コメディからラブストーリー、青春漫画など幅広いジャンルの漫画を世に送り出してきた作者。彼の紡ぎ出す作品には、陽気なだけでなく、どこか切なさが付きまといます。今回は、そんな彼のおすすめ作品を5つご紹介します。
1977年9月8日生まれ、福井県出身の漫画家。地元のデザイン科の高校を卒業すると、その後は大阪芸術大学芸術学部デザイン学科に進学します。
2000年に『ヒーロー』でアフタヌーン四季賞で受賞し、デビュー。以降は青年誌や女性誌など、ジャンル問わず幅広く活躍しています。
またイラストレーターとしても人気で、バンド・キュウソネコカミのアルバムジャケットや、SF小説『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』の表紙も手がけています。
そんな彼の代表作といえば、やっぱり『それでも町は廻っている』です。
彼の作品の特徴は、普通のキャラクターたちの日常生活をコミカルかつ少し不思議に描き出すこと。そして、作品のほとんどにミステリー要素が入っていることです。
上記の作品の他にも、『木曜日のフルット』や『外天楼』など、多数の作品があります。
代表作である本作は、東京・下町のとある喫茶店を舞台にくり広げられる、日常の諸々を描き出したコメディ作品です。
2010年にはテレビアニメ化もされ、話題を集めました。
喫茶店「シーサイド」でアルバイトをしている女子高生・嵐山歩鳥を主人公に、シーサイドのマスターがお店の繁盛のためにメイド喫茶を始めようと思いつくところから、話が動き出します。
それでも町は廻っている
2006年01月27日
メイド喫茶をスタートさせることになったのに、関係者の誰もメイド喫茶がどんなものであるかを知らないため、「とりあえずメイド服を着させる」という斬新な設定が秀逸です。
そうしてメイド喫茶として再スタートしたシーサイドに、歩鳥の同級生でメイドカフェに憧れを持つ辰野俊子(トシ子)がやってきます。しかし、メイドカフェとは程遠いその姿に、「メイド服を着ればメイド喫茶になるわけではない」とマスターを説教するのです。
すっかりマスターに気に入られたトシ子は、アルバイトするように勧誘されて迷います。しかし片思いの相手である真田広章がシーサイドの常連であったことから、アルバイトを承諾してしまいました。
さらに広章をはじめ、ひょんなことから歩鳥と知り合った紺双葉、教師の秋森など、個性豊かな登場人物が物語を彩ります。
歩鳥の周りにさまざまな人が集まり輪を作っていく様子に、ついほのぼのしてしまいます。ゆるさが魅力の日常系コメディ作品なので、肩肘張らずに楽しんでください。
「外天楼」と呼ばれる建物に住む人や、外天楼にまつわる人々の話を、オムニバス形式で展開させているのが本作です。
冒頭は「どうやったらエロ本を買えるか」を真剣にシミュレーションする少年たちの話からスタートするのですが徐々に不穏な空気を帯びていき、最終的には1つの物語に帰結するミステリーを描いています。
- 著者
- 石黒 正数
- 出版日
- 2011-10-21
宇宙刑事が出てきたり、ロボットが出てきたり、殺人事件が起こるけど全然使えない刑事が登場したり、とにかく破天荒な作品です。
一見はちゃめちゃに思えますが、この破天荒な展開は、後々の物語に活きてきます。
奇妙にねじれてくっついた物語は、やがて驚愕と悲哀を帯びたものに変化していきます。ちょっぴり切なく哀しい物語。ラストまで目が離せません。
良質のミステリーを読みたい人に、ぜひおすすめしたい石黒正数作品です。
『ネムルバカ』は大学の女子寮を舞台に、同室の先輩後輩をめぐる普通の生活を描き出した日常系漫画です。
先輩・鯨井ルカ、後輩・入巣柚実という正反対の2人が織りなす、心の交流と葛藤を覗き見ることができます。
- 著者
- 石黒 正数
- 出版日
- 2008-03-19
バンド活動にいそしむ先輩はいつでも金欠で、特に打ち込むものがない後輩は日々を古本屋バイトに費やしています。
「ぐるぐる廻り続けるだけで一歩も前進しない駄目なサイクル」を「ダサイクル」と名づけたルカ。「何かしたいけど何ができるか分からない人」というカテゴリについて話す柚実と友人たち。
彼らは決して交わらない道を歩んでいるのですが、図らずも同室になってしまったからこそ生み出される「他者との違い」「他者への羨望」といった悩みや葛藤をしっかりと描き出しています。
社会に出るまでの「モラトリアム」な時間をある意味めいっぱい謳歌している2人ですが、気楽に見える大学生が持つ悩みや葛藤の切実さも伝わってくる、青春のあれこれが詰まった作品です。
苦くて甘くて酸っぱい青春を追体験できる物語。おすすめですよ。
イラストレーターの響子と、電気屋を営む天然な父さん。2人を中心に、岩崎家のドタバタした日常生活を描くコメディ作品です。
自身の電気屋でトラブルを起こしてみたり、警察に連行されたりとコメディ要素しかないと思いがちな父を、響子がフォローするという流れで話は動いていきます。
- 著者
- 石黒 正数
- 出版日
- 2010-03-13
父親を心配する娘、娘を気に掛ける父親。互いに口には出さないけれど、常に思っていることが全編から伝わる、ほんわかしたストーリーが展開されていきます。
真面目だけど少しズレてて天然気味、間違いを指摘すると不機嫌になってしまう父さんの姿には、思わず自分や、自分の父親の姿を重ねてしまうでしょう。「あるある」と納得させる内容と、人情味あるキャラクターがとても魅力的です。
しかし、ほのぼのした日常にも、失踪して行方不明な妹の存在などダーティな要素がプラスされることで、温かいだけでなく、よりリアリティのある構成になっています。
実は石黒正数の代表作の1つである『ネムルバカ』と繋がっています。どこが繋がっているのかを考えながら読み進めるのもおすすめですよ。
1匹のネコと、1人の人間を軸に描かれるショートストーリー。
自称ノラネコのフルットは、半飼い主である人間・鯨井から餌をもらい、部屋で寝泊まりしている「半ノラネコ」ですが、立派なノラネコを目指して奮闘しています。
- 著者
- 石黒 正数
- 出版日
- 2010-10-08
人間側の主人公・鯨井は、定職につかず、ギャンブルばかりしているダメ人間です。
1人と1匹が織りなす生活をコミカルに描き出されたストーリー。けっして大袈裟な出来事が起こるわけではありませんが、普段の生活にひそむ謎を取り上げたり、ノラネコ社会と人間社会との交わりをそれぞれの視点から描いたりと、のんびりと過ごす日常を一緒に楽しむことができます。
フルットの気持ちになってみたり、鯨井の生活に「わかる」とうなずいてみたり、色んな楽しみ方ができる一冊です。気軽に読めるので、隙間時間にもおすすめですよ。
ほのぼの日常系ストーリーに定評のある、石黒正数のおすすめ作品でした。彼の作品の魅力は、ほのぼのした日常だけで完結しないところでしょう。あえてダークサイドを描くことで、日常を面白くすることに成功しています。そんな彼の世界を、ぜひ堪能してください。