漫画『バクマン。』の魅力を徹底考察!【ネタバレ注意】

更新:2021.11.27

2008年に連載を開始し、高い人気を誇ったまま20巻という短い巻数で走り抜けて完結した『バクマン。』アニメ化や実写映画化も果たし、国内に漫画家旋風を巻き起こしたその魅力を徹底解明します!

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漫画『バクマン。』の魅力とは?

 

バトルやスポーツといった王道漫画に対して、いわゆる邪道なジャンルの「漫画家を目指す漫画」です。

「漫画を描く」だけでストーリーが単調になってしまいそうですし、バトルなどと違って画的にも地味になってしまいそう……そう思う方もいるかもしれませんが、幾度となく迫る困難に立ち向かって乗り越えていく2人の主人公の姿は、けっして単調でも地味でもなく、読み進めるほどに惹きこまれていきます。

これまで知り得なかった漫画家の裏事情なども描かれていて、『週刊少年ジャンプ』のアンケートシステムや編集部内部のお話、連載を続ける苦労や漫画家ならではの人間関係など、今後漫画を読む目が変わりそうなエピソードがたくさん含まれています。

 

著者
小畑 健
出版日
2009-01-05

 

『バクマン。』のあらすじ

 

真城最高が、高木秋人から漫画家に誘われるところから話は始まります。
 

それまでうだつのあがらぬ平凡な人生を送り、それに辟易していた真城は、この誘いを断りつつも胸が高鳴る感覚を覚えていました。

そんななか、高木から罠にハメられるような形で、真城は長年の片思いの相手、亜豆美保にプロポーズをしてしまいます。「真城と高木が描いた漫画がアニメになって、そのアニメのヒロインの声優を亜豆がやる。その夢が叶ったら結婚する」そう亜豆と約束した真城は、本格的に漫画家を目指すことを決意しました。

実は真城の叔父も漫画家で、売れようと必死に漫画を描き続けた結果、過労で亡くなっています。その過去を知りながらも真城は高木と共に漫画家を目指し、多くのライバルたちと競いながら成長していきます。

ジャンプで連載を勝ち取ってからも、人気に振り回され、時には担当編集者と対立しますが、諦めません。すべては亜豆との夢を叶えるために。

 

魅力1:ここまで論理的に考え詰めた漫画家漫画はない!

本作はときに「上手く行きすぎてリアリティがない」といった批判を受けることがあります。

世の中には『バクマン。』以外にも漫画家漫画はいくつも存在して、例えば島本和彦の『アオイホノオ』、藤子不二雄Aの『まんが道』などです。これらの作品はどれもリアルで、漫画家になることの大変さや連載を続けることの辛さというものを嫌というほど描いています。

確かにそれらと比べると、本作は大きな困難がおとずれても2人の力で、意外と早い展開で解決してしまうことが多いです。

そこに物足りなさを感じる方もいるかもしれませんが、それでは本作はリアリティがないのでしょうか。実際に物語を読んでいくと、真城と高木の2人はその困難を乗り越えるだけの努力をしているのです。

 

著者
小畑 健
出版日
2009-11-04

2人は漫画家になると決めた中学3年生から、作品が完結した時の24歳まで、ひたすら漫画に没頭しています。他の友達と遊ぶような時間もなく、ひたすら漫画を描き続けた日々です。さらに、そこに編集部の人間やライバルからの協力も加わります。

どうしても華やかな展開を求めがちですが、彼らの血のにじむような努力、それこそが漫画家のリアルなのです。

また、ある意味では漫画家にとって1番リアルな存在のアンケートを、丁寧に解説しつつ物語の序盤から完結するまで常に作品に絡ませ続けています。

「『PCP』は話がリアルだから絵もリアルな方がいい。でも全てをリアルに描いたらマンガじゃないです。時にはアーティスティックに、ポップに、スタイリッシュに」(『バクマン。』11巻より引用)
「10人のうち2人が確実に面白いと言ってくれればいい」(『バクマン。』2巻より引用)

このような作者独自の漫画論も数多く展開されています。そのひとつひとつを読むたびに、「なるほど、漫画にはこういう要素もあるのか」と納得できるでしょう。原作の大場つぐみと作画の小畑健、この2人のこれまで歩んできた漫画人生を追体験出来るような感覚も、本作の魅力のひとつです。


画力に定評のある小畑健のおすすめ作品を紹介した<小畑健のおすすめ漫画ランキングベスト6!圧倒的な画力でみせる作品!>もぜひご覧ください。

魅力2:あずきとの清すぎる恋!

『バクマン。』の主軸と言ってもよい、真城と亜豆の恋。「2人の夢が叶った時、結婚する」という輝かしい約束と、「それまでは会うこともなく、メールや電話だけで励まし合う」という厳しすぎる条件です。

彼らがこの約束をしたのは中学3年生の時。本来なら好きな人とずっと一緒にいたいと考えるような年齢でしょう。ましてや2人は小学生の頃から、心の中でお互いを想っていた関係です。それなのにこんな厳しい条件をつけたのは、真城と高木の夢を絶対に叶えるためだと作中で語られています。

実際に真城と亜豆は、真城が病気で入院した時と、亜豆が受けたくない仕事を断る時、そして高木の結婚式の3回を除いて、1度たりともデートのような行為をしていません。それでも互いに誰かに目移りするようなこともなく、メールでお互いを応援し続けました。そして好きな気持ちがどんどん膨らんでいったのです。

