少子高齢化の要因と対策。山田宗樹の『百年法』と共に考える

少子高齢化とは

「出生率が低下する一方、平均寿命が伸びたことによって、人口全体に占める子供の割合が低下し、高齢者の割合が高まること。」(『デジタル大辞泉』より引用)

辞書にはこのように書いてある。そもそも少子化と高齢化は別物であり、2つが複合して起きているためこう呼ばれている。

また高齢化は進行度によって分類される。総人口に対する65歳以上の高齢者の割合、高齢化率が7%の場合は「高齢化社会」、高齢化率が14%の場合は「高齢社会」、高齢化率が21%の場合は「超高齢化社会」といわれる。

少子高齢化の要因と対策

少子化と高齢化は別ものであることから、その要因も異なっている。

少子化の要因としては、30代、40代での結婚が多くなった晩婚化、また生涯結婚しない人の増加が大きくあげられている。つまり結婚をしなくてもいいと思う人が増えた、ということだ。これは育児の負担の大きさや仕事と育児の両立に対する不安、また子育ては女性がやるべきというような固定的な分業意識、そして男性の家事や育児への参加を進められない現状などが原因としてあげられる。

結婚をしなくても幸せになれる、というような啓発本もよく書店で見かけるようになり、独身の方が好きなことができ、自分の望むように生きていけるという風潮も感じられる。 

他方、高齢化の要因には、医療技術の進歩、それに伴う平均寿命の高齢化があげられる。昔は医療技術が発達しておらず平均寿命も現在よりかなり短かったが、医療の進歩によって高齢化を引き起こしているというのも皮肉なものだ。

第二次世界大戦後に終戦の安心感からか起きた、ベビーブームの世代が高齢になったのも大きな要因となっている。

少子高齢化の対策として、子育て支援政策や、定年の引き上げ、介護サービスの充実化などがあげられる。しかし子育て支援の助成金は国の財政を圧迫し、定年の引き上げも人材の固定化を促進してしまう。対策もメリットだけではないようだ。

少子高齢化と山田宗樹の『百年法』

少子高齢化の問題としてあげられる大きなもののひとつは、労働力となる人間が少なくなってしまうことだ。

それを解決する未来、「不老技術」がある世界を描いた小説が、山田宗樹の『百年法』である。もし現代にこの技術が存在したら、少子高齢化対策に導入するのではないだろうか?

この作品では敗戦後の復興から立ち直るために、不老技術を導入する。しかし人が永遠に生きていても人口は飽和し、人の精神も健常ではいられないため、「生存制限法」を立法した。

「不老化処置を受けた国民は処置後百年を以て生存権をはじめとする基本的人権はこれを全て放棄しなければならない」(『百年法』より引用)

一見するとあまりにも理不尽なこの法律。しかしこの小説の設定を知ればそれも納得する。

舞台は2048年の日本。不老技術の導入と同時に生存制限法を施行してから100年が経ち、生存制限法による死の強制が行われようとしていた。死を受け入れる者、逃れようとする者、この法律をめぐるさまざまな立場の人間の生き様が臨場感あふれる筆致で書きあげられている。

著者
山田 宗樹
出版日
2015-03-25

『百年法』4人の視点と見どころ

ここでは、物語で重要な役割を担う4人の登場人物の視点と、作品の見どころを紹介していく。

視点1:政府官僚 遊佐章仁

内務省大臣直轄の生存制限法特別準備室の室長であり、百年法施行後にはさらに重要な役職に就くことになる物語のキーパーソン。彼が属する部署は国民への生存制限の周知と世論の形成、安楽死のための専用施設の管理、拒否者対策、法整備、生存制限を実施している他国の分析などがある。 

冷徹かつ非常に頭が切れる人物であり、官僚としても超エリート。上司の理不尽な仕打ちにも負けずに全力で裏をかく戦略を立てている。死に瀕して逃れようとする姿を見せる場面がある。

少子高齢化対策に不老技術を導入すると、やはり死から逃れようとする者の対策が必須になる。

視点2:ユニオン労働員 仁科蘭子 

「ユニオン」と呼ばれる、低所得者用の労働システムに属する、いわゆる一般人目線を担っている。第1章時点では生存制限まで22年を残しているが、第2章では残り1年も経たずに安楽死を迎える人間として登場。

第1章時点で98歳であり、それでも恋愛などの人間関係に悩んでいる。遊佐とは対照的に死に瀕したときにきちんと受け入れる。

視点3:大学生 仁科ケン

仁科蘭子の息子。本作では百年もの時を皆が生きることができるため、成人後には親子の関係を解消するファミリーリセットという制度が出てくる。しかし彼はその制度を使わず、むしろ生存制限が迫る母親のため、危険な取り引きに手を出したり母親に甘えたりする様子をみせる。

視点4:警察官 戸毛幾太郎 

百年法の生存制限初年度適用者の刑事。何とかして生き延びようと、爆弾テロ事件の犯人「阿那谷童仁」を探している。阿那谷は逮捕され死刑になったはずだが、百年法から逃れ今ものうのうと暮らしているという説があるのだ。

著者
山田 宗樹
出版日
2015-03-25

ます本作の見どころとしてあげられるのが、第1章の最後、生存制限の実施について国民に審議を問う国民投票が行われるシーンだ。遊佐率いる特別準備室は、百年法が施行されるよう全力で手を打ち、政府与党は百年法が凍結されるように目論んでいる。結果が公開される瞬間まで、どちらに転ぶかまったく予想がつかないよう描かれている。

つぎに、第2章の最後で、仁科ケンが、生存制限の100年を迎える母親の最期を見送るシーン。死ぬ前夜の彼らの会話に親子の愛と、そして親の偉大さが表れており、必見だ。

そして第3章以降、百年法の大きな欠陥を巡り、日本という国をどう変えていくのか、それぞれの登場人物が奔走してバラバラだったひとつひとつの物語が繋がってラストに進んでいく。時の流れが章ごとに5年、10年単位で進むため、登場人物がかなり変化していくところも見どころだ。

人として譲れないものは何なのか、どう生きるのか、考えさせられる展開になっている。

本作を読む前に、少子高齢化のことを少しでも知っておくと、これからの日本の未来や自分の生き方を真剣に考えられるかもしれない。

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