ハードボイルド学園ドラマ『地獄の教頭』をご紹介。教頭は地獄……といわれるほど、雑務の多い中間管理職。しかし、本作はそういった話ではありません。どんな地獄か、以下でしっかり解説していきます!
- 著者
- 大沼 良太
- 出版日
- 2015-08-25
主人公の職業は、教頭です。教頭は、小中学校が義務教育である以上、日本人ならきっと誰でも聞いたことのある役職でしょう。しかし、あなたは、彼らの仕事が何であったか知っていますか?
本作は、そんな教頭の仕事を丁寧にお伝えする漫画です。といっても、一般的な教頭の仕事は、1巻の冒頭で一瞬だけ紹介されるに留まります。
主人公である近衛修文(このえ おさふみ)の教頭としての仕事っぷりは、一般的な教頭の業務方法を大きく逸脱しています。「教育」に情熱を注いだひとりの教頭が、生徒から教育にたずさわる教師にいたるまで、手段を問わずに「更生」させる様子を描いた、暴力あり、性的描写ありの学園ハードボイルド漫画です。
今回は、そんな『地獄の教頭』の1巻から4巻までの内容をネタバレありでご紹介します。
アプリ「マンガUP!」で無料で読むことができます。気になる方はぜひインストールしてみてください!
県立朱地(あけち)高等学校の教頭である近衛は、教頭として多岐にわたる仕事内容をこなしています。
この学校には、不良教師や暴力をふるう生徒など、学内の平和を乱す者が絶えません。そのような者に対し、教頭は常識を超えた、いや、むしろ常軌を逸した方法で解決を図っていきます。
驚愕の教育方法やヤクザの登場など、気付けば学園モノを超越したダークサイドに話は展開していくのです。
本作の主人公である教頭の表の顔は、目立たないけれど黙々と仕事をしている、いわゆる世間一般の「教頭」のイメージどおりです。その存在感のなさは、生徒から「校務員さん」と呼ばれてしまうほどでした。
しかし、このような姿でいるのは、まさに「能ある鷹は爪を隠す」がごとく、裏の顔を隠すためのものなのです。
彼の教育への執念は並々ならぬものでした。コネで中途採用された不良教師が、女性教師を集団で強姦しようと企てた際のこと。彼は不良教師の手下を脅し、スタンガンで気絶させるよう段取りをつけ、さらには強姦される痛みを学ばせるために、実際に大男にお願いして不良教師を強姦する、という手法をとります。
表の顔のときにも、こういった不良たちを相手に更生するよう働きかける教頭ですが、
「でもたまにいるんですよ 地獄に堕ちないと教育にならない人が」(『地獄の教頭』1巻より引用)
という台詞とともに、裏の顔が現れます。
これまでの柔和な顔と異なり、狂気に満ちた目でそう言い放つ教頭の裏の顔に、ゾクリとせずにはいられないでしょう。
前項で述べたような方法のみならず、教頭の教育方法は恐ろしいものばかりです。たとえば、ヤクザともめ事を起こした生徒をそのヤクザから解放させるためにとった方法は、「指を詰められると学生生活に支障があるから折るだけにして欲しい」と言って、教頭自ら生徒の小指を折る、というものでした。
このような恐ろしい方法をとる教頭の教育ですが、異常性は感じるものの、意外とスッキリした読後感が味わえるでしょう。
その理由は、制裁の対象となった教師や生徒らの問題行動は、教頭がおこなう制裁に見合う、悪性の高いものだからです。
小指を折られた生徒は、売春の斡旋に手を染め妹を売ったり、自分の彼女を脅して金を巻きあげたり、ナンパした女の子を薬漬けにしたり、親の預金に手を出したり、果てはヤクザの金を盗んで逃げたり……とクズ中のクズと言っても過言ではありません。
放っておけばヤクザに殺されていたところを、教頭に小指一本で助けられたともいえるのです。
恐ろしいながらも読後にスッキリとできるのは、いわゆる勧善懲悪ストーリーになっており、教頭の行動には教育対象者への愛が見え隠れしているためでしょう。このような、歪んではいるものの、筋の通った教頭の行動に、読者はどこか惹かれてしまうのです。
