1989年ノーベル平和賞を受賞したダライ・ラマ14世。しかしその人生は、中国からの圧迫と亡命という壮絶なものでした。それにも関わらず、平和と愛のメッセージを送り続けるダライ・ラマ14世、その生と思想について迫ります。
ダライ・ラマ14世は、元の名前はラモ・トンドゥプ、法名テンジン・ギャムツォといいます。
そもそも「ダライ・ラマ」とは、「智慧の大海」という意味の称号名で、チベット仏教における最高指導者につけられます。2017年現在彼で14代目です。
彼らは観音菩薩の化身とみなされ、代々転生を繰り返すとされています。そのため、先代が亡くなるとすぐに次の候補となる子供たちが探され、あらゆる試験を受けて、ダライ・ラマに認定されるのです。14世は、2歳にしてその認定を受けています。
しかし彼が15歳の時、中国の人民解放軍による侵略を受けます。そして、中国とチベットの間に結ばれた「17箇条協定」によりチベットの独立は否定され、中国の支配下に置かれるようになりました。
混乱に陥るチベットの人々を一つにまとめるべく、まだ少年であるダライ・ラマ14世は国の代表となり、中国との和平交渉に臨みます。時には単身北京に赴き、毛沢東や周恩来といった当時の著名人たちと直接会談し、平和と独立を訴えました。
しかし、中国側の支配と弾圧は強まる一方です。当時の中国共産党は、宗教を認めない方針だったため、一層その支配は強くなりました。民衆の不満は強烈に高まり、ついに大規模なデモまで起こります。これを機にダライ・ラマ14世は、多くの人たちとともにインドへの亡命を決めました。
亡命後、独立を目指して「チベット亡命政府」を樹立し、その長に就任します。これにより政治的指導者と宗教指導者を兼任するようになるのです。また、仏教の教えをもとにした平和活動を行い、世界各地で講演を行いました。
いくら弾圧されても非暴力を貫き、平和的手段で独立と人権の主張をした彼の行いは徐々に世界に認められ、1989年にはついにノーベル平和賞を受賞するようになります。
その後、2011年、彼は政府の代表の座から退くことを決意。これにより、「ダライ・ラマ」が政治的宗教的両指導者となる風習は終わりを告げました。チベット亡命政府は、今も独立を目指しています。
ダライ・ラマ14世は、政治的指導者でもありながら、宗教指導者でもあるという特殊な立場にあります。また、若くして中国からの弾圧を受け、その和平交渉に尽力し、その生の多くはインドでの亡命生活でした。
そんな壮絶な半生を、ノーベル平和賞受賞した直後の1990年に本人が英語で書いた自伝が本書です。
- 著者
- ダライラマ
- 出版日
- 2001-06-01
幼くしてダライ・ラマに抜擢されてから、中国との闘争と和平交渉、そして決裂、亡命政府の樹立と長に就任するまでの様子が事細かに書かれています。
彼はどんなにひどい仕打ちを受けても、決して憎まず、暴力に訴えることをしませんでした。本人にしか語り得ない内容が集められた本書は、歴史的に見ても大変貴重なものといえます。
人々を導く「ダライ・ラマ14世」ではなく、1個人としての彼について知りたい方にぜひおすすめしたい一冊です。
「智慧の大海のような師」という意味を持つ「ダライ・ラマ」。本書は、そんな彼による仏教の入門書です。
仏教の歴史と必要性、また自分の人生と社会に対する向き合い方などが、やわらかい表現で綴られています。
- 著者
- ダライ・ラマ十四世テンジン・ギャムツォ
- 出版日
- 2000-06-01
本書もまたチベットの最高僧が語る仏教・哲学のため、「入門」とありながらやや難しい部分もありますが、専門用語には詳細な解説も付け加えられているため、意味を理解しながら読むことができるでしょう。
仏教を理解したい人、興味がある人にとっては、きっと満足できる内容になっています。ぜひ、手に取ってみてはいかがでしょうか。
2011年3月11日、日本は東日本大震災を経験しました。多くの人が犠牲になり、その被害と衝撃は現代人の脳裏から離れることはないでしょう。しかし、同時に多くの支援があったことも事実です。
2011年10月に来日したダライ・ラマ14世は、高野山で講和をしています。本書は、その時の記録を一冊にまとめたものです。
- 著者
- ダライ・ラマ14世
- 出版日
- 2012-04-17
来日の際は、お見舞いと慰霊のため被災地にも立ち寄られたのだといいます。
「幸せについて」、「苦しみや悲しみを乗り越えるには」などといったテーマを扱う本書は、「仏教講和」というよりも、心豊かな人生のためのヒントといったイメージが強いものとなっています。優しく語りかけてもらっているような文章に、励まされることでしょう。
今悩みのある人、人生について考えている人へのメッセージが込められた一冊です。
ダライ・ラマ14世は、「人生の目的は幸せになることだ」と語ります。そしてその「幸せ」には、愛と思いやりが必要だと説きます。
その「思いやり」とは何かを教えてくれるのが本書です。
- 著者
- T・ギャムツォ (ダライ・ラマ14世)
- 出版日
- 2006-03-07
ここで言う「思いやり」とは、ただ単に相手を好きになる、という感情的なものではありません。相手の清濁もあわせて呑み込む理性的な営みであり、相手が自分に対して好意的であろうとなかろうと関係ない、そのような高尚な行為なのです。
このような思いやりを育むにはどうしたらいいのか 、それを通して感じられる幸福と平和とはなにか、本当の意味での「優しさ」を得られた先にある幸福について知ることができます。
ノーベル平和賞を受賞した人物が綴る、説得力のある作品です。
日本でも大ヒットした『EQ―こころの知能指数』の著者ダニエル・ゴールマンを発起人に、ダライラマの自宅に、世界の名だたる哲学者・精神科学者・心理学者たちが集まって、ダライ・ラマ14世やチベット仏教徒の人たちと一緒に「人間の破壊的感情」に対して熱い議論を交わしました。
その時の記録をまとめたものが本書です。
- 著者
- ["ダライ・ラマ", "ダニエル ゴールマン"]
- 出版日
冒頭で「仏教と科学は、実は同じものを目指している」とダライ・ラマ14世はいいます。つまり「真理の探究」という点においては、両者も同じだということです。また、「宗教と科学はお互いに刺激を与えあうことができる」ともいいます。
さまざまな見地から「破壊的感情」について取り組みがなされている、貴重な一冊です。
いかがでしたでしょうか。壮絶な人生を過ごしているからこそ、そのメッセージに説得力がありますね。日本ではあまり知られていませんが、海外では非常に人気のある思想家です。ぜひ一度、彼についての本を手に取られてみてはいかがでしょうか。