『ハクメイとミコチ』は樫木祐人による漫画作品です。ちょっと不思議な世界を舞台に、ふたりのこびとの女の子たちの日常を描いた物語が展開されていきます。
- 著者
- 樫木祐人
- 出版日
- 2013-01-15
『ハクメイとミコチ』は9センチほどの大きさのこびとや、喋ることのできる動物や昆虫たちの暮らす世界を、主にハクメイとミコチという2人のこびとの視点で描いた作品です。
1話完結の話が多く、各話でハクメイとミコチの日常や彼女たちの友人との交流を描いた日常もののテイストで話は進行していきます。
世界観は作者も非常に心血を注ぎ作り上げているようで、単行本には「足下の歩き方」というコラムを収録。ストーリー中に出てきた人物や催し物等の、作中では語られることのなかった設定を紹介するという徹底ぶりです。
また、デフォルメされたこびとたちを描きながらもその生活は非常にリアルに作られており、まさに「ファンタジー世界を舞台に描いた日常もの」という評価がぴったりな作品です。絵柄も人気が高く、掲載雑誌「ハルタ」の付録として絵本が作られたほどでした。
特に日常生活の根幹となる食事シーンには力を入れていて、ほとんど毎回料理が登場します。たとえばスタジオジブリの宮崎駿監督が食事シーンに大変力を入れているように、食事が美味しそうに描かれている作品はストーリー自体も名作が多いもの。『ハクメイとミコチ』もその例に漏れず、非常に魅力的な食事のシーンが登場する名作漫画です。
今回はそんな本作の魅力を6巻まで全巻分徹底的にご紹介!ネタバレを含みますのでご注意ください。
本作は身長9cm、手のひらサイズの可愛らしい小人のハクメイとミコチの日常を描いた作品です。
ふたりの周囲には他にも多くの小人がおり、街をなしている場所もあります。彼らはそんな他の小人たちや自分たちの住む深い森の中の動物や虫たちと平和な毎日を過ごします。
ファンタジーといえど、剣と魔法の世界や魔王討伐というゴールがある訳ではなく、ハクメイとミコチは日々の暮らしの些事をこなしながら生きています。
世界観が不思議なだけで、どこかリアリティある内容に仕上がった作品です。彼らの風貌や、自然の様子が仔細に描写されているのもそのリアルさをつくりあげています。
そんな不思議な深い森に迷い込んでしまったかのような感覚が味わえる作品です。
ぴょんぴょんと四方に跳ねている赤毛が特徴の女の子がハクメイです。彼女は女の子でありながらも大雑把でなかなか男前な性格の子。
そもそもふたりの暮らしが始まったのも、彼女が住所を間違えて越してきたまま居座りついたという流れがあります。
また、肉体労働も難なくこなし、賭け事と食べることが大好きというガテン系なところも。しかも普段は気の抜けた表情が多いのですが、いざという時にはキリッとした顔つきになるところも男前度をあげています。
見た目からは想像もつかないかっこよさがありながらも、可愛いという最強の主人公がハクメイです。
黒髪ぱっつんで、ハクメイとはまた違う正統派な可愛らしさがある女の子がミコチです。
彼女は料理と針仕事が得意という家庭的なタイプ。特に本作の美味しそうな食事は彼女の手から生み出されることが多く、読んでいるだけで胃袋を掴まれてしまいそうになります。
姉と弟に挟まれた真ん中の子ではあるものの、かなりの面倒見の良さ。しかも人望も厚く、市場に買い物に行った時はふたりで持っても抱えきれないほどのお土産をもらうこともありました。
そんなミコチは感情的なハクメイとは正反対で理論的なところがあります。性格も性判定で面倒見の良い彼女はふたりのバランスをいい具合に保つ役割を果たしています。お嫁さんにしたい。
金髪ツインテでプライドが高く高く偉そうにしてしまうところがあるものの実はいい子、という典型的なツンデレっ子がコンジュです。
彼女は吟遊詩人で、竪琴を弾きながらさまざまなところで歌っています。歌を生業にしているだけあり、彼女の歌声は低く、艶やか。ムチムチした見た目に大人っぽい声で、ファンが多くついています。
しかし同じく歌の上手いミコチにライバル心を抱いており、そこでついツンツンしてしまうこともあります。ちなみに残念なことにハクメイは音痴です……。
コンジュを紹介する時に欠かせないのが寝る時に全裸だということ。そうしなければ眠れないそうで、自分の家の鍵を無くし、隣人にお世話になったときでさえ服を脱いで寝てしまいます。
ちなみにこの話に登場するライカという人物も可愛いのでぜひそちらもお見逃しなく。
金髪ツインテのムチムチボディ、ツンデレ、という萌え要素が多く詰まった人物がコンジュです。
