1996年から2000年まで『なかよし』で連載されていた『カードキャプターさくら』。アニメ化もされ、一世を風靡した「さくら」が20周年を迎えて新編「クリアカード編」の連載がはじまりました。改めて「さくら」の世界を検証してみましょう。
- 著者
- CLAMP
- 出版日
- 2016-12-02
20世紀の終わりに雑誌連載され、21世紀のはじめにアニメ化されて大人気を誇った『カードキャプターさくら』は、1996年6月号~2000年8月号のあいだ、講談社の月刊誌『なかよし』に連載されていました。全50話、単行本では12巻の長さです。そこで語られたのは、アクシデントからばらばらにどこかに飛ばされてしまった魔法のカード「クロウカード」を集める「クロウカード編」と、クロウカードをさくらを真の主とする「さくらカード」に変化させていく「さくらカード編」です。
全12巻の間に、さくらが出会った闇の力を宿した魔法のカードはさくらの手によって1箇所に集められ、さくらの力で新しいカードに生まれ変わりました。小学生だったさくらは中学生になり、香港でやらなければならないことがあると言って帰国した小狼が日本に戻ってきて再会したところで全編の終幕でした。
物語がはじまってから20年。新しい『カードキャプターさくら』の物語が始動します。奇妙な夢を見たさくら。すべて透明になってしまったさくらカード。さくらの周囲で何が起こっているのでしょうか。既に語られた2編を振り返りつつ、新たな物語「クリアカード編」を考察していきましょう。
『カードキャプターさくら』の作者であるCLAMPは女性4人組の漫画家チームです。そんなCLAMPのおすすめ作品を紹介した<CLAMPのおすすめ作品ランキングベスト5!隠れた名作を厳選!>の記事もおすすめです。気になる方はぜひご覧ください。
主人公・さくらはカードキャプターとして日ごと活動していました。ところで、「カードキャプター」とは何なのでしょうか?
「カードキャプタ-」の「カード」とはもちろん、クロウカードやさくらカードなどの、魔法を秘めたカードのことです。では「キャプター」とは?
これは英語で言う「captor」、「捕獲者」のことです。封印の獣であるケルベロスが本来は封印しているはずのクロウカードは、何らかの原因によって封印の本の中から飛び出して散り散りになってしまいました。
魔術師クロウ・リードがつくったクロウカードは大変な魔力が宿っていて、それぞれが好き勝手に行動したがって、その上、常人ではカードたちを抑えることができません。そのため、クロウ自身がカードを収めるための本をつくり、そこにカードを収めて表紙には封印の獣、ケルベロスを配しておいたのですが……さくらが本を開いたときにはすでにカードたちは収まっていなかったのです。
封印の本を開くことができたということはさくらには魔力があるということです。そこでさくらを見初めたケルベロスは、さくらに封印の鍵を与え、散り散りになったクロウカードを捕まえて封印の本に戻す「捕獲者」、すなわち「カードキャプター」として目覚めさせたのです。
魔術師クロウ・リードの強大な魔力を秘めたクロウカードを捕獲する者、カードキャプターとなったさくらは封印の鍵が変化した封印の杖を片手に、友枝町に現れるカードたちを追って日夜時間を問わず奔走するのでした。
カードの「捕獲者」であるカードキャプター、さくらはカードにまつわる物語の中心に存在します。そのカードとは魔法のカード。最初に出会ったのはクロウカードでしたが、クロウカードはその後、姿を変え、秘める力を変えて、さくらに影響し続けています。
クロウカードと、クロウカードのその後の姿を確認してみましょう。
さくらの父親の書庫にあった1冊の本。それは魔法のカードを封じておくための封印の本でした。魔力を持たない者には表紙を開くことができないというその本を、さくらは開きました。それによって封印の獣、ケルベロスが解き放たれ、ケルベロスがさくらをカードキャプターとして封印の鍵を授けます。
封印の本に封印されていたはずのカードは、すでにこの世の存在ではない魔術師クロウ・リードによってつくり出されたものでした。クロウは強大な魔力を持つ魔術師で、新しい魔法を生み出すことができるほどです。彼がつくったカードこそがクロウカード、1枚1枚が生命を帯びて、名と姿と魔力を持っています。
