34歳無職、引きこもり。見た目は悪く太っていて不健康、おまけに兄弟に着の身着のままで家を追い出された彼は、交通事故にあった拍子に異世界で赤ん坊として新たな生を受けます。もう後悔はしたくない、と冒険や魔法の世界で人生をやり直していくストーリーです。 コミカライズもされ、シリーズ累計発行部数は400万部以上、2021年1月から第1クールとしてTVアニメも放送されており、さらに人気を呼んでいる本作。この記事では、そんな本作のライトノベル全巻について、ネタバレを交えつつ魅力を紹介していきます。
本作は、分割2クールで放送され、2021年1月からは第1クールが、同年10月4日には第2クールが放送される予定です。
アニメーション制作は新たに設立された、スタジオバインドが担当であることにも注目です。「Re:ゼロから始める異世界生活」のWHITE FOXと、「ソードアート・オンライン アリシゼーション」などのアニメ企画に携わるプロデュース会社EGG FIRMがタッグを組んで結成されました。
ルーデウスを演じるのは内山夕実。そのほか人気声優が名を連ねています。詳しくはTVアニメ「無職転生 ~異世界行ったら本気だす」公式サイトをご覧ください。
『無職転生-異世界行ったら本気だす-』は、人生をやり直したいと思ったことがある方はもちろん、魔法と冒険が好きな方、モテ人生に憧れる方はきっとわくわくできるはずです。
オンライン小説サイトから人気に火が付き、書籍化された『無職転生-異世界行ったら本気だす-』。2014年には漫画化された本作は、同サイトで5年近く累計ランキング1位の座をキープするなど、根強い人気を誇っています。
主人公は34歳無職、ひきこもりの男性です。親の死とともに兄弟たちから着の身着のままで家を追い出された彼は、高校生たちを交通事故から守ろうとして死んでしまいます。
しかし次の瞬間、彼は記憶や自我はそのままに、魔法と冒険が日常となっている中世ヨーロッパ風の世界の赤ん坊となっていたのです。「無職」からの「転生」を果たした彼は、今度こそ後悔しない人生を歩むべく、努力の日々を始めます。
「俺は三十四歳住所不定無職。人生を後悔している真っ最中の小太りブサメンのナイスガイだ。」(『無職転生-異世界行ったら本気だす-』1巻より引用)
引きこもりでニートだった主人公は、親の死により、兄弟から着の身着のままで家を追い出されてしまいます。一文無しで職探しもままならない状況のなか、彼は高校生たちに猛スピードで突っ込もうとするトラックに気づくのです。
- 著者
- 理不尽な孫の手
- 出版日
- 2014-01-23
自分はもうすぐ野たれ死ぬだろうし、いま高校生たちを助けなければきっと後悔する……。そう考えた主人公は運動不足の身体を動かし、兄弟たちから受けた暴行による痛みをこらえながら高校生たちをトラックの進路から離すことに成功します。
自分自身も何とか助かる、かと思いきや、居眠り運転のトラックは止まることなく、主人公はその生を終えることになったのです。いえ、終えたはずでした。目が覚めると彼は、金髪の美女のもとに赤ん坊として新たな生を受けていたのです。
魔法があって、冒険者や剣士という職業が普通に存在する中世ヨーロッパ風の世界に生まれ変わることとなった彼は、「ルーデウス」と名付けられます。赤ん坊でありながら大人の感性と義務教育レベルの科学的知識を有する彼は、新たな世界で魔法にのめり込んでいくのです。
本作の魅力は、30代で無職の引きこもりである主人公の人生への後悔、そしてやり直しへの決意がリアリティ溢れる筆致で描かれるところにあります。
彼は子供の時から器用であり、勉強もそつなくこなしてきたタイプでした。しかし中学で怠けたことで高校受験に失敗し、おまけに進学先の学校で酷いいじめに遭ったことで、外に出られなくなってしまったのです。
外への恐怖もあいまって堕落していった彼は、自分の居場所を失うにつれて激しい後悔に襲われます。なぜ自分は今まで何もやってこなかったのか、家にいたってできることはあり、本気で頑張り続ければ何かの道の中堅として頑張ることはいくらでもできたはずだ、と自分を責めるのです。
