コペルニクスから読む歴史。世界の見方が180°変わってしまう本5選!

更新:2021.11.9

16世紀の初め、それまでの宇宙観であった「天動説」に対し、地道な天体観測によって「地動説」を唱え、科学的な宇宙観へと転回させたニコラウス・コペルニクス。今回は彼の人生と研究に関する本を紹介します。

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地動説で世界を転換させたコペルニクス

1473年、ポーランドのヴィスワ川沿岸の町・トルンで生まれたコペルニクスは、地元のクラクフ大学で学んだ後、1496年イタリアのボローニャ大学に留学し、法学を学ぶ一方で天文学、数学にも関心を持ち、さらに1501年には、同じくイタリアのパドヴァ大学で医学と占星術も学びました。

彼は10歳の時に父親を亡くしたため、代わりに叔父に育てられます。彼が司教であった影響で、壮年期には故国ポーランドで聖職に就きながら、医者の仕事にも従事する生活を送りました。そんな生活の中で、毎晩地道な天体観測を続けたのです。

天体観測の中で、恒星の動きが天動説では説明できないことを突き止め、地球が自転をしながら太陽の周りを1年周期で回っていることを説き、1510年に「地動説」を初めて公表しますが、この頃はまだ、本格的に書物として出版する予定はありませんでした。

1539年から彼の唯一の弟子となったゲオルク・レティクスが出版を強く勧めたことで、彼の手により翌年に理論の一部が「第一考察」として出版されます。その後、コペルニクスはやっと理論すべての出版を決意し、その草稿が完成したのは1542年でした。そして翌年の1543年、『天球の回転について』の初版本がついに完成したのです。

コペルニクスにまつわる逸話6つ!

1:「地動説」理論の出版には消極的であった

彼の新しい理論の内容は、友人や仲間の司祭の間にも知られていました。そのなかのひとり、司祭のギーゼは研究の成果の出版を何度も要請します。しかし、彼はまったく乗り気ではありませんでした。

それは、革新的な考えの受け止められ方への不安と、自身の理論に満足せず、出版には値しないという考えがあったからだと言われています。

2:『天球の回転について』の「天球の」の部分は印刷業者が付け加えた

本来、本の題目は『回転について』でしたが、印刷業者の判断で「天球の」が付け加えられたことにより、『天球の回転について』として発表されました。このため、後世の彼に関する文献書物には、この両方の表記がみられるという現象が起こっています。

3:著書の最初のページの「前書き」は校正者によって書き加えられた

彼の友人であるギーゼと弟子のレティクスは、完成した初版を目にした時、最初のページに筆者の名前が記されていない「前書き」が含まれているのを見て憤慨しました。この本の校正はアンドレアス・オジアンダーという人物行っており、彼が独断で書き加えたものだったのです。

後にオジアンダーは「筆者はこの考えが必然的に正しいと主張しているわけではない。」(『コペルニクス 地球を動かし天空の美しい秩序へ(オックスフォード科学の肖像)』から引用)という記述が含まれるこの「前書き」が、教会からの反発を防いだと弁明しています。

4:著書は200年近く禁書目録に登録された

彼の理論を継承、発展させ、地球の「公転」と「自転」をケプラーやガリレオ・ガリレイが主張しはじめたことに対し、教会側は彼らの思想を「危険な考え」として恐れました。そして1616年にカトリック教会の禁書目録聖省が、「地動説」を唱えたコペルニクスの著書を、修正がなされるまで教徒が読むことを禁止したのです。

その後「地動説」が真実であるということが証明され、禁書目録から外されたのは、1822年になってからでした。

5:宗教改革で有名なルターに「馬鹿者」と言われた

彼の「地動説」はカトリック教会からの非難はもちろんでしたが、プロテスタント側からも「聖書の記述と異なる許しがたい理論」だと反発を受けます。彼の著作が出版される以前に、宗教改革で有名なルターは「この馬鹿者は全天文学を上下転倒しようとしている。」と彼を批判しました。

6:経済学の知識を用いて、額面価値と実質価値の法則を説明した

聖堂参事会の財産管理者を務めた時期に、彼は貨幣の価値についての問題を研究しました。

質の良い貨幣を鋳造するための原理を分析したこの論文で、「悪貨は良貨を駆逐する」という原理を説明しましたが、同じ原理を後に説いたトーマス・グレシャムの名をとって、現在ではグレシャムの法則と呼ばれています。実際にはコペルニクスの方がこの原理を早く説明していたのです。

コペルニクスの「地動説」が読める

ニコラウス・コペルニクスの唯一の著書です。

古代、中世を支配した天動説を歴史的に転回させることになった地動説を説いた革命の書、『天球回転論』の第1巻の新訳と、地動説の構造を述べた小論文「コメンタリオルス」の邦訳、さらに訳者による「コペルニクスと革命」と題する詳細な解説の3部構成からなり、科学史における古典的名著を日本語で読むことができます。

著者
コペルニクス
出版日
1993-12-25

本論の前に記述されて問題となった「読者へ」という、アンドレアス・オジアンダーによる前書きや、彼に理論の公開を要請する枢機卿シェーンベルクの書簡、そしてローマ教皇パウルス3世宛ての序文が、すべて邦訳されています。

訳者の解説では、本論はもちろん、地動説発表前の天文学、特にアリストテレス、プトレマイオスの理論を説明しつつ、彼以後の受容と変容としてブルーノ、ケプラー、ガリレオ・ガリレイを取りあげています。

コペルニクスの天文学が、訳者の詳しい解説とともに読める一冊です。

『回転について』は本当に読まれなかったのか?

