預言者であり立法者そして神の代理人でもある、ユダヤ教の創始者モーセといえば、すぐに「十戒」を思い浮かべる人が多いでしょう。海を割った「紅海の奇跡」など逸話も多い、彼の生涯と実像に迫る本をご紹介します。
エジプトのイスラエル人家庭に生まれ、紀元前13世紀ごろに活躍したモーセ。彼の著作といわれる旧約聖書の「モーセ五書」のひとつ、『出エジプト記』によると、イスラエルの子孫の力を恐れたエジプト王ファラオによる新生児殺害の命令から逃れるため、ナイル川に流されて救われ、王宮で育ち、成人しました。
しかし彼は、奴隷として働く同胞のイスラエル人を苦しめるエジプト人を殺害してしまいます。その後の砂漠への逃亡生活中に、神からイスラエル人を約束の地へ導くよう命を受けたのです。
この指令に目覚めたモーセに率いられ、イスラエル人はエジプトから脱出しますが、エジプト軍勢に追い詰められます。そのとき紅海の水が割れてイスラエル人が海を渡ることができ、彼はイスラエルの民とともに旅を続けることができました。
旅の途中シナイ山において、彼は神からイスラエル人が守るべき「十戒」を授かり、神ヤハウェとイスラエル人は契約関係に入りました。
その後40年間、疲労と飢えへの不満を持つ民を、優れた指導力で統率して荒野の旅を続け、神が先祖アブラハムに対し子孫に与えると約束した、カナンの地へ彼らを導いたのです。
しかし、旅の途中で、民が神に不信を示したことにより、その責を負ったモーセはカナンの地へ入ることが許されず、ヨルダン川の対岸から約束の地を眺めるだけで死ぬことになりました。
古代イスラエルの指導者で、ユダヤ教の創始者でもある彼の業績は「モーセ五書」に詳しく語られています。
「モーセ五書」のひとつ『出エジプト記』は旧約聖書のハイライトともいうべき中心的な書で、本書はその日本語訳です。
- 著者
- 出版日
- 1969-01-16
エジプト脱出の物語に、後から神との契約の内容や規定を結びつけて書かれたのが本書で、エジプト脱出とシナイ山での神との契約が大きなテーマになっています。
「神に約束された地カナンにイスラエル人を引き連れよ」と告げられるモーセ、そして彼に率いられて割れた海を渡るイスラエル人、彼がシナイ山で「十戒」を授かる場面などを含む壮大な物語を、一気に読むには最適です。
訳者による詳しい注釈と解説が付いており、原文と注釈がほぼ同じページ数になっているのが本書の特色でもあります。40章からなる『出エジプト記』の解説書の役割も果たしているので、原文と注釈を並行してじっくりと読むという方法もおすすめです。
本書は精神分析学で知られるフロイトの遺書ともいうべき最後の著作であり、モーセに関する数々の仮説が立てられた異色の本です。
- 著者
- ジークムント フロイト
- 出版日
- 2003-09-01
最初にいくつかの根拠をあげて、彼はイスラエル人ではなくエジプト人であると主張し、次のように述べています。
「モーセはひとりの−–おそらくは高貴な−–エジプト人であり、伝説によってユダヤ人と変造されるべく運命づけられていた」(『モーセと一神教』から引用)
そして彼が創設したイスラエルの宗教は、元々エジプトのファラオがもっていた太陽神を唯一神とする宗教だったと仮説を立てます。
彼がエジプト人ならば、イスラエル人にとっては、彼の宗教はそれまでの自分たちが信仰していた宗教とは性格を異にするものであり、その結果、彼はイスラエル人によって殺されたのであるという大胆な仮説に到達したのです。
イスラエル人であったフロイトが、自身の民族の指導者であり、自身の民族の宗教の創始者であるモーセはエジプト人であったと仮説を立てることから始まる本書は、彼の生涯や「モーセ五書」を述べた他の書と読み比べてみたくなる本です。
本書は「知の再発見双書」シリーズの1冊で、モーセの生涯と実像が多くの写真や図版とともにまとめられたビジュアル解説本です。
海を割った「紅海の奇跡」などをテーマにした7つの資料コラムも含まれています。
- 著者
- トーマス レーメル
- 出版日
- 2003-07-01
イスラエルの預言者で、イスラエル人をエジプトから脱出させた解放者、神ヤハウェとイスラエル人との契約の仲介者など、さまざまな顔を持つモーセの実像を本書は探っています。
はたして彼は実在したのか、イスラエル人のエジプト脱出は本当にあったのか。これらの答えとなる色々な説を、その信憑性とともに紹介しています。
反ユダヤ主義の標的、聖書をテーマにした作品にシャガールが最も好んで描いた人物、さらに著者が指摘した、人々を救うアメリカンコミックのヒーローであるスーパーマンのモデルなど、彼の生涯はさまざまな形で解釈され、多様なモーセ像が存在することがわかる本です。
旧約聖書は最初の5巻、すなわち「モーセ五書」がもっとも基本になりますが、そのなかの2つの大きなテーマが「天地創造」と「出エジプト」の物語です。
最初の『創世記』に続く2巻目に当たるのが、『出エジプト記』となっています。
- 著者
- 河合 一充
- 出版日
イスラエル人やその宗教であるユダヤ教を理解するうえで、非常に重要となる『出エジプト記』をその研究書による解説も合わせて記述しているのが本書の特色です。
「特定の宗教の教義から見た視点ではなく、原文が本当に伝えたいことを素直に読み解くことを目指した」という編者の言葉どおり、ナフム・サルナ著『エクソダスの探求』に従って『出エジプト記』を読んでいく展開になっています。
本書はさらに、編者が抄訳や補足を組みこんで、興味を引くように分かりやすく日本の読者向けに語られているのです。 40章からなる『出エジプト記』が各章ごとに、原文、サルナ著の研究書からの引用、そして編者の解説の3つの部分で構成する形で書かれていますが、各部分はそれぞれ異なるフォントを用いているため非常に読みやすくなっています。
本書はモーセとその業績について、旧約聖書にしたがい、彼がどのような人物であったのか、どのようなことをおこなったのか、「十戒」の内容はどのようなものかということを、分かりやすく述べながら彼の生涯を描いた、入門書と言うべき一冊です。
- 著者
- 浅野 順一
- 出版日
- 1977-12-20
旧約聖書の最初の5巻である「モーセ五書」のうち、『創世記』を出エジプト前史として述べた後、残る4巻の『出エジプト記』から『申命記』までを順に追い、彼の一生と業績、そして最期を丹念に語っています。
彼が手をさし延べると海が陸地になり、イスラエル人が通ったという「紅海の奇跡」の逸話についても「紅海」は現在の紅海ではなく付近の湖であったなど詳しい説明がなされ、興味をそそられるでしょう。
ユダヤ教における宗教や生活上の規範が律法ですが、巻末には附録として、牧師である著者がおこなった講話「旧約の契約と律法」が採録され、律法の現代的意義を考察しています。
古代イスラエルの指導者でユダヤ教の創始者としての姿と、彼の作ともいわれる「モーセ五書」の『出エジプト記』に焦点を当てた本をご紹介しました。ユダヤ民族とユダヤ教の理解のためにも1度読んでみてはいかがでしょう。