しかし、きっと過去に戻れたとしても躓いて頑張れないのだろうと自分を客観視し、自らの困難を乗り越えられない性格がすべての原因だと悟ります。そんな彼だからこそ、新たな生を受けたことをきっかけに、勤勉に努力を続けるという流れが説得力をもつのです。
家にある一冊の魔法の教科書を見ながら、誰の力を借りることなくひとりで試行錯誤をし、魔法を体得していくルーデウスの姿は、読者に勇気を与えてくれます。
「君、パウロからの手紙では、村で女遊びが激しすぎるから隔離したって書いてあったんだよ? 冗談だと思ってたけど、さっきの作戦を聞いたらあながち嘘でもないんじゃないかと思ってね……」(『無職転生-異世界行ったら本気だす-』2巻より引用)
幼馴染の少女と魔法学校に入るため、働くことにした7歳のルーデウス。彼の仕事は、遠縁のお嬢様の家庭教師でした。ナマイキで勉強嫌いなお嬢様をやる気にさせるため、ルーデウスはお嬢様の父親に、ある計画をもちかけるのです。
- 著者
- 理不尽な孫の手
- 出版日
- 2014-03-22
生まれてから7年、魔法の鍛錬に勤しみ、父親からの剣術指導にも必死にくらいついてきたルーデウスは、子どもとは思えないほどの魔法を使えるようになっていました。もっと高度な魔法を知りたいと望んでいましたが、彼の家には学費を出す余裕がなかったのです。
またルーデウスは、幼馴染の少女と一緒に学校へ入りたいとも望んでいました。その少女はシルフィといい、彼女が村でいじめられていたところをルーデウスが助けたことをきっかけに仲良くなっており、シルフィも彼をよく慕っていました。
そんなルーデウスが受けた仕事は、またいとこにあたるお嬢様、エリスの家庭教師を5年間勤めることでした。それにより、叔父の家から報酬として2人分の学費が払ってもらえるというのです。
2巻の魅力は、エリスのワガママ放題で自由きままな姿と、彼女が誘拐などの危機に瀕することで勉強の重要性を意識し、ルーデウスに懐くようになるところにあります。エリスは気に入らないことがあると周りに暴力をふるうだけでなく、自分の置かれた状況を理解できずに危機的状況に陥るような少女ですが、日々の成長は目を見張るところがあるでしょう。
またルーデウスは、彼の父親がかなりモテ男であることや、日本にいたときに恋愛シミュレーションゲームをしていたこともあって、周りの少女たちが勝手に自分に惚れてくれる状況を目指しているというのもポイントとなってきます。彼がエリスをおとしていく姿のスマートさをお見逃しなく。
「この世界の君はいらない存在じゃない。無事に帰らないとね」(『無職転生-異世界行ったら本気だす-』3巻より引用)
突然現れた魔力の乱れ。ルーデウスとエリスは街を覆うまばゆい光に巻き込まれました。次の瞬間、ルーデウスは精神体となって、人神と名乗る全身モザイク姿の神様に話しかけられていたのです。
- 著者
- 理不尽な孫の手
- 出版日
- 2014-05-22
突然「魔大陸」という危険な大陸に移動させられたルーデウスは、人神から、夢のなかで助言を与えられます。同じ世界といえど無一文状態で危険な地域に大移動をさせられてしまったルーデウスは、人神をうさんくさいと思いながらも、自身とエリスが故郷であるアスラ王国へ帰るために、その言葉を聞くのです。
最初の助言は、「目が覚めた時に近くにいる男を頼り、救う」ということでした。しかし、目が覚めた瞬間1番近くにいたのは、この世界で恐怖の対象とされ、出会ったら刺激せずに逃げることが必要とされている「スペルド族」という魔族の男だったのです。
そんな今作の魅力は、「スペルド族」であるルイジェルドの面倒見の良さや、スペルド族にまつわる悲しい過去にあります。はじめ、ルーデウスはそんな恐ろしい魔族を信用するなんて……と戸惑います。
しかしスペルド族の男ルイジェルドは、倒れていたルーデウスたちの体が冷えないよう焚き火をしながら起きるのを待っていてくれただけでなく、ルーデウスたちをアスラ王国へ帰すことを約束してくれたのです。強い魔物がわんさか現れ襲ってくる魔大陸で、ルーデウスたちは強い味方を得ることになったのでした。
