「近代麻雀」にて連載されている異端の麻雀漫画『アカギ』。本記事は『アカギ』の魅力を最終回までネタバレ紹介します。 1992年から連載されていた『アカギ』。独特の世界観を放つ作品が、27年というその長きに渡る歴史に幕を下ろしました。 アカギと鷲巣の戦いの行方はどうなったのか。ここで『アカギ』の概要と魅力をもう一度振り返ってみて、その狂気の一端を垣間見てみましょう。
『賭博黙示録カイジ』や『天 天和通りの快男児』など、有名なギャンブル漫画を世に生み出した福本伸行が描く、麻雀を題材とした漫画「アカギ」。1992年から連載が開始された本作が、2018年2月にその歴史に幕を下ろしました。
もう終わってしまうのか、ようやく終わったなどの声、さらに最終回の内容については賛否両論様々な意見があるとは思いますが、「アカギ」を愛読していた多くの読者には寂しさが募ることでしょう。
そんな様々な人に寂しさを感じさせるほどの大作を、未読者やここで初めて知った人にもぜひ知っていただきたいです。
- 著者
- 福本 伸行
- 出版日
「アカギ」の魅力は、従来の麻雀漫画のように、派手なあがりや冷静な戦略などに目を向けるのではなく、人間の内面の細かい描写にあります。まるで人間を丸裸にするかのごとき心理描写は、緊迫した世界観へと読者を誘います。
さらに、その心理描写に加えて、数々の「名言」を輩出してきました。本作の主人公・アカギが発する言葉は心に響くものがあり、なぜか忘れられないのです。
今回は「アカギ」の魅力、名言、物語の大半を占める「鷲巣麻雀編」を最終回までご紹介していきます。この漫画に潜む「狂気」の一端を感じていただければ幸いです。
- 著者
- 福本 伸行
- 出版日
- 1999-11-01
大ぶりの雨の日、ある雀荘で多額の借金を背負った南郷という男が、ヤクザを相手に命がけで麻雀を打っていました。しかし、南郷の手は伸びず、窮地に陥っていたところに一人の少年が雀荘へと訪れます。
いつの間にか忍び込んでいて、いかにも怪しげな少年。南郷は藁にもすがる思いで少年に代打ちを頼みます。
その少年の名は赤木しげる。後に「伝説」と呼ばれる勝負師の記念すべき最初の闘牌が幕を開けたのでした。これは裏麻雀界の「王」となる少年の物語。
本作の主人公である「アカギ」こと赤木しげる。初登場時は13才というまだ子供の年齢ながら、落ち着いたクールな性格をしています。しかし、それは彼の表面に過ぎず、本来の彼は深い闇を抱えています。
その彼の闇を表していくのが麻雀です。しかも、ただの麻雀ではありません。身を震わせるほどの大金や、果てには命まで賭けた麻雀をアカギは行います。それはまさに「狂気の沙汰」としか言いようがありません。そんな彼の狂気と類い稀なる才能の一部をこの場で少し紹介しましょう。
- 著者
- 福本 伸行
- 出版日
- 2005-06-07
先述したように、第1巻のアカギ初登場時には彼の年齢は13才、まだ少年と言うべき年齢です。その上、彼は麻雀のルールなどまったく知らない素人でした。そんな状態でいきなり経験者である大人と戦います。
麻雀という複雑なゲームをアカギは即座に理解し、さらには他者の一瞬の隙を突いたイカサマまで披露しました。麻雀をすぐに理解できる頭脳、大人、しかもヤクザを前にイカサマを行える精神、どれもが少年の域を超えています。
特に注目すべきは恐るべき策略を生み出す頭脳、ではなく、その策略と心中できる異常性です。その異常性は作中ではよく「狂気」と表されます。アカギは独自の死生観を持っており、その根源となるのは無欲。彼は自身の命にすら執着しないのです。そのため、自らの判断と信念に命を賭けることができます。
さらに、アカギの才覚は麻雀のみにとどまりません。あらゆるギャンブルに関して、彼はその才能をいかんなく発揮します。本作は麻雀を中心に描かれますが、他方面のギャンブルについても少し触れているので、アカギのあらゆる才能と狂気を楽しむことができます。
