ニートと聞いてだらしない人と思う方、ひとまず漫画で彼らの生活を覗いてみて下さい。さまざまな理由でニート生活をしている主人公が登場する、笑いあり涙ありのオススメ漫画を5作品ご紹介いたします。
『働かないふたり』は吉田覚による、2013年からWebコミックサイト「くらげパンチ」で連載されている作品です。
毎日のように夜遅くまで起きて、おしゃべりをしたりゲームをしたりして過ごし、朝になってから寝る……そんなニート生活を送る兄妹がいます。対人恐怖症の石井春子(推定20歳)と何事にも器用で社交的な兄、石井守(推定24歳)です。
ニートの子供をもつ石井家や守の友人、兄妹のひそかなファンである隣人といった、2人の周囲の人々との日常を描いたゆるいコメディ漫画です。
- 著者
- 吉田 覚
- 出版日
- 2014-05-09
1つの話は1~3ページで構成されているのですが、その短い間に兄妹の微笑ましい会話やにぎやかな一面が凝縮されています。
妹の春子は兄の守のことが大好きで、寝れない夜は彼の部屋に居つき、驚くようなでき事があれば「お兄ちゃん!」とトイレにいる守に呼びかけてしまうほどです。ニコニコゲームをしたり、家族以外の人の前では挙動不審になったりと、表情豊かで可愛らしいです。
兄の守は、絵がうまく、過去にはアルバイト代で海外旅行に行った経験もある、ニートのなかのエリート、春子いわく「エニート」な存在で、案外知的なのではないかと思える台詞やセンスが垣間見えます。
たとえば守と春子、守の友人の丸山、石井家の隣人の倉木の4人でトランプをしていた時の、春子とのやりとりです。
「現実の世界でも革命が起こったら、私達強くなるのにね」
「裕福な日本に生まれたニートなんて、大貧民で言ったら8か9」
「革命が起きようが起きまいが常に弱い、それがオレ達だ」(『働かないふたり』から引用)
このように、急に現実の厳しさを露わにしてくるのです。
本作を読んでいても、不思議と彼らに対して苛立ちなどの感情が呼び起されません。ニートである以上に、彼らのキャラクター性に魅力を感じられるからでしょうか。張りつめた日常にふと息をつきたい方に読んでほしい作品です。
『働かないふたり』については<漫画『働かないふたり』はニートなのになぜ幸せそうなのか【ネタバレ注意】>で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
『34歳無職さん』はいけだたかしによる、2011年から2016年にかけて「コミックフラッパー」で連載されていた全8巻の作品です。
主人公は34歳女性。勤め先が倒産したことで無職になってしまいました。再就職先もないわけではなかったのですが、あえて「1年間何もせずに過ごす」ことを選択します。
のんびりと起床して、買い物へ行ったり本を読んだり、気ままに過ごす主人公。物語が進んでいくにつれて、彼女の素性が少しずつ見えてきます。
- 著者
- いけだ たかし
- 出版日
- 2012-02-20
アラサー女性が仕事もせず、ただ地味な生活を送っている様子を描いた作品です。しかし、この地味さが本作の魅力なのです。
仕事や時間に追われる現代の日本人にとって、なんとなく見たテレビや日々のスーパーの様子、気温や天気といった日常に溢れているものなんて目に留まらないものでしょう。
また、お金があって物資的生活は豊かになる一方で、あらゆるものが「当たり前」の存在になり、無感動になっていくのです。
しかし、本作の主人公はそういったものに視点を移すことによって、生活が豊かになっていくことを教えてくれます。ちょっとしたきっかけで物思いにふけったり、新しい趣味を持ったり、安くて良いものに喜んだり……。仕事をせず、時間に余裕があるからこそ見いだせる幸せですよね。
本作のポイントはそれだけではありません。実は主人公はバツイチで、娘もいるのです。夫とうまくいかず、姑にいびられる生活に嫌気がさして離婚、という方は現実にも少なくはないでしょう。物語の後半、無職生活も6ヶ月を過ぎるあたりから、娘の話も絡んでいきます。
さまざまなしがらみから解放されたい、最近一喜一憂した覚えがないという方にオススメの漫画です。
『俺はまだ本気出してないだけ』は青野春秋による5巻完結の作品です。2013年には実写映画化もされました。
40歳の会社員、大黒シズオは、なんの問題も不満もなく過ぎてきた人生を顧み、突如仕事を辞めて自分探しを始めます。1ヶ月ニート生活を送ったのちに見つけた夢は「漫画家になる」ことでした。
顔を合わせればお説教ばかりの父親の志郎と、女子高生の娘、鈴子と暮らしながら、ハンバーガーショップでバイトを始めます。どうしようもない中年シズオと、彼の周囲の人々の様子が描かれています。
- 著者
- 青野 春秋