またスペルド族は、いまでこそ恐怖の対象ですが、実は過去に仕えた者の策略にはまり、その力を暴走させてしまったことで世界中から危険視されることになっていたことが明らかになります。ルイジェルドは暴走により壊滅状態となったスペルド族の生き残りだったのです。
彼はスペルド族の誇りと名誉を取り戻したいと願い、努力しても報われない日々を過ごしていました。それを知ったルーデウスがルイジェルドの思いに応え、その願いを叶えようと尽力する姿は必見です。
「水に濡れて張り付く下着、透ける肌色、浮かび上がるポッチ。」(『無職転生-異世界行ったら本気だす-』4巻より引用)
魔大陸の縦断も終盤に。ようやく港町についたルーデウスは、海を見てはしゃぐエリスを見ながら、彼女が泳ぐ姿を妄想します。
- 著者
- 理不尽な孫の手
- 出版日
- 2014-08-22
今作の魅力は、かつてルーデウスの家庭教師をしていた魔族のロキシーが再登場するところにあります。彼女は10代の見た目をもつ長命な魔族ですが、種族の特殊能力が使えなかったため、故郷を出て冒険をしていました。
ロキシーは水系統の魔術を得意とし、その冒険に関する逸話は吟遊詩人によって詩にされるほどのもの。そんな彼女はルーデウスに魔術を教えただけでなく、彼が抱いていた外の世界への恐怖を取り除き、家の敷地の外へと出られるようにしてくれた恩人でもあります。
さらにロキシーは、ルーデウスが成長してエリスの家庭教師となったあとも手紙のやりとりを続け、魔神語を学びたいと望むルーデウスに手作りの辞書と魔族に関する情報を贈るなど、教え子思いの先生でもあるのです。
今回、ルーデウスのいた街やその故郷である村が謎の魔法により壊滅状態に陥ったことで、ロキシーは魔大陸までルーデウスを探しに来ていました。しかも、ちょうど彼らがいる港町にやってきていたのです。
しかし彼らの噂は、なぜかルーデウスの名前が「ルージェルド」と間違った状態で広まっていたため、ロキシーは彼を見つけることができません。ルーデウスを探し続けるロキシーが、今後どのように物語に加わってくるのか楽しみになる一冊です。
「もし俺がゴブリンで、運よくエリスを気絶させることができたら。それはもう充実したゴブリン生活を送ってしまうだろう。」(『無職転生-異世界行ったら本気だす-』5巻より引用)
魔大陸を抜け出し、人族のいる大陸にやってきたルーデウスたち。大森林をぬけて、世界で1番美しいと言われる都市にやってきました。ここでエリスが、ゴブリン退治に行きたいと言い出します。
ルイジェルドと出会って彼に鍛えられてきたエリスにとって、ゴブリンはたやすく倒せる魔物です。とはいえルーデウスは、日本にいた時のゲームの知識もあって、ゴブリンによってエリスが乱暴されないかを心配し……ついでに欲望にまかせた妄想が頭のなかを駆け巡りました。
- 著者
- 理不尽な孫の手
- 出版日
- 2014-10-23
今作の魅力はなんといっても、ルーデウスが父親であるパウロと再会するところにあります。そこで、ルーデウスたちが謎の光によって転移させられてからなんと1年半も経っていたことが、実感として押し寄せてくるのです。
パウロは、まだ幼いルーデウスの妹を抱いた状態で転移させられていました。彼の転移先が人のいる大陸だったのは幸いでしたが、かつて住んでいた村が失われ、一家離散状態になってしまったことにパウロは深く絶望していたのです。
しかし、そんなパウロと再会したルーデウスは、親の心子知らずといったところでしょうか、魔大陸での冒険の話や、人のいる大陸で行ってきた正義のヒーロー活動を得意げに語ったのです。
パウロはルーデウスに、彼らが魔大陸に飛ばされたのは大規模な魔術災害によるもので、街や故郷の村の人々が散り散りに転移するというものであったこと、母親やメイドが今もなお行方不明であることを怒りながら告げました。
ルーデウスはそこで初めて、転移させられたのが自分たちだけでないことを知ったのです。そして、他の人々を魔大陸で探そうとしなかったことを責めるパウロと、大喧嘩をすることになります。
父親として心配し続けた息子が予想以上に元気であったことに安堵を覚え、それと同時に冒険に夢中になって母親を探そうとしなかった息子への怒りを抱く姿は、パウロのルーデウスに対する期待の大きさと不器用な愛情を感じさせる名シーンだといえるでしょう。
