何気ない日常に突如現れる怪異を描いたホラー漫画『不安の種』、続編「プラス」。短いエピソードのなかに恐怖が詰め込まれています。登場するクリーチャーはどれも不気味で1度見たら忘れられないものばかり。そんな「不安の種」シリーズのなかから、怖いクリーチャーたちのランキングベスト15をお届けします!今夜、あなたは眠れなくなるかもしれません。
『不安の種』は中山昌亮作のホラー漫画です。「チャンピオンRED」で連載後、「週刊少年チャンピオン」に移動、その際タイトルが『不安の種+』に改められました。
よく両者の違いがあるのかという話になるのですが、単純に掲載誌移動に伴う続編だというだけなようです。本作は少年史でのホラー漫画の連載は珍しく、当時から読者のあいだで話題となりました。
- 著者
- 中山 昌亮
- 出版日
- 2007-07-06
どの話も読み切り型の短編漫画で、少ないものは2ページで終わる作品もあります。毎回いろいろな主人公たちが怪異に出くわすシンプルな内容なのですが、後味の悪い恐怖と、何といっても登場するクリーチャーたちの不気味な姿はかなりのインパクトを残していきます。
またオチというオチは特になく、ただ恐怖があるだけで突き放されるように終わってしまうのもこの作品の魅力といえるでしょう。
今回は『不安の種』『不安の種+』を合わせたシリーズ全7冊からインパクトの強い回を厳選し、そのなかでも特に怖い15話をランキング形式でご紹介します。果たしてあなたは、最後まで正視できるでしょうか?
導入部は怪談風ですが、霊的な怖さではなく人間の狂気的な怖さにスポットを当てたストーリーになっています。
人間の強い意識や痕跡が、もしその空間に焼き付くように残ってしまったら……?そして、その残留したモノたちを拾い集めては自分の身に纏っている人がいたとしたら……?主人公である女性の目の前にいるのは、まさにそんな男でした。
その男は妖怪でもなく霊でもなく、間違いなく人間なのですが、彼の目とその周りに漂うオーラはとても普通ではありません。しかも彼は道に立ちはだかり、ニヤニヤと笑いながらじっと女性を見つめているのです。
女性が帰宅できる道がここだけではないことを祈るばかり。
非常に短い話でオチらしいオチはありませんが、「目の前にとんでもない狂気に侵された人間が存在している」という事実だけで、十分に背筋が寒くなるのです。しばらくは夜道が怖くなるかもしれませんね。
学校で男子生徒たちが何やら話をしています。先日撮った写真のデータをプリントアウトしたところ、心霊写真があったというのです。
写真を撮った本人と思しきひとりが「けっこうやばい」と言いながら得意げに見せますが、他の生徒はどこに何が映っているのかいまいちわかりません。
実は写真をひっくり返してみると、そこに人の顔が浮かび上がっていました。ここまでは、怪談などでもよくあるエピソードでしょう。
しかし写真を見ていたひとりが、映っている顔が動いていることに気づいてしまうのです。
その顔は口を動かし、「言うな」と彼に語りかけていました。そしてみるみるうちに凄まじい怒りの形相に変わり……。
彼らは撮ってはいけないものをカメラに収めてしまったのでしょうか?その後の安否が心配です。
- 著者
- 中山 昌亮
- 出版日
夜、ベランダでひとり煙草を吸っている男性。ふと何かに気が付きます。少し遠くにあるビルの前に、長くて黒いヘビのような影がウロウロしているのです。それはまるで飛んでいるように移動し、ビルの窓から中を覗いたり、さらには中に入ろうとしているようでした。
男性が呆気にとられていると、次の瞬間、それがいきなり彼の目の前までやってきます。真っ黒な顔に、とてつもなく長い体……頭部は人のような形をしていますが、目や鼻はなく、なぜか大きな口だけがついています。
しばらく男性の顔をながめていたその影は、何の前触れもなく、突然「チィィィィィ」と大きな歯を剥き出しにして絶叫しはじめました。実は彼が吸っていたマイルドセブンの匂いを嫌がったのです。
そのまま影は退散、男性は難を逃れます。あれは一体何だったのか、そしてなぜ煙草の匂いを嫌がったのかは結局わからず、正体不明の恐怖だけが読者に残されます。
それにしても、もしあの時男性が煙草を吸っていなかったら、一体どんな目にあっていたのでしょうか。
- 著者
- 中山 昌亮
- 出版日
- 2004-06-24
ある少女が田舎の夜道で、生米をむさぼる人のような影と遭遇します。道の上に伸びたお米の筋は、彼女の祖母の家まで続いていました。そしてその化け物は、まさに今こちらに向かってきています。
慌てて逃げる少女。背後からは「ゴ……リッ」「ボギッ……」という嫌な音が聞こえ続けていました。
なんとか祖母の家に帰り着き、布団に潜り込んで震える少女。そんな彼女の耳に、襖の向こうから大人たちの会話が途切れ途切れに聞こえてきます。
どうやら家にはたくさんの人が集まり、相談ごとをしているようでした。「……なん様」「呼んだ」という言葉が聞こえ、気になりながらもいつしか眠ってしまいます。
翌朝、少女が化け物に出会った場所に行ってみると……?