猫目にとがった耳、ポニーテールがトレードマークの女の子がセイです。
彼女は沼に住むジョージという亀の甲羅の中に住んでおり、そこで生命の研究をしています。
表情をあまり表に出さず、クールな彼女が感情的になるのは主に研究に関すること。特に骨へのこだわりは凄まじいものがあり、周囲を圧倒します。
そんな彼女ですが、人気の理由はクーデレ要素。普段は冷静な彼女ですが、ミコチたちに服を作ってもらうことになった時の照れ顔は最強。
最初は恥ずかしがって積極的には参加できなかったのですが、徐々に乗り気になってくる様子も可愛らしいです。
普段のクールな様子からは想像もつかない照れ顔が最強の研究者がセンなのです。
1巻は、ハクメイとミコチのある一日を描いた「きのうの茜」、歌姫コンジュと出会う「ふたりの歌姫」、センとの出会いを描いた「ガラスの灯」、ハクメイやミコチの仕事風景を描いた「仕事の日」など、ふたりの日常や友人との出会いを描いています。
記念すべき1話となる「きのうの茜」では、ハクメイとミコチが「夕焼けトンビ」を探しにでかけます。夕焼けトンビは見つけると願いが叶うと言われている鳥で、それが現れたという号外を見たふたりは、用意されたお昼のミネストローネを水筒に詰め、買った箪笥の片づけもそのままに、山を登ることにします。
道中、虫の背中に乗りながら食事をとるふたり。その虫たちを飼いたいというハクメイに対し、ミコチは「絶対だめ!」と猛烈に拒否。昔、毎朝餌をあげていた、カフゥという白い鳥がいつの間にか来なくなってしまったことがあり、そのせいで生き物を飼うということが苦手になってしまっていたのです。
その鳥もミコチが作るミネストローネが大好きだったようで、くちばしを真っ赤にしながら食べに来ていた様子。そんなことを話しながら山頂についたふたりですが、そこには高山トマトがなるばかりで、夕焼けトンビはいません。
出典:『 ハクメイとミコチ』1巻
しかし、山頂で最後に残ったミネストローネを食べようとしたところ、そこに大きく真っ赤なトンビが現れたのです。その鳥はふたりを乗せ空に飛び立ったのですが、その鳥は朝日を浴びているから赤く見えていただけで、実は真っ白な羽を持っていました。
そう、夕焼けトンビとは、かつてミコチが飼っていたカフゥのことだったのです。カフゥに乗って家に戻ったふたりは、カフゥのためにたくさんのミネストローネを作ってあげるのでした。
この話だけでもハクメイとミコチの関係性が見えてくるような、非常に読みごたえのあるエピソードとなっています。さまざまなディテールが丁寧に描かれているからこその雰囲気が楽しめ、作者の世界観の構築力にうならされてしまいます。
この話以外でも、コンジュとの中を縮めるきっかけになった梨ジャムなど、美味しそうな料理が多数出てくるので、そちらもおすすめです。
2巻は、修理屋を営むハクメイが大工組合に出向いて堅物な職人と出会う話や、茶菓子持ち寄りの喫茶店に行く話、オロシというミミズクの縄張りに出向いて冒険をくり広げる話など、ふたりがさまざまな場所に出向く話が多い巻です。
オロシの縄張りに出向く「ミミズクと昔話」では、ふたりはハーブ取りのためにお出かけ。しかしオロシというミミズクに出会い、その拍子にミコチが足をケガしてしまいます。
歩けなくなったミコチたちは、仕方がないので洞窟に避難し野営をすることに。逃げる際に置いてきた荷物を取りにひとり外へ出たハクメイですが、またもオロシと遭遇。干し肉を奪われてしまいました。
それでもなんとか荷物を取り戻し、枯れ草なども集めることができたハクメイ。洞窟に戻ってからは、彼女が料理を披露することになります。
- 著者
- 樫木祐人
- 出版日
- 2014-01-14
ハクメイが作ったのは「豆のスープ」。彼女が宿無し時代に盗みにあい、行き倒れそうになっていたところを助けてくれた、狼のキャラバンに作ってもらったものという思い出の品でした。
その描写はスープの湯気のあたたかさがこちらにまで伝わってきそうなもの。料理が美味しそうに見えるためには、それまでのストーリー、登場のタイミングが重要なのだと感じさせられる、心に染み込んでくる一品です。
そして食べ終わったころにまたもやオロシが襲来。しかし今回は、干し肉のお礼なのか、さまざまな食材を置いて去っていきました。豆のスープだけではお腹が膨れなかったハクメイは、ミコチに「これで夜食作ってくれないか」と頼み、ミコチはハクメイに、作っている間また昔話聞かせてよ、とせがむのでした。