人間のように性格もさまざまのカードを追って戦ったり説得したり、そうしてカードをおとなしくさせると封印の鍵を杖の姿にして、「汝のあるべき姿に戻れ、クロウカード!」と呪文を唱えて、さくらは全部で19枚のクロウカードを封印していきます。
すべてのクロウカードを封印して自らの名を記し、さくらが正式なクロウカードの持ち主となってからしばらくの後、さくらが通う学校に柊沢エリオルが転校してきます。その前後から、奇妙な事件が起こるようになります。
さくらはクロウから与えられた星の杖を使ってクロウカードの力で対処しようとしますが、カードは呪文を受けつけません。そこでカードの魔力ではなく、さくらは自分自身に宿る魔力を使ったカードを使います。これによって、クロウカードは新たなカードへと生まれ変わりました。これが「さくらカード」です。
クロウカードを使うときには、カードに秘められた力を使っていましたが、さくらカードとして使うときには、さくら自身の魔力を消費してしまいます。クロウカードをさくらカードに変化させるということは、新しい魔法をつくり出すということでもあります。より強い魔力を使うことで、とても疲れるのです。
クロウカードが「闇」の力を秘めていたのに対し、さくらカードはさくら自身が秘めている「星」の力を発揮します。クロウカードのすべてをさくらカードへと変化させ、さくらはかの魔術師クロウ・リードよりも強い魔力を持つ者となりました。
さくらは中学校に進学しました。さくらカード編のおしまいに香港に戻るからと別れた小狼とも再会し、前途洋々のはずが、ある夜、不思議な夢を見ます。透明なカードがたくさん出てきてそれは全部砕け散り、暗闇にフードを深く被って顔が分からない人物が現れます。飛び起きて封印の本を確かめてみると、入っているさくらカードがすべて透明になってしまっていました。魔法のカードとしては使えなくなっています。
何度も見る透明のカードと謎のフードの人物の夢。さくらはクロウカードを知る者たちに相談してまわりますが、これといったことは分からないままです。
そうしているうちにもさくらは強い風に巻かれて危険な目に遭います。夢の中で手に入れた新たな封印の杖を使って、新たな呪文を唱えます。「主なき者よ、夢の杖のもと、我の力となれ!」……杖とその呪文によって、風は「疾風」というクリアカードに固着(セキュア)されました。
不思議な現象は風だけではありません。繰り返し起こる現象と、繰り返し見る謎のフードの人物の夢。誰が起こしている現象なのか、フードの人物は誰なのか、分からないまま少しずつさくらはクリアカードを手に入れていきます。
クロウカードからはじまったカードキャプターの物語。カードに秘められた魔法、魔法が秘められたカードが織りなす一連のうねりの中に自らの立ち位置を見つけ、大切な人との絆を結ぶ人たちを一人ずつ見てみましょう。
本作の主人公。本名は漢字で「桜」と書きますが、みんなは「さくら」と呼びます。本稿でもこれに準じて「さくら」と表記しています。
父・藤隆の書庫にあった封印の本を開いて、表紙に描かれていた封印の獣ケルベロスを目覚めさせました。そのときすでに、本の中に収められていたクロウカードはさくらが住む友枝町の至るところにばらばらに飛ばされてしまっていて、本は空っぽです。散り散りになったクロウカードを再び封印すべく、ケルベロスによってカードキャプターとなりました。
素直で明朗、親切でポジティブな少女で、無敵の呪文として「絶対だいじょうぶだよ」を心に持っています。友達思いで、特に大切な友達である大道寺知世は、さくらもしばらくの間知りませんでしたが、遠い親戚(またいとこ)です。
李小狼とは両想いですが、最初は苦手意識もあり、またお互いに恋愛にはいささか鈍感で互いの気持ちを確かめ合えずにいました。さくらカード編のおしまいで、晴れて互いの想いを認め合います。
クロウカードをすべて集めた後はそのすべてを自分自身が主となるさくらカードへと変化させました。そのさくらカードがなぜかすべて透明のカードになっていたことから、クリアカード編ははじまります。
