漫画『ソラニン』の魅力を徹底紹介!大人の入り口に立ったあなたにおすすめ!

更新:2021.11.27

2005年から2006年に「週刊ヤングサンデー」で連載され、2010年には宮崎あおい主演で実写映画化もされた漫画『ソラニン』。学生を終えて社会人になり、曲がりなりにも「大人」として生きていかなければならなくなった時、誰もが直面する思いが凝縮された作品です。今回はこの『ソラニン』の魅力を徹底紹介いたします。

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漫画『ソラニン』の魅力とは?

 

漫画『ソラニン』は、2006年に連載を開始した作品です。名前だけでも聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。

連載当時は、誰もが共感できるような大人への入り口に立った時のためらいや、モヤモヤ感がリアルに描かれていて、大人気となりました。

そんな本作なのですが、実は単行本は2巻だけという、短めのお話なのです。この短い間に登場人物たちの悩みや生き方が凝縮して描かれています。決して楽しいだけの物語ではないのですが、読了後には、心のなかにほっこりとした感情や、どこか寂しいけど優しい気持ちが残る、魅力ある作品です。


世界観に定評のある浅野いにおのおすすめ作品を紹介した<浅野いにおのおすすめ漫画ランキングベスト5!若者たちの葛藤を描く>あわせてご覧ください。。

著者
浅野 いにお
出版日
2005-12-05

漫画『ソラニン』あらすじ

主人公の井上芽衣子は、秋田から上京し、東京のOA機器メーカーでOLをする会社員。しかし社会人2年目にして、楽しいと思えない会社で勤める閉塞感に嫌気がさし、勢いで辞めてしまいます。

芽衣子には、大学1回生の頃から付き合い6年目になる彼氏、種田成男がいました。2人は同棲していて、種田はアルバイトをしながら、大学時代の友人と細々とバンドを続けています。

物語はそんな2人を中心に回っていきます。就職活動もせずに、まさにだらだらと毎日を過ごす芽衣子。同じく中途半端にバイトとバンドを続ける彼氏の種田に、芽衣子は本気でバンドをして欲しいと気持ちをぶつけます。

彼女の気持ちに感化され、バイトも辞めてバンド仲間とデモCDを作ることを決意した種田。彼がCDに選曲したのは、「ソラニン」という新曲です。

一生懸命作ったそのデモCDは、なんと大手レコーディング会社の冴木という人物の目にとまります。メジャーデビューの話を持ち込まれる種田たち。しかしその契約内容は、種田には歌わせずに、会社が推しているアイドルにボーカルをさせて売り込むというものでした。その提案に、芽衣子が断りを申し入れます。

種田たちバンドメンバーも、芽衣子と同じくそれを拒否。結局、彼らのCDは他の会社からは声がかかることもなく、そのまま普通の生活へと戻っていきました。そしてどこか閉塞したままの芽衣子と種田の関係性も、だらだらと続いていくのです。

そんなある日、種田が芽衣子に別れ話をもちかけます。実家の福岡に帰ると言い出したのです。もちろん芽衣子はそれを拒否。その話はなかったことのようになり、気まずい雰囲気も解消して2人は家に帰りますが、種田は帰宅後「散歩に行く」と言って行方をくらましてしまいます……。

種田の行動から急展開を迎える『ソラニン』。そして別れを経験した芽衣子が、成長し、見つける幸せの意味とは。ラストには、少し寂しさを覚えながらも暖かい気持ちになれるストーリーです。

魅力1:若さゆえのモラトリウムの雰囲気

 

『ソラニン』の魅力のひとつといえば、読者の心を締めつけるほどリアルなモラトリアムな雰囲気と、登場人物の悩みではないでしょうか。

OL2年目の芽衣子がこのままでいいのかと悩む様子や、バンドをする種田が自分の平凡さを知りつつも音楽をやめられないこと……大人になっていくにつれ時間の流れる早さに戸惑い、そしてそのまま流されていく怖さや、その流れに抗うことのできない平凡さが描かれています。

誰もが抱えたことのあるような悩みやもどかしさが、作品のいたるところに散りばめられていて、いま大人の入り口に立っている方も、これから立つ方も、そしてもうすっかり大人になってしまった方も、きゅうっと心を掴まれて苦しくなってしまうでしょう。

 

著者
浅野 いにお
出版日
2006-05-02

魅力2:だらだらの彼氏との関係

もうひとつの魅力は、芽衣子と種田のだらだらとした恋人関係でしょう。言葉だけだと魅力がないように見えますが、この2人のやりとりや関係性が妙にリアルで、共感できる読者は決して少なくないはずです。

物語の冒頭、仕事に行く前の芽衣子と、徹夜明けのバイトから帰ってきてソファになだれ込む種田のやりとりは、まさに長い間付き合い、ときめきもなくなってきたようなカップルの実態を描き出しています。

「今日は種田が朝ごはん作る番じゃんか!ホラ、すみませんって言え。」
「ごめん。」
「違う、ス・ミ・マ・セ・ンだっつの!!」
「すめん。」
「うぉーーーい!!朝っからムカつく男だねホント!!」(『ソラニン』1巻から引用)

こんなやりとり、なかなか恋愛漫画では描かれませんが、実際の恋人同士は長く安定すればするほど、このような雰囲気をもつのではないでしょうか。

こうしたトキメキとは程遠い関係の2人が、それでもお互いを必要といている暖かさが描かれているのも、本作の魅力のひとつでしょう。

魅力3:突然の別れ。大人になっていく若者

のんびりとして、どこかマンネリ化した状況から始まる『ソラニン』。その物語が急展開するのは、種田との当然の別れです。ある日突然、芽衣子は種田から別れ話を切り出されます。もちろん彼女はそれを拒否し、その時は円満に終わるのですが、その後種田は行方をくらましてしまいました。

連絡がついたのは、それから5日後。実は、種田は芽衣子との将来を考えて、かつて辞めたバイト先に頼み込んで仕事をもらい、契約社員となっていたのです。

電話越しに、「これから二人で幸せになろう」と告げる種田。

しかし、彼はその帰り道、バイク事故で帰らぬ人となってしまうのです。

種田や大学時代からの友人との、暖かくて幸せな時間。厳しい現実から目をそらし続けて、甘さのうえに成り立っていた幸せが、彼の死によって崩れていきます。

ここから物語は、もぬけの殻となってしまった芽衣子の成長ストーリーへと変わっていきます。

ふさぎ込んでいた彼女を動かしたのは、種田の父親の言葉でした。ある日、種田の荷物をとりに芽衣子の家を訪ねた父親は、「息子が生きていたことを忘れないで欲しい、そして芽衣子には彼が生きていたことを証明する役割があるのかもしれない」と言い残していきます。

それを聞いた芽衣子は、種田のバンド仲間と共に、バンドをすることを決意するのです。

種田が遺した「ソラニン」を歌い、ステージに立つ芽衣子。初心者の彼女が種田のために、そして自分が前に進むために歌う歌です。歌いきった時に彼女が見た光景と、見つけたひとつの答え。それらを見届けた時、寂しくもどこか暖かい涙が流れてしまう、魅力的な物語となっています。 

連載終了から時が経っても色褪せない魅力があるのが、漫画『ソラニン』です。何の変哲も無い日常の中で綴られる言葉たちに、胸が締め付けられる名作ではないでしょうか。

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