を守るために、仲間の甥っ子である魁也を息子として育て上げることを決意する智。仲間を殺したヤクザに復讐するため、利用できるものは何だろうと利用していきます。

うだつのあがらない、魅力を感じない主人公だった智が、話が進むにつれ男らしく成長していく様子はとても読み応えがあるでしょう。

非常に暗く陰鬱とした雰囲気を醸し出し、ヤクザへの復讐譚に転がっていくこの作品は、明るくきらきらと輝くようなお話を期待している方は苦手な作品かもしれません。

しかし、社会の闇の側面を描き切り、主人公の成長も実感できる作品ですので、ぜひとも読んでいただきたい傑作です。

霊界と政界を描いたヒューマンドラマ:『ヒトヒトリフタリ』

金髪で関西弁を操る少女、リヨンは霊界に住んでいる幽霊。霊界は、幽霊が輪廻転生を待ちながら魂や輪廻のことを勉強している世界なのですが、リヨンはそんな霊界の学校をさぼって遊んでばかり。

ある日リヨンは校長から呼び出しをくらってしまいます。「ついに輪廻転生できるのか」とぬか喜びするリヨンでしたが、校長から命じられたのは「現世の人間の守護霊となってくる」こと。

渋々と現世に降り立ち、自身が守護霊となる人間の元へ赴いたリヨンですが、守護霊の対象となるのはなんと現職の総理大臣でした。

しかし総理は寿命僅か500日で、体内は「毒」だらけ、さらに支持率は風前の灯火で、国会内にも国民にも味方はいない、という絶望的な状況。リヨンはこの総理大臣の守護霊を務めあげることができるのでしょうか。

著者
高橋 ツトム
出版日
2012-02-17

やる気のないぐうたらな幽霊と、そんな幽霊が守護霊としてつくことになってしまった総理大臣との交流や成長を描いた漫画です。

途中生死の境をさまよった総理は、それが理由でリヨンのことが見えるようになってしまいます。そしてそれから、総理は今までとは打って変わって、国会でも大立ち回りを繰り広げ、日本の為にと努力していくことで、支持を集める総理大臣へと変貌していくのです。

リヨンもそんな総理大臣を見ながら、序盤のやる気のなさはどこへやら、どんどんと成長をして頼もしいキャラクターになっていきます。

高橋ツトムの他作品のような重苦しさではなく、明るい少年漫画のような爽快感を味わうことができる作品です。

映画化もされた高橋ツトムの名作:『スカイハイ』

不慮の事故や殺人などで死んだ人間が送られる場所である「怨みの門」。そこで番人をしているイズコは、やって来た死者に3つの選択肢を提示します。

「天国へ行き新たな生を待つか」「現世にとどまりさまよい続けるか」「現世の人間を1人呪い殺し、地獄へと堕とされるか」。選択肢を提示された死者たちは、いかなる選択を下すのでしょうか。

著者
高橋 ツトム
出版日

釈由美子主演でドラマ化、映画化も果たされた人気作で、1話完結のオムニバス形式の作品となっています。

『地獄少女』という、ある時刻にのみ繋がるサイトを通じて呼び出せる少女の力を使って人を呪っていく人間の業を描いた作品があるのですが、そちらと近しい雰囲気を持った作品なので『地獄少女』が好きな方には特におすすめです。

『スカイハイ』の特徴の1つは、はじめは「あいつを殺して地獄に行ってやる」と思っていた登場人物たちが、イズコの導きや情報示唆によって自身の意見を変え、天国行きを選んだりもするところでしょう。

この手の作品における、イズコのような語り部は基本的に傍観者であることが多いので、新鮮な気持ちで読むことができます。

さて、上記のように意外と親切?とも思わせるイズコとはいったいどのような人物なのか。各話で主人公をつとめる登場人物たちはどのような結末を迎えるのか?

ぜひご自身の目でご確認ください。人間の内面を垣間見ることができる名作です。

熱い物語の中に、暗い一面も併せ持つ作品:『SIDOOH/士道』

幕末の少し前の時代、江戸時代の日本。兄の雪村翔太郎と弟の源太郎は、コロリ(コレラ)で死んだ母の遺言「腕を磨け」という言葉を胸にし、動乱の世界を刀で切り抜けていくことになります。

前半部分は、親を亡くした翔太郎と源太郎の2人が、白心郷という組織に売られながらも剣の実力をつけていき成長していくさまを、後半部分は成長した2人が会津藩お抱えの武士として、新撰組などと共闘しながら幕末を生き抜いていくさまを描いた作品です。

著者
高橋 ツトム
出版日
2005-06-17

主人公たちや、彼らが身売りされることになる白心郷という里などは『SIDOOH/士道』オリジナルの存在ですが、幕末の日本が舞台ということで、勝海舟や西郷隆盛、高杉晋作に新撰組の面々といった、歴史上実在した人物も織り交ぜながら物語は進行していきます。

前半パートは逆境に置かれた主人公が、それでもめげずに剣の腕を磨き仲間と共に成長していく、非常に少年漫画のような熱い展開が続きます。

後半パートも会津藩お抱えになりながら、新撰組という新たな仲間たちと幕府のために、また討幕を目指している自身らの宿敵、白心郷のトップである瑠儀(るぎ)を討つために剣をふるっていくのですが、会津藩がどのような結末を迎えたかは言うまでもないことでしょう。

タイトルに「士道」とあるとおり、戦い、成長していく中で自身の士道を見つける主人公。その最後まで格好よくあり続ける生き様は、一見の価値ありです。

今回は紹介できなかった『地雷震』『爆音列島』といった作品も名作と名高く、どれを読んでも格好よく、面白い。そんな作家が高橋ツトムです。ハードボイルドな世界観に浸りたい方にはイチオシですよ。

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