「るーでうすはえっちね……」(『無職転生-異世界行ったら本気だす-』6巻より引用)
人族のいる大陸を、アスラ王国に向けて歩み進んできたルーデウスたち。しかしまた、ルーデウスの夢に人神が現れます。
なんと、シーローン王国というところで、ルーデウス家のメイドであるリーリャと、リーリャの娘でありルーデウスの異母妹であるアイシャが抑留されているというのです。
彼の緊張をよそに、エリスは今日も幸せそうに寝言を言っています。
- 著者
- 理不尽な孫の手
- 出版日
- 2015-02-24
今作の魅力は、シーローン王国の王族争いと、アイシャの活躍にあります。シーローン王国の第三王子は「神子」と呼ばれ、怪力をもって生まれた貴重な存在です。しかし当の第三王子は人形好きという性癖と共に、人間を人形のように扱うという狂気を抱いていました。
そんななか、ルーデウスが魔術の鍛錬のために土魔術で作っていたフィギュアが、第三王子の目に留まります。特に昔作ったロキシーの姿を忠実に再現したフィギュアは、第三王子の興味を強く引くものでした。
王族のごたごたに巻き込まれ、その解決へとルーデウスが画策するなか、アイシャが彼に、旅の仲間に加えてほしいと言い出します。彼女は、母親でありルーデウス家のメイドであるリーリャから、ルーデウスは素晴らしい人だ伝えられ、将来は彼に仕えるのだと言い聞かされてきました。
当初、アイシャの考えは違いました。なんと彼女は、ルーデウスが家庭教師時代のロキシーの下着をこっそり盗んで保管していたことを知っており、そのような変態には仕えたくないと本気で考えていたのです。しかし彼がシーローン王国の問題解決に奔走するのを見て、一緒に旅がしたいと言い出したのでした。
もっとも、アイシャはルーデウスには想像も付かないような知略も巡らせていました。彼女がルーデウスに一杯食わせる場面は爽快です。
「エリスは一人でいなくなった。彼女にとって、もう俺は用済みなのだ。」(『無職転生-異世界行ったら本気だす-』7巻より引用)
魔大陸へ強制的に転移させられてから数年、ルーデウスたちはやっとのことでアスラ王国に帰り着きます。彼らを故郷へ帰すために旅に同行していたルイジェルドは、ルーデウスたちのもとを去っていきました。
しかしそれだけではありません。生家に帰り、祖父や両親の死を知ったエリスは、ルーデウスとのひと晩を求めたのにも関わらず、翌朝彼に何ひとつ告げることなく姿を消してしまったのです。
- 著者
- 理不尽な孫の手
- 出版日
- 2015-08-25
今作では、父親のパウロから母親探しを頼まれたルーデウスが、どこかへ転移させられた母親を見つけるために、ルイジェルドもエリスもいない一人旅を始めます。そのなかで、彼の鬱々とした思いや孤独がしっかりと描かれるところが魅力となっているのです。
エリスと結ばれた夜を経て、ルーデウスは家族を失った彼女を支え、共に生きていく覚悟を決めたところでした。それは、エリスが家族を失った悲しみを消化しきれないまま、それでも自らの意思でルーデウスにその身体を委ねたことで生じた責任感によるものだったといえます。
しかしエリスは、そんなルーデウスに頼っていてはいけないと気を引き締め、もっと強くなってルーデウスと共に生きていきたいと願ったのです。ルーデウスが目覚める前に黙って家を出て、剣術の修行の旅に出てしまった彼女は、ルーデウスに自分の行き先を言わないよう家の使用人たちに口止めをしていました。
そんなこともあり、ルーデウスは自分が拒絶されたと感じてしまいます。お互いのコミュニケーション不足によるすれ違いは、彼の精神状態に色濃く影を落とすことになりました。
生気のない顔で母親を探し、行く先々で仕事の依頼を受けるルーデウス。そんな彼を放っておけなかった冒険者パーティーがありました。それが、乗合馬車で一緒になったスザンヌやサラたちです。
ルーデウスの、強い能力を持ちつつも人間臭くて弱いところや、それでも無理やりに前へと進んでいこうとする姿、そしてスザンヌたちと関わることで前向きに立ち直っていく様子が胸に刺さる一冊だといえるでしょう。