クロウカードを集めるために香港から転校してきた少年。さくらの同級生です。李家はイギリス人の父と中国人の母を持つクロウ・リードの遠縁に当たります。それゆえ、小狼も強い魔力を持ちます。クロウカードがばらばらに飛散したことを知り、回収するために日本にやってきました。
無口で辛辣な部分もありますが、かなりの照れ屋です。手に入れたクロウカードを使うこともできますが、クロウカードがすべてさくらの手に収まった後は青竜刀や護符を使った独自の技で戦います。また魔法を追跡することができる羅針盤を用いて人やカードを居場所を探すこともあります。
さくらに対しては当初は敵意に近いものを持っていましたが次第に好意を持ちはじめ、その気持ちがいったい何なのか自分で分からずに混乱したこともありました。しかし、大道寺知世や柊沢エリオルの助言などもあり、徐々に自分の気持ちを受け容れ、さくらに告白することができました。告白のすぐ後、香港へ帰ることになりましたが、手続きを終えて日本に戻ってきました。中学1年生になっての再会があり、クリアカード編がはじまります。
さくらの同級生で一番の理解者。さくらの紹介によると「大道寺なんとかかんとかコーポレーションっていうすっごい大きな会社の社長さんのお嬢さんで、すっごいお金持ちなんだけどとってもいい子」(『カードキャプターさくら』1巻から引用)。
裁縫が得意で、さくらのバトルコスチュームを手づくりし、カードを集めるため奮闘するさくらの姿をビデオ撮影しています。
常に「ですわ」口調で丁寧に話し、おっとり穏やかな性格です。その一方で落ち着いた面があり、洞察力があります。さくらの小狼への、小狼のさくらへの気持ちにもいち早く気づき、さりげなく助言したことも。
さくらが好きで好きで、さくらのバトルコスチュームを自分の手でつくった上で、それを着ての勇姿をビデオカメラで追って撮影し、そのために危険な目に遭うことがあっても怯むことがありません。撮影した映像は自ら編集して自宅のシアタールームの大画面で視聴します。大きな画面に映し出された自分を恥ずかしがるさくらも作中に見ることができます。
さくらの7歳年長の兄です。初登場時は高校2年生でした。成績優秀、スポーツ万能、見目もよく、少女漫画に登場するにはうってつけの男子です。作中でも学校で人気者です。さくらのことをことあるごとに怪獣呼ばわりしてさくらを怒らせていますが、ほんとうはさくらのことが大切でならないのです。
たくさんのアルバイトをかけもちしていて、そうとは知らずに訪れたさくらが驚く場面もしばしば見られます。アルバイトの現場によっては親友の月城雪兎と一緒にいることも。
霊感があり、母・撫子の姿を見ることもあります。魔法の気配も感じることができ、ケルベロスの存在やさくらがクロウカードに関わっていることなどにも、実は気づいています。雪兎が人間ではないことにも気づいていて、彼のために彼の正体である月(ユエ)に自分が持つ魔力のすべてを譲り渡し、以後は霊感や魔法を感じる力はなくなってしまいました。
桃矢の同級生で、一番の親友。痩躯ながら大食漢で、少ないときでも桃矢の3倍は食べると言います。実は正体がクロウカードの守護者である月(ユエ)であり、その存在を維持するためのエネルギーが必要だったからなのです。
眼鏡をかけたやさしい面差しで、いつも穏やかに笑み、性格も表情に準じたやさしいものです。さくらは彼のことがずっと好きでしたが、その好意は恋愛感情ではなく、父・藤隆に共通するものを彼が持っていたからだということが後に分かります。
月という存在、また月をつくり出したクロウ・リードのことはまったく知りませんでしたが、知ってからは両者の存在を受け容れ、自分が人間ではないということも受け容れた上でその後の生活を続けています。
クロウカードがすべて集まってのちに、イギリスからさくらのクラスに転校してきた少年です。眼鏡をかけた理知的な容貌で、スポーツも家事も上手にこなしてしまう万能少年。さくらとも早いうちに仲よくなりましたが、小狼からは静かに嫉妬されてしまいます。その気持ちには気づいていて、そっと助言することもあります。