田舎の土着的信仰のような、意味不明の怖さが襲ってくるでしょう。正体がわからない化け物が多く描かれる本作らしい物語です。
友達と談笑しながら歩いていた女子高生の朋は、スーツ姿の男性にぶつかってしまいました。男のサングラスが地面に落ち、朋は慌ててそれを拾うのですが、その時に見えた彼の目の部分はネジのような形状をしており、とてもこの世のものとは思えません。
とんでもないものに出会ってしまった恐怖で、朋は思わず叫びながら逃げ出してしまいます。男はそんな彼女の背中を、じっと見つめていました。
この日以降、朋は再三にわたって怪現象に襲われることになるのです。「シーン1」から「シーン4」までシリーズ化され、ラストはついに彼女の自宅にネジ男がやってきます。触手プレイまがいの攻撃を受けるシーンは必見です。
- 著者
- 中山 昌亮
- 出版日
- 2005-04-20
そこはとある病院。赤ちゃんを抱いて廊下を歩く看護師の女性に対して、なぜか「赤ちゃんを抱かせて」と迫る異形の存在。子どもくらいの背丈で顔には目がなく、大きな口と歯だけが付いています。
「ぜったいかじらないから」何度もそう言って赤ちゃんを抱かせてほしそうにしていますが、看護師の女性はそれを無視してドアを閉めます。
この存在が一体何者なのか、普段から看護師たちには見えているのか、そしてなぜ赤ちゃんを抱くことにそこまで執着するのか、それらは一切明言されていません。
しかし読んでいる私たちは、この怪異に赤ちゃんを渡してしまえばどんな恐ろしいことが起こるか、何となく想像することができるのです。もしかすると、これまでにも犠牲になった赤ちゃんがいたのかも知れません。
何の脈絡もなく怪異が登場し、そしてその後どうなったのかが語られず淡々と物語が進んでいくのも、この『不安の種』の特徴であり魅力でもあります。
- 著者
- 中山 昌亮
- 出版日
- 2007-07-06
場所は、女性がひとりで暮らしている部屋。その部屋では午後11時になると、決まって外からドアノブをガチャガチャとけたたましく鳴らされるという現象が起きていました。
住人の女性は、これが人間の仕業ではないことに気が付いています。そして、何もしないでジッとしてさえいれば、やがておさまってくれることも。
ドアノブの音が聞こえてくると、部屋のなかで女性は耳を塞いで蹲るしかありません。そして、窓には能面のような巨大な顔が……。この部屋では、夜な夜なこの光景がくり返されているのでしょうか。
もし自分の部屋で同じ怪現象が起こったら。そして、窓から覗く巨大な顔ともし目が合ってしまったら……そう考えると、たとえそれが昼間であっても落ち着かなくなります。なお、本当に目が合ってしまった場合、何が起きるのかはまったくわかりません。理不尽な恐怖を感じます。
これは、作者である中山昌亮が幼少時に体験した話、と銘打たれています。子どもの頃の中山は、よく読んでいた絵本がありました。「いないいない」とキャラクターが両手で顔を隠し、ページをめくると今度は「ばぁ」と顔を出します。
いろいろな動物たちが入れ代わり立ち代わり「いないいないばぁ」をしてみせてくれる、ほのぼのとした絵本だったのですが、彼にはどうしても怖い部分がありました。それは1番最後のページです。
人間の子どもが登場し、同じように「いないいないばぁ」をしてくれます。しかしここだけは他のページとタッチがまったく違っており、子どもの顔も白目と黒目のバランスが奇妙にずれている、非常に不気味なものでした。
恐怖のあまり、中山はそのページをセロテープで封印し、2度と見ることができないように細工してしまいます。
それから数十年後、彼の部屋に、見たことのある顔が出現するようになっていました。それは、あの絵本で「いないいないばぁ」をしていた不気味な子どもの顔に瓜ふたつだったのです……。
幼少時に体験した怖い出来事やトラウマは、大人になっても強烈に心に残っているものですが、時を経てそれが現在の自分の前に現れたら、あなたはどうしますか?そしてそれがもし、部屋に居着いてしまったら……。そんな静かな恐怖を感じてしまう一編です。
- 著者
- 中山 昌亮
- 出版日
- 2007-12-07
とある神社を訪れた男性が、境内で走り回る音を聞きます。音のする方に向けて「建物の中に入っちゃいけないよ」と注意する男性の前に、突然何かが倒れこんできました。それは、横向きに寝たまま無表情にこっちを見ている、おかっぱの少女だったのです。
男性が身動きできずにいると、その少女は口を開きました。
「動クナ!黙ッテワタシヲ見ロ!」と告げてきます。やがてしばらくの沈黙の後、今度は「ヨカッタネ ワタシアナタを殺サナイコトにシタンダッテサ」と、少女はぐにゃりと顔を歪めて嗤いました。