「エリナリーゼはそっと目を閉じた。まるでキスでも待つような仕草だった。なんの冗談だと思ったら、彼女の手が俺の頭の後ろへと回された。」(『無職転生-異世界行ったら本気だす-』8巻より引用)
母親探しにきたルーデウスが夕飯をとっていると、美人のエルフが近づいてきました。彼女はうっとりとした顔でルーデウスに近づき、そっと彼の胸元をまさぐったのです。
- 著者
- 理不尽な孫の手
- 出版日
- 2015-10-23
今作で初登場するのが、扇情的なエルフ、エリナリーゼです。彼女はまるでルーデウスに惚れているかのように誘惑をするのですが、実は彼女、ルーデウスの父親と一緒に冒険者パーティーを組んでいた過去があるだけでなく、ルーデウスの元家庭教師ロキシーとも友達だったのです。
そんなエリナリーゼは、ことあるごとにセクシーな姿を読者の前にあらわします。もっともただのセクシー担当なだけでなく、なんとルーデウスの母親が別の大陸の迷宮都市ラパンにいるという情報を持ってきてくれました。
ずっと母親を探すために旅を続けてきたルーデウスにとっては、またとない朗報です。しかし、残念ながら冬が近づいてきており、彼が別の大陸に渡るには気候上ほぼ不可能な時期でした。
そんな状況で、ルーデウスにラノア魔法大学への入学推薦状が届けられます。その学校は、彼が幼いころから行きたいと望んでいた魔法学校でした。
今作の魅力は、数ある魔法学校の中でも超一流であるラノア魔法大学における、ルーデウスの学生生活にあります。なんと、過去に出てきた頭を抱えたくなるような問題児が先輩となっていたのです。
ルーデウスのもとを去ったエリスの状況を知っている様子の男や、自分で天才と名乗る男、魔大陸に飛ばされてから故郷に戻るまでの旅でお世話になった恩人の孫娘など、学校には個性的な面々が揃っていました。
ルーデウスがおもしろ楽しく、ときに困難に巻き込まれながらも学生生活を送っていく姿は、まさに王道の学園ものだといえるでしょう。
「えっと、ボクも好きな人がいるから、その人の気持ちはわかるんだ。普通なら恋愛対象に見られないような人らしいんだけど、それでもボクは好きなんだ」(『無職転生-異世界行ったら本気だす-』9巻より引用)
ラノア魔法大学での先輩、フィッツ。白い髪に長い耳をした彼は、アスラ王国第二王女の護衛である守護術師でもあります。彼はルーデウスたちが強制転移させられた事件について調べていたのですが、それにはある理由がありました。
- 著者
- 理不尽な孫の手
- 出版日
- 2016-01-25
今作の魅力は、日本から転移してきたトリッパー、ナナホシ・シズカが登場するところにあります。ナナホシはルーデウスが転生するきっかけとなったトラック事故で、彼に命を救われた高校生の内のひとりです。
彼女は事情こそわからないものの、突然異世界に召喚されることになり、その反動としてルーデウスたちの故郷が失われることになったのだと推測します。それはくしくも、ルーデウスが気づいた召喚と転移の類似点に関する考え方とも一致したのです。
ナナホシはこの世界で途方に暮れていたところ、神と呼ばれる存在である龍神オルステッドに拾われました。そして、旅を続けながら元の日本に帰る方法を探してきており、その道中でルーデウスと出会ったのです。
転移後は年を取ることがなくなり、さらに魔力に溢れる世界で一切の魔力を持たないナナホシの語る苦労は、同じ異世界へ来たルーデウスとの対比により一層悲しいものとして描かれます。
また、ルーデウスの入学直後から彼を気に掛けていた先輩、フィッツの正体が明らかになります。ほかにも、クラスメートの少年が遊び人な女子生徒に恋をしてしまった問題の処理など、学園生活らしいドキドキの展開が詰まった一冊です。
「好きな人は……普通に、一緒にいてくれるだけで十分よ」(『無職転生-異世界行ったら本気だす-』10巻より引用)
ルーデウスはエリスに去られてから、ずっとある問題を抱えていました。しかしそれは幼馴染だったシルフィとの再会と、彼女の献身によって解決されることになったのです。
- 著者
- 理不尽な孫の手