- 出版日
- 2007-10-30
家族と生活のために淡々と仕事をこなして生きていくと、本気の出しどころというものを見失っていってしまいます。子供の頃に抱いた大成していない夢を、いまだに胸に抱いている大人もいるのではないでしょうか。
主人公のシズオはバイトをしながら漫画家を目指しているといいつつ、家でダラダラとゲームをしているシーンも見受けられます。しかし、そんなシズオを見捨てず、無条件で彼のそばにいる人々との絆が本作を輝かせているポイントです。
たとえば娘の鈴子は、いつも優しくシズオを見守っています。しかし、実は留学費用を貯めるために風俗店で働いていたのです。それを知ったシズオは彼女に風俗店を辞めるよう伝え、鈴子も素直に従います。普通だったらロクに仕事をしない父親を憎むところですが、彼女とシズオの無条件の絆があるからこそ、彼の発言を肯定できたのでしょう。
ほかにも、シズオをからかいながらも仲良くしているバイト先の先輩や、バイトを転々としている金髪の青年、パン屋になるために仕事を辞めたシズオの友人などが登場します。
成功やお金といった、目に見えるハッピーエンドばかりでない現実を描く本作を読むと、本当に信じられる大切なものを目の当たりにすることとなるでしょう。
『空の下屋根の中』は双見酔による、「まんがタイムきららキャラット」で連載されていた全2巻の作品です。
本作は何の目標も見つけずに高校を卒業した主人公の笹川香奈絵が、バイトを始め、働く意味を考え、そして就職へと向かっていく様子を描いた4コマ漫画形式の物語です。
- 著者
- 双見 酔
- 出版日
- 2009-07-27
表紙の絵から分かるとおり、ニート漫画のわりにシリアスな場面や自虐ネタを使用する場面は少なく、可愛らしい絵柄と香奈絵の能天気な調子で物語は進んでいきます。
当初は、「履歴書を買ってきただけで目標達成」「履歴書を書いたから今日は頑張った」という、あまい、いわばニートらしい言動が目立ちます。やる気がなくなっている時に同じような気持ちを経験した方も多いのではないでしょうか。
けれども、おもちゃ屋でバイトを始めたことをきっかけに、香奈絵の働くという行為への認識が変わっていきます。働くことで得られる喜びを知っていくのです。
また、働くことに意味を見出そうとしていた香奈絵ですが、ふとした瞬間に
「『やりたい事があるから働く』じゃあないんだ、やりたい事が無くても働くんだ」(『空の下屋根の中』から引用)
ということに気づきます。やりたい事をすることは大事ですが、しかし生きるためにやらなければならないこともあります。いろんなジレンマのなかで、逃げ続けていたら埒があきません。
ここまで紹介してきた作品が、息苦しい世の中での休憩地点的なニート漫画だとしたら、本作はやる気や目標が無く立ち止まっている人への翼となるニート漫画だといえるでしょう。
本作に収録されている「明日は日曜日そしてまた明後日も……」の主人公、田宮坊一郎は、大学を卒業し大手商社に就職しました。
過保護な母親に見送られ、厳格な父親と共に電車で通勤し、社会人1日目を迎えようとしています。
父親と別れ、周囲をサラリーマンに囲まれるなか会社の前に到着します。しかし、入り口でウロウロしているところを会社の警備員に怒鳴られ、その場から逃げ出してしまったのです。
時間は11時、会社へはもう行けないと思った坊一郎は、公園で母親が作ったお弁当を泣きながら食べ始めました。そして帰宅し、初出勤を祝う両親を前にして坊一郎は……。
- 著者
- 藤子 不二雄A
- 出版日
- 1995-08-18
本作が世に出されたころ、世間では「引きこもり」や「ニート」といった言葉は一般的ではありませんでした。ラストのページは藤子不二雄Ⓐらしい不気味さが表現されていて、現実で起こったら怖い話というテーマで描かれたのでしょう。
実際、坊一郎は病院で「勤めにでることができない病気」と診断されています。現代でしたらうつ病などと言い換えができるのでしょうが、精神病すらほとんど認知をされていない時代のため、このような病名にしたのでしょう。
坊一郎が引きこもり続けるなか、両親が白髪になって年老いて生活しているシーンには、ニートを抱える家庭の負担が描かれています。当時では奇妙なフィクションだったかもしれませんが、現代ではありふれたものとなっているのですから洒落になりません。
「働いたら負け」などと考えているニート及びニート予備軍の人たちに読んでほしい作品です。
ニートを主人公とした5作品をご紹介しました。ニートとはいえみんな人間です。さまざまな思いとキャラクター性を持ち合わせています。これらを読んでシンプルに楽しむのもよし、肩の力を抜くのもよし、自らを奮い立たせるのもよしです。まずは試しに1作読んでみてはいかがでしょうか。