今回は「部屋」という切り口で選んだ3冊の本をご紹介します。推理小説では「密室」という構造がよく使われますが、閉ざされた空間というのはどうしてあんなに興味深く、魅力的なのでしょうね。他人の部屋を覗くなんて現実にはなかなかできないことだけれど、小説の中ならばその罪深ささえスパイスです。その部屋に暮らす誰かさんの人生、その部屋だけが知っている秘密の物語を覗き見しましょう。
実際に起きた拉致監禁事件をモチーフに書かれています。小さな部屋に監禁されているのは「ママ」と5歳になったばかりの「ジャック」の2人。ママは7年前に誘拐され、監禁されていた部屋の中でジャックを産みました。一度も外へ出たことのないジャックにとっては、この部屋こそが世界のすべて。いつもママとくっついていられるし、楽しいことだって工夫すればいくらでも見つかります。ひとつだけ気に食わないのは、時々部屋を尋ねて来てはママの上にのしかかって虐める恐ろしい男の存在です。ママとジャックは作戦を立てて部屋からの脱出を試みる……というあらすじなのですが、この本は上・下巻に分かれていて、下巻は脱出後の話が書かれています。「あの部屋」に対するママとジャックの考え方の違いは、大人と子供の感性の差異を示しているようで興味深いものでした。映画化もされているので是非。
- 著者
- エマ・ドナヒュー
- 出版日
- 2014-01-15
刺激に飢えた会員達が夜な夜な集う「赤い部屋」。ある日、新入りがやってきて奇妙な話を始めました。彼はこれまで99人の人間を殺したと告白したのです。退屈しのぎだったというそれらの殺人は、どれも手口が功名で、合法的な手段ばかりを用いたものでした。サイコパスめいた新入りの語りに引き込まれる赤い部屋の会員たち。話のクライマックスはある意味どんでん返しかも知れません(笑)。全体を通して「赤い部屋」そのものが変化していく様子も面白いです。
- 著者
- 江戸川 乱歩
- 出版日
- 1960-12-27
江戸川乱歩2冊目のご紹介です。個人的な趣味の世界で書いているので偏りがあります。あしからず。この作品の主人公は「部屋」という構造のひとつ上の次元にいます。下宿屋の住人たちの「部屋」を屋根裏から覗き見ながら暮らしているのです。他人の生活や秘密を知ることにも飽きてきた主人公の行動は段々エスカレートしてゆく……というあらすじです。エスカレートするかどうかは別としても、やっぱり抗えない誘惑だと思います。だって覗けるんだもん。覗き穴があったら絶対覗いちゃうし、ボタンがあったら押してしまうし、ダメと言われたらやりたくなります、私は。
- 著者
- 江戸川 乱歩
- 出版日
- 2015-05-20