作家のアーサー・ケストラーは自著『夢遊病者たち』のなかで、コペルニクスが地動説を論じた著書『回転について』は誰にも読まれなかった本である、と断言しました。

その意見について、天文学者で科学史家の著者、オーウェン・ギンガリッチが、「そんなことはあり得ない」という反論を記したのが本書です。

著者
オーウェン・ギンガリッチ
出版日
2005-09-22

ギンガリッチは、偶然手にした『回転について』のなかに書き込みを発見し、調査を始めることを決意しました。30年の年月をかけて世界各国を巡り、初版、第2版あわせておよそ600冊を調査します。

本書では、『回転について』に残されたさまざまな書き込みが多く紹介されています。その量はそれぞれの本で異なっていますが、これらの書き込みは重要な情報として後世に伝わったのです。

さらに、本書の巻末には『回転について』の現在の所在地という貴重な情報がリストアップされており、これを見ると、世界各国に分散する初版の所在地のうち、日本には5つの大学と1つの研究機関に所蔵されていることがわかります。

本書の表題にある「書誌学」とは、書物そのものの本文、歴史、体裁、用途を研究する学問ですが、まさに、書誌学的見地からも著者の情熱あふれる本になっています。

コペルニクス唯一の著書を出版させた男の物語

本書は、自分の理論の公表に消極的であったコペルニクスに対し、「地動説」の公表を熱心に勧め、『天球回転論』の書籍化に尽力した彼の唯一の弟子、若き数学者のゲオルク・レティクスの物語です。

著者
デニス ダニエルソン
出版日

一般にはあまり知られていませんが、実はレティクスも天文学者として有名な人物で、天体観測に不可欠な三角関数表も作成しました。

65歳のコペルニクスが自分より40歳も若い学者に自分の理論の書籍化を託したのはなぜなのか。彼と出会わなければ『天球回転論』は出版されなかったのか。その答えが本書で解明されます。

副業としての天文学研究、地道な観測が「地動説」を生み出した

本書は「オックスフォード科学の肖像」という、世界の著名な科学者の伝記シリーズのひとつで、コペルニクスの生涯と研究がまとめられた伝記です。

著者
ジェームズ マクラクラン
出版日
2008-11-01

『天球の回転について』が出版されたのは1543年で、後にこの年が「科学革命のはじまり」といわれるようになりました。

当時の常識であった天動説は、アリストテレスの考えにより「天空は完璧な円を描いて永久に動き続ける」その「完璧さの原理を実現するために円は地球そのものを中心としている」というものでした。

聖職者としての本職を勤め、夜にいわば副業のように地道に天空の観測を続けた彼は、プトレマイオスによる「天動説」の理論に検証を加えては改めていく作業をくり返し、「地動説」という考えにいきつきます。

当初コペルニクスは、地球が動くという急進的な考えが、どのように受けとめられるかが定かでなかったからという理由でこの理論の公表を迷っていたことが、教皇パウルス3世への手紙の次の一文からも伺えます。

「私の論考を世に出すべきかどうか長らく迷っておりました。」(『コペルニクス 地球を動かし天空の美しい秩序へ』から引用)

最終的には、弟子レティクスの勧めでその考えを書き著しましたが、本書では地動説発表前と発表後の経緯を丁寧にたどっています。

コペルニクスの地動説と、ニュートンの力学と微分積分の関係

本書は、数学者の遠山啓が、教師や学生、保護者を対象に実施した市民講座の内容を、数学や理科の教育に携わった3人の監修者の手によってありのままにまとめたものです。

著者
遠山 啓
出版日

地動説に始まり、ケプラーを経てニュートン力学と微分積分学が完成するまでをたどった内容でです。地動説の成立には欠かせなかった微分積分の方法が、力学との関係で分かりやすく書かれています。

著者は「微分積分は、力学なしには真の意味を理解することができないはずのものである。いっぽう、微分積分なしに力学、とくに動力学を使いこなすことはできない。」(『遠山啓のコペルニクスからニュートンまで』から引用)と述べています。

ほぼ全ページにわたって、絵や写真を含む図版が掲載されていることが本書の特色になっており、それが読みやすさにもつながっています。数学や物理に関心がある人はもちろん、微分積分は難しいと思っている人にも、ぜひ読んでもらいたい本です。

宇宙観、地球観を180°転回させたニコラウス・コペルニクスについて、色々な切り口で書かれた本がそろっています。天文学や数学はいまひとつ苦手……という人も含め、すべての人にお薦めです。彼の実像を知るためにぜひ1度読んでみてはどうでしょう。

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