ずっと昔に手にした『痴人の愛』に始まり、谷崎潤一郎さんの本が好きでよく読んでいました。登場する女の人たちの肌感まで感じられる文章にうっとりします。その人の何が良いってわけでもないのに惹かれてしまう。どの本の中でも、女性がとても魅力的に描かれているように思うのです。 というわけで、今回はわたしの家と頭の本棚にあった谷崎さん作品を5冊、ご紹介しますね。
山口百恵ちゃんが女優として演じたこともある小説『春琴抄』。文章だけなのに、春琴の美しい見目形が映像のように浮かんできます。顔に大火傷を負った春琴を受けて、春琴が見られることを怖れるのとまた同じように佐助も見ることを怖れ、佐助は自ら盲目の世界に入るために眼球を針で突く。これによって春琴が長く生きてきた世界に佐助も近づくことができたとある。このような絶対的な結び付きは現実にたくさんはあるものではないと思うからこそ、圧巻でした。
- 著者
- 谷崎 潤一郎
- 出版日
- 1951-02-02
これまた谷崎潤一郎さんの短編集。そしてこの本に収められている「少年」。少年たちの遊びと暴力と虐めが明確な境界などもなく繰り返される。そして少女を加えた登場人物の4人はその虐げに悦びや快感を覚えつつあり、それでいて悦びを隠そうとする仕草がまたいじらしい。嗜虐性と被虐性というものは小さい子供の時から本能的に備わっているものなのだと、感心してしまいました。
- 著者
- 谷崎 潤一郎
- 出版日
- 1969-08-05
4人姉妹のそれぞれにクローズアップしながら物語が進んでいくこの小説ですが、そこから浮かび上がってくるのは日本の婚姻事情や季節の風習。見合いなどにも消極的な雪子とは対照的に、はつらつと働く道を模索して、自由奔放に恋愛もする四女の妙子はその時の新しい日本女性の姿として描かれていたのだと思います。私が四姉妹の中で一番惹かれたのも妙子。そして最近の女性像とも近しいものを感じて面白いです。
- 著者
- 谷崎 潤一郎
- 出版日
- 1955-11-01
女中と聞いてどんな人を思い浮かべるでしょう。戦前から始まる千倉家の女中ものがたりです。実際にあった人たちのことを書いてあるので日常には違いないんですが、なんでこんなに面白いんだろう。そして、もしかしたら平凡だったかも知れない女の人達が谷崎さんの語りを通して一人ひとり女性としてとても魅力的に書かれているんです、体つきとかも含めて。すばらしいです。
- 著者
- 谷崎 潤一郎
- 出版日
- 1974-04-10
ナオミという名前が好きです。ただ3文字の連なりなのに、人格を強烈に表現しているような気がするのはこの本を読んだせいなのだと思います。だいぶ昔に読んだ本なのですが、ナオミの自由奔放な存在感がまず一番に残っています。28歳と15歳、主人公の男は15歳の少女ナオミを引き取りいずれは自分の妻にと、手の内で教育していくのですが、いつからか男は反対に振り回されナオミの美しさに支配されていきます。どれだけ思うように行かなくとも、結局いつもナオミの美しさを前に屈服してしまう、譲治の執着も、愛と呼ぶのだなぁと思いました。
- 著者
- 谷崎 潤一郎
- 出版日
- 1947-11-12
本と音楽
バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。