主人公の教頭近衛修文は52歳。先述の通り、かなり行きすぎな教育的指導を行うダークヒーローです。
過去については詳しく明かされていませんが、3巻20話において、28歳の時に「教師として未熟な事を教えてくれた子」がいたことがきっかけで、教育的指導を始めたとのこと。その子はどんな子かと尋ねられ、「素直に人を殺す子」だと答えています。
同20話で校舎に書かれた落書き「きょうとうのむすこはヒトゴロシ」から考えると、28歳の時に息子が人を殺したとも考えられますが、大学卒業してすぐ子供ができたとしても、6歳になるため、違うような気もします。担任としてもった生徒の母親と再婚して、などであれば可能性はありますが、果たして。
教頭に憎しみを抱く副校長椎名。15年前に、自身の出世を邪魔されて以来、教頭にやり返すタイミングをうかがっていたようです。赴任当初は教頭に関する悪い噂を流すなどしていましたが、教頭がこたえないのを見て徐々にエスカレートしていきます。
人の弱みを握る、ヤクザとつるむなどかなりダークな人間で、本当にこんな副校長がいたら怖いというキャラクター。いないと信じたいです。
26歳の新藤は、高校で一番若い女性教師です。はじめのうちはさりげなくフォローをしてくれる教頭に好印象を抱いていましたが、多田菫という生徒のトラブルを強引に解決する姿を目の当たりにし、恐怖と憎しみを抱くようになります。
副校長の椎名に教頭の過去を教えられ、より警戒心を強めますが、椎名に逮捕状が出されたことを知り……。
すでにいくつかご紹介していますが、1巻は教頭である近衛の表と裏の顔のギャップに衝撃を受けます。
まず冒頭は、中間管理職で大変だ、生徒から認知されないから大変だ、だから教頭は地獄といわれるんだ、というような「教頭あるある」から始まります。
しかし、1話、2話と回を重ねると、「いや、そこまでやったらそりゃ大変だよ」というレベルの裏の教頭業務が立て続けに展開されていくのです。
- 著者
- 大沼 良太
- 出版日
- 2015-08-25
1巻のハイライトは、何といってもヤクザの矢薙との出会いでしょう。先述した生徒の小指を教頭が自ら折るエピソードの直前まで、教頭は矢薙から、顔面血だらけになるほどの容赦ない暴行を受け続けていました。
しかしどこまで痛めつけられても生徒を連れて帰る、という結論を曲げない狂気じみた教頭の信念に、「生徒の薬指も折る」という着地点で矢薙は折れるのです。
その帰り際、矢薙に向って教頭が言ったセリフは、生徒の借金に関して、
「私が責任もって返済させます それと…この傷もいつか必ず」(『地獄の教頭』1巻より引用)
というものでした。
このような教頭に興味を持った矢薙は、
「あんたがどんな死に方するのか楽しみにしてんだよ この記録映画(ドキュメンタリー)のラストをね」(『地獄の教頭』1巻より引用)
と、言い放ちました。
学園モノのはずの漫画に、ヤクザ者が今後も深く関与していくことが強く暗示されて、1巻の幕が閉じます。
1巻は初めてこの作品を目にする巻でもあるので、内容のみならず、絵の迫力に驚かさせること間違いなしです。教頭の狂気に満ちた表情は、ぜひ実際に見て確認していただきたいです。
2巻になっても、女子生徒の両親の殺人を企てる叔父との対決や、学校のトップである校長の不祥事(美人局の被害にあう)など、教頭の周りでは色濃い事件が続発します。
これらのエピソードはすべて、その後に登場する「ある人物」との話の展開に関わる伏線でもありました。 その「ある人物」は、いわゆる教頭の「因縁の宿敵」「ライバル」といった関係性にあります。
- 著者
- 大沼 良太
- 出版日
- 2016-04-25
彼の宿敵とは、教頭並みに地味な役職である副校長でした。この漫画の見事なところは、その宿敵に相当する人物の設定を、あくまで校長ではなく副校長にした点でしょう。
通常であれば校務員さん呼ばわりされかねない2つの地位の人間が、その地味さからは想像もできないほどの権謀術数をめぐらし、また暴力すらも混ぜ合わせ、まるでヤクザ漫画ではないかと見間違うほどの濃いやりとりを展開していきます。