そして少女は、最後に男性にこう告げます――「帰レヨ」。
この台詞で物語は唐突に終わっており、読者はまたしても中空に投げ出されてしまったような感覚を味わいます。しかし、男性がすぐ逃げ帰ったであろうことは何となく想像できるような気がしますね。
この少女は何者で、どうしてこの神社にいるのか。もし黙って彼女を見つめた結果、「殺す」ことにされていたら、男性はどうなってしまっていたのか。ストーリーの余白部分を空想すると、背筋が寒くなってきます。
また、少女の台詞にだんだんとひらがなが混じってくるのも何か理由があるのでしょうか?そんな深読みをせざるを得ない物語です。
- 著者
- 中山 昌亮
- 出版日
- 2008-04-08
その女性は、会社からの帰宅時、家までの近道として、とある高架下をとおっていました。そこは薄暗くて人通りも少なく、もちろんいまも誰ひとり歩いてはいません。女性が何となく不安を感じながら歩いていると、突然すぐ近くで「ガシャンッ!!」とフェンスの鳴る音がします。
驚いた彼女が音のした方に視線を走らせると、そこにはイヤフォンを付け、フェンスの向こう側に張り付く上半身裸の男の姿がありました。男は何度もフェンスをガシャガシャと鳴らしながら、飛び出しそうな目で女性を見つめています。
恐怖が頂点に達した女性は、思わず走り出しました。しかし、フェンスの音は彼女を追ってきます。
しばらく走った先で、女性は立ち止まってしまいました。何と目の前にあるフェンスが開いていたのです。男もどうやらそれに気付いたようで、「かはぁぁぁ」と生理的に厭な感じのする狂った笑みを浮かべます。この時の男の充血した両目と歯の抜けた大きな口は、非常に頭に残りますので注意が必要です。
開いたフェンスから男が徐々に飛び出してくる姿、そして女性の「助けて!!」という悲鳴で物語が終わっています。この後女性がどうなったのかは、あまり想像したくありません。
さらに、このフェンス男は幽霊なのか本物の人間なのかという明言も一切されていません。どちらであるかによって、その怖さも少し変わってくると思うのですが……。逃げ惑う女性の絶望的な表情も、恐怖を誘います。
「両手の親指と人差し指でヒシ形をつくり、そのヒシ形でヘソを囲むように添えて眠る。すると魂が体の外に出る。」……そんなウワサを聞いた男性。「アホか」と一蹴したものの、寝る時にはちゃっかりとウワサを試す体勢になっていました。
聞いたとおりにヘソを囲んで寝てみると、突然手のヒシ形から何かが外に引っ張られる感覚がしはじめます。
「魂が抜けているのか?」半信半疑のまま男性が目を開けると、何と天井に女が張り付いていました。まるで落書きのような顔。目が異様に下に付いていて、体は真っ黒。そして不自然に大きな手……よく見ると、その女は「すぅぅぅ……すぅぅぅ……」と音を立てながら、男性の魂を吸っているのでした。
読んでいて訳がわからないまま終わってしまう物語です。「キューコン女」とは、恐らく「吸魂女」のことだと推測できます。彼女は人間の魂を食べて生きる妖怪なのでしょうか?部屋の天井にこんなものが張り付いていたら、それだけで十分に恐怖です。
ちなみに、この「キューコン女」は別のエピソードでも登場するのですが、何と殺虫剤を吹きかけられて絶命してしまいます。
- 著者
- 中山 昌亮
- 出版日
- 2008-06-06
女性が帰宅すると、家の前に小石が積みあげられていました。近所の子どもの仕業だろうか?……不審に思いながら女性は石を始末します。数日後、帰宅するとまた玄関に小石が。その時、背後に気配がしてカナヅチを持った男が突然女性に襲いかかってきます。
男の持つカナヅチは今にも女性の頭に振りおろされようとしていました。驚いてバランスを崩した女性が塀にぶつかり、その拍子で積みあげた石が崩れてしまいます。すると、男の振りおろしていたカナヅチがぴたりと止まりました。
一命を取り留めた女性でしたが、男が一体何のためにこんなことをしたかはまったく不明です。積みあげた小石は何かの目印だったのか、もしかして目印をつけた家を襲って住人を殺害していたのか……いろいろと想像は尽きません。小石が崩れなかったらどうなっていたのか、というのもじわじわと恐怖を感じさせます。
- 著者
- 中山 昌亮
- 出版日
平成14年・新橋。冒頭にはそう記されています。会社に携帯を忘れたことに気付いた男性は、取りに戻ることにしました。人気のない会社の建物内を歩いていると、突如として「ブン!!」という謎の音が。それは、近付くたびにだんだんと大きくなってきます。
男性は、音がしていると思しき部屋の前で立ち止まりました。部屋を覗き込むと、真っ暗闇のなかに小学生らしき人影が。どうやらその少年は、バットを持って素振りをしているようでした。こんなところでなぜ……?