正体は魔術師クロウ・リードが生まれ変わった姿です。クロウ・リードの記憶や魔力を受け継いでいて、月属性の魔法が効きません。そのことでさくらは苦戦します。しかしさくらの敵であった訳ではなく、闇の力を宿すクロウカードに対しさくらが持つのは星の力であるため、クロウカードが力を失ってしまう前にさくらが新しくカードをつくる(クロウカードをさくらカードに変化させる)ことを促すために事件を起こしていたのでした。
友枝小学校の教師で、友枝町にある月峰神社の娘。月峰神社はクロウ・リードと縁があり、そのため歌帆自身も月の力を持ちます。長身の美人ですが、方向音痴でちょっと抜けたところがあります。大学生の頃に教育実習先の中学校で桃矢と出会い、交際していましたが、イギリスへの留学を機に交際は終わりました。そのため、友枝小学校に赴任してきたとき、すでに桃矢は彼女のことを知っていたのです
クロウ・リードが月峰神社に残した月の鈴を使う者で、鈴を得ることで自らの役割を感じ取っていました。それはさくらがクロウカードの真の持ち主となろうとするとき、「最後の審判」を迎えたときに月の鈴をさくらに渡すことです。月の鈴はさくらの杖に宿り、杖は星の杖へと変化してパワーアップします。
さくらと桃矢の父親。大学で考古学を教えています。料理上手で、朝食をつくりさくらに食べさせ、送り出す姿が作中によく見られます。自分の子らにも丁寧な言葉で話し、いつも笑顔です。
霊感や魔力の類いは持たず、そのため、封印の本は彼の書庫にあったものだったにも関わらず、クロウカードについては知ることがありません。しかしながら、彼はクロウ・リードの生まれ変わりで、クロウが死の際に自らの魂を二つに分けた、そのうちの一つが生まれ変わった姿です。彼自身には特別な能力はありませんが、彼の子ら、桃矢とさくらには霊感や魔力が受け継がれました。
さくらと桃矢の母親で、藤隆の妻。さくらが3歳のときに亡くなってしまいました。モデルをしていて、そのときの写真が木之本家のリビングには飾られています。
亡くなった後も霊的な存在としてさくらや桃矢を見守っていて、霊感がある桃矢はそれに気づいていました。その後、姿を現さなくなっていたのですが、「幻」(イリュージョン)のカードが現れて自分の姿を使ってさくらが危険なめに遭わせた後に、さくらの様子を見に現れました。
クロウカードの2人の守護者のうちの1人で、クロウカードを封印する「封印の獣」です。クロウカードの主を定める「選定者」でもあり、封印の本の表紙を開いたさくらの魔力を認め、カードキャプターに選定しました。普段は手のひらに乗るほどの大きさでぬいぐるみのような姿ですが、本来の姿はトラのようなライオンのような獣の姿と大きさです。さくらたちは「ケロちゃん」と呼びます。
長い間封印の本が大阪にあったとの理由で、大阪弁で話します。陽気でにぎやか、テレビゲームが好きで、事件がないときはさくらの部屋でゲームをして遊びます。スピネル・サンとインターネットを通じて対戦することもあるようです。
クロウカードの2人の守護者のうちの1人で、クロウカードの持ち主としてふさわしい者かを判断する「審判者」でもあります。封印の本の裏表紙に封じられていたはずですが、さくらが本を開くより先に雪兎として実体化していたため、さくらが本を開いたときに現れたのは表紙に描かれていたケルベロスだけでした。
自分をつくり出したクロウ・リードへの敬愛の念が強く、さくらをクロウカードの主とはなかなか認めませんでしたが、認めてからはよき理解者で助言者でもあります。雪兎の姿でいるときは雪兎の意識の中で彼が見聞きしたものを同様に見聞きしていて、本来の姿をとったときも雪兎の記憶を引き継いでいます。
自ら魔力を生み出すことができないため、他者の魔力を必要とします。雪兎の姿でいるときにたくさん食べますが、それは姿を維持するためのものであって、魔力をつくり出すものではありません。さくらの魔力がまだ未発達の頃は彼の魔力を補うことができず、月は消えそうになりましたが、桃矢から魔力をすべて受け取ったことで消えずにすみました。
エリオルが生み出した従者の1人です。ルビー・ムーンと対になる者で、普段は羽根が生えた黒猫の姿をしています。本来の姿は黒豹の身体に蝶の羽根が生えた姿です。一人称に「私」を使い、冷静沈着沈思黙考。冷徹なようでいて、甘いものが好きです。登場するのはさくらカード編からでさくらたちとは敵対する存在ですが、クリアカード編の前日譚ではケルベロスとはインターネットを介してゲームで対戦する仲となっています。
