「身体」は誰のもの?あらゆる角度から身体を再考する3冊

更新:2017.8.13 作成:2017.8.13

夏になると、普段以上に身体のシルエットを気にする人が多いのではないでしょうか。今回は、身体がどのように眼差され、変容してきたのかについてあらゆる角度から書かれた書籍を3冊ご紹介します。

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夏になると、普段以上に身体のシルエットを気にする人が多いのではないでしょうか。あらゆるメディアで「見られても良い身体」を目指すための特集やコンテンツが取りあげられますが、それが誰によって決められているのかを考えたことがある人は少ないかもしれません。自分の身体であるはずなのに、自分で決められない身体。今回は、身体がどのように眼差され、変容してきたのかについてあらゆる角度から書かれた書籍を3冊ご紹介します。

解剖学的な視点から考える『アナトミカル・ヴィーナス』

著者
ジョアンナ・エーベンステイン
出版日
2017-02-07

「人体模型」と聞くと、大抵の人は小学校の理科室の隅にあるちょっと不気味なオブジェを想起するでしょう。18世紀から19世紀にかけて、数多くの精緻な人体模型がヨーロッパを中心に作られました。これらは基本的に女性の等身大模型であり、どこかエロティックで艶めかしさが際立つものばかりでした。なかでも1780〜82年に作られたクレメンテ・スジーニの『解剖学のヴィーナス』は、現在でも人々を魅了しています。

本書では、人体を切り開くことなく解剖学的な身体の構造を知る手段として作られた女性の人体模型が、どのような眼差しを向けられてきたのかを辿ったものです。見世物として多くの人の目に触れた時代もあれば、個人的かつフェティッシュな対象として愛玩された時代もあり、人体模型のみならず、等身大の模造身体が時代によってどのような役割を担ってきたのかを知ることができます。図版が多めであるものの、解説や考察も示唆に富んでいるので、とても読み応えのある1冊です。

フェティシズムの視点から考える『侵犯する身体』

著者
出版日
2017-06-06

「◯◯フェチ」という言葉が日常的に使われるようになって久しくなりましたが、もともとは西アフリカの住民たちによる崇拝の対象であるものを示すフェティッシュに由来しており、フェティシズムはその宗教的実践を意味するものでした。そののち、マルクスが資本主義社会における商品の在り方を「商品フェティシズム」と名付け、さらに心理学者であるアルフレッド・ビネーが身体のパーツや衣服・装飾品などに性的魅力を感じることをフェティシズムと名付けたのです。

上記した書籍の紹介文にも登場しましたが、身体はしばしばフェティッシュな対象として眼差されます。フェティシズムは宗教・経済・性の三領域にまたがって使用されてきた概念ですが、フェティッシュ化は現代社会においてますます顕著に見られる傾向のようです。現代のフェティッシュ化を領域横断的に考察してまとめた本書は、学術書であるものの一つ一つの章で取りあげられる対象が(いい意味で)マニアックなので、身構えずに面白く読めてしまう1冊です。個人的におすすめなのが、第4章「「人体模型」の現在、」第5章「観光化する複製身体」、第14章「サイボーグに性別はあるか」です。「フェティシズム研究」シリーズの完結編なので、本書で興味を持った方は、1・2もぜひお手にとってみてください。

社会学・文化人類学の視点から考える『ボディ・スタディーズ』

著者
マーゴ・デメッロ
出版日
2017-05-30

一口に「身体」と言っても、人によってイメージするものは異なります。ある人はバービーのようなプロポーション抜群の身体、ある人は太っている身体、またある人は病に冒されている身体をイメージするかもしれません。それらはどれも時代や文化の違いで意味合いが異なり、ある時代や文化では神聖・崇拝の対象であるかもしれないし、逆に忌み嫌われる対象である場合もあります。つまり、身体は時代や文化によってあらゆる価値や意味をその都度刻まれているのです。

自然科学の領域(医学や生物学など)で扱われるものであった身体は、「自然」かつ「普遍的」なものだという認識に疑いの余地がありませんでした。しかし、20世紀後半になって身体が人文社会科学(社会学、文化人類学など)の研究対象となり、身体にまつわるさまざまな事柄が、時代や文化によって異なる価値や意味を形成(構築)していくという考えが共有されるようになりました。本書は、前述した2冊よりも広範かつあらゆる具体例が紹介されているので、身体研究の入門書として最適な1冊です。個人的におすすめの章は、第1章「健康的な身体、病的な身体」、第5章「ジェンダー化される身体」、第8章「美しい身体」、終章「未来の身体」です。入門書に最適と記述しましたが、日本ではあまり知られていない研究や用語も数多く紹介されているので、身体研究を専門にしている方でも興味深く読めます。