やがて少年は、男性の存在に気が付きます。バットを引きずりながら男性の方へ近付いてきて、すれ違いざま男性を見あげたその顔は……この世のものとは思えないほど真っ白で、目が異様なまでに離れていました。少年はそのままバットを引きずって、廊下の奥へ消えていきます。
真夜中の職場で、その場にいるはずのない存在が現れたというのは、怪談にもおいてもよくある話です。その場合、大体の怪異は体験者に向けて襲ってくるのですが、この素振り少年は主人公の男性の顔をただじっと見つめて去っていくだけ。それが奇妙な余韻を残して、余計にゾッとしてしまいます。
あなたの職場に、怖い噂はありませんか?
ある小学校では、生徒たちの間に伝わるウワサがあります。夕方の6時過ぎまで学校に残っていると、玄関に変なおじさんが迎えにくるというのです。そのおじさんは「遊ぼうおじさん」と呼ばれていました。遊ぼうおじさんは校舎の中には入って来れないので、中にいる生徒たちに「遊ぼう」と声をかけて誘い出そうとしてくるようです。
ひとりの女子生徒が、玄関で実際に「遊ぼうおじさん」と対峙していました。麻袋を頭に被り、首元を縄で縛っていて、顔にあたる部分には目のようなものが描かれています。中に入っては来ず、じっと玄関の向こうに佇んでいる遊ぼうおじさんに、女子生徒は怖がりながらも「来るなら来なさいよ」と挑発的な言葉を投げかけます。
すると遊ぼうおじさんは、突如としてガタガタと扉を鳴らしはじめます。「あ~ぞぼぉぉ、あぞぼぉぉ」と絶叫しながら……。女子生徒は、恐怖に腰を抜かすほかありませんでした。
ウワサのなかの怪異が実際に目の前に現れるという恐怖、そしてその意味の分からない姿、「あぞぼぉぉ」という声……この話はさまざまな怖さを持っています。女子生徒の無事を祈らざるを得ません。「遊ぼうおじさん」という直感的な名前も「学校の怪談」的なキャラクター性を感じます。
- 著者
- 中山 昌亮
- 出版日
- 2004-06-24
「ぼくのうちは ぼくとおとおとと おかあさんと たまにおとさんと それから おちょなんさんがいます」……ある夫婦の子どもの絵日記には、家のなかに家族以外の誰かが住んでいるということが書かれていました。
「おちょなんさん」というその人物は、家に家族がいる時は隠れていて、「ぼく」だけがいる時は家のなかをぐるぐると回っているというのです。
絵日記には「おちょなんさん」の似顔絵が添えられていました。ぼさぼさの黒髪、大きさの違う縦長の目、そして縦に付いた口。こんなものが本当に家の中にいるのか、と言いたくなるような外見ですが、夫婦にはその姿に見覚えがありました。
夫が取り出したのは、自宅の建築中らしき写真。そこに絵日記の似顔絵とそっくりの人影が写っていたのです。
その後、一家は引っ越しをしてしまいました。
祖父によると、オチョナンさんは守り神のようなもので、自分も子どもの頃によく見たことがあるらしいのです。ただ、目が吊りあがり怒ったような顔をしているオチョナンさんには、注意しなければいけないとのことでした。しかし、話を聞いていた孫は見ていました。祖父の背後の窓に、まさに祖父が言う「怒った顔」のオチョナンさんの姿があることを……。
オチョナンさんの正体やその名前の謎、祖父がその後どうなったかはまったく描かれていません。非常に後味の悪い物語です。
この「オチョナンさん」は『不安の種』の代名詞的な存在となっており、カルト的な人気と恐怖を一身に集めています。『不安の種』は読んだことないけれど、オチョナンさんのイラストを見たことがあるという人も多いのではないでしょうか。
一説には、「オチョナンさん=お長男さん」なのではないかともいわれていますが、真相は謎のままです。
- 著者
- 中山 昌亮
- 出版日
- 2005-04-20
ここに紹介した以外にも、『不安の種』にはまだまだ多くの不気味なクリーチャーたちが登場します。しかも、その多くが1度見てしまうと脳裏に焼き付いて離れません。読んでみたいという方は、どうぞお気を付けて。あなたの後ろに、誰かいませんか?