エリオルが生み出した従者の1人で、スピネル・サンと対になる者です。桃矢や雪兎の同級生の秋月奈久留として転校してきます。性格は明朗。桃矢に近づいて、抱きつくなど近づきすぎる行動をとることもあります。桃矢に近づくのは彼の魔力を狙ってのことで、月属性である月の仮の姿である雪兎を敵視します。
月属性の魔力を持つ存在で、仮の姿と真の姿を持つという点で月と同じですが、月とは違い仮の姿と真の姿で同一の記憶と意識を持ちます。容貌は美少女、女性の服を着て装いますが、スピネル・サンは男子の服を着るべきだと言います。ルビー・ムーン本人は、人間ではないのだから性別はたいした問題ではない、と気にしていないようです。
クロウカードをつくり出した人物。魔術師であり、占い師でもあります。イギリス人の父と中国人の母を持ち、本人が亡くなった場所は日本というグローバルな人です。まったく新しい魔法を生み出すほどの強力な魔力を持つ魔術師であり、カードを生み出し、自分が没した後のカードの行方まで予測して月峰神社に月の鈴を預けるなどしていました。
さらには死の間際に強すぎる魔力を持つ自らの魂を二つに分けるということまでしていて、その一方は桜沢エリオルとして、もう一方はさくらの父である木之本藤隆として生まれ変わりました。
中学生になり、新しい生活がはじまったたさくら。離ればなれになっていた小狼も戻ってきて、楽しい中学生生活が送れそうな春でした。しかしある夜からさくらは奇妙な夢を見るようになります。暗い場所に透明なカードと見知らぬ人が出てくる夢は、何を示唆しているのでしょうか。
そんな折りに、封印の本にしまってあったさくらカードがすべて透明になってしまっていました。これでは魔法が使えません。身のまわりに起きる現象を透明なカードに固着(セキュア)してクリアカードにしていくさくら。しかし謎は解けないままです。そのさくらの前に現れた、3人の人物。いったい、どんな人物たちなのでしょう。
さくらが見た奇妙な夢には、フードを深く被って白いローブをまとった人物が出てきます。宙に浮かぶ無数の透明なカードとその向こうにいるフードの人物。顔も覆われているので誰だか分かりませんし、ローブを着ているので体型も分からず、性別すら判断できません。その人物に近づこうとすると、浮かんでいる透明なカードたちは一斉に砕け散りました。さくらはこの人物の夢を繰り返し見ます。
魔法のような力で攻撃されることもありました。そのときは何かがさくらを守り、光に包まれた「夢の鍵」が現れました。その鍵は、さくらが目覚めても手の中に残っており、その夢の鍵で杖を呼び起こし、クリアカードを固着していくことになります。
第2巻ではフードの人物は夢の中でなく、現実に現れることになります。首から提げた夢の鍵を奪われそうになりながらさくらが対峙したフードの人物は、背がさくらと同じくらいで、おそらく体格もそう変わらないでしょう。月夜にさくらを電柱の上から見下ろします。
その後、第3巻では夢なのかうつつなのか、巨大な歯車のようなものの上に立つ姿でさくらの前に現れました。「わたしに何か言いたいことがあるの?」「…鍵がほしいの?」とさくらは問いかけますが何も答えません。このとき、さくらはこの空間にキラキラと光る時計を見ました。フードの人物が立つ歯車は時計の部品かもしれません。
さくらと同じ背格好の人物は何者なのでしょうか。さくら自身? あるいは同級生の誰か? それともまだ見ぬ人物でしょうか。フードの人物の正体が誰なのか、何を目的に現れるのか、今後の物語を追って謎を解いていくしかなさそうです。
さくらの奇妙な夢が続いたある日、さくらのクラスに転校生がやってきます。名前は詩之本秋穂、セミロングの髪のおとなしそうな女の子です。その朝、桃矢に意地悪されて少し不機嫌だったさくらもその姿を見て、知世と「かわいい方ですね」「うん、すごく」と感心し合って不機嫌さを忘れています。お昼には一緒にお弁当を食べようと誘っていました。