それぞれのできることをしながら夜を明かす様子にほっこりしてしまいます。
ハクメイの思い出の1品である「豆のスープ」の他にも、現場で働き疲れたハクメイに出された「西瓜の種の塩煎り」や茶菓子持ち寄りの喫茶店に持っていくために作った「ブドウパンサンドイッチ」など、素朴ながら食欲をそそる料理が登場します。
5話に渡り蜂蜜館での騒動を描いた「長い一日」や、ハクメイの親方であるイワシの休日を描いた「休みの日」、トビネズミの写真家と出会う「笑顔の写真」などを収録し、さらに登場人物が増えてにぎやかになっていく3巻。
休日でもほとんど町に出ないというイワシを引き連れ、町での買い物や食事を楽しむ「休みの日」も、仕事一辺倒なイワシの新たな一面を垣間見ることができて非常に面白いエピソード。しかしおすすめは何と言っても「長い一日」です。
- 著者
- 樫木 祐人
- 出版日
- 2015-01-15
珍しく複数回に跨って話が続いていく「長い一日」では、ふたりの友人である歌姫、コンジュが蜂蜜館という館でコンサートを開くことに。その準備にとコンジュに連れられ蜂蜜館を訪れた彼女たちですが、そこは古参連中と新参者とが対立している無法地帯でもありました。
両者の衝突の最中、コンジュが古参に誘拐されてしまうという事件が発生。蜂蜜館の2代目主人であるヒカギは、初代主人ウカイが住民の喧嘩の仲裁に使っていた「蜂蜜館ジュレップ」の復刻をミコチに頼みます。
騒ぎを収められるようなら、と依頼を快諾するミコチ。ウカイが残したレシピを元に「蜂蜜館ジュレップ」を作る彼女に、コンジュを助けるため古参の元に殴りこみに行くハクメイ。
夜まで続いた古参と新参の争いは、古参が物見小屋に籠城したことでこう着状態に陥ります。しかし食べ物を持たずに籠城してしまった古参をよそに、ミコチの作った「キノコのオイル煮」を新参たちが食べ始めます。それを見て空腹を感じ始めた古参たちの元に、ハクメイとヒカギが、ミコチの作り直した新しい「蜂蜜館ジュレップ」を携えやってきました。
古参のリーダーである旋毛丸がその酒を飲んでみたところ、ウカイの物と違い非常に美味しくなっているのです。それを飲み驚いた旋毛丸を見ていた古参もついに降参。新旧関係ない宴会が始まり、ヒカギと旋毛丸の2人はウカイオリジナルの「美味しくない」思い出の味を楽しみながら、ウカイとの思い出に浸るのでした。
美味しいものにはついつい心も緩んでしまう。まるで天岩戸神話のような物語には、ついつい頬が緩んでしまいます。
コンジュとセンが初めてともに出演する「水底のリズム」や、ハクメイとミコチが祭りに出店を出店する「ジャムと祭り」、行きつけの喫茶店でのある夜を描いた「一服の珈琲」、2人が夜汽車に乗って旅に出る「夜越しの汽車」など、夜に所縁のある作品が多く収録されている4巻。
「一服の珈琲」では、ふたりがいつもの喫茶店で珈琲を飲んでいる場面から始まります。しかしいつもとどうも味が違うその珈琲。マスターにそのことを聞くと、今まで使っていたミルが壊れてしまったとのことでした……。
- 著者
- 樫木 祐人
- 出版日
- 2016-01-15
修理屋のハクメイに修理を頼むものの、どこにも異常はないそのミル。先代から使い続けていたものとあって、マスターも直すことは断念し、その日はもう遅かったのでふたりはそのまま喫茶店に泊まることになります。
しかし夜遅く、3人は壊れてしまったミルが付喪神になる非常に貴重な瞬間を見ることになります。愛され続けた古道具が突然なるものだというそれを見たマスターは、先代の道具に対する愛情を再確認しました。そして、3人で珈琲を飲みながら夜遅くの一服を楽しむのです。
自分の使っている道具への愛着を感じさせ、また珈琲を飲みながらゆっくりとしたくなる名エピソードです。
5巻はミコチの初めての釣り体験を描いた「雨とカンテラ」、コンジュの隣人の1日を描いた「隣人の朝餉」、イワシ親方の感傷を描いた「廃墟と雑草」や大工組合会長をメインに据えた作品「夫婦と手拭い」といった、主人公ふたり以外の人物が中心となる話が多数収録された巻となっています。
「夫婦と手拭い」では、干されていた洗濯物を道具の仕上げ磨きに使ってしまい、奥さんを怒らせてしまった会長。そのせいで家に帰れず、組合で寝泊まりしていたところを全組合員に聞かれてしまいました。組合員たちは、会長の奥さんであるハクヨと会長を仲直りさせる手立てを考えることになります。
- 著者
- 樫木 祐人
- 出版日
- 2017-01-14
