大宝律令の編纂に携わり、律令国家の基礎を築いた藤原不比等について、深く知ることのできるおすすめの4冊を紹介します。
藤原不比等(ふじわらのふひと)は659年に生まれた公卿です。歴史の教科書に必ず載っているのに、何をしたのか覚えている人は多くないのではないでしょうか。彼は現代の日本の仕組みにも通じるような先駆的な制度をもたらした人物なのです。
701年に、法律家として大宝律令の制定に携わり、人治の国から法治国家へと、進歩的な改革を進めると、710年に平城京の遷都に中心メンバーとして関わりました。政治の中枢としての機能をひとつの町に担わせたという点から、現代都市の先駆けといえるでしょう。
晩年には養老律令の編纂に取り掛かるも、完成を見ずに720年で亡くなってしまいました。
1:大化の改新の立役者、中臣鎌足の息子として生まれた
藤原の不比等は、大化の改新の立役者、中臣鎌足の次男として生まれました。史(ふひと)という別名もあり、学問での出世を望まれたことがうかがい知ることができます。
2:不遇の20代を過ごした苦労人
大化改新で活躍した中臣鎌足を父に持ち、平城京という都市を創り、大宝律令という法律もつくったことから、彼の人生は順風満帆だと思われるかもしれません。しかし、幼少期に壬申の乱が起き、中臣氏は近江側だったため、30歳前半までは政治の表舞台には立てませんでした。
3:女性に助けられた
藤原不比等は政治家として大成しますが、その影には女性との縁がありました。若い時に不遇の時期を過ごしていた彼を判事として抜擢したのは持統天皇という女性です。さらに、3度目に結婚した県犬養橘三千代は皇族からの信頼が厚い女性で、不比等の出世にひと役買ったそうです。
4:『日本書紀』にも携わったとされている
これはひとつの説ですが、藤原不比等が『日本書紀』の編纂にも携わったのではないかという研究もあります。『日本書紀』が作られた当時の権力者は不比等で、そのことから考えると、自らとその子孫の権力を正当化するために、『日本書紀』によって天皇を神話化させたのではないかと推測ができます。
5:不比等が平城京に移した興福寺は世界遺産に登録されている
平城京への遷都プロジェクトに関わっていたのも藤原不比等ですが、彼が平城京に移した興福寺は「古都奈良の文化財」の一部として世界遺産にも登録されています。
6:藤原氏の繁栄の礎を築いた
彼は徐々に能力が認められ、国家のプロジェクトを任されるまでに出世します。さらに、藤原不比等の娘の宮子を文武天皇の夫人とさせるなど、その後の摂関政治につながるような関係を天皇家と築きあげました。
この本では、藤原不比等が『日本書紀』の制作にも携わっていた説を実証しようとしています。
単純に彼が時の権力者であったから、ということだけでなく、丹念な史料の読み込みからその根拠が提示されるため、とても説得力があります。
- 著者
- 大山 誠一
- 出版日
- 2009-11-30
その他にも、聖徳太子が藤原不比等によってつくられたのではないか、という著者の主張などもあり、歴史好きの知的好奇心を刺激するような内容です。
彼の人物像に、東アジア諸国の力関係や国内の権力争いという政治的な側面から迫る本であり、彼だけでなく当時の日本の情勢についても深く知ることができるので、日本史を学んでいる学生にもおすすめです。
現代の日本は法治国家です。法治国家とは、法に基づいて行政や司法がおこなわれるということ。これは当たり前のように感じますが、前近代の文明においては自明ではありません。
もし時の権力者が好き勝手に国のルールを決めれば、市民は安定した暮らしを送ることができません。こうした人治国家から法治国家へと変えたのが藤原不比等です。
- 著者
- 上田 正昭
- 出版日
本書は藤原不比等に、当時の国際情勢や日本法史という観点から迫っています。彼の功績だけでなく、彼のもたらした中央集権化や官僚制による問題点などを考えるためにも役に立つでしょう。
さらに、不比等の生涯が幼少期から晩年まで書かれているので、入門書として手にとってみてはいかがでしょうか。
天武天皇の死後、持統天皇は藤原不比等を判事として重用し、自らは国のトップとして君臨しました。しかし、これは奇妙なことでもあります。
確かに不比等は優秀でしたが、持統天皇が判事に任命するまで、無位でした。しかし彼女はそれだけでなく、不比等の娘の宮子を文武天皇の夫人とさせることで、彼と天皇家との関係をより強固なものとしました。
持統天皇はなぜ、彼を厚遇したのでしょうか。
- 著者
- 土橋 寛
- 出版日
本書はそうした皇位継承と人事の謎を解く一冊となっています。
一見、マニアックな歴史本に思えますが、持統天皇は女性天皇であったため、天皇家の権力争いの物語としての一面だけでなく、女性天皇、女系天皇を考えるためにも必読です。
藤原不比等は大化の改新で活躍した中臣鎌足の次男として生まれました。英才教育を受け、幼少期から神童として能力を兼ね備える一方で、兄や父が早くに亡くなって孤独の身となり、天武天皇からは冷遇されるなど、20代は不遇の時期を過ごします。
- 著者
- 黒岩 重吾
- 出版日
この本では、藤原不比等だけでなく、その他の登場人物も魅力的に描かれています。
特に持統天皇は父の天智天皇と夫の天武天皇との間で板挟みになる様子が、人間的で魅力的に描かれています。本書は藤原不比等のサクセスストーリーというだけでなく、さまざまな背景をもった登場人物の織りなす群像劇としても楽しめるでしょう。
以上、藤原不比等について深く知るためのおすすめ本を紹介しました。苦労人としての側面、優秀な法律家としての側面、さまざまな側面を持つ不比等ですが、これらの本を読んで、ぜひ彼の魅力を発見してください。