秋穂は日本に来る前には香港にいて、その前にはフランスにいたと話します。フランスの前にはドイツにいて、ほかにもイタリアやイギリスなど、世界を転々としてきたようです。この日のお弁当もサンドイッチで西洋風です。欧州を渡り歩いてきたので日本語に自信がないと秋穂は言いますが、きれいな敬語を話します。
木之本桜と詩之本秋穂で名前もよく似ているねと話すさくらと秋穂。お互いに「仲よくなりたい」と言って握手をします。いい友人になれそうな2人ですが、果たしてそれだけで終わるでしょうか。お弁当に同席していた小狼が「魔力は感じなかった」とエリオルに電話で報告していて、エリオルも「占いにもそう出てるね」と応じています。小狼たちは秋穂が現れることを予測していたのでしょうか。
引っ越してきた家はなんと以前柊沢エリオルが住んでいた家。本好きの一族が集めたというたくさんの本と、詩之本家に雇われて秋穂の幼い頃から面倒を見ているというユナ・D・海渡という名の青年とともに住んでいます。秋穂はこの人を「大切なひと」と言い、特別な感情を抱いているようです。
本好きの一族の末裔にあり、秋穂自身も「どうしてもほしい本」があって日本に来たのだと言います。その本がどのような本なのか、また、そのほかにも日本に来た理由があるようなのですがそれについても、まだ明らかにはされていません。
ほしい本については分からないのですが、お気に入りの本を第3巻でさくらと知世に見せています。表紙にはタイトルが書かれておらず、時計の絵が描かれています。秋穂が紹介したタイトルは「時計の国のアリス」。「『不思議の国』や『鏡の国』を書いた方ではないんですが」と秋穂が説明していることから、作者はルイス・キャロルではなく、しかし「アリス」を主人公に書かれた物語であることが推測されます。
キャロルは終生「夢」をテーマに物語を書き、「時間(時計)」や「鏡」を頻繁にモチーフとして物語に登場させています。こういったこともこれからの『カードキャプターさくら』の展開に関係があるかもしれません。
しかし、本の中身を見てみると明らかに日本語でも英語でもなく、それどころか何語かも分からないと秋穂は言います。けれども、こうも言っています。
「でも読み方を教わったのでなんとか内容はわかります」(『カードキャプターさくらクリアカード編』3巻から引用)
どこの言葉かも分からない言葉で書かれた物語。秋穂は読み方を教わったと言います。いったい誰に教わったのでしょう。秋穂に読み方を教えた人物は、どこの言葉ともしれない言葉をなぜ知っているのでしょう。「時計の国のアリス」の謎は、クリアカードの謎と関係があるのでしょうか。これからの展開が気になるところです。
秋穂の家に住まう、秋穂の世話役の青年です。整った容姿と話し方、動作が身についていて、料理や菓子づくりにも長けています。客人の前で紅茶を淹れる姿も優雅です。詩之本家に雇用されて秋穂の身のまわりの世話をしているらしく、手技などを誉められても「これが仕事ですから」とさらりと言ってしまいますが、それを聞く秋穂は幾分寂しげです。
秋穂が「小さい時からずっと色々面倒見てもらっているひと」と言っているところを見ると、世界のさまざまな国々を渡ってきた秋穂とともに旅をしてきたのでしょう。容姿を見るとまだ年若い青年ですが、いったいいつから詩之本家にいるのでしょうか。はたして彼はただの詩之本家の使用人なのでしょうか。少なくとも、秋穂にとっては違うようです。
新章クリアカード編の物語はさくらが見る奇妙な夢が発端となります。透明なカードとフードの人物の夢です。夢から覚めて慌てて封印の本を開いてみると、そこに収まっていたのは透明なカード。収めていたはずのさくらカードではありません。透明なカードからは魔力が感じられないと、さくらも月も言います。
2回めに見た夢では透明のカードは見えず、フードの人物が砕けたカードの欠片のようなものに囲まれて立っていました。それが突然さくらの方へと一斉に飛んできます。さくらが傷つかないように光の柱が立ち、天から降りてきたのは「夢の鍵」です。それを手に取ったとき、さくらは夢から覚めました。
「夢の中の鍵…!」(『カードキャプターさくらクリアカード編』1巻から引用)