途中お腹が減ったということで弁当屋に弁当を頼むのですが、昔に比べ味も落ち量も減ったその弁当に落胆し、ハクヨの料理が食べたいと嘆く組合員の面々。そんな状況を知ってか知らずか、ハクヨはハクメイとミコチを引き連れ買い出しに出かけます。
そして、まだまだ仲直りのためのいい案が浮かばない面々の元に出向くハクヨたち。急に現れたハクヨを前に、組合員たちは「会長に悪気はなかった」と仲直りするように頼み込みます。しかしそんな面々を前に「怒りに来たわけじゃない」と言うハクヨ。
ろくなものを食べていないだろうと考えたハクヨは、皆のためにと「冬瓜と鯖の揚げ浸し」を用意してきてくれたのでした。
食べながら、仕上げ磨きに使った手拭いは水吸いがよいから使ってしまった、と釈明する会長。それは昔、会長が目の上を切った時にハクヨが当ててくれた手拭いだったのです。そんなことを覚えていた会長に「仕事に使って頂戴」と優しく伝え、ハクヨたちはふたりで仲睦まじく食事をとるのでした。
このように、ハクメイとミコチがほとんどストーリーに絡んでこない話も収録されている巻ですが、食事のシーンの美味しそうな様子は相変わらず。また、こびとや動物たちのほのぼのとした日常を描き切っている点はさらに磨きがかかっていて、非常に読みごたえのある1冊となっています。
6巻では豪雨で3日間家に閉じ込められたハクメイとミコチが食べ物を求めに外へ出ていくのですが、そこでハクメイのカナヅチが発覚し……というストリーで2本立ての「水着の一日」、専門学校時代の親友?である美容師のジャダと役者のカーネリアンの繋がりを描いた「薔薇とハサミ」、図書館司書の大変な1日を描いた「司書の苦労」、コンジュとセンというちょっと変わった組み合わせのふたりがバーで飲む「夜更けのバー」、ニホンイタチの大工・イワシの職人気質が伺える「師匠と煉瓦」などが収録されています。
そのなかでも最も見所なのはミコチのデザインにかける思いが描かれた「旅人の装い」ではないでしょうか。
- 著者
- 樫木 祐人
- 出版日
- 2018-01-15
ある日、ハクメイとミコチは市場で布の買い付けをしていました。実は街で行われるファッションコンテストにミコチが出場する予定なのです。
その途中で出会ったのはコンテストの主催組合に所属している古着屋の店長。彼から過去の作品資料を見せてもらい、その美しさに気圧されながらもミコチはやる気がみなぎってきます。
しかしその夜、店長が差し入れついでにふたりに教えてくれたのは、ミコチの憧れのデザイナーであるナイトスネイルが出場者としてコンテストに参加するということでした。
それを聞いたミコチは、ナイトスネイルと比べられるのが恥ずかしいし、憧れを持ってつくったデザインはきっとその人物のものに似ているだろうと出場をやめたいと言い出します。
そんな弱気になった彼女に、ハクメイがこう言います。
「私が本当に旅に出ると思え」
彼女はナイトスネイルと比べるのではなく、ただ自分のために服を作って欲しいと言うのです。冗談を混じえながらの励ましに勇気付けられたミコチはやはりコンテストに出場しようと決意しました。
当日、たくさんの人に色とりどり趣向が凝らされた作品を見て、緊張し、感動するミコチ。しかしその中で自分の作品を見て「うん 一番いい!」と心の中でつぶやきます。
確かに彼女の作品はナイトスネイルのものにも負けないほどのクオリティ、声援の多さが見てとれます。
果たしてコンテストの結果はいかに?
最後のシーンはミコチのけなげさ、ハクメイの優しさが際立ったものとなっています。デザイナーとしての第一歩が憧れの人と同じ舞台というのは嬉しさと複雑さが感じられるものなのでしょうね。
1年に1回の刊行ペースの本作ですが、やはり書き込みのすごさ、細かいところまでの設定の作り込みは6巻になっても色褪せないものがあります。アニメ化も話題になっている本作ですが、ぜひ原作、作品本編でその素晴らしさを体感してみてください。
- 著者
- 樫木祐人
- 出版日
- 2013-01-15
優しい世界観に小人たち、美味しそうな料理と、まるで本当にそんな世界があるかのようなファンタジー日常漫画『ハクメイとミコチ』。1年に1冊ペースで出版されているのでおそらく次巻7巻は2019年1月ころの発売かと思われます。
読めば読むほど好きになる稀有な作品の最新巻が待ちきれません!
ファンタジーな世界観に可愛らしくデフォルメされたキャラ造形ながら、リアリティー溢れる日常描写に、とても魅力的な料理のワンシーン。それが『ハクメイとミコチ』の魅力です。ぜひいちど、足下のこびとたちの世界を覗いてみてはいかがでしょうか。