- 出版日
- 2016-03-25
晴れてシルフィと結ばれたルーデウスは、日本を知る仲間としてナナホシに質問をします。それは、好きな人と付き合ったとして、相手に何を望むか、というものでした。
転移直前まで痴話喧嘩をしていたナナホシは、好きな人のことを想っているのか、苦しそうに呟くのです。一緒にいてくれるだけで十分、と。
恋愛に関してまだまだ不器用なルーデウスは、アスラ王国第二王女の護衛となっているシルフィに関して、第二王女にも筋を通したいと考え、シルフィと結婚するという結論に辿りつきました。
今作の魅力は、日本ではモテることもなく、ゲームのなかの美少女たちに興奮し、兄の娘を性的な視点で見ていたような駄目な中年男性だったルーデウスが、転生後の努力の結果、好きな女性との結婚にまでこぎつけるところにあります。
そして、ルーデウスはクラスメートたちに結婚に必要なものを聞き、新居探しをしたり、披露宴の準備をしたりするなど、これまでとはひと味違う様子を見せるのです。
これまで彼は、日本での知識を利用して魔術などを自分のものにしてきました。しかし結婚は、彼が日本で得た知識の中にはない事柄なのです。そのためルーデウスは、この世界での結婚についてイチから調べ、周りと協力していくことになります。それはまさに、人生のやり直しにより新たなステージへと到達だといって良いでしょう。
エリスが強くなり、彼女自身の意思でルーデウスの前から去ったことで、彼は守るものを失った状態にありました。新たに守るべき存在を見つけたルーデウスが今後どのように成長していくのか、気になる一冊となっています。
「結局はどれも『好き』ってことだと思うんだけどね。その、ルディとの子供も、自然と欲しいなって思えたし……」(『無職転生-異世界行ったら本気だす-』11巻より引用)
無事に結婚をしたルーデウスとシルフィ。彼はシルフィに、もしも結婚のために王女の護衛の仕事をやめてほしいと言ったらどう答えていたか、と聞きます。するとシルフィは結婚を断っていたかもしれないと言うのです。
- 著者
- 理不尽な孫の手
- 出版日
- 2016-05-25
今作では、序盤において「好き」という感情の多様性について語られます。好意にはたくさんの形があって、それぞれ優劣をつけられるものではない、と提示することで、旅立ってしまったエリスとルーデウスの関係が今後どう動くのか道筋を立てているところがポイントだといえるでしょう。
『無職転生-異世界行ったら本気だす-』では、ルーデウスがまだ幼いころ、父親のパウロが妻だけでなく、メイドも妊娠させたことについて、それが非難に値することだと明確に述べています。しかしそのうえで、パウロはメイドと生まれてくる子供のことを考え、全員が仲良く暮らせるようにまとめるなど、複数の好意を許容する価値観が示されました。
ライトノベルでハーレム状態が起きる場合、ハーレムを形成している女性たちは互いに男を取り合い嫉妬することはあっても、女性同士でいがみ合うことはありません。そして、ハーレム状態は全面的に肯定されるのです。
しかし、『無職転生-異世界行ったら本気だす-』では、異世界転生という流行りのテーマを中心にしながらも、ハーレムを当然のものとはしていないところに魅力があります。ハーレムを形成する女性たちもそれぞれ個の人格があるということに焦点が当てられた結果であるともいえるでしょう。
今作の魅力はそれだけではありません。妹のノルンと異母妹のアイシャがルーデウスに預けられ、ルーデウスは彼女たちの面倒をみることになります。優秀で努力家で夢があり、何でもそつなくこなす謙虚なアイシャに対し、ノルンは自分のやりたいことがわからず、アイシャほどの結果を出せません。
ルーデウスは妹たちに対して進路決定の手助けをしたり、シルフィと話し合いながらアドバイスをしたりしていきます。そのなかで、日本にいるときに兄たちがどのような気持ちで彼に接していたのかを擬似的に体感することになるのです。
今でも時おり人間不信だった過去や弱さをみせるルーデウスの、ブレない人間らしさと、人間関係に悩み、咀嚼していこうとする姿に考えさせられること間違いありません。