そう呟いたさくらの手の中には夢に出てきた鍵が実際にあり、鍵は一直線に窓の外へと光を放ちます。窓がガタガタと鳴り、さくらが窓外を確かめようとカーテンを引いた途端に窓が開き、強い風が吹き込みます。窓外には龍のような生きものの姿が……。さくらは手の中の夢の鍵をしっかり握りますが、鍵ごと何者かに引っぱられて宙を移動します。手招くのはフードの人物です。どうやらフードの人物はさくらが手にした夢の鍵を奪おうとしているようです。
「そっちはだめ」
「いっちゃだめ」
「だめ!!」
(『カードキャプターさくらクリアカード編』1巻から引用)
さくらは叫びます。そこにさくらを呼ぶ大声がしました。ケルベロスの声です。さくらはベッドの上で目覚めました。そしてさくらの手の中にある夢の鍵を見て、ケルベロスは驚きます。さくらも同様です。
「夢の中の鍵…どうして、ここにほんとうにあるの…?」(『カードキャプターさくらクリアカード編』1巻から引用)
ここで奇妙なことが起きています。奇妙な夢を見るさくらは2回めの夢から覚めた後、まだ夢の中にいるのです。夢の中でさらに夢を見ていたのでしょうか。しかし、夢の中で得た鍵が手許に実際にあります。夢から覚めたつもりで、もしかするとさらにもうひとつ重なった夢を見ていて、まだ覚めていないのでしょうか。
この後、さくらがフードの人物と会う場面は、第2巻第6話にありますが、これは倒れて意識をなくしたさくらが見た光景で、眠っている間に見たものではないので、夢ではありません。
しかも、意識を取り戻したさくらの様子を、フードの人物は窓外から見守っています。これまで夢の中では暗いどこか分からない場所に立っていたフードの人物が、月夜の電柱のてっぺんに立っていたのです。
これは現実なのでしょうか。それとも、さくらがいる世界自体が誰かの夢なのでしょうか。では誰かの夢の中でさくらは夢を見て夢の鍵を得たのでしょうか。
さくら自身は、これ等異変について読者である私たち同様、まだ何も分かってはいないようです。しかしさくらの周りの人たちの中には、何かを知っている人、気づいている人がいるようです。
さくらがはじめてクリアカードを固着したときには、それを電話で告げた小狼が電話の向こうのエリオルに「わかってる…おれのやるべきことは」と言っています。
夢か現実か分からないフードの人物との邂逅の翌日に、桃矢はさくらをじっと見て「まだ……か」と呟きました。「何が?」というさくらの問いには答えません。
秋穂が転校してきた頃、もう1枚のカードをさくらが手に入れたと小狼が電話でエリオルに伝えたときには、2人はこのような会話をしています。
「…辛いだろうけれど、今はまだ」
「わかってる。その時のためにおれはここに来たんだ」
(『カードキャプターさくらクリアカード編』2巻から引用)
彼等は何かを知っているようです。あるいは予測しているのでしょうか、桃矢や小狼やエリオルは、さくらには何も告げないまま、それを胸にしまっています。さくら自身は何が起こるのか知りませんし、何かが起こる予感も得てはいないようですが、それでも言います。
「わからないことばっかりだけど、わたしにできることをやろうと思うの。まずは目の前のこと」(『カードキャプターさくらクリアカード編』2巻から引用)
そう決意したさくらはまたもや次のフードの人物と邂逅します。今度はフードの人物とともに「歯車」と「時計」が現れました。相変わらずフードの人物は言葉を口にしませんが、後日さくらと会った秋穂が「お気に入り」だと見せた本の表紙には歯車を組み合わせた時計の絵が描かれていて、タイトルは「時計の国のアリス」。「時計」あるいは「時間」も、「夢」と併せて考えなければならないキーワードとなるのかもしれません。こちらにも注目していきたいところです。
少々頼りないところもある少女ですが、さくらは立ちはだかろうとしているものから逃げません。自分にできることを、目の前のことから。その決意はこれまで唱えてきた無敵の呪文に支えられているのでしょう。「絶対、だいじょうぶだよ」、その言葉を胸にさくらはカードとともに成長していくのです。
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20年の時を経て新たに語られはじめた『カードキャプターさくら』の物語は、まだはじまって間もありません。登場するのは謎・謎・謎……謎を解く手がかりはこれから出てきそうです。今後の展開が待たれます。