2巻では、まだ裏の顔を見せない副校長が、教頭の裏の顔を知る生徒と教師に接近し、その牙城を周りから崩そうとするところから始まります。
「私はね…彼に過去の過ちを認めた上で普通の教師に戻ってほしいだけなんだよ…私の下で働く…ただの優秀な教師に…」(『地獄の教頭』2巻より引用)
この副校長のセリフから、あなたはこの先どんな展開になると想像するでしょうか?副校長が「正義」で、いき過ぎた制裁を加える教頭が「悪」なのか。 この想像は、3巻で大いに裏切られることになるでしょう。
3巻の冒頭では、教頭と副校長が出会った15年前の日々が語られます。
2巻で一瞬「正義」に見えた副校長は、実は自身の出世目的のために、政治家も巻き込み、汚い手を使って脅そうと企みます。
こうなると、副校長は、もはや教頭の「教育の対象」です。
- 著者
- 大沼 良太
- 出版日
- 2016-10-25
15年前、副校長は教頭を利用しようとしたものの、教頭が身を投げ出して政治家をかばい、副校長の目的達成を妨ぎました。
そればかりか、邪魔をされて怒り心頭の副校長に腹部を刺された教頭は、それでもなお「私を刺したこの感触も あなたにとって有意義なものになればいい…」と言い、あくまで副校長を更生させようとするのです。
これにプライドをズタズタにされた副校長が、15年を経て、ついに教頭の目の前に現したのが、この3巻でした。
最後には、教頭自身の暗い過去を匂わすいたずら書きが現れます。続きはぜひ実際の作品でお楽しみください。
教頭へのいやがらせを続ける副校長。校舎、体育倉庫へのいたずら書きから始まり、教頭が更生しようとしている生徒を退学処分にするなど、徐々にいやがらせはエスカレートしていきます。
一方、副校長に恨みを持つ教師が包丁を持って現れて……。
- 著者
- 大沼良太
- 出版日
- 2017-04-25
4巻は教頭VS副校長の戦いが急展開を見せます。
副校長が教師に刺されそうになったかと思えば、同じ回で副校長に殺人教唆の逮捕状が出されます。
警察に逮捕されそうになった副校長は、まさかの逃亡。自分をはめたヤクザに復讐しに行きますが、逆にヤクザに捕らえられます。
副校長を教育すべく、身柄を引き取りに行く教頭。副校長は、教頭への復讐を果たすために……というもはや学園ものと呼んでいいのかわからないカオスな展開になっていきます。
超絶展開のハードボイルド漫画をご所望の方はぜひとも読んでみてください。
副校長は入院し、退院後は警察に行くことが確定。長かった副校長との戦いは終わりを迎えます。
しかし、教頭の戦いはまだ終わりません。5巻での教育対象はある女子生徒。不登校気味で、自分を粗末に扱う彼女は精神的に教頭に依存していて……。
- 著者
- 大沼良太
- 出版日
- 2017-11-25
5巻で教頭の教育対象となるのは、女子生徒藤峰とその家族。教頭は藤峰と母親、父親の3人をホテルの1室に監禁します。
教頭に依存し、違法な薬物を使用する藤峰の家庭環境は良いとは言えず、父親は社長、母親は副社長として会社を経営する忙しい日々を送っていました。互いを夫婦ではなく、ビジネスパートナーと考えている両親。娘は人として扱われていないと感じていたのです。
相変わらず強引な解決法ですが、それでもよくある熱血教師物語のような解決に至らないところに、不思議なリアリティがあります。
- 著者
- 大沼 良太
- 出版日
- 2015-08-25
常軌を逸した教頭先生の教育的指導が魅力の『地獄の教頭』。『GTO』や『必殺仕事人』などが好きな方はハマるのではないかと思います。
2017年現在、スマホアプリ「マンガUP!」で無料で読むことができますので、この機会にぜひ読んでみてください!
以上のとおり、本作は教頭の魅力がいっぱい詰まった教育本……を遥かに超えた学園ハードボイルドに仕あがっています。まずは1巻から読んでみてください。教頭の深すぎる愛情に、背筋を凍らせてみませんか?