3回目のとき、亜豆は「次に会った時、キスしよ。だから、次に会うのは夢が叶った時。」と言って、このままなあなあで会うのをやめて、最初の目標通り夢が叶うまでは会わないという条件を再確認させます。好きな人との別れ際、1番寂しい瞬間にこの言葉が出るなんて、本当に芯が強いですよね。

 

著者
大場 つぐみ
出版日
2012-06-04

最終巻では真城と亜豆の夢が叶い、真城と高木の描いた『REVERSI』がアニメ化されて、そのヒロインを亜豆が演じます。アニメが放送された直後、真城は亜豆に会いに行き、2人は亜豆が昔住んでいた家の前に到着します。

「亜豆さん、僕たちのマンガがアニメになって、そのヒロインを亜豆さんがやる。その夢が叶ったから、結婚してください!」(『バクマン。』20巻より引用)

事前にプロポーズの言葉を考えてこなかった真城の口から自然に出たのは 、くしくも1話で伝えた言葉と同じものでした。

亜豆は一瞬照れたような表情を見せてからひと言、「もう一つの約束覚えてる?」と言い、真城が彼女の言葉を理解しきる前に、亜豆は真城の唇にキスをして、「これからはずっと隣にいられるね」と伝え、『バクマン。』は最後を迎えます。

夢を叶えるために、よそ見をせず努力し続け、ついに約束を果たした2人の姿を見て、この漫画が名作であったことを実感するでしょう。

一方で高木は、亜豆の親友の見吉と付きあっています。彼らは真城たちとは反対に、毎日のように一緒にいて、休みの日にはデートをし、順調に愛を育んで結婚しました。

 

魅力3:友情、努力、勝利の爽快感!意外と王道作品?

 

ここまで『バクマン。』を邪道作品として紹介してきましたが、実際に読んでみると、本作はジャンプの3大原則である「友情、努力、勝利」を詰め込んでいる超王道作品であることがわかります。

ダブル主人公の真城と高木の友情やライバルとなる漫画家との友情、締め切りに迫られながら描き続ける努力や困難を突破するためのアイディアを考える努力、そしてそれらが勝利をもたらしているのです。

 

著者
小畑 健
出版日
2011-10-04

 

「新妻エイジに勝ってみせます!だから『タント』は終わらさせてください!」(『バクマン。』9巻より引用)

これは物語の中盤、ギャグマンガを連載していた真城と高木が、「これは自分たちの良さが出る作品では無い。このままではライバルの新妻エイジに勝てない。」と感じ、編集部に頼みにいった時のセリフです。

身勝手にも思えるこの願いに編集部が出した答えは、「次の連載が新妻エイジと競える作品でなければ二度とジャンプでは描かせない」という厳しいものでした。

彼らはその条件を飲み、次の作品に全力を注ぎます。そして元担当のサポートも受けながら完成した新作で連載を始めます。滑り出しは好調でしたが、ジリジリと人気が下がるなか、ライバルの新妻エイジからアドバイスを受けるのです。

彼のアドバイスを取り入れた真城と高木の作品は再び人気が上昇し、最終的にはエイジと並ぶ人気を獲得しました。編集部からも作品の質を認められ、人気漫画として連載を続けることになります。

このように、「2人で協力し、ライバルからもアドバイスを受ける友情」「全力を作品に注ぐ努力」そして「結果を出して編集部からも認められた勝利」というジャンプの3大原則がつめこまれているのです。

 

魅力4:原作ならではの良さとは?

本作はアニメ化も実写映画化もされていて、そのどちらも高い評価を得ています。しかし原作には、漫画の『バクマン。』ならではの良さがあります。

まずは作中でも語られている「間のコマ」です。漫画というのは、意味のあるシーンやセリフのあるシーンばかりが描かれているわけではありません。空を映しただけのコマや、セリフもなくキャラクターが座っているだけのコマ、そういうものがあって漫画はできています。

もちろん映画やアニメにも見ている人の息を抜かせるための間が入れられていますが、作者の小畑健と大場つぐみだからこそ描ける絶妙な間が、読んでいる人に心地よさを与えてくれています。

 

著者
大場 つぐみ
出版日
2012-07-04

また本作は、非常にセリフの多い漫画です。原作の重要なシーンではコマに敷き詰められるようにセリフが並んでいることもあり、そのひとつひとつが物語を構成するうえで重要なものとなっているのです。

アニメや映画では尺の都合もありますし、ひたすらキャラクターが喋り続けているわけにはいかないために多くのセリフがカットされています。その削られたセリフの深みも、原作では味わうことできます。

アニメも映画もクオリティが高く非常に良い作品ですが、多くの人が1番愛し、何度も見返しているのはやはり原作の漫画『バクマン。』ではないでしょうか。


『バクマン。』の連載が始まって以来、ジャンプ編集部では持ち込みをしてくる新人が目に見えて増加したといいます。それほど影響力があり、読んでいるうちに胸の奥が高ぶるような作品です。作中にもこんな言葉があります。

「より良いものにするため、人生もマンガも同じ。自分ならやれるってうぬぼれや運も必要だけど、1番大切なのは、努力。」(『バクマン。』19巻より引用)

その言葉の通りに、漫画家に限らず人がより成長していくために必要なモノが、この作品には詰め込まれています。アニメや映画も良いですが、ぜひとも漫画『バクマン。』を手に取って読んでみてください。貴方の人生にとっての大切な何かを思い出させてくれるかもしれません。

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