「母さんは助けられないし、自分で決めたことも守れねえ。親としてお前にも何一つしてやれねえ。ダメな奴だ」(『無職転生-異世界行ったら本気だす-』12巻より引用)
ルーデウスは、母親が捕えられていると噂される迷宮都市ラパンを訪れます。そこで彼が出会ったのは、憔悴した父親パウロでした。
- 著者
- 理不尽な孫の手
- 出版日
- 2016-08-25
今作では、久々にルーデウスがパウロと邂逅します。パウロはなんとかして自分の妻の居場所を探していましたが、迷宮の奥深くは危険すぎて安易に手を出すことができません。
さらに、サキュバスという性的欲求を増幅させる魔族の力によって、妻ではない女性に手を出してしまうなど、夫としての筋を通すことができなかった自分を責めているのです。そんなパウロをルーデウスはしっかりと抱きしめます。
そして、妹たちは無事に魔法大学に通っているし、自分は結婚してもうすぐ子供もできる、俺が来たからもう大丈夫だと伝えます。
ルーデウスは、幼いころから口達者で父親を言い負かしてきました。しかし年齢と経験を重ね、さらにシルフィとの結婚によって、単に相手を黙らせるような言葉選びをするのではなく、相手を安心させる余裕が出てきたことが示されるのです。
そして彼らは、母親を救出するために迷宮の中へと進みます。そこで待っていたのは、ヒュドラという強大な魔物との死闘でした。妻を魔物から取り返すために懸命に闘うS級冒険者パウロと、磨き抜いた魔術を全力で使うルーデウス。
2人の力が合わさればどんな魔物でも倒せるはずでした。しかしヒュドラは予想以上に強く、ルーデウスはその左手を持っていかれ、パウロはルーデウスをヒュドラの攻撃から守った結果、半身をヒュドラに食われてしまったのです。
父親の亡骸を呆然と見つめるルーデウスは、一人前となった自分を守るなんて、自分のような本当の息子ではない魂の入った人間を助けて死ぬなんて、とひたすら後悔と痛みを抱きます。
その感情は、前世で引きこもっているうちに死んでしまった両親への思いや、引きこもったまま両親の葬式にも行かなかった自分の情けなさの自覚とないまぜになっていきます。どう生きていくべきか、ひとつひとつ考えさせられる一冊です。
「なんと神々しいのだ! 水色の髪から覗く白いうなじ! 艶かしいとは言いがたい首筋! 昨日付けた首筋のキスマーク!」(『無職転生-異世界行ったら本気だす-』13巻より引用)
魔術の師匠であるロキシーを妻として迎えることを決め、ひと晩を共にしたルーデウス。幼すぎるとも思えるその肢体を前に、ルーデウスは感嘆のため息をつくのです。
- 著者
- 理不尽な孫の手
- 出版日
- 2016-12-22
今作では、ルーデウスが2人目の妻としてロキシーを迎えます。彼は幼いころに家庭教師だったロキシーのパンツをこっそり盗んだり、水浴びを盗み見ようとしたりしてきました。
それだけではなく、ロキシーの「卒業試験」を経たルーデウスは、彼女のフィギュアを作るなど、並々ならぬ執着を持っていたのです。
そんなルーデウスがロキシーを妻として迎えたことは、彼の欲望や憧れがひとつの到達点に至ったといえるでしょう。
今作の魅力は、ハーレム状態を単なるハーレムに終わらせず、家庭を丁寧に作りあげ、さらにその生活を描いているところにあります。特にシルフィとロキシーが互いに魔術の使い手であり、ロキシーがルーデウスの師匠であり、ルーデウスがシルフィの師匠であることで、2人の妻の仲が良いのも特徴でしょう。
家族それぞれが足りない部分を補いあい、ルーデウスもまた2人の妻を大切に愛してゆきます。3人で買い物に行ったり、時には魔術を学んだり、みんなで友人の結婚式に参列したりする様子は微笑ましさにあふれているのです。
また魔法大学では、怪力の神子であるシーローン王国の第三王子との自働人形の研究も進みます。先の迷宮でルーデウスは左手を失ってしまいましたが、第三王子の研究成果により、彼は指先に感覚を宿す高性能の義手を手に入れることになるのです。
ルーデウスが様々な人に影響を与え、自分のもつ技術を教えてきたからこそ、彼もまた救われることになったという、温かい気持ちになる一冊だといえます。