そして、そんな本作のストーリーテラー的な役割を果たすのが「仰木武司(おおぎたけし)」という男。彼は「山東組傘下・稲田組」の若頭で、アカギを命賭けの「鷲巣麻雀」へと送り込んだ張本人です。
仰木は作中では狂言回しとして勝負を見守り、読者に情報を与えてくれます。ただし、言い方は辛辣ではありますが、彼は凡俗であり、アカギと鷲巣の闘牌に理解が追いついていない場面がよく見受けられます。しかし、その普通の反応がアカギの異常性を際立たせるのです。彼がおらずして鷲巣麻雀は成り立ちません。
主人公のアカギ、物語を進める仰木、この二人の温度差にも注目しながら本作を楽しみましょう。
「アカギ」の魅力の一つでもある「名言」。その心に突き刺さるいくつかの名言ををこの場で紹介していきます。
「狂気の沙汰ほど面白い……!」(2巻15話から引用)
川田組と麻雀をすることになったアカギは、決戦前に川田組の打ち手「市川」と出会います。その時、拳銃を使ったロシアンルーレットが勃発。自身に向けて引き金が引かれる時、アカギは命が賭かっているにも関わらず、笑いながらこの言葉を口にしました。
- 著者
- 福本 伸行
- 出版日
- 2010-06-11
「焼かれながらも……人はそこに希望があればついてくる……!」(9巻81話から引用)
神に愛されているといっても過言ではない豪運の持ち主「鷲巣」を前に、いつもと変わらぬ調子で挑むアカギ。しかし、普段の調子ということは周りにいる者の目からは狂気に映ります。焦る味方をよそに、アカギは恐るべき策略を謀っていたのでした。
「気持ちが押されているから軽々に勝ちへ走る……!」(10巻90話から引用)
自身のペースで麻雀をしていたかに思われていた鷲巣。しかし、アカギからしてみればそれは焦りなのでした。見事に、アカギは鷲巣のあがりを阻止します。
「死にたくないから……殺したい……!」(12巻105話から引用)
殺意とは何から湧いてくるのか、アカギは死にたくないという恐怖心から湧いてくるのだと考えます。アカギに対して恐れを抱いていることに気づいていない鷲巣を、アカギは心の中で冷静に分析するのでした。
「勝負事は渾身の力で押すっ……!」(22巻190話より引用)
アカギの前で翻弄され続ける鷲巣でしたが、神の寵愛を受けるための行いを思い出します。逃げ回るのではな、ひたすら押し続ける。鷲巣は渾身の力でアカギを押し返そうとします。
「興味がない……オレはオレの生死に……!」(24巻209話より引用)
鷲巣との戦いで絶体絶命の窮地に立たされたアカギでしたが、窮地を前にしても不遜な態度を崩さないのでした。
このように数々の名言が書かれています。アカギから発せられる言葉には不思議な力が宿っており、登場人物のみならず読者にまで突き刺さります。我々まで狂気の淵に誘い込む力を秘めている言葉はかっこいいと思うと同時に、どこか恐怖を感じてしまうでしょう。
その恐怖などに通ずる闇をアカギは伝えようとしているのです。ただし、アカギの放つ闇に飲み込まれないように気を付けてください。
「アカギ」の物語の大半を占める「鷲巣麻雀」という一風変わった特殊な麻雀。まずはそのルールについてここで説明しておきます。
通常の麻雀は同種の4牌×34種の計136牌から特定の組み合わせを作り、それに応じた点数で競います。鷲巣麻雀は同種4牌のうちの3牌が透明になっており、敵の情報を得ることができるのです。ここまでであれば、少し変わった麻雀というだけでそれほど驚くことはないでしょう。
しかし、その驚くべきところは賭ける物です。敵である「鷲巣巌(わしずいわお)」がお金を賭けるのに対して、アカギが賭けるは自身の「血」。鷲巣の点棒がアカギに移動すればそれに応じたお金が支払われ、逆にアカギから鷲巣に点棒が移動すればアカギの採血が行われます。
しかも、通常のレートならば1000点=10万=10㏄であったのが、交渉で1000点=100万=100㏄へと変わります。成人男性の血を抜かれた際の致死量は体格差はあるものの約2000㏄と言われており、アカギは6回の勝負で鷲巣に対する失点が2万点までしかできない状況です。
鷲巣麻雀についての説明はここまでにとどめておき、次は敵である鷲巣巌についての紹介をしていきます。
すでに老人ではありますが、戦後の日本を裏で支配し、巨万の富を得た裏の帝王、「昭和の怪物」とも呼ばれます。優れた先見と頭脳、そして何者をも凌駕する「剛運」の持ち主です。麻雀においてもその実力が発揮され、数々の修羅場を簡単に潜り抜けてきたアカギにすら「勝てるかわからない」と言わしめるほどです。
その性格は唯我独尊でかなりのナルシスト。老いた自分がもうじき死ぬのに、何も築かず何の背景も持たない若者がこの先も生きることに嫉妬と絶望を抱き、それが鷲巣を狂わせました。そこから数々の若者を鷲巣麻雀に招待し、死んでゆく様子を見ることに最高の愉悦を感じるようになります。
作中、彼の非道な行動が随所で描かれます。例えば、あるシーンでは、受け取るのを拒否されたお金を部下に命令して、燃やさせます。その後、部下が本当にタライに大金を詰め、火をつけている様子を見て鷲巣は激怒し、部下を暴行します。自分で命令したにも関わらず、理不尽すぎる行動です。
非道なエピソードは他にもさまざま登場します。鷲巣の暴走を止め、5億の金を奪うべく、仰木は鷲巣殺しの刺客・アカギを鷲巣麻雀に送り込んだのでした。
いよいよ、本題である鷲巣麻雀の展開についてご紹介します。ネタバレも含みますので、未読の方はご注意ください。
アカギと鷲巣の激闘が計6回の勝負で繰り広げられます。1回戦は鷲巣がアカギを見くびっていたこともあり、なんとかアカギが勝利を手にします。しかし、アカギはすでに600㏄の血液を抜かれていました。点数を鷲巣から得るごとに抜かれた血液を補給できるのですが、アカギはことごとくそれを拒否。2回戦へと進みます。
続く2回戦、互いに一進一退の攻防を繰り広げながらのオーラス、アカギはここで鷲巣麻雀で初めての苦戦の予感を抱きます。アカギの予想通り、苦戦を強いられましたが、見事に2回戦も勝利を収めました。この時点で、アカギはすでに1億を超える金額を手にしてはいましたが、1100㏄の血液が抜かれています。それでも、アカギは血液の補充をせずに次戦を待つのです。
この輸血拒否はある種のアカギの策略でした。気づかぬうちに鷲巣は死をも恐れぬアカギに恐怖を抱き、「自身が殺されるかもしれない」という思いを抱いていたのです。鷲巣もこの時からアカギを今まで殺してきた若者とは違うことを認めます。この男を殺せば至福の瞬間に到達することを予感しました。
そんな両者の思惑のなか、3回戦がスタート。ここまでの流れからアカギ優位に勝負が進むと思われましたが、鷲巣の剛運が発揮されます。東2局に鷲巣がドラ12という大物手をテンパイしたのです。見事、鷲巣がその手を物にした、と思いきやアカギの味方である安岡が頭ハネにてそのあがりを阻止します。鷲巣はアカギの掌の上で転がされていたのでした。
- 著者
- 福本 伸行
- 出版日
- 2017-04-15
結局、アカギは3、4回戦を快勝します。この時点でアカギは1400㏄を失いながらも3億を超える金額を荒稼ぎ。鷲巣はすでに消耗しきっており、仰木たちはここで勝負が終わると思っていました。そして、鷲巣の部下たちもそうしようと考えていましたが、アカギはまだまだ勝負を続行するつもりです。
この4回の勝負でアカギは鷲巣の奥底に眠る何かを感じ取っており、それを見ずして勝負は終われないと考えているのです。アカギは次戦に勝負を進めるために驚くべき行動にでました。なんと、補充するために保存していた自身の血液にタバコを投げ入れ、今後一切の輸血を拒否したのです。
鷲巣はこのアカギの行動を見て、殺意を高まらせて復活します。隠し預金であった1億を追加して5回戦の火ぶたが切られました。ここで、鷲巣は麻雀の才能がアカギに遠く劣ることを認め、順位で上回ることを放棄します。ツモあがりにのみ力を注ぎ、アカギの血液を抜いて殺すことのみを考えました。