「お土産はいりません。帰ってきた時にギュっとしてくれれば、それでいいです」(『無職転生-異世界行ったら本気だす-』14巻より引用)
魔神ラプラスを倒したといわれる英雄が住む、空飛ぶ城、空中要塞。龍族である彼に会うため、ルーデウスたちは遺跡へとやってきました。しかし、案内人は、英雄は魔族嫌いのため案内できないと言うのです。
留守番することを決めたロキシーは、ルーデウスに可愛くおねだりするのでした。
- 著者
- 理不尽な孫の手
- 出版日
- 2017-04-25
今作の魅力は、ルーデウスが子供のころから憧れを抱いていた空中要塞に足を踏み入れるところにあります。この空中要塞を作ったのは「甲龍王」ペルギウスです。
彼は昔、人類と魔族に多大な被害を与えた魔神ラプラスを封印したという過去を持ちます。龍族である彼は魔神ラプラスが復活した時に備え、復活直後に倒せるよう空飛ぶ城である空中要塞から常に世界中を監視しているという、世界の守り神のような存在なのです。
そんなペルギウスはナナホシと知り合いであり、彼女から異世界からの召喚に関する情報を得るかわりに、彼女に召喚術を教えるという約束をしていたのでした。ルーデウスたちは空中要塞で快適な滞在をしながら、召喚術を習ったり、迷宮で失われたルーデウスの母親の記憶を取り戻す方法を探したりと、有意義な日々を過ごします。
しかし、楽しい時間も長くは続きません。ナナホシが突然体調を崩してしまい、治療しようと解毒魔術をかけた瞬間、なんと彼女は血を吐いて倒れてしまったのです。
その原因は魔力でした。魔力を持たないナナホシは体外から入ってくる魔力を中和できず、この世界での8年間にわたる生活で、魔力を身体にため込んでしまっていたのです。
日本に家族を残してきたナナホシはまだ高校生。この世界では年も取らず、他の人が使える魔力を一切使えないため、自分はまるで死体のようだと苦しみながら生きてきました。
そんな彼女を救うため、ルーデウスは魔大陸へと渡ることを決意します。目指す相手は不死の魔族である魔界大帝キシリカで、ルーデウスに魔眼を授けた魔族でもあります。しかしキシリカを探すなかで、ルーデウスは不死魔王アトーフェラトーフェと決闘することになってしまうのです。
負ければ10年は家族のもとに帰れません。負けられない戦いは必見です。
「待たせたわね、ルーデウス」(『無職転生-異世界行ったら本気だす-』15巻より引用)
別れて以来、間話でしか登場のなかったエリスが、とうとう本編に登場します。服装も、たくましさも、色気も、すべてが成長して帰ってきたエリスに胸が高まること間違いなしです。
- 著者
- 理不尽な孫の手
- 出版日
- 2017-07-25
今作の特徴は、老人となった未来のルーデウスから渡された日記にあります。その日記には、未来を変えて欲しいとやってきた老人のルーデウスの悲しみと絶望が記されていたのです。
そこには、妻たちや家族の悲惨な死が記されていました。そしてその悲しみにつかり、堕落して退廃的な生活を送る未来のルーデウスの姿も記されていたのです。
日本で自分の人生を後悔し、やり直したいと切に願ったルーデウスが、再びやり直したいと考えている……そんな1巻を思い出させる内容になっています。
異世界でのルーデウスは、努力を重ね、周囲との関係性もきちんと構築してきました。そんな彼が歳をとり、過去の自分を信じて未来を託そうとしたことは、1巻とはまた違った覚悟や面白さがあるでしょう。
さらに、ルーデウスのもとに現れたのは未来の自分だけではありません。人神もルーデウスに接触してきます。
人神は、ルーデウスの子孫と龍神オルステッドが人神を殺すことになると言い、オルステッドを殺すよう彼に要求するのです。従わなければ家族が死んでしまう……ルーデウスの心は決まっていました。
世界最強の異名を持つ100代目龍神オルステッドとの決闘に、エリスとの再会と結婚。すべてが大きく動き出す一冊です。
他にも、同時期に放送予定のアニメ化作品を以下で紹介しています。気になった方はぜひご覧ください。
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