その鷲巣のツモへの執念が東4局に実ります。鷲巣は跳満をツモあがり、アカギから600㏄の血液を抜く機会を勝ち取ったのです。アカギはこれで致死量の2000㏄へと至ります。冷や汗を垂らしながらいつもの表情でゆっくり伏せていくアカギ。こうして、鷲巣麻雀は鷲巣の勝利に終わったかに思われましたが……。
ぴくりとアカギの体が動き、ゆっくりと起き上がりました。事前に輸血を施していたアカギは致死量の限界をわずかにあげていたのです。それでも、アカギの行動は一か八かの大博打。見事にアカギは生還を果たします。
こうして、5回戦は再開。アカギはここを千載一遇のチャンスと捉え、オーラスの親番であがりやめをせずに1本場、2本場と続行します。暴挙に思われたこの行動が実はアカギの策略で、鷲巣に対する直撃で貰えるボーナスから、5回戦にして鷲巣の6億という牙城を吹き飛ばしたのです。鷲巣の残金は風前の灯で、5億を超える額を前にした仰木たちは舞い上がります。
しかし、アカギだけは微動だにせず、この勝負が簡単にひっくり返ることを理解していました。鷲巣の残金同様に、自身の命も風前の灯。そして、5回戦で勝負を決めきれなかったことに対する不安を抱いていたのでした。その不安は6回戦への苦戦の予感に繋がります。そんなアカギの思いなど誰も知る由もなく、最後の一戦がスタートしました。
最後の勝負、鷲巣は再びアカギに翻弄されるものの、自身の剛運が今や最高潮に達していることに気づきます。そして、アカギの不安が現実のものとなり、鷲巣はW役満96000点という大物手をあがったのです。部下からの差し込みではあったものの、アカギとの点差は実に10万点という途方もない点差になりました。
常人ならば逆転は不可能と考える点差ですが、アカギには常人とは違うものが見えており、さしたる変化もなく勝負を続行します。そして迎えたアカギ最後の親番。アカギはここで鷲巣に12000点を直撃し、風前の灯であった鷲巣の残金を完全に吹き飛ばします。10万点というとてつもない点差でしたが、アカギは6回戦終了を待たずして勝負を終わらせることを考えていたのです。
もう払えるお金がない鷲巣。仰木もこれにて決着かに思われましたが、鷲巣にはまだ払えるものがありました。それは自身の「血液」です。ついに、鷲巣も本当の鷲巣麻雀の土俵に足を踏み入れます。こうして、互いの命を賭けた真の勝負が始まったのでした。
とてつもないボリュームで描かれる鷲巣麻雀。特に6回戦は10巻を超える巻数で描かれ、かなり読みごたえがあります。しかし、注目すべきは麻雀の内容ではなく、細かく描かれたアカギと鷲巣の心理描写です。
アカギの死に対する思いや鷲巣に向ける思い、逆に鷲巣がアカギを認めてアカギに対する心情が徐々に変わっていくなど互いの心情が醍醐味です。
そしてそのアカギの死生観が、最終回に繋がってきます。
「アカギ」のもととなるのが『天-天和通りの快男児』という作品。アカギがそれぞれの人物に死への考えを語るという内容なのですが、「アカギ」の最終回では彼自身が自分の死と向き合い、ある考えにたどり着くのです。
今までの手に汗握る濃い展開から、最後にはスカッと爽やかさすら感じさせる結末になっています。果たしてその内容はどんなものなのか?ぜひご自身の目でお確かめください。
- 著者
- 福本 伸行
- 出版日
1992年から連載され、2018年2月に終了する予定となっている本作。20年以上愛されてきた麻雀漫画です。初登場時は13才だったアカギも、20歳をすぎた青年になった姿が描かれています。
天才雀士として闇の世界を切り抜いていく彼が行きつく場所とは一体……?人間の内面を描くことに長けている漫画家・福本伸行の超大作は、どのような終わりで完結するか、それはぜひご自